【インタビュー】空想無印やLEGO CUUSOOを支える「空想生活」を立ち上げて15年。西山浩平氏に聞く、ユーザの「ほしい!」をカタチにする方法

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ユーザの声を商品開発に活かす。インターネットの普及やソーシャルメディアの台頭で今でこそ当たり前になってきた考え方だが、その実践は想像以上に難しい。株式会社CUUSOO SYSTEMの「空想生活」は、それを15年も前から実施するプラットフォームだ。

1997年にローンチし、現在は空想生活に加えて「空想無印」と「LEGO CUUUSOO」も運営する。総アクティブユーザ数は約15万人、2009年11月にリリースしたLEGO CUUUSOO英語版はその9割が海外ユーザ。そんな空想生活を立ち上げたエレファントデザイン株式会社代表取締役会長の西山浩平氏に、空想生活、またユーザを巻き込んだ商品開発のポイントなどを伺った。

小さな節電努力を集めるアプリ「停電検索」

自ら立ち上げた株式会社CUUSOO SYSTEMの社長の座を退いた西山氏が現在取り組むプロジェクトが「停電検索」だ。東京電力の資本が入っているエレファントデザインは、これまで電気自動車、エコキュートなど小さな需要を集めて未来のプロダクトをつくる「Switch! the design project」に取り組んできた。

ところが、2011年3月の東日本大震災の原発事故を機に節電が重要視されるように。そこで、ちょっとした節電努力を集めるサービス「停電検索」を震災直後に事業化した。震災3日後に、計画停電の場所を検索できるソフトウェアをつくったエンジニアと共同で開発した同アプリケーションは、BtoC最大の節電アプリ(iPhoneとAndroidで提供)で既に黒字化している。今後は節電努力をポイントに換算して、最終的には電力取引ができるようにしたいという。

起業するタイミングでは自分自身がユーザであるものを作る

エレファントデザインを15年間経営し、常に新しいことを仕掛け続ける西山氏は「アントレプレナー」と呼ぶに相応しい。学生時代、彫刻家になることを目指していた西山氏。デザイン大学に合格したものの、親の反対を受けて日本に止むなく帰国。自らの彫刻を大使館で販売するなどして生計を立てていたが限界を感じ、職人と共に下北沢で鞄をつくるビジネスを始めた。5年続けたビジネスは年商3,000万に成長したが、きちんと経営を学びたいという思いからマッキンゼーに入社。

それから4年、インターネットが登場した頃に「空想生活」を立ち上げて独立。鞄時代のオーダーメイドの仕組みを活かし、先に注文をとってから作るという絶対にこげつかないモデルで事業を開始した。

最近は開発者の採用に積極的で、スタートアップ周りの人材に会う頻度も高いと話す西山氏。空想生活を立ち上げた頃の自分を振り返って、サービス立ち上げ時のスタートアップに対して切に思うことがあるという。

「市場があるからといって始めてしまうと絶対に回らなくなる。他人の声を聞いて作ることはもともと難しい。つまり、自分がユーザでないものを作るってすごく難しいんです。だから、起業するタイミングでは、自分自身がユーザであるものを作る、自分が欲しいものを作ることが近道だと思います。ユーザの意見を取り込んだり、それを仕組み化するのはサービスが成長してからでいい。起業時に人の意見を聞きながら作るのはブレるし危険です。むしろこのタイミングでは聞かずに、自分自身がユーザである分野で起業すべきでしょう」。

「空想生活」、「LEGO CUUSOO」と「空想無印」

LEGO CUUSOOと空想無印の総アクティブユーザは約14万人。みんなの「ほしい」をかなえるサイトとして15年前から運営される「空想生活」は、そのユーザのほとんどが男性で65%、女性が35%を占める。

