アジアのトップベンチャーキャピタリスト8人が予測する、2013年のアジア市場

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【原文】

2013年が始動し、スタートアップ、企業、VC会社は新しい予測と目標を掲げた。2013年は一体どんな年になるだろうか?我々は、アジアの有名なベンチャーキャピタリスト何人かに、今年の見通しについて尋ねてみた。

Amit Anand(シンガポール):東南アジアの様々なエコシステムにとって2013年とは。

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Amit Anandは、Jungle Venturesの設立者であり、経営パートナーだ。同社は、シンガポールに拠点を置き、アジア全域の厳しい競争にさらされたベンチャー企業に、初期投資を行っている。同社は、あの有名な500Startupsと共同で1000万ドル規模のスーパーエンジェルファンドを立ち上げた。Jungle Venturesのポートフォリオには、Cinemacraft、DocDocやtravelmob等の銘柄が含まれている。

Amitは、Business Angel Network South East Asia(BANSEA)の副会長でもある。

2013年に関するAmitの発言:

「シンガポールやインドネシアのエコシステムは、次の成熟期に進むか死ぬかの瀬戸際の段階に来ています。シードの様子見の段階が終わり、長期的な視野に立ち、ビジネスの将来性を見極めていく必要があるので、これからの数年がこの地域にとって非常に大事になってきます。

一方で、タイのエコシステムはまだ新しく、シードの段階にあるので、起業家がシード投資の資金を調達するには絶好のタイミングです。タイに拠点を置くことを考えても良いかもしれません。また国内市場もきちんとしています。ただ、オーストラリア勢には注意が必要です。もし彼らに東南アジア市場への参入を許せば、オーストラリアには、有望なスタートアップが次々と頭角を現すでしょう。

VCでも、特に自ら早い段階からリスクを冒してまでもシリーズA投資に出資する地元VCは、素晴しい出資先を見つけることが可能です。全てのスタートアップが、シリーズA投資に見合う金字塔を打ち立てられるわけではないので、シード段階で勝ち組を見極めるには専門家の目が必要になってきます。残念ながら、資金的に余裕がありそこまでできる投資機関はほんの一握りしかありません。我々はこの段階での投資を、とても前向きに行っています。

公表されていませんが、シンガポール(そしてアジア)には、売上1億ドルで打ち止まっているスタートアップが多く存在します。彼らがイグジットを選ぶか、ビジョンを持ち、大きな野心を膨らませ、シンガポール初の数十億ドル規模のデジタル企業になるか、興味深いです。これがどうなるかは、Bubblemotion、mig33、PropertyGuru、Viki、Reebonz等を見ていれば様々な事が分かるだろうし、またこの先数年は、これらの企業をしっかり見届けていく必要があると思います。」

Adrian Vanzyl(タイ): バーチカル(業種別)市場に対して強気に構えており、収益化について楽観視。

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Adrian Vanzylは、タイに本拠地を置くArdent Capitalの共同設立者、CEOだ。Ardent Capitalは、主に東南アジアのインターネット分野で、様々な企業を成長させ、うまくイグジットを行ってきた。イグジットがうまくいった企業は、Ensogo、Dealkeren、Admax Network、NewMediaPlusだ。

Adrianは、サンフランシスコのBlumberg Capitalに10年在籍していた。(つい最近まで、創設期のデジタルメディア向けに1億ドルの資金を扱うファンドのCTOで、投資先企業2社のCEOだった。)

2013年に関するAdrianの発言。:

「私たちはバーチカル(業種別)市場に対して強気に構えており、収益化について楽観視しています。トラベル、美容、子育て/子供等の分野がこれに当たります。顧客獲得の費用があまりかからず、何種類かのソーシャルコミュニティの場(コメント、好み、写真)を設けることで顧客の関心を引くことができるため、気に入っています。差別化されてないコマースサイト(例えば、Amazon.comのコピー版)では、世間が期待する程の関心を集めることはできません。明確なメッセージがなく、競争力のある価格提示ができず、カスタマーサービスの問題と、国際競争力がないからです。

