創業者はプロデューサーであれ−−コミュニティファクトリー松本氏が語るUX設計とアイデアの着想法

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サービスのアイデア段階から着想、リリースへの一連のフローにおいて最も重要なのは、使うユーザをどれだけ意識できるかだ。サービスのスペックや機能ではなく、ターゲットとするユーザの利用シーンや気持ちをどれだけ汲み取るか。サービスを使う前、使う時、使った後の一連のユーザ体験をどれだけ作り込めるかが、サービス成功の大きな要因だ。

2011年にリリースし、約1年でYahoo!Japanに買収されたDECOPIC。1年弱ですでに累計1200万ダウンロードを超えるファンを獲得し、若い女性の間で人気のアプリとなってる。

DECOPICを開発、運用しているコミュニティファクトリーの松本龍祐氏が「MOVIDA SCHOOL」で語った、ユーザの感情を揺さぶるUX設計とアイデアの着想法についてまとめた。

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受託とピボットの経験

2006年に一人でコミュニティファクトリーを設立した時は受託開発がメインだった。そこから、B2C向けのサービスをおこなう「株式会社リンノ」を設立し、大学生向けのSNS「LinNo」を運営していた。コミュニティファクトリーとリンノの2つの会社を運営し、両方をマネージメントしていたがLinNoは当初の想定通りにサービスを成長させることが出来なかった。

LinNoのユーザー獲得の手法としてソーシャルプラットフォーム化し、内製でソーシャルアプリを開発していた。その後、mixiのオープン化に向けてmixiファンドを募集し始めたタイミングでソーシャルアプリ開発の実績を評価され、その第一号として出資を受けた。以後、mixiアプリサービス開発へとピボットした。mixiアプリでヒットをだすために、Facebookとmixiの主要アプリを比較分析。そこから「みんなでケンテイ」が生まれ、800万ユーザに利用され大きくヒットした。

ソーシャルアプリで多くのユーザーを獲得することには成功したが、収益性の高いソーシャルゲームで大きなヒットを上げることは出来なかった。そこで、ちょうどスマートフォンが登場し注目され始めてきたため、会社として大きくスマートフォンアプリに舵を切った。それまでソーシャルゲームを主事業にして社員を雇用していたが、今後はソーシャルゲームからアプリに移行すると社員に説明。会社としてのソーシャルゲームを全てクローズし、新しい分野で再起をかける大きな賭けに出た。

かわいいを追求したアプリ開発に特化した

DECOPICを出す前に最初の写真共有アプリをリリースしたが、それはmixiユーザー専用のアプリだった。そのため海外のユーザは利用できなかったが、海外ユーザはアプリのデザインを気に入ってくれてダウンロードしていたことが分かった。それをきっかけに、使ってみたいと徹底的に思わせる女の子向けのアプリで開発を絞り込み、コミュニケーション機能等を削除し、できるだけシンプルに作ったのがDECOPICだった。

その後、約1年で累計1200万ダウンロードされ、2012年9月にYahoo!Japanに買収されて現在に至る。今では全体のユーザの9割近くが女性で、日本からの利用は約3割程度。7割近くが海外からのユーザに利用されている。海外からのニーズも多いことから、デザインやサービスも世界のユーザを意識して日々考えている。

自社の強みが自信へとつながる

サービスや企画で一貫していたのは「コミュニティ」や「ソーシャル」を意識していたことだ。受託開発や企画提案、アプリ開発をこれまでに合計で数百本やってきたが、どれも人とのつながりや使っている人同士のコミュニケーションを促進する企画を提案していた。ソーシャルを中心にサービス開発を展開していたことが自社の強みとなり、資金調達もできた。

SNSからソーシャルゲーム、スマホアプリへそれぞれピボットした際もソーシャルを軸にはぶらさずに一貫させたことが、結果として事業全体のリスクヘッジにもなった。会社としての強みや個人としての強みが事業における自信へとなり、安心して新しい事業へ挑戦することができる。

想定しているターゲットの真ん中を突くUX設計

サービスはアイデアからUX設計、企画詳細化、UI設計とデザイン、マーケット対策、プロモーションやソーシャルメディアの運用をリリースまでのフローを敷いている。アイデアだけに頼るのではなく、最初にユーザの体験を作り出すUX設計をどれだけ作り込めるかがサービスの鍵となる。

UX設計のために必要なものとして、想定しているターゲットの真ん中に圧倒的に刺さるサービスをだせば間違いなく成功する。ユーザに最も印象に残り、使ってもらいやすいものは何か。そうしたUXをすべての中心に置いて思考する。どんな企画も、UX設計に立ち戻るのがものづくりとして大事な要素だ。

ユーザの感情を揺さぶれ

想定しているユーザが「このサービスを欲しかった!」「使いたい!」「便利!」等の言葉を発したくなるかを想像して作ること。そうした言葉を発したくなる感情は何かを考える。DECOPICの場合は「ぎゃー!がわぃぃっ!!!」と叫ばせるくらいのものを想定して作っている。

