あなたの商売は何ですか?ーー事例にみるスタートアップのビジネス考

by Takeshi Hirano Takeshi Hirano on 2013.3.5

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スタートアップした多くの起業家にとって「ビジネス」は悩みの種だ。

ネット系のビジネスモデルはそんなに多くなく、広告モデル、課金モデル、そしてプラットフォームなどの手数料モデル、B2BへのOEM納入などを受託開発に含めたとしてもせいぜい四つか五つ程度に集約されるだろう。

私はサービスを拝見する際、必ずビジネスモデルについて話を聞く。おおよそ待ってましたと用意されたアイデアに唸ることも多かったが、ある時このどのモデルにも属さない回答、つまり「今はビジネスモデルは追いかけません」というパターンがあることに気がついた。スケールすればビジネスはあとからついてくるーー。本当なのだろうか?

ここ最近、ローンチから数年ほど経過したスタートアップに現在の状況を聞く機会が重なった。中にはローンチ当初、ビジネスよりもスケールを指向していたスタートアップも含まれる。彼らはどのようにしてこの数年を生き残り、これからを考えているのか。事例を交えてご紹介したい。

受託の歴史から生まれたBacklogとCacooが新たな商売を生む

Cacooと出会ったのは2009年の暮れ、デモピットのイベントを開催した時のことだ。ヌーラボ取締役の縣俊貴氏が公開間近のサービスで参加したいと連絡をくれたとき、既にブースは一杯で締め切った後だった。1分のピッチだけでもいいからと福岡から飛んできた彼がその日に公開したのがリアルタイムにドローイングを共有できるCacooだった。

同サービスを運営するヌーラボは福岡を拠点に東京、京都、東南アジアなどに展開するネット企業だ。設立は2004年で、それだけだとスタートアップと呼ぶには違和感があるかもしれないが、サービスを作り出す感覚やスピード感、前述したフットワークの軽さはそれと比較して遜色がない。長年受託開発などに携わり、プロジェクト管理ツールのBacklogやCacooなどを産み出した。

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Cacooはリリース後、順調にユーザー数を伸ばし、特に日本以外での利用が目立つなど世界的なユーザー獲得に成功し「現在70万人を超えてなお順調に成長している」(代表取締役の橋本正徳氏)のだという。ただ、これは対象ユーザーの特性だろう、例えばゲームユーザー獲得のような「ホッケースティック曲線」を描くことは難しい。

サービスのビジネスモデルは課金だ。ユーザーが拡大しなければ商売にならない。そこで彼らが取った戦略が実にらしい、というか、B2Bへの導入モデルを追加したのだ。例えばCacooには社内のイントラネットに導入するモデルを追加し、企業への導入が順調に伸びているのだそうだ。先日、橋本氏と話をしたとき、そろそろ受託開発をやめるかもしれない、という話を感慨深そうにしてくれたのが印象的だった。

受託開発の歴史から生まれたサービスが新たな商売となって成長戦略を作る、非常にベーシックな話だが逆に新鮮に感じる人もいるのではないだろうか。

「感情分析エンジン」という技術資産で生き残るFeelon!

2012年8月にTwitterが発表したTwitter API v1.1は多くのサードパーティークライアント開発事業者にとって事業の転換を迫られる事件だったので、記憶している人も多いだろう。そしてここにもひとつその煽りを受けたサービスがある。つぶやきの内容をコミックに自動的に変換してくれるFeelon!というサービスだ。サービスを運営するLisBは今年に入り、大きな事業転換に挑戦した。

「確かにユーザーは伸びました。けど実際の売上になかなか繋がらない」ーー代表取締役の横井太輔氏は少し苦笑いを交えながら振り返ってくれた。彼らがスタートアップしたのは2010年の9月。ここまで約二年間、ひたすら開発とユーザースケールだけに挑戦してきた。「受託開発の依頼はありましたけど全てお断りしてました」。

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しかし今年に入り、彼らはアプリのOEMを開始する。「売上を立てることの重要性に気がついたんです」。先日NTTタウンページからリリースされた「ゆるキャラPOST」はその一例で、その他にもいくつかの企業導入事例があるのだという。しかし彼らのようなTwitterクライアント開発事業者はごまんといたはずだ。なぜ彼らが企業導入に成功したのか。

Feelon!は元々、言葉から感情を分析することのできる感情分析エンジンというベースがあった。さらに正しい分析結果を得るためには大量のデータが必要で、サービスを運営する中で蓄積したデータを背景に成長したエンジンが、結果として他社との差別化に繋がっている、ということになったのだという。話し言葉の分析に強いことから大量のデータ解析依頼がやってきたり、この技術をベースにしたメッセージアプリも企業向けに準備中なのだそうだ。

周囲の”シリコンバレー的”な雰囲気に飲まれた時期もあるという横井氏。現在は「売上」と「支出」のある正しい商売に戻せたことで、改めて次の展開をしっかりと見据えているようだった。

ニッチコミュニティに精通したメディア戦略ーーgetstageの場合

サマーソニックという夏フェスがある。10万人以上を動員する国内最大規模の音楽フェスティバルで、名前ぐらいは知ってるという方も多いはずだ。昨年、ある投票サービスがここと連携して、オンライン上で多く投票を集めたアーティストをステージに送るという企画を実施した。ーーアーティストのマッチングプラットフォーム、getstageだ。

出れんの!?サマソニ!?という企画だったんですが、その前の年に実施したYouTube投票と比べて数十倍の効果があったそうです」。そう語るのはgetstageを運営するg&h代表取締役の松山仁氏。同サービスでこの投票企画の裏側を支えた。

アーティストとステージをマッチングする、というビジョンを掲げたサービス「getstage」が公開されたのが、2011年6月。途中、ステージとアーティストのマッチングというコンセプトはそのままに、投票システムを新たに加えてよりコミュニティ色を強した結果、登録アーティストは1万2000人にまで増加した。

しかしここでビジネスの壁が彼らの前に立ちはだかる。課金するにはユーザー数が少ない、つまりニッチなのだ。戦略の転換が迫られるなか、彼らが行き先に選んだのはやはりB2Bだった。

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世の中にはアーティストでなければ使えないようなニッチを極めた商品がある。レコーディングに使うICレコーダーや微妙な音を聞き分けるようなヘッドホン。松山氏は自分たちが育てたコミュニティがどこにでもいる1万2000人ではなく「アーティスト」であることを企業側に訴求した。

「アーティストという希有な存在をターゲットにしている企業や商品は確実にあるんです。企業のキャンペーンページにgetstageを利用しているアーティストが応募して企画に参加できるような仕組みを用意しました」(松山氏)。

企業側のキャンペーンに登録アーティストが応募してくるというリアクションはわかりやすい。ある案件ではメルマガを通じて短時間に数百人規模のアーティストが応募してくるという。ニッチなコミュニティの強みといえるだろう。結果、数百万円単位の企画が獲得できているそうだ。

ーーさて、三者に実は共通していることがある。それは決してB2Cのモデルを諦めているわけではない、ということだ。ユーザーを温めながら戦略的にB2Bを攻める。ニッチ・サービスが増える中、こういう戦略をとるスタートアップは今後も増えるのではないだろうか。

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