その他の注目領域は、決済方法のクリエイティブなソリューションと、ゲーミフィケーションの2つの有効なプラットフォームです。これらによって、消費行動の制限が減り、顧客の関心を引くことが出来るようになります。Burufly.com(ソーシャルトラベル)やPlaybasis(ゲーミフィケーション)を含む前述の2つの分野で、幾つかの賭けをしました。ここから分かることは、決してビジネスに繋がらない細かいソリューションがまだ多すぎることです。

この傾向は、新たに利用できるようになりつつある、全てのインキュベーター、エンジェルファンド、政府資金などが影響しています。スタートアップを支援するための資金があり過ぎても文句を言う者はいませんが、その資金は、実際のビジネスに繋げることができるスタートアップの支援に利用されるべきで、3年前のアメリカのビジネスモデルのコピーの、20世紀の真似ごとに利用されるべきではありません。

そのようなビジネスは、シリーズA投資を獲得することができず、起業家にとっては誤った職業選択をしたかのような残念な結果となります。我々のグループでは、賢い起業家が、すぐにビジネスを開始できるという短絡的で魅惑的な罠にはまったり、細かいソリューションを追求したりしないよう、野心的に考え、本当のビジネスを構築できるよう支援していきます。

全体的に見れば、この地域のスタートアップ分野は、質の高いインキュベーターやトレーニングプログラムが導入されたことで、この一年の間に大変な成長を遂げました。例えば、タイのテック系のコワーキング・スペースの数は、2012年が最多となりました。この傾向は、今後もこの地域で継続していくと思われます。この先が楽しみです。」

Jamie Lin(林之晨、台湾): ウェブゲームが、従来のオンラインゲームに取って代わっていく。

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ウェブゲームが、従来のオンラインゲームを上回り始めている。Facebookは依然と勢いを保ち、e-コマースも好調を維持していく。

Jamie は、台湾の台北に拠点を置き、モバイルと消費者用インターネット向けに1100万ドルを保有するスーパーエンジェルファンド、appWorks Ventures(之初創投)の共同設立者だ。appWorksは、120社以上のスタートアップを支援したY-Combinatorに触発され、インキュベータープログラムを運営している。

Jamieは起業家として、トラベルソーシャルネットワークのSosauce.com と3Dウェブゲーム開発のMuse Games を開発した、Social Sauce社を共同設立した。その前には、中国の検索エンジン大手のIntumitと、PCをオンラインで受注生産し販売するHotcool.comを共同設立するなど、他にもさまざまなビジネスを手がけた。

2013年に関するJamieの発言。:

「ゲームに関しては、今年、いくつかの国でウェブゲームは、従来型のオンラインゲーム(ダウンロードが必要なゲーム)に取って代わられていくと思います。ウェブゲームとオンラインゲームに比べてまだ規模は小さいが、モバイル(アプリ)ゲームの分野においても今年は激戦が繰広げられると思います。

広告に関しては、今年Facebookがさらに勢いを増し、いくつかの国で、Googleの独占状態が打破される可能性があります。また、広告のリアルタイム入札(RTB)もいくつかの国で徐々に始まるかもしれません。

eコマースに関しては、ほとんどの国で一般的に20%から50%の成長が見込める思いますが、この分野は、国が違えば、見方も変わってきます。」

Jeffrey Paine(シンガポール): モバイルは成長する。

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Jeffreyは、Golden Gate Venturesの共同設立者だ。同社は、デジタルスタートアップに出資・支援するため、シンガポールに拠点を置くJFDIと最近提携した。Jeffreyは、Founders Institute Singaporeの理事も務めている。

2013年に関するJeffreyの発言。:

「モバイルは、特に、教育、健康、コマースの分野で成長を続けていきます。パーソナライゼーションの動きも、意外と早く来るかもしれません。」

 

Hugh MasonとWong Meng Weng(シンガポール): 健康と教育の分野は爆発的に伸びる。

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HughとMengは、シンガポールのスタートアップ界では有名だ。彼らはシンガポールで、最も新しく、実績のある支援育成プログラム、JFDI.Asiaを運営している。

