起業家から学ぶ10×10レッスン by 列車に乗ったギーク達

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【原文】

土曜日(原文では7月23日)、インキュベータ中国加速(Chinaccelerator)から来た「Geeks on a Train(列車に乗ったギークたち)」の一行は、最初の停車駅・北京に到着した。

(訳注:エンジェル投資家デイブ・マクルーア氏の「Geeks on a Plane(飛行機に乗ったギークたち)」になぞらえたネーミング)

北京の798芸術区(訳注:NY の SOHO のようなところ)にある、中国で最も芸術的なインキュベーション施設「緑分匯 (YuanFen Flow)」で 10×10 イベントが開催された。現代美術に囲まれて、スタートアップ達が思い思いに、自分のビジネスに使えそうな、創造的なインスピレーションを描き始めた。おそらく、中国ではこのような機会がもっと必要なのだろうと思う。

10人のスピーカーは、それぞれが10分の持ち時間で、起業家になるための知見、経験、アドバイスを披露した。重要かつ洞察の鋭いテーマを披露するメンターたちに、私は最初から最後まで聞き入っていた。


1. リチャード・ロビンソン「スピードが鍵」

ロビンソン氏は、現在、ケータイのアドレス帳をソーシャル・ネットワーク用に変換可能なモバイルアプリ「友録(Youlu)」の開発に携わっている。

彼は映画「トロイ」から、いくつかの話を引用して説明した。この映画では、ブラッド・ピットがスピードと俊敏さで、自分よりもはるかに大きな敵に打ち勝つトロイの役を演じている。ムダがなく俊敏な動きができるスタートアップは、意思決定に時間がかかる自分よりも大きな競合他社に勝てることを、「トロイ」の話は暗示している。

スピードは、モチベーションを向上させ、気づきを与え、計画を前に進め、評価を最大化し、投資を魅力的なものにする。有名なシリアル・アントレプレナー、マイク・カシディ氏は「すべての流れは初日で決まる」とよく言った。この中には、迅速にオファーして新しい人をスムーズに会社に受け入れ、反対にその組織に馴染まない人には、なるべく早くバスを降りてもらう、という意味を含んでいる。


2. 張月(クエンティン・ザン)「スタートアップのための5ヶ条」

張月氏は、中国版 LinkedIn「優士網(Ushi.cn)」のCTOで共同創業者である。

彼の5ヶ条:

  • ニーズをさがし、それらを解決すること。市場を評価し、フィードバックを得ること。
  • 学び、革新を生み出すこと。客の声に耳を傾け、俊敏に行動し、自分のデザインにうぬぼれないこと。
  • 文化の違いを考慮すること。地域性を考え、ニュアンスを理解すること。
  • 信念を持ち、やりとげること。失敗は早々に認め、その失敗から学び、次へ動くこと。
  • 人脈を使って、何か出来事を起こす。よいメンターに出会う。

3.グレン・アレクサンダー「行動のためらいを克服する」

グレンは、清華大学で講師を務めており、催眠術師でありコンサルタントである。

起業家になるには、精神的なものが多くの部分を占める。起業家の心の中は、常にさまざまな思いが巡っているものだ。時には行動したくなることもあるだろう。アレクサンダー氏は、そんな事例をいくつか指摘した。

  • 人は、まわりが自分のことを評価してくれなくなるような変化を望まない。
  • 人は、失敗する可能性や、自分が間違っているのではないかと、考えることを恐れる。
  • バカ呼ばわれすることを恐れて、質問ができない。
  • 直感や心の声に耳を傾けない。
  • まわりをよく観察せず、自分の考えに自信を持たない。

行動をためらう問題を克服するために、彼は次のような公式を示した。

D × V × FS > R

Dは、あなたに行動を強いる不平感。Vは、今までと違ったソリューションを見出させるビジョン。FS はあなたが行動するために、最初にすべきことのファーストステップ。そのかけ算の結果は、行動を起こさないことで得られる結果(R)より遥かに大きいのだ。


4. ステファン・ウォン「アップとダウンの繰り返し」

ウォン氏は、映画批評サイト「Rotten Tomatoes」を共同創業したことで知られる、シリアル・アントレプレナーだ。彼の直近のベンチャーは、ソーシャルメディアで有名人からの推薦を集めるマーケット・プレース「Alive.cn」だ。