ユーザにとって最も心地の良いものは何かを考え、その期待に応えられているか。それらを先回りして応えるサービスが良いUXだ。

ユーザの毎日の生活動線をイメージする

UXは、表面のデザインではなくサービス全体を意識しなくてはいけない。そのサービスはいつ、どんな時に、どんなシチュエーションで使われているかを想定する。

企画やサービス提案の際も「便利でしょ」ではなく「ユーザはこんな風に思う」とイメージをしているかを念頭に置いて提案する。画面遷移やUIも、個々のページ毎にユーザがどういった気持ちになるかを考える。アプリ立ち上げ時のスタート画面にもこだわりを持って作りこみ、使いたい気持ちの衝動を駆り立てる。

他にも、App Storeのスクリーンショット、ホーム画面アイコンやランディングページ、サービスを使う際も迷わない導線設計、利用できるスタンプのかわいさ、投稿する入力画面等、ターゲットとしているユーザにふさわしい機能を実装している。

日々の利用シーンを想定し、どういった感情を揺さぶるかを考えてUX設計を展開しよう。

大量のインプットとアウトプットのPDCAを回す

アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせだ。方法論を作り上げれば自然とアイデアは生まれてくる。日々の生活の中で、どれだけ世の中にあるものを取り入れられるかが重要になってくる。

そのためには、毎日アイデアの種を探さなければいけない。生活全てがインプットにすると、どんな行為もネタできる。アイデアの種は、アプリだったらApp StoreやGoogle Playを毎日チェックする。思いついたアイデアを人に話してそこからアイデアを膨らませる。パソコンの中ではなく外に出て街を歩くことで気づくこともできる。海外の情報をもとに、日本の現状と組み合わせることで何かが生まれてくるかもしれない。

アイデアを思いついたらまず人に話す。そこから作ってみようと考え行動し、デザインを作りこんで、リリースしてヒットにつながる。だいたい1000個のアイデアを考えて、1本がヒットにつながるかどうかの割合だ。とにかく、大量のインプットとアウトプットのPDCAを高速で回し、多くのアイデアを形にすることでヒットへの道が開かれていく。

UX設計、市場性と競合の有無、コミュニティでアイデアを検証する

アイデアの検証としては、UX中心にサービスを考えているかを改めて考える。自分がいいと思ったものが果たして他の人もいいと思うか。主婦や女性、子どもやお年寄り等、自分と違ったユーザの気持ちになったサービスを考えよう。自分というペルソナ以外の気持ちがどれだけ分かるか。そのためにターゲットの行動を真似し、ターゲットと同じ生活習慣で行動することで理解できることが多い。DECOPIC内でも、プロデューサーは全員男性だが女性向けアプリを作っていることで確実に女子化が進んでいる(笑)。それぐらいターゲットと同化することで、真にユーザの気持ちに近づけることができる。

市場性も意識しなければいけない。市場においては競合がいるかは大事だ。競合がいればそこにはニーズが存在する。10万人規模や100万ユーザ程度に使われているサービスがあるのならば、チャンスだと思うべきだ。それだけ使っているユーザがいることであり、「ニーズがあるかどうか」を検証する時間が省ける。

求めているサービスがコミュニティによって成り立つかどうかにもを注目したい。例えばFacebookやpinterestのような多くのコミュニティ系のサービスは、別のサービスやプラットフォーム上で既にユーザが数千数万人いたから成り立っているもの。そうではなく、最初の一人目のユーザーが参加したときにも、面白いと思ってもらえるサービスなのか。そうでなければ、何かしらの運用をおこなって、コミュニティとして「離陸」する所までフォローする必要がある。

ユーザー自身が生み出すコンテンツや、ユーザー同士のコミュニケーションも含めて「ユーザー体験」である、ということを意識してほしい。

シンプルで使いやすいサービス設計

スマートフォンを中心にサービスを展開していたため、多機能ではあるができるだけシンプルに実装することを心がけている。色んなサービスを追加すればするほど、そのサービス精神が余計なお世話になることが多い。UX設計に置いては、機能をできるだけシンプルに提示することが重要だと思っている。

DECOPICは、それまでのスマートフォンの標準UIをあまり守っていない。通常だと当たり前に使われるスワイプやピンチイン・ピンチアウトは、使わなくても機能が使える実装にしている。ターゲットにしているユーザは、あまりスマートフォンを使い慣れていない女性や中学生が多い。そのため、プリクラが使えれば使い方がわかることを目標に、誰でも簡単に使える設計にしている。

創業者はプロデューサーであれ

創業者はプロデューサーでなければいけない。プロデューサーの創造力が会社の限界を決める。そのためにも、インプットしたものをしっかりと分析し、アウトプットの質を高めよう。インプットしたアイデアを整理しておくことで、そこから組み合わせによって、どんな時でも次のサービスのヒントの種を作りこむことができる。

自社の強み、自分の強みをとことん追求することで、そこから始めて他の分野や知識を応用できる。強みの軸をベースにT字型のスキルを展開し、人に負けない分野を持とう。人に負けない分野がないと何も始まらない。

自分のアウトプットの質を高め、自社の強みを追求し、そこからUX設計によってユーザの気持ちを理解した上で日々サービス開発に取り組むことが大事なのではないか。

U-NOTEリンク】:スクール当日にライブで記録されたU-NOTEです。合わせてご参照ください。

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