プライベートコーチの「Cyta.jp」と「クックパッド」がテストマーケティングを開始。ファウンダーの有安伸宏氏にインタビュー

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日本最大級のレシピ検索サイト「クックパッド」と、「プライベートコーチのCyta.jp(咲いた.jp)」を運営するコーチ・ユナイテッド株式会社が、本日12月25日に主婦市場を対象としたC2Cサービスのテストマーケティングを開始した。

レシピ数133万品、月間利用者数2,000万人を誇るクックパッドのメディアパワーと、全国で140種類以上の習い事のC2C事業を展開するCyta.jpの予約・決済システム、及びC2C事業開発ノウハウを活用。この取り組みの第一弾として、クックパッドの20〜30代女性を中心としたユーザ基盤に対するテストマーケティングを開始する。具体的には、12月31日午前10時から、クックパッドのトップページからCyta.jpへの誘導を行う。「主婦向けの習い事」という切り口で、両者のシナジーを模索していく。

クックパッド社からコーチ・ユナイテッド社へ、なんらかの形で協業ができないかと声をかけたことで始まった今回の取り組み。ユーザの反応率など実際の数字を見て分析していくという意図のもと、年内にテストマーケティングを開始することで合意したという。

Cyta.jpのファウンダー有安伸宏さんと最近会ったのは、現地の人と出会える旅行サービス「Meetrip」の共同ファウンダーとして取材させてもらった時。今後が期待されるMeetrip、今回の上場企業とのタッグ、他にもこれまで色々なチャレンジをしてきた人。この機会に、彼のベンチャー人生、またビジネスにおいて大事にしている信念について伺った。

19歳、ベンチャー人生の幕開け

慶應SFC在学中、19歳の時にシリコンバレーから日本へ帰国したベンチャーキャピタリストとの出会いがベンチャー人生の幕開け。その人とは、後のモーションビート社(前ngi group/ネットエイジ)代表の金子陽三さん。同じく慶應SFCの卒業生で、当時、DFJというシリコンバレーの有力ベンチャー・キャピタルで日本人唯一のアナリストとして活躍していた。出会ってすぐ意気投合し、一緒に会社をつくることになった。ネットベンチャーブームの終わり頃だった当時、沢山のベンチャーが存在した。SFC発で後に成功した企業には、クックパッドやネットプライスなどの上場企業がある。

ところが、当時は株式会社をつくるためにも最低でも1,000万円が必要だったり(最低資本金の制限)、今のようにインキュベーションや投資家などもおらずベンチャー企業はどこも苦労していた。自身もベンチャーではあるものの、そんな「夢はあるけれど、ヒトもカネもないベンチャー企業に、必要なリソース全て(人、ノウハウ、カネ)を注入する会社を作ろう」という気持ちで会社を設立。「アップステアーズ」と名付け、その後、紆余曲折を経て、インキュベーションオフィスの運営を開始。当時の「クロスコープ」という事業は、現在も形を変えて存続している。

Unilever Japanに新卒として就職

有安さんは大学を卒業後、Unilever Japanへ新卒入社。マーケティングを学びたい、外国人に囲まれて仕事をしたいという思いが強くて選んだ就職先だった。アップステアーズ社は当時のネットエイジグループへバイアウトし、代表の金子さんはネットエイジ本体の役員になり、その後代表になった。

学生時代に一回り年齢が人たちとベンチャー事業に取り組んだ経験で強く感じたのは、「自分も、なんらかの領域でプロフェッショナルにならなくては」ということだった。自分の適正を考えた結果たどり着いた分野がマーケティング。Unilever入社後は、年間数10億〜100億程度のマーケティング予算を持つ、東アジア市場向けのシャンプーブランド開発業務に従事。市場調査、製品開発、広告開発など、マーケティングという名のつくことをひと通り経験。上司はMBAホルダーの台湾人で、会議もメールもランチも英語だったの苦労したけれど、そこで英語力も習得した。

一つの製品を作る、一つの広告を作るプロセスの中で、巨額の予算をかけて市場調査を沢山行うことで成功確率を高める。これが、外資系消費材メーカーで一般的な仕事の進め方だった。シャンプーの消費者へ直接インタビューするのはもちろん、自宅へ出向いて家やお風呂を見学させてもらうというような地道な調査活動も行う。有安さんがUnileverで学んだ最大の点は、「消費者を理解する」姿勢と方法論だったと振り返る。

経験や知識もロングテールだ!というひらめき

そんなある日、出会ったのが梅田望夫の「Web進化論」という一冊の本。そこに書かれた“ロングテール”という考え方は非常に面白く、「経験や知識もロングテールの構造をもっている」という気づきにつながる。例えば、世の中にはベルリッツやGABAなど大手企業が運営する英会話スクールはたくさんある。これは需要の大きい「ヘッド」の部分だから。ところが、スペイン語のスクールや、インドネシア語のスクールは多くない。これは、需要の小さい「ロングテール」の部分だから。