「空想生活」には、15年間分の“売ってないけど売ってたら欲しい”リストがある。欲しいリストから需要の高いものをピックアップし、デザイナーや技術を持つ中小企業などと共に商品化していく。空想生活で形に成った商品の中で西山氏の印象に残るのが「ウィンドーラジエーター」だ。窓辺からの冷気の進入を抑えることで暖房効率を高め、室内外の気温差によって生じるガラス窓の結露の抑制にも効果を発揮する。伸縮するためどんな窓サイズにも対応できる優れもので、森永エンジニアリングが開発した。その他にも、分厚くならないお財布「smart wallet」や、オフィスの急な来客時にも対応できるクッション性の高い室内サンダル「オフィス・フットウェア」など。全て、ユーザの声ありきで商品化されている。

無印商品につくってほしい商品アイディアが投稿されるネットコミュニティ「空想無印」は、「欲しい」の投票が集まった人気アイディアを商品化する。現在は、世の中の10人に1人、世界に7億人いる左利き向けの商品アイディアを集めるプロジェクトが進行している。「床に座る生活」というテーマで商品化されたのが、中身にビーズを使用することで体の一部をうまくフィットさせる大ヒット商品「体にフィットするソファ」。2002年の発売から定番商品となっている。

LEGOと空想生活がタッグを組んで運営される「LEGO CUUSOO」。LEGOのファン層がそのまま表れる形で男性が84.4%と圧倒的に多く、特に25-34歳が厚い。日本ユーザは全体のたった6%で、94%が海外、特に米国は46%とダントツだ。

LEGOファンが、理想のLEGOを自ら作りLEGO CUUSOOに投稿する。1万票集めたアイディアにはLEGOのスタッフがつき、商品化実現に向けてプロジェクトが始動。商品化候補は週1のペースで生まれ、権利問題などの課題がクリアされた場合約4ヶ月で商品が完成する。LEGOの開発チームが製品を考えるだけでは限界がある。世界に4億人以上いる愛好家の声を取り込み、「理想のレゴ」をつくるための仕組みとして機能している。

ユーザの声を吸い上げる上での3つのポイント

TwitterやFacebookといったソーシャルメディアの普及で、ユーザやターゲットユーザの声が格段と拾いやすくなった。スタートアップなども、サービス立ち上げの段階もしくはそれ以前のベータ版からユーザを巻き込んでサービスを作り込むことが増えている。エレファントデザインでは、購買欲の原始的な購買動機を「インテント」と呼ぶ。散らばった小さなインテントをギャザリングし、商品開発に具体的に活かすために重要となるポイントを伺った。

—自らユーザであれ、離れるタイミングを知れ
前述したように、立ち上げ時は自らが自社製品・サービスの誰よりのユーザであることが大事だと話す西山氏。立ち上げのタイミングでユーザの声を聞いてしまうと軸がブレる。ただ重要なのは、どこまで自分が先頭に立つのかを見極めることだという。起業家がいつまでも自らつくったプラットフォームのユーザであり続けると我田引水になってしまうためだ。

「プラットフォームがある程度まで立ち上がった後の10年間は、公な場で空想生活に関わらないことを決めていました。創業社長がパッションを感じることから始めるところまではいいんですが、そこそこ大きくなってまでそれを続けていると社長がほしいものをつくる会社になってしまう。立ち上げ時はユーザがいないため仕方ありませんが、会社がある程度大きくなったら今度は組織がユーザの声を拾ってくることが求められる。そのタイミングを見極めることが重要です」。

ユーザ・イノベーターを巻き込む
1997年、今は亡きスティーブ・ジョブスがBusiness Weekの取材で語った、“A lot of times, people don’t know what they want until you show it to them”は名言として語り継がれている。果たして人は本当に自らが欲しいものを知らないのだろうか。

「自分の欲しいものをわかっているユーザはいて、それは自分でそれを形にできるユーザです。ユーザの中で不満を持っていたり改善のアイディアを持っている人、いわゆるユーザ・イノベーターをそのまま採用して開発にあたらせるのはいい方法だと思います。その部分に関しては彼は創業しているわけだから。そういった人材をどう見つけてきて、どう巻き込むのか」。

