【インタビュー】図解を用いてコミュニケーション障壁をなくす。“せかいをまるくする”をテーマに活動する「Visual Thinking」櫻田潤さん[後編]

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Visual Thinking」というウェブサイト。ドラッカーの本を図解に落とし込んで解説していたり、クラウドファンディング「Campfire」の成功プロジェクト内訳を一枚のシンプルなインフォグラフィックにまとめていたり。図解、ピクトグラム、インフォグラフィクス。そんな手段を使って情報を的確に伝えることでコミュニケーションの障壁をなくす。「せかいをまるくする」をテーマに活動する櫻田潤さんにお話を伺いしました。前編に続いて、後編をお届けします。

意味がもたせられないなら究極のシンプルにすべき

シンプルで良いインフォグラフィクスが集まる「Information is Beautiful」。情報量は多いものの、データをビジュアライズしただけで無駄な装飾がなくておしゃれ。櫻田さんが考える良いインフォグラフィクスの条件は、「シンプル」で「煽らない」こと。品がよく、色味もグレイ地などに押さえている。

「良くないインフォグラフィクスって、なんだかスーパーのチラシを見ている感じがしてしまうんです。それを広告と捉えているかどうかなのかもしれない。視覚化する、主張を補完するために使うのではなく、CMやチラシをつくる感じというか。このFacebookのIPOのインフォグラフィクスのように必然性のあるデザインってあると思うんですが、意味がもたせられないなら究極のシンプルにすべきだと思っています」。

ツリーマップ、メトロマップ(電車の路線図)など、ビジュアライゼーションの方法は何パターンかあると話す櫻田さん。初期の頃、様々なバンドの音楽のジャンルをメトロマップ的にまとめたインフォグラフィクス「ロックンロールメトロマップ」に出会ったことでインフォグラフィクスの価値観が変わった。

緑がポップ、赤がロックなど色分けがされていて、櫻田さんが大好きなRadioheadはポップ、ロックかつオルタナであることがわかる。メトロマップを使ったインフォグラフィクスには、マイクロソフトの企業買収などの歩みを表現したものもあるそう。

ROCK’N’ROLL METRO MAP

下記は、21世紀のモダン・コミュニケーションツールを表現した「21ST CENTURY COMMUNICATION MESSAGING」。各ツールを、ショート、メディア、ロング、メッセージなどで表わしている。コテコテに飾らず余計なノイズが一切ないことで、情報の解釈を受け手に残す。

21ST CENTURY COMMUNICATION MESSAGING

Facebook関係者の人物相関図と世界の村上春樹人気

櫻田さんがつくるインフォグラフィクスは、データが集まって見せ方の方向性が固まれば実質2、3日で完成する。音楽のデータ、村上春樹の本、Facebookなど、どれも元のデータに興味あるものばかり。もとのデータが好きかどうかで頑張れるかが決まるそう。制作の流れはこんな感じ。

  1. 全体を把握
  2. イケる/イケないをジャッジ
  3. 細かくみて整理
  4. デザインを加えて形にする

これはFacebook関係者の人物相関図をインフォグラフィクスにしたもの。映画の原作に書いてあった人物のプロフィールを見てまとめてみることに。目的はシンプルに人物の関係を表現すること。どんなインフォグラフィクスの制作でも、まず情報が集まるかどうかがポイントとなる。アドバイザー、共同創設者などカテゴリでくくり、所属する人をまとめた。

Facebook Social Graph

制作したインフォグラフィクスの中でも特に時間がかかったのが、世界における村上春樹本の人気を表現したもの。映画を見たことをきっかけに「ノルウェイの森」に注目したそう。映画はもともと書籍で、さらにビートルズの曲でもある。この辺の関係性を表現したかったもののうまくデータが集まらず。その後まとめ方で試行錯誤した後、他言語に翻訳される村上春樹の小説の各国における人気を調べていった。

「各国のAmazonのレビュー数と評価を集計したんですが、まとめてみると中国のレビュー数がかなり多いことがわかりました。しかも評価は4、5つ星がほとんどで人気が高い。この興味深い発見をどうインフォグラフィクスに表現するのかに苦戦しましたね」。

各国にユニークな海外翻訳本の表紙を使うことを思いついたものの、表紙画像が見つからず断念。そこで、シンプルに円を採用することに。円が上にあればあるほど、レビュー数が多い。オレンジが中国、黄色がアメリカということを覚えれば、パッと見ただけで「ノルウェイの森」が日本、中国、アメリカで人気なことがわかる。

村上春樹長編12作品Amazon各国レビュー数比較

「このインフォグラフィクスにかかった時間はトータルで1週間くらい。意図的に表現しようとすると、例えば中国人が読んでるようなイラストを使って飾ることもできますがそうはしません。あくまでデータ・ビジュアライゼーションという立ち位置で作ったので。もう少し頑張るとしたら、円ではなく本の形や村上春樹のモチーフを使うと良かったかもしれないですね。そうすれば一目で本の話であることがわかるので」。