もしも、教室やスクールとかのビジネスモデルから「校舎」という縛りをなくせば、ありとあらゆるロングテールのジャンルのレッスンを提供できるのではないか。このアイデアが出てきてから、いてもたってもいられなくなり起業に至ったのが2007年。今のようにベンチャー企業や投資家も多くない時代。安い金額でオフィスが借りられるコワーキングスペースや、インキュベーション施設などもほとんどなかった。ビジネスモデルとして、早目にキャッシュフローが生まれることが予測できていたため、投資家や銀行を頼るのではなく全て自己資本で開始したそう。

マーケットプレイスの「生態系」をマネジメントする

Cyta.jpの事業を色々な角度から分析してみると、eBayやYahooオークションなどのマーケットプレイス事業と特徴が似ているということに気づいたと話す有安さん。マーケットプレイスとして機能するには、買い手と売り手の両方を集める必要があり、片方だけが多すぎてもいけない。また一方のクオリティが下がっても上手くいかない。色々なことを学びたい人、そしてそれを教えたい人が集まる生態系がCyta.jp。この生態系を良好な状態に保つには、まず良好な状態を定義すること。その指標を社内でレビューし、改善していくことを続けている。

その一環として行ったのが、サービスクオリティの見える化。受講生の予約・決済状況を全て一元管理し、データで見えるようにした。レッスンの予約や、受講料の支払いは全てオンライン。レッスンの前日になると、生徒と先生の両方の携帯へ「明日はレッスンです!」という内容のリマインダーメールが届く。レッスンが終了すると、講師の携帯へメールが届き、レッスン内容を簡単に入力してアップロード。記入された内容は「レッスンノート」(レッスンノートの例)としてサイト上で公開され、他の受講生が先生を選ぶときの参考に出来る。

また、外部の調査会社を使ってミステリーショッパー調査(覆面調査)も実施。調査会社のスタッフが、受講生になりすまして予約サイトの使いやすさ・レッスンの時の待ち合わせのスムーズさ、レッスンの中身、コーチとのコミュニケーションなど、全ての点を調査員がレポートにして提出する。レポートの内容を全社員で読み合わせをし、その講師にフィードバックする。

誰も欲しがらないサービスを時間をかけてつくっていないか

最後に、これまでのベンチャー人生の中で有安さんが大事にしてきた信念について伺った。

ユーザの本当の問題は何かを考える
ベンチャーが陥りがちな一つ目の間違いが、「誰も欲しがらないサービスを、時間をかけてつくってしまう」ことだという。欲しがらないとまではいかずとも、「ユーザがお金を払って使ってくれる」タイプのサービスの場合、お金を払ってくれるというのは、実は非常に難しくて大きなことだと。

新しいサービスをつくる人は、周囲の友だちに必ず「すごいね!面白い!応援してるよ!」と言ってもらえる。でも、その人が毎月数百円、数千円を支払ってそのサービスを使ってくれるかどうかはまったく別問題。例え数百円、数千円でも、オンラインのサービスにお金を払う時、意外と財布の紐は堅いもの。お金を払う価値を感じてもらうものをつくるにはどうするのか。それは、「ユーザーがまだ解決していない、本当の問題」を探り当てることだという。

「新しい」ことは価値でもはない、むしろマイナス
創業時から、今のCyta.jpのグランドビジョンはほぼ頭の中にあったそう。ところが、それは消費者視点からすると何の意味もなく、むしろ「意味がわからない」「先生が15人しかいないのに、マーケットプレイスって?」「うさんくさい」くらいに思われてしまうものだと考えていた。そのため、初めのうちは「C2C」や「マーケットプレイス」といった話は一切せず、「ギター教室」、「ドラム教室」などという伝え方をしていた。その方がスッと理解してもらえる。

講師が300名を超えた頃、ようやく場としての価値が大きくなってきたため、Cyta.jpという大きな全体像の設計をスタート。消費者にとって、C2CやB2Cかなんてどうでもいい。ギターを習いたい人にとって、自分事なのは「お気に入りのあの曲を通しで弾けるようになること」でしかない。伝えることでも、消費者目線が重要になる。

学びのマーケットプレイス「Cyta.jp」の今とこれから

オフラインの受講生(実際にオフラインで受講した人の数)は、2012年9月時点で15,000名を突破。毎月、生徒数・講師数・レッスン実施数(=トランザクション数)、そして売上が伸び続けている状況で、月次の最高売上高が毎月更新されているそう。

買い手(生徒)と売り手(講師)が集まるマーケットプレースとして、ネットワーク外部性が強く働くフェーズに入ったと話す有安さん。買い手が増えると、売り手が増えて、売り手が増えると、買い手が増える。この好循環のサイクルが回り続けている。また「プライベートコーチ」の応募者数は、月間2000名にも上る。現在140種類以上のジャンル(例:インドネシア語、宅建、Photoshop、囲碁、サックス、中国語、ランニング)のレッスンを購入できるものの、「学びのマーケットプレイスをつくる」にはまだまだジャンル数が少なすぎる。学ぶニーズが存在するありとあらゆる領域で、「対面のレッスンを購入できる」ようにすることが目標だという。


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