100万ドルにも「ノー」が言える創業者を目指して

以下は、シンガポールのスタートアップ DropMySite / DropMyEmail の創業者兼CEO John Fearon による寄稿だ。DropMySite は、メインのウェブサイト環境からデータがクラウドに自動バックアップされるサービスで、通常サイトがホスティングされているGoogle Apps がダウンしても、クラウド上でサイトが稼働し続けるしくみ(関連記事)。John Fearon は起業家精神について、さまざまなメディアで意見を述べている。

<以前の寄稿> テックビジネスで成功する秘訣は〝solo(単独創業)〟と〝YOLO(人生は一度きり)〟


スタートアップのCEOあるいは設立者として、あなたは100万ドルを調達しようとしていると考えてみてほしい。みんながイエスと言って出資してくれたら、あなたは100万ドルを手にすることになる。しかし、そうすると会社の評価額は100万ドルと決まってしまうのだ。これは果たして喜ぶべきことなのだろうか?

スタートアップの多くは、正しい評価を得ること、そして株式の希薄化によく悩まされている。企業のコントロールを失うことや支払いを目の前にして、仕事を続けながら正しい判断を下そうとするのは厳しい挑戦となる。投資家たちはこれを利用して、より低い評価額でより大きな利益を得ようとする。

もしあなたがこのような状況にあるなら、パーティーを中止して、投資には「ノー」と言うべきだ。

たくさんの「ノー」こそ、イエスへの近道

営業のバイブルを読むと、たいていは「ノーと言われれば言われるほど、イエスに近づくことになるのだ」と書いてある。ピッチすればするほど、たくさんのドアをノックすればするほど、そして勧誘電話をかければかけるほど、それだけ売り上げも上がるというものだ。投資家に断られたり、出資を断ったりすることを恐れてはいけない。そして、見込みのある投資家のドアをノックし続けよう。そうすれば、あなたは求めるものを得ることができる。

多くの人から信じられている「80/20」のルールというものがある。これは、あなたが話をした人のうち20%があなたの望む資金の80%を提供するというものだ。つまり、20万ドルが必要ならば、あなたは見込みのある投資家20人以上に話をする必要がある。そのうち、投資家4、5人からの出資により、その額に到達する可能性が高い。

たくさん「ノー」と言われるのは良いことだ

投資家たちに向かって自分のスタートアップをピッチした結果、圧倒的多数のイエスをもらった場合、あなたの設定した額は間違っている可能性が高い。あなたのスタートアップはうまくいっており、多くの投資家が興味を持っている。したがって、その評価額を上げることができるはずだ。

多数の投資家が興味を持っているということは、そのチャンスを最大限に生かすべきであることを意味する。会社の評価額が下がってしまわないよう、「80/20」のルールに従ってもう一度適切な評価額のポイントを設定しよう。投資家の5人に1人以上があなたの提案を真に受け入れるなら、いったんそこで立ち止まり、「80/20」の比率に達するまで再調整することだ。

CC BY-NC-SA 2.0: via Flickr by Marco Wessel
CC BY-NC-SA 2.0: via Flickr by Marco Wessel

やめ時を知る

スタートアップのためにもっとたくさんの資金を集めることは、ビジネスを持続する上で非常に重要なことだ。しかし、いつ資金集めをストップするべきかについて知っておくことも必要である。

もし、会社の評価額と同じだけの額を調達してしまうと、あなたの会社は自分のものではなくなってしまう。なぜ、自らの手でゼロから立ち上げた会社を手放さなくてはいけないのだろうか?資金調達の取り組みでは評価額のレベルを抑えて、ある程度の株式が設立者に残るようにすべきだ。資金調達のラウンドごとに15%から20%を減らし、IPOを迎える時には25%から30%を保有するくらいが望ましい。

また、次のステージにたどり着くのに十分な額を調達し、余分な資金を口座に残しておかないこと。そして、資金調達のラウンドごとに目標を持つ(もっと多くの開発者を雇う、海外支社の立ち上げ、大きなマーケティングキャンペーンを行うなど)。安全を求めるためだけに多くの株式を無駄にしないこと。将来のラウンドにおいて、いつでも現金を手にすることができるのだから。

無駄な時間には「ノー」

ほぼ1日24時間、週7日間働かなくてはならず、スタートアップには自由な時間がない。したがって、1分1秒をうまく活用しなくてはならない。しかし、資金を集めるのは重要ではあるが、そのために貴重な時間がほとんどいつでも無駄に終わってしまうのだ。あなたの事業についてピッチするのに1日から2日かかるだろう。さらに、回答が得られるまでには数週間から1カ月もかかる可能性がある。

忘れてはいけない。5人の投資家のうち4人から断られたら、あなたの話とビジネスプランについて繰り返した4日~8日間が無駄となってしまう可能性がある。したがって、これはどれぐらい時間と資金が残っているかによる。もし両方ともなくなりかけているようならば、契約をまとめ、時間を節約し、破綻しないように事業を継続させられるよう、評価額を下げることに前向きになれる。

いくら欲しいのか伝える前に、そしてミーティングを価値あるものにする回答にどれだけ時間がかかるか知る前に、まずは見込みのある投資家たちと率直に話そう。そして、十分な資金としっかりした実績を持つ人たちに集中して話すべきだ。

必要以上の投資家には「ノー」

あなたはすべての投資家に対して同じ額の出資を要請するかもしれないが、投資家たちはそれぞれ異なる額とオファーを提示するかもしれない。資金だけではなく、投資家たちは独自のネットワークを活用し、あなたの会社に資金を提供するために他の人々を紹介することもできる。また、彼らのアドバイスもあなたのビジネスにとって非常に有益なものとなる可能性があるだろう。

いつでも慎重に選択すること。あらゆる投資家があなたの会社に価値を付加するわけではないのだ。ある投資家は毎月、あるいは毎週の報告を求め、あなたは頭を悩ますかもしれない。あるいは、戦略を変更して事業転換しろ、と強く主張してくるかもしれない。彼らは自分たちの出資分を守るためだ、と言うかもしれないが、どちらかというとそれは良い結果をもたらさないマイクロマネジメントとなってしまう可能性が高い。

「ノー」についてのまとめ

スタートアップに携わるなら、たいていは険しい道を行くことになる。したがって、特に投資家から前向きに受け入れられることを願い、拒絶されるのを嫌がるのは、人間として自然な性向だ。しかし、評価とは主観的なものである。他の人たちを納得させることができるなら、どんな価値でもあなたの望み通りに持たせることができる。Apple、GoogleやFacebookのような大手企業はなんの質問を受けることもなく、各社の株価収益率(PER)に基づき、何度も売り買いされているのだ。

だから、あなたが資金を調達中で、スタートアップの価値をこれから決めようとしているところなら、たくさんの「ノー」を求めよう。実際のところ、「ノー」が多ければ多いほど、あなたのスタートアップがうまくいく可能性は高い。正しい評価、普通株発行による希薄化、そして適切な投資家にあくまで固執するのだ。

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