LEGOは、世界中の大人のレゴファン・コミュニティを3つのグループに分けている。最も多いのが一般ユーザ。その上にいるのが特に熱心なファンである「レゴアンバサダー(大使)」。ピラミッドのトップに君臨するのが、レゴを使ったビジネスを展開できる「レゴ認定プロフェッショナル」。西山氏のいう、ユーザ・イノベーターは最上位のレゴ認定プロフェッショナルのことを指す。サービスやプラットフォームがある程度できあがったら、こうした人材を上手く巻き込み、サービス改善や「ユーザが本当に欲しいもの」をさらに叶えていくことが求められる。

「問題は、彼が問題解決し終わった後です。その後、彼を偉くさせてそのまま残すことが正しいかどうか。残してしまうと、先ほど話した“僕のつくりたいものをつくる”になってしまうから。旬な不満と、それを適切に上手に解決する能力のあるリードユーザを見つけてきて権限を与える。その判断とタイミングが肝心です」。

声だけを聞くな、写真と声は必ずワンセット
日本の製品の多くが、データの読み違いの上に商品開発されている可能性が高いと話す西山氏。ユーザの“言葉”だけを聞きすぎるのは危険な行為だ。それがTwitterのつぶやきであろうとFacebookの投稿であろうと、それはあくまで耳データ。いくら集めてギャザリングしてもあまり意味がないのだという。

「ユーザの声には嘘が多い。もちろん意識的な嘘ではありませんが、誇張されているケースが珍しくありません。大事なのはユーザの声ではなく、“ユース”なんです。どう使われているのか。こういう意見があるけど本当なの?それを裏付けるために、ある時から写真を撮るようにしました。声と写真のセットで、どこにニーズがあるかを解明するんです。声だけ聞いてしまうと絶対失敗すると思います」。

また、コンテキストがズレる可能性があるため、Twitter、Facebook、その他のコミュニティなど様々な場所にある意見を持ってくることもおすすめしないという。実際にユーザが使っているその隣にいて目でみる必要がある。それができない場合は必ず写真で補う。定量調査的なアンケートを実施するのもひとつの手ではあるものの、それにも注意が必要だ。

「そもそも友達がアンケートに回答していたり、何かしらの義務でやっているかもしれない。またアンケートをとる人と、意思決定をする人は大概違う人間です。明日までに回答が10件必要だからと知り合いに頼んだ結果、8割が満足していると回答して、それで判断してしまったり。使ってみたこともない人がコメントを書いている可能性だってあります。だから耳だけは危険、耳に頼っちゃダメなんです」。

クラウド・ファンディングとの共存

ユーザが欲しいものを形にするために支援者から資金調達できるクラウド・ファンディング「KickStarter」や「Campfire」と、空想生活のようなプラットフォームはどう違うのか。最近ではクラウドファンディングも一種の事前予約の機能を担っている。

「ライバルになってきてるし、彼らから学ばなきゃいけない。一線を画しているのは、クラウドファンディングが事業立ち上げのために資本を入れるのに対して、僕らは商品を予約して受け取るという点です。コンセプト自体は違いますが、両者が組合わさると、試作品をつくるためのお金と仮予約を集って、あとは継続してつくるためにメーカーと契約を結んで、といった具合に上手く繋ぐことができると思っています」。

実際にユーザの中には、空想で予約を集めて、資金をクラウドファンディングで調達するといった具合に2つを併用している人もいるという。量産する前の手作業でつくったものをEtsyで販売して小銭を稼ぎ、量産するための予約集めに空想を使う。その試作品をつくるための資金調達にKickStarterなどを利用する。様々に特化したソーシャルプラットフォームを、ユーザが仕方なく自分たちでつなげてモジュールとして使っている。

また、ソーシャルメディアも外せない。最近商品化されたオンラインゲーム「Minecraft」はTwitterで広がった。オンラインゲームで今まさにゲームを遊んでる仲間に対して、1万人集まれば商品化するから全員投票してほしいとつぶやいて投票が集まった例だ。空想単体ではなく、他のソーシャルメディアを併用したことが商品化実現の決め手となった。

さらに海外を目指すCUUSOO、使う機能は20分の1

15 年間運営されるCUUSOOの目下の目標は、海外での成功だという。国内と海外、ターゲットが違うことで仕組みや機能面で大きな違いがあると話す西山氏。海外版では機能をだいぶ省いて提供しており、持っている技術の20分の1も使用していない。