ピクトグラムを使って表現したCampfireの成功プロジェクト内訳

国内外ともにクラウドファンディングが話題になり、どれだけ上手くいってるかが気になった櫻田さん。社会貢献、テクノロジー、アートなど、プロジェクトの分野によって成立頻度が変わるのか。支援金額や人数は日々変わってしまうため、Campfireのサイトをキャプチャしてデータを集計していった。成功したプロジェクトにだけフォーカスして制作したCampfireのインフォグラフィックをみると、プラットフォームの性質もあってか社会貢献が上手くいっていることがわかる。

「Campfireの火のモチーフは使うことを決めていたんですが、今回のデザインで最もこだわったのはピクトグラム。それぞれのジャンルを表現するものを何度も描きました。“音楽”はヘッドフォンやCDなど比較的表現しやすかったんですが、例えば“コミュニティ”は難しかったですね。全体的にクラシックでレトロな感じのデザインにしました」。

Campfire成功プロジェクト比較

「変にメッセージ性を加えず、あくまでフラットな感覚で見る側に読み取ってほしいと思ったのでランキングにはしませんでした。素直にCampfireのサイトのカテゴリ順に並べています。新書やブログなどでも応えが導きだされている情報が多い。自分で考えることが少なくなっている気がするんです。そこから何を読み取るか、それを自分のあたまで考えることに繋がればいいなと思います」。

図に落とし込むためのアドバイス

図に落とし込むプロセス

ビジュアルにするときに気をつけたい点は、下記の4点。

  • 要素を詰め込みすぎない、要点を絞る
  • 飾りすぎないこと
  • 主張(結論)を入れ過ぎないこと
  • 色使いも大事にすること(使っても数色)

この場合の「主張」というのは、結論。もちろんそれが何のための資料であるかによって変わってくるものの、完全な答えを与えることが必ずしもベストだとは限らない。見る側に解釈の余地を与えることも大切。また、「目立つ色を誇張したいところに意図的に使うこと」は避けるべきと話す櫻田さん。例えば、村上春樹のインフォグラフィクス。多くの書籍が中国で人気であることをより目立たせるために中国の国旗の色である赤を使って表現もできる。

「インフォグラフィクスの主役はあくまで村上春樹の作品、それへのリスペクトを示すこと。村上春樹が中国でいかに人気なのかを表現したいならまた別ですが、結果として中国が一番だっただけでその情報をフラットに伝えたかった」。

企画書を作成するときも書籍を図解にするときも、櫻田さんは必ずまず「手で描く」ようにしているそう。以前に図解セミナーなどを開催した際(セミナー資料)に、「図を使ってどうデザインするのかがわからない」という声がよく聞かれた。でも図の基本パターンは決まっているため、構成要素を示したいとき、比較したいときなど用途によって使用する図を決めればいい。

図の基本パターン

「プロセスの中で特に重要なのは、デザインよりも整理だと思います。本気で整理するときは全部ツリー状にするようにしていて、そうすると100%できるんです。ツリー状にするためには、考えを削って削って絞っていくことになるので。言いたいことがたくさんあるうちはツリーにならないですね」。

櫻田さんが開催した図解セミナーで使用した資料がこちら。

目指すは「カジュアル、シンプル」

最後に、櫻田さんご自身について幾つか質問してみました。

Q。モットーは?
「カジュアル、シンプル」。特にビッグデータの本とかは読んでないですけど、情報量が増えてきたってことも影響してるのかなって思います。そんな中でも見てもらうためには削らないとダメで。親しみとかアテンションが湧かないと。

ZaraやForever21などファストファッションへの関心が高くて。ファッションの価値を下げ、価格破壊を起こしたと見ることもできますが、裏を返せばファッションをもっと身近なものにした。おしゃれを楽しみたい若い子まで取り込んで敷居を下げたなって。この辺は、難しいネタをカジュアルにしたいという自分のコンセプトと通じる気がします。

Q。お気に入りの本やバイブルは?
「THE VISUAL MISCELLANEUM」です。あと、手塚治虫の漫画を集めていて、最近は「三つ目がとおる」にハマってます。ばんそうこうをつけてる間はいい子、外すとめっちゃ悪い子になって人類を滅ぼしちゃう感じの。手塚治虫の全体的にヒールな感じが面白くて、悪役が主人公になっている辺りにひかれますね。手塚治虫の作品は、漫画が表現する手段で根底に思想がある。やっぱり「融合」が好きなんですね。

Q。自分の強み、弱みは?
弱みは、単体のデザイナー、プログラマー、コンサルタント、マーケター、一個の実力でみると100%の実力がないこと。その分野のプロかっていうと違うんです。

強みは、合わせ技。ビジネスの人はここまでビジュアルを使えない、デザインの人はここまでデータを使えない。という意味では、同じことが弱みでもあり同時に強みなのかもしれません。

Q。いまの自分のゴールは?
プログラマーが、営業はわかってないって愚痴ったり、デザイナーがプログラマーはデザインのことがわからないみたいな話ってよくあります。その壁は常につきまとうけれど、それを取っ払えたらいいなって思ってます。

あと、コテコテのインフォグラフィックじゃなくて、データ・ビジュアライゼーションの考え方が根底にあるシンプルなものがメインストリームになることを夢みてます(笑)。市民権を得たいですね。だから紹介もするし、自分でもつくっていくし。グラフィックとデータが合わさると楽しくてしょうがないので。

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