ウォンは現在、大学を出てから5社目のスタートアップに従事している。彼はこれまでに、スタートアップ経営を通じて多くの経験値を得た。それぞれのスタートアップでは、共同創業者が去ったことから、9.11 や2008年の金融危機のような回避できない市場ファクターまで、いいことも悪いことも常にあったと語った。もし、情熱を持って迅速に仕事をこなせるなら、あなたは次の高い地点へ進むことがができるだろう、と彼は言う。ウォン氏は、自分のかつてのクライアントであり、カンフー映画のスターで敬虔な仏教徒であるジェット・リーの言葉を引用してアドバイスした。

「人生は、アップとダウンの繰り返しだ。今が底なら、それ以上落ちることは無い」

彼が今までに学んだ、主要なレッスンのいくつかを披露してもらった。

  • 若くあり続け、何事も素早く習得せよ。早く始め、失敗し、学び、次へ動くこと。
  • 小さく考えないこと。よいアイデアも、小さな市場では大きくならない。
  • 自らを強く鍛えること。
  • 多くをやりすぎない。集中すべきである。

ウォン氏は、スタートアップは、予算や時間など、自分がコントロールできる範囲の事柄に集中すべきだと言った。スタートアップではすぐに身に付くスキルも、大企業では習得に長年を要することから、早期にスタートアップを始めることは、大企業で働くよりも意義深いと、ウォン氏は考えている。そして、誇らしげにこう付け加えた。「起業家になることは、人生の選択である。最終目的地への、長い旅のようなものだ。」


5. キャスパー・ヨハンセン「起業家として、バランスのとれたライフスタイルを」

ヨハンセン氏は、かつて投資銀行のバンカーで、現在は起業家である。現在はオンラインデータ分析サービスのセラビアを経営している。スタートアップの人はよく仕事中毒だと言われ、コンテストをかけまわり、市場の先端にいなければならないと思われているが、結婚して小さな子供の居るヨハンセン氏は、なるべくバランスのとれた生活を送ることの大切さを知っている。バランスのとれた生活を送らなければ、後悔することになるからだ。

重要なのは、仕事と、友人・家族・チームとのコミュニケーションをどのように時間配分するか、考えておくことだ。アジアの文化では「顔を合わせていること」が重要なので、例として、従業員にハードワーカーだと認識してもらうために、可能な限り長くオフィスに居る必要があることを上げた。

しかし、ヨハンセン氏は、仕事が終われば退社してよい、言わば結果主義型の文化に従って仕事をしている。混乱を避けるために、あらかじめ何を期待するかを互いに話しあっておくことが重要だ。相手が友達であっても、多くの時間が費やせなかったり、返事が遅れたりする可能性を知っておいてもらうべきで、そうしていないのは現実逃避である。あなた自身は、今まで通り、教会に行ったり、運動をしたり、リラックスすることは継続するようにしよう。燃え尽きた感のある起業家にとって、これはよいアドバイスと言えるだろう。


6. フランク・ユー「ゲームを楽しむように、スタートアップを楽しもう」

ユーは、中国のスタートアップ・シーンではよく知られた人物だ。彼のスタートアップ、ソーシャル・ネットワークを使って、定めた目標を達成していくゲーム「Kwestr」は、中国加速(Chinaccelerator)の支援も受けている。 (関連記事

たとえゲームが好きでなくても、スタートアップは大きなゲームをするようなものだと、ユーは考えている。これまでの経験と中国加速のメンタリングから、最も重要なのは、なぜスタートアップをやっているのか、ということだと悟った。大きなイグジットやキャッシュ・アウトを期待する人もいれば、レガシーな会社を作りたいという人もいるだろうし、楽しみのためにやっている人もいるだろう。

ゲームするとの同じで、どんなレベルにでも行けるし、どれだけでも多くポイントを稼ぐことができる。でも、どんなゲームでも、最終目的はほぼ常に同じだ。それはゲームを終えるということ。そこから何が得られるかは、何を得たいと思っているかによって決まる。

ユーのアドバイスは、自分と自分のスタートアップを混同せず、スタートアップを人生のゲームの一部として考えるべきというものだ。そして、そこから何を得たいと思っているのか、自分に問いかけてほしいと語った。