例えば、「みんなの声」という、テキストでこれが欲しいと記述する機能。空想無印はそれしか使ってないのに等しく、空想生活も声からスタートする。反対に、ほとんどが海外ユーザのLEGO CUUSOOはその機能を完全に落としている。あくまで、自分でつくった人がこれ欲しくない?と提案して投票が集まる形にフォーカスしている。オーバースペックだった日本版を、海外向けでは大幅に減らして提供。減らしたことで逆に特徴がでている。

「日本発の、ゲームではないソーシャルなサービスで海外進出しているものはまだ一つもありません。私たちが目指すのはそこです。2012年6月時点でCUUSOO全サイトのユーザの半分が海外。LEGO CUUSOOは9割が海外ですが、今後もっと海外で通用するサービスにしていきたい。また、例えばAPIを公開するなどして、KickStarterのようなサービスと繋げやすくしてあげることも考えています」。

腹を据えて問題を直視したから得るもの

最後に、西山氏ご自身についていくつか質問をしてみた。

Q。モットーは?
“No pain no gain.”です。Painがないgainは振り返ると忘れてしまう。生きていて、あれ大変だったけど良かったよなとか。本当に死ぬかと思ったくらい事故が続いた展覧会があったんです。もう絶対間に合わないって修羅場を何とかやりきって。

あんな目には2度と合いたくないって思うけど、ああいう苦境とか苦難に直面しなければ人間関係も生まれなかったろうし。2度とごめんだって思いつつ、皮肉なことに本当に腹を据えて問題に直視して望まなかったプロジェクトやその成果って忘れてしまう。浪費してるとは言いませんが、すごいことにはならないし自分の糧にはならないと思います。

Q。好きなウェブサイトは?
よく使っているサイトは、Pinterest、Linkedin、Facebook、Dropbox。こういったサービスに集めたリソースで、空想のユーザがやっているようなことを試してみようと思っています。Kickstarterと空想に自分の仮説をアイディアとして投げて、予約を集めて商品化して手作業でつくったものをEtsyで売るとか。量産化できてメーカーにライセンスできれば、ロイヤリティが入ってくるかもしれない。常にユーザから学んでいるし、自分で実践してみたい。

Q。お気に入りの本やバイブルは?
Marshall McLuhanの「The Medium Is the Massage: An Inventory of Effects」、アルビン・トフラーの「第三の波」。でも一番は、ロバート・A・ハインラインが1957年に発表した「夏への扉」というSFです。アメリカSF界における傑作で、これを読んで空想生活をつくったといっても過言ではない。発明、起業、投資、あらゆる要素が入っていて、あっという間に読めてしまいます。

Q。自分の強み、弱みは?
ここ1年ほどでつくづく思いましたが、強みは何かを立ち上げることですね。何かを始めるのはすごく得意だし、結果をだせるし実績もある。能力でいえば集中力が長けているのでしょうね、追い込んで集中するとやりきれる。

その反面、大きくなった組織の中でそれを維持するのは難しい。新しいことを次々やりたい性格なので。そっちの衝動が強くなるから、有限の時間でつくったものをメンテするより次をやりたいって思う。といっても15年やってますけど(笑)。

Q。いまの自分のゴールは?
自分で選んだわけじゃないですが、「起業家」といわれることが多い。海外、特にアメリカで“entreprenuer”って紹介されることが多いからかな。だから、一回エグジットしないといけないと思ってます。上場させるか売却するかを一度やってみないと完成しないなと。

つくって黒字化させるところまでは得意ですが、それをメンテしないんだったらもっと上手にメンテできる人に引き継ぐとか。CUUSOO SYSTEMとエレファントデザインでそれは両方できましたが、今度はそれをキャッシュに戻すこと。自分で輪廻転生を完成させる、ワンサイクルをやり遂げたい。起業家プロセスの4分の3までできることがわかったので、数年以内にエグジットを経験したいですね。

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