JFDI.Asiaは、今年に始めにSingTel Innov8と共同で最初の訓練講座を実施し、11のスタートアップがプログラムを修了した。修了時点で、60%のスタートアップは、50万シンガポールドルから70万シンガポールドルの資金調達に成功した。

2013年に関するHughの発言。:

「少し違った視点からお話ししましょう。まず、今年応募した人達に人気のあった分野を人気順にざっと10個紹介します。:マーケティング、コンテンツ、eコマース、教育、分析、CRM、ゲーム、健康、ファイナンス、ビジネス・インテリジェンス。

これらのどの分野が伸びるでしょうか。仮にアメリカと比較するにしても、我々が知る限りでは、アジアはアメリカとは違います。なぜなら、この地域への展開は、通貨の違いや法制等の理由で、アメリカ市場への展開よりも難しいからです。ここアジアでは、多くの文化や近隣諸国を本当の意味で結びつけることができた組織は、多国籍企業だけでした。なので、JFDI.Asiaは、スタートアップが成長していけるよう、市場情報や市場販路を提供してくれる多くの多国籍パートナーと密接な関係を構築しています。

成功とは、アジアでは、特定のマーケットで同種のものに注力しビジネスを大きくする事ではなく、広い地域一帯をカバーできるよう提携しながらビジネスを展開していくことなのかもしれません。

Meng Wongが、個人的に選んだのは、旅行、健康、教育、モバイル版ソーシャルメディアの収益化に関する分野です。」

Eddie Chau(シンガポール): 多層ビッグデータ分析とクラウドへの関心がさらに高まる。

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Eddie Chauは、トラベル関連のFlocationsとファイナンスのスタートアップTradeHeroに最近出資を行った、TNF Venturesの共同設立者だ。彼は、Media Monitorsに買収されたBrandtologyのCEOでもある。また、Eddieは、最近シリーズA投資で400万ドルを調達したモバイル用セキュリティ会社、V-Keyの共同設立者でもある。

2013年に関するEddieの発言。:

「多層ビッグデータ分析(データはソーシャル、デモグラフィック、モバイル等から収集)は、政府、金融機関、日用品を扱う企業等でも真剣に検討されています。多くの情報を収集し、競争力をつける目的と、何よりも、顧客と密接に関わり、行動パターンを理解するためです。

クラウド依存は高まり、クラウド管理の大きな課題に直面し、そこから多くのチャンスも生まれてくるでしょう。」

Stuart B Richardson(オーストラリア): AdTech、eコマース、ソーシャルメディア・マーケティングツール、「モノのインターネット

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Stuartは、創設期のテック系ベンチャーを支援するオーストラリアのVC会社、Adventure Capitalの設立者だ。彼は、オーストラリアで最大のインキュベーター、York Butter Factoryの共同設立者でもある。運営を開始して1年で、シード投資を受けた50社以上の有望な企業が既に入居している。

その他、彼はテック系のAxifluxと121castに設立資金を提供している。また多くの起業家や創設期のテック系企業にアドバイザーとして関わっている。

2013年に関するStuartの発言。:

「人気があるところで、以下の分野は注目する価値があると思います。

  • ・アドテク – DSP(広告買付プラットフォーム)/RTB(リアルタイム入札)市場における勢力争い、特にアジアのモバイル広告
  • ・eコマース (オーストラリアでは、構造的な規制がこの先も続くので減少)
  • ・ソーシャルメディア・マーケティングツール
  • ・高度な技術と「モノのインターネット」の融合(例えばAxiflux、Ninja Blocks)

情報や知識が激増しスタートアップ設立費用がこのまま続落すれば、スタートアップ界では整理統合が繰り返され、コモディティー化が進んでいくと思います。その間に、市場は競合でいっぱいになり、スケールメリットを活かすことができなくなります。つまり、アジアにおいて、シリーズAの崩壊が起きるでしょう。」

【via e27】 @E27sg

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