7. ジェスパー・ロダール「顧客が望むものを作る」

ジェスパーは、子供のゲームをモニターしたい保護者向けのソリューション「Smartots」の共同創業者だ。 関連記事

ジェスパーは、スタートアップの人たちがよく言う、視野が狭くなってしまう状態について、苦労して学んだ。自分を信じているゆえに、最良のプロダクトが何か、自分ではわかっているつもりかもしれない。彼は、物議をかもした、美しい人のみを対象にしたソーシャル・ネットワーク「Club Beautiful」での失敗談を共有してくれた。西洋人っぽい容姿をした中国人は、ルックスを気にしているとした彼の仮説は間違っていて、むしろ、ステータスやお金に関心が高いという結論に至った。

そして、彼は顧客が望むものを作り出すことについて話した。元エンジニアとして、ローダル氏はエンジニアが必要のない機能を作りたい衝動に駆られることを知っていた。エンジニアはコンピュータの前に座り、顧客の話を聞いたり質問したりすることなく、ひたすら開発を続ける。そのため、顧客のニーズを知っているプロダクト・マネージャーこそが、技術とマーケティングと営業をつなぐ最重要人物なのだ。

ジェスパーは、自分の問題を理解し、自らが自分のプロダクトの顧客となることにした。そして、子供たちがゲームで何をどのようにしているか、親たちが知りたいと感じていることに気づき、Smartots を始めたのだ。


8. アンディ・モック「適任者を雇う」

アンディは、ベンチャーが支援するスタートアップ向けの人材ヘッドハンティング会社「Red Pagoda Resources」の創業者だ。

よく言われるように、人やチームが組織を変える。モック氏は、ビジネスで最も重要な決断は、どう決断するかではなく、誰が決断するかだと述べた。彼はこの点について、悪い人材採用がもたらす損失が、その従業員の基本給の15倍に及び、時としてスタートアップにとって、その損失は数百万ドルに及ぶと説明してくれた。

正しい採用のためには、現在のビジネス課題に対して、適切な人を適切なポジションに、適切なタイミングで採用するよう熟慮する必要がある。


9. ジョナサン・ポーリー「即興演劇のルール」

ジョナサンは、中国に最初に Ruby on Rails を持ち込んだ開発者でテックギークだ。最近、彼は会社を売却した。しかし、テックのコミュニティでは、彼は「即興」の能力で名声を上げている。

彼の話は、どうすれば、腕のいい即興演劇の役者になれるかというものだったが、起業家になるための方法論と非常に内容が似ていることは明らかだった。

役者が舞台に立っても、アイデアを思いつくまでは、何もすることができない。最初のアイデアを思いついたら、役者はそれを受け入れ、テクニックを使って次の役者に演技をつなげる。これを繰り返し、劇が進行していく。うまくつなげられなかったら。演技が止まり、ぎこちなくなってしまう。スタートアップも、あるアイデアからスタートし、顧客やチームとともに仕事し、新しい考えを受け入れて、最初のアイデアの上に積み重ねて行くのだ。

「よいことは、自然に起きる」とも言われる。舞台に立った即興演劇の役者やコメディアンは、うまくいかないときは、素早く考えをめぐらせ、演技し、何かを変えることで、状況がよくなるように努力している。彼らは自分のジョークや演技を観客が気に入ったかどうか、反応を見て即座に知ることができる。同じように、スタートアップは、市場にプロダクトを投入し、顧客からのフィードバックに耳を傾け続けるということが実に重要である。

ジョナサンは、電球の発明者トーマス・エジソンの言葉を引用した。

「成功は1%のひらめきと、99%の努力から」

つまり、スタートアップには継続的な努力が必要で、それはいつの日か成功につながるということである。


10.デイビッド・ケイ「起業家はアーティストである」

デイビッドは、起業家を成功に導くインキュベーション施設「緑分匯 (YuanFen Flow)」の創立者である。

彼は、起業家には他の人に見えていないものが見えているという。あるアーティストは、ただ粘土の塊を見ているのではなく、そこに美しい人間の彫刻を見出すことができる。起業家は、全く畑違いの分野からでも、他人の優秀な能力を借り、その上に何かを作り上げることで、他人から影響を受けることができる。ケイ氏は、起業家は問題を発見するだけでなく、カオスの中から解決策も見出せるはずだと考えている。「緑分匯 (YuanFen Flow)」は、起業家がカオスを受け入れ、今あるものを打ち壊せるような素晴らしいアイデアが生み出せるような空間にしたいと考えている。

 

【via Technode 】 @technodechina

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