スタートアップ・チリがインキュベーション受付を開始、目指すは無償資金4万ドルと半年間の〝チリコンバレー〟体験

Masaru IKEDA by Masaru IKEDA on 2013.3.25

Get-On-the-SUPBoat

チリの政府系テックスタートアップ・インキュベータ「ST>RT-UP CHILE」は、今日から第7期のインキュベーション・プログラム「SUPboat」の募集を開始した。このプログラムは世界中から起業家を集め、チリ国内でスタートアップ活動をしてもらおうというものだ。

チリ国内で6ヶ月間は活動する必要があるが、国籍やスタートアップが提供するサービスの種類は問われず、審査をパスすれば、4万ドルの無償資金(エクイティ・フリーなので、株式やコンバーチブル・ノート等との交換ではない)とチリへの1年間の滞在ビザ(求められる最低滞在期間は半年間)が提供されるというものだ。

随分と大判振る舞いだと思われるが、このプログラムを通じて、我々は何が得られるのだろうか。ST>RT-UP CHILE のスポークス・パーソンを務める Maitetxu Larraechea 女史(以下敬称略、Maite)と、2011年に自身のスタートアップ PingPigeon で同プログラムに参加した 駒田義武氏(以下敬称略、駒田)に話を聞いてみた。

ST>RT-UP CHILE のこれまでの活動について教えてください。

Maite:
Start-Up-Chile-592x442ST>RT-UP CHILE は2010年にスタートした、チリ政府のスタートアップ・インキュベータです。2010年に起きた大地震の直後、チリを代表する起業家 Nicolás Shea が、チリをスタートアップ・ハブにしようと政府に働きかけ実現しました。これまでに2,000以上のイベント、年に3回のインキュベーション・プログラムを実施しており、プログラムからはこれまでに22社のスタートアップが巣立ちました。2014年までに1,000人の起業家の輩出を目指しています。

政府系のインキュベータということは、提供資金や運営費の原資はチリ国民の税金だと思います。国外のスタートアップに資金提供したり、招聘するのに資金を使ったりしても、批判を浴びないでしょうか。

Maite:
それは、よく聞かれる質問です。チリ国民の税金なのに、チリ国民から批判は上がらないのかと(笑)。実のところ、我々が運営しているのは政府のプログラムであって、アクセラレーション・プログラムではありません。我々は世界中から起業家を招いて、チリの起業家コミュニティにインパクトを与えてもらい、チリの人々に、グローバル・アントレナーシップが一つの選択肢であることに気づいてほしいと願っています。同時にスタートアップには、南米での起業体験の機会を提供します。

これまでは、どのような国からの参加スタートアップが多いのでしょうか。

Maite:
参加している人々の約2割はチリ人ですが、残りは海外。インド人の応募は多いです。彼らの多くはアメリカのパスポートを持っていて、典型的な事例としては、インドで生まれ育ち、アメリカ西海岸でスタートアップを興した起業家が ST>RT-UP CHILE にやってきています。我々は、西洋や南米と違った価値観を持ったアジアの国々の人々、日本、中国、シンガポールなどから、積極的にこのプログラムに参加してほしいと切に願っています。

参加スタートアップはオフィスはどこに構えるのでしょうか、サンチアゴ市内ですか。

SUPBoat について話す、PingPigeon創業者・駒田義武氏。(3月16日・東京)

駒田:
最初の6ヶ月間は、チリ国内でスタートアップし、 ST>RT-UP CHILE の活動に参加するというのが条件なので、それさえ満たせれば、チリ国内のどこに拠点を置いても構いません。ただ、現実的にはサンチアゴ市内に拠点を置くケースが多いようです。サンチアゴ市内であれば、ST>RT-UP CHILE のオフィスを使うこともできますし、チリの内外から集まるスタートアップとのミートアップとも参加しやすいからです。

6ヶ月が経過した後は、
チリ国外でスタートアップ活動してもよいのでしょうか。

駒田:
はい。私の場合も、資金調達のために、しばらくシリコンバレーに行ったりしていました。ST>RT-UP CHILE の活動に協力を求められる以外は、特に行動の制約は無いと考えてよいでしょう。


サンフランシスコ周辺に、シリコンバレーという巨大なスタートアップ・エコシステムができあがったのは、スタンフォード大学をはじめとする民間の動きに依存するところが大きいと言われる。一方で、シンガポールのように、もともとエコシステムが無かった所に、半ば人為的にエコシステムを作ろうとする場合、政府がイニシアティブをとって豊富な資金を投入し、エコシステムの原動力を創り出すという方法をとることが多い。チリのエコシステム〝チリコンバレー〟は、まさにシンガポールの例の南米版だ。

私の記憶が正しければ、昨年11月に来日していた、同時通訳クラウドソーシングの Babelverse関連記事) は、イギリス人の Josef とフランス人の Mayel によるスタートアップだが、ギリシアでローンチした後、チリへ行ってSUPBoat に参加し、昨年の LeWeb では、英語→フランス語、英語→スペイン語の同時通訳をチリ経由で提供していた。スペイン語話者のユーザを獲得したり、南米の巨大市場を攻めたりする上で、チリを足がかりにするというやり方もある。

なお、SUPBoat に参加した起業家達の意見を集約してみると、次の2点の注意が必要だ。

  1. テック・コミュニティ周辺は英語が通じるが、チリはスペイン語圏である。スペイン語が話せると、地理的なアドバンテージを最大限に生かすことができる。
  2. 審査をパスし、晴れてプログラムへの参加が許されたスタートアップには4万ドルが支給されるが、チリに到着後すぐに支給されるわけでない。少なくとも向こう数ヶ月の運営資金や生活費を持って臨む必要がある。

2013年は、南米にスタートアップのブームが訪れるだろうとの観測がある。世界を目指す日本のスタートアップにおかれては、SUPBoat への参加も選択肢の一つに入れてみるとよいだろう。申し込みは本日3月25日から開始され、締め切りは4月9日までだ。(いずれもチリ時間)

最後に、〝チリコンバレー〟の形成に賭ける思いを語った、ST>RT-UP CHILE の創設者 Nicolás Shea のインタビュー(世界起業フォーラム提供)を掲げておく。

南米のスタートアップ・シーンの理解には、チリのテック・ニュースメディアである AndesBeat が役に立つ。同メディアの創設者 Carlos Leiva Burotto は、SD Japan の Facebook Group にも参加している。

<参考> The lure of Chilecon Valley(The Economist)
     移民起業家:チリコンバレーの挑戦(JB Press)

Masaru IKEDA

Masaru IKEDA

1973年大阪生まれ。インターネット黎明期から、シンクタンクの依頼を受けて、シリコンバレーやアジアでIT企業の調査を開始。各種システム構築、ニッポン放送のラジオ・ネット連動番組の技術アドバイザー、VCのデューデリジェンスに従事。SI、コンサルティング会社などを設立。Startup Digest(東京版)キュレータ。

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