資本政策に失敗はあるのか?ーー個人投資家が明かす「留意すべき5つのポイント」

Takeshi Hirano by Takeshi Hirano on 2013.1.17

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スタートアップする起業家が多くなるに従い、シード期の企業への投資活動を耳にすることが多くなった。同時にしばしば「よくない資本政策だ」とか、「資本政策を失敗した」という言葉を聞くこともある。

多くの起業家にとって資本政策、投資を受けることはそう何度もあるわけではない。一方で投資家はその道のプロだ。お互いの経験値バランスが悪い結果こういった話題が出てくるのだろうし、公になる類の情報でもないのでさらに話に尾ひれがつく。

猪木俊宏氏は弁護士としてファイナンスや企業法務などに関わる一方、起業から資金調達、上場審査、M&Aなど、スタートアップが直面する様々な場面での経験を生かした起業支援活動でも知られる人物だ。

また、宅麺やCampfireなど、20社程のスタートアップに投資するエンジェル投資家の顔も併せ持ち、起業家のメンターとして資本政策に関する無料相談も行っている。

ここでは主に、初めて投資を受ける起業家に向けて「留意すべきポイント」を中心に聞いた。該当する方は参考にしてほしい。

「資本政策」とは具体的にどのようなことなのでしょうか

資本政策は「1.いつ、2.誰に、3.いくらで、4.どれだけ、株式(やストックオプション)を渡すのかという計画を、会社に必要な資金を調達しつつ、起業家、従業員、投資家のモチベーションがあがるよう実行する」という資本に関する戦略のことです。

未知数のものに対して投資を受けるので、投資する側にはリスクがあります。そのリスクに見合うリターンへの期待が必要で、これが事業計画です。つまり投資を受けるには、基本的に急速な成長シナリオとイグジットの方針が必要になります。

投資家については、あくまでも金銭的なリターンをめざす存在で、会社にフルタイムでコミットするものではない、という点をよく認識しておく必要があります。また、ストックオプションについては、誰に行使価格がいくらのストックオプションを何株分渡すのかという点が一番重要です。あとのテクニカルな面は専門家に相談しながら考えましょう。

資本政策でポイントとなるのはどういう点でしょうか

1:一度にたくさんの株を渡さないこと

1回のラウンドで発行する株式は、10%までというのが基本です。資金需要が大きい例外的な場合も、15%程度までにしておく必要があります。それ以上の大きな持株比率を要求する投資家も多いですが、そういう投資家は「疑いの目」で見てください。

それほど大きな持ち分がないとモチベーションが上がらない投資家というのはかなり疑わしい存在です。先ほど申し上げた通り、投資家はフルタイムで会社にコミットするわけではないので、それほど大きな持ち分を渡す必要はありません。

例外は、会社をある程度の期間運営してうまくいかない場合に救済的に投資を受ける場合と、事業シナジーのある事業会社の子会社や関連会社になる場合ぐらいで、それ以外の例外はないと思ってください。特に設立間もない時期に大きな持ち分を渡すのは典型的なよくない資本政策です。

いったん大きな持ち分を渡してしまうと、その後の資金調達がやりにくくなります。資本政策は最初が肝心でやり直しはききません。一番知識も経験も少ない、初期の段階が一番大切なので慎重にのぞんでください。

2:いろいろな人に相談すること

資本政策を作成するにあたって、スタートアップの正確な企業価値を判断することは難しいのですが、資金調達の際は強気でのぞんでください。投資家のほうは、そのときどきの「相場」をよく把握していて高すぎればそういわれるので、最初は多少強気でも問題ありません。そもそも起業家が自信を持っていない事業に投資しようとする人はあまりいません。

また、上記の通り、資本政策は最初が肝心です。一番知識も経験も少ない時期なので、なるべく多くの人に、かつ、早めに相談するようにしてください。

相談相手は、立場によってポジショントークになる場合もあります。先輩起業家は一番起業家目線での話が聞けるので必ず誰かに相談すべきだと思いますが、起業家は大体自分の経験をもとに話すので、やはりこれも複数の人に話をきくべきです。

3:イグジットのイメージができているか

資本政策を作成する場合には、IPOなり売却なりの段階の資本政策まで、仮でよいので時期も含めて作成して下さい。目の前の調達についてのみの資本政策だけ作成したのでは場当たり的になってきます。もちろん計画通りいくことはほとんどないのですが、適宜修正していけばよいので、いつどの程度のバリューでいくら調達するのか、最初からイグジット時までの資本政策を考えてください。

また、可能であれば目の前の調達に加えて、その次の調達については、時期、金額、調達先等について、ある程度具体的なイメージを持つようにするとよいと思います。イグジットのイメージがIPOであれば国内なのか海外なのか、売却であれば、どのような会社に売却するのかについても考えておくべきでしょう。

4:事業モデルはどうなのか

借入ではなく株式で資金を調達する事業は急成長が見込めるものであり、かつ、イグジットを志向するものであることが基本です。

しかし、特にM&AによるイグジットはIPOに比べてかなり間口が広く、また、いろいろなタイプの投資家がいるので、ゆるやかに成長するタイプのものであったり、かならずしも上記にあてはまらなくても調達を試みるということも考えられると思います。この点についても、いろいろな人に、早めに相談するとよいと思います。

先ほどから何度も、いろいろな人に、早めに、というのを強調していますが、ここはホントに大切なことです。特に初期は相談できる人が少なかったり、また、差し迫った資金需要があったりして、結局あまり人に相談できないまま資金調達をして失敗するという例が後を絶ちません。

5:普通株なのか、優先株なのか

(1)普通株と優先株

まずスタートアップの側は普通株で調達することを考えてください。現在の日本での優先株の使われ方は、流行と投資家のリスクヘッジ程度の意味しかありません。

スタートアップにとっての事実上唯一の意味は、優先株の場合にはストックオプションの発行に際して優先株の発行価格は考慮しなくてよいので、優先株発行後も低い行使価格のストックオプションを発行できることです。この点も、自社のストックオプションの発行計画をある程度たてておけば、自社にとってその時点で優先株が必要(有益)か否かがわかります。

他にも優先株のほうが普通株よりも価値が高いと評価されるとか、投資家のリスクがヘッジされるため投資契約の買取条項等で過度の責任を負うことを防止できるとされていますが、現状では、これらの点は疑問です。

優先株であるから高く評価されているという実感はなく、また、買取条項等も従来とあまりかわっていません。逆に、相場よりも高い評価で調達が可能なのであれば、優先株を使うのも一案ですが、本当に高い評価になっているのか否かは慎重に見極める必要があります。スタートアップとしては、優先株を発行する場合には、投資契約の内容についてもっと交渉したほうがよいと思います。従来通りの買取義務を規定するなら普通株にして、優先株を使うなら買取義務の範囲を限定する必要があります。

おおむね1億円以上をVCから調達をするような場合は、最近の流れから行って優先株になる可能性が高いと思いますが、シード・アーリーステージで、数百万円から3000万程度の調達をする場合に優先株を使う必要は通常はありません。

(2)コンバーチブルノート

コンバーチブルノートは、新株予約権付社債(転換社債)を使って、調達時に行使価格(転換価格)を決めずに、次回の調達時に決められるというメリットがありますが、これは投資家側のメリットです。スタートアップ側には基本的にメリットはありません。

むしろ「社債」なので借入と評価され、金融機関からの借入が必要になってもお金を借りるのはほぼ無理になります。その意味では、シード・アーリーステージで新株予約権付社債を発行するのは日本ではお勧めできません。少なくとも数千万以上の金額(できればおおむね1億円以上)を調達して、しばらくの間は資金調達をしなくても事業に集中できるというケースでなければ、使う必要はないと思います。

また、新株予約権付社債を使わなくても、投資家に対して、株式とともに新株予約権を発行しておけば、ある程度時価総額の調整を行うことは可能です。この場合、負債にはならないので借入れの障害になりません。

また、最近、投資契約にKPIについて規定される場合がありますが、新株予約権についても、一定のKPIを達成した場合に行使できる新株予約権を(投資家ではなく)経営者に付与することも考えられます。一種のストックオプションですが、資本政策に利用し、創業者の業績向上へのインセンティブを高めるものになります。

ーーさて、いかがだっただろうか。私も取材者として投資家を取材し、起業家として自分で事業を進めることで資本政策への理解を深めることができるようになった。正直、経験しなければ理解できないことが多い。

猪木氏が指摘するように、多くの人に話を聞くということは本当に重要だ。結局、自分と同じ事業は二つとなく、全く同じ資本政策も存在しえないからである。経験を聞き、投資家とよく話し合い、お互いが本当に納得できるポイントを探し当てられるかどうか、資本政策に関して起業家に求められる努力はここにあるのではないだろうか。

Takeshi Hirano

Takeshi Hirano

ブロガー。TechCrunch Japan、CNET JAPANなどでテクノロジー系スタートアップの取材を続け、2010年にスタートアップ・デイティング(現THE BRIDGE)を共同創業。1977年生。(株)THE BRIDGE代表取締役

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