離脱率10%を超えるCaptchaをたのしくすることで、セキュリティ認識の底上げを目指す「Capy」

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Capy

ゆがんだ文字を入力させることで、応答者がスパムボットでないことを判別する「Captcha(キャプチャ)」。ユーザの新規登録画面や、パスワードを連続して間違えた際など、世界で1日に約2億8000万回のキャプチャが使われている。ちなみに世界の1日のツイート数は3億5000万回だ。ただ、とにかく読みづらく、この画面の離脱率は10%を超えるとも言われる。そんな、ユーザにとって憂鬱でしかないプロセスを楽しくし、またスマホやタブレットに最適化した形で提供するのが、CAPY Inc. (キャピー)だ。米国を中心に活動するCapyの代表、岡田満雄氏に話を伺った。

「Captchaには楽しさが足りない」

Capy-demoCapyは、従来のゆがんだ文字のキャプチャを、画像(写真)をベースとしたパズルなどに置き換えて提供する。パズルのピースを該当する場所にドラッグすることで判別するため、ゲーム感覚で入力できる。また、面倒なスマホの文字入力も、Capyならパズルをワンストロークで動かすだけで済む。文字のキャプチャに関しては、すでにそれを素通りするためのツールが出回っているが、Capyのようなパズル型に関してはそういった例はまだない。

Capyのキャプチャ技術は画像を使用するため、ベースとなる画像を置き換えることで自由にカスタマイズできる。またWordpress、PHP、Ruby、Pythonなどさまざまな開発環境に対応できる拡張性もあるため、導入に要する時間はわずか30分。スクリプトを書き換えるだけでいい。現在プライベートベータで運用しており、ウェブサイトから申請後、招待を受けることで利用できる。すでに、ポータルサイトやキャリアなどと導入についての協議を進めているという。

世界の舞台に立てる米国で勝負

岡田氏がCapyのアイディアに着想したのは2010年くらい、京都大学大学院で電子すかしと呼ばれるセキュリティウォールを研究していた頃だ。電子すかしは、画像や音楽に見えないメッセージを埋め込む技術のこと。例えば、画像の購入者に画像を配布する際、その画像の中にユーザIDを埋め込んでおくと、画像が二時漏洩した場合、もとの漏洩者を特定することが可能になる。そんな電子すかしの研究を進めるうちに、地味なCaptchaを楽しくするというCapyのアイディアを思いついた。
tie50_logo_winner実際に触れるプロダクトが完成したのは2012年11月頃だが、その前後とも米国の学会発表やエキスポなどで出展やピッチを繰り返し、活動を続けている。今年5月に開催されたTiE50(タイコン)でも、TOP 50の一社に選ばれた。TiEは、1992年にシリコンバレーで設立されたグローバルな起業家ネットワークを運営するNPO。年に1回開催されるカンファレンスには世界中1,000社以上のスタートアップが応募し、最終的にトップ50が選出される。MITのEntrepreneur and Innovationで1位を獲得するなど、これまでに9つを超える賞をもらっている。

もともと米国で大学を卒業していることもあり、Capyに関しても米国でのビジネス展開が自然だったと話す岡田氏。また米国には世界中からスパムがくるため、セキュリティに関する認識やニーズも高い。もちろん、世界にはその分競合も多い。例えば、Googleに買収された「reCaptcha」、その他にもSolvemedia、Nucaptcha、Are you a Humanなどがある。これまではセキュリティばかりに目がいって、キャプチャを入力するユーザのユーザビリティが軽視されてきた。Capyはユーザの使い勝手にも注力することで、他社との差別化を測っている。

Capyのビジネスモデル

Capyはフリーミアムモデルだ。基本的には無料で使用することができるが、無料版の場合、キャプチャに使われる画像には第三者の広告が表示される。有料バージョンでは、画像を好きなものに置き換えられるため、そこでライセンシングフィーが発生する。キャプチャが利用される頻度は、世界で1日2億8000万回。もしこれを収益化できれば、年間1億5000万ドルは下らないという。

また、画像パズルのピースを増減させることでセキュリティレベルを調整することも可能だ。これまではウェブサイトやデバイスに応じて変えることのできなかったキャプチャに、柔軟性を持たせることができる。

「キャプチャと広告の相性はすごくいいんです。特にスマートフォンでは、スクリーンも小さく、広告を出すスペースがない。キャプチャを使うことでど真ん中に広告を表示することができ、またペイ・パー・ビューより効果的な広告が出せます。」

海外進出を考える日本のスタートアップへのアドバイス

Capyを最初から海外展開している岡田氏に、海外進出を考える日本のスタートアップへのアドバイスを聞いてみた。具体的なところでいうと、何よりデラウェアで登記していることが海外のビジネスパートナーやVCなどに高く評価されているという。

「資金調達でもパートナー探しでも、デラウェアで登記したことは100%評価されています。日本では、それはコストがかかるだけなんて意見もあるようですが、本腰を据えているという意思表示以上に意味があると思っています。向こうの人は日本の法律に関する知識がないため、投資判断をする際に、カリフォルニアやデラウェアで登記されている点が優位に働くようです。」

また、海外を意識するなら、自分たちが持つ日本の常識を一度捨てることも重要だ。例えばマーケティングひとつをとっても、日本で培ったノウハウはアメリカではほぼ通用しないと考えて取り組むべきだという。また、シリコンバレーに進出する際に、日本人の現地ネットワークを使おうとする動きが多い。しかし、シリコンバレーで本当に活躍している日本人はゼロに近く、結局アメリカの日本人ネットワークという小さい枠にしかつながらない。海外に出るなら、人種を選ばずに現地で影響力ある人に直接コンタクトをとるべきだと話す。

Capyが目指す未来

Capyは、まだフェイズワンの製品だという。彼らが目指すのは、デバイスの進化に応じた、操作性の進化。従来のデバイスがスマホに置き換わり、加速度センサーや明るさなどが搭載されることで、人間がデバイスに合わせて操作するのではなく、デバイスが人間に合わせて操作するという流れへのシフトが見られる。ところが、ソフトウェアはまったく追いついていない現状がある。

「パスワードは未だにオールドファッションです。デバイスが変わっても相変わらずキーボード使っていて、操作性が変わらない。もっと直感的に人を見分けるようなことをしたいと思っていて、その製品のひとつがCapyです。これまでキーボードで行っていた文字入力をワンストローク認証に変える。セキュリティ分野は、これまで安全性ばかりを追求していきたため、ユーザビリティという指標がないに等しい。セキュリティばかり追うのではなく、ユーザビリティを上げることで、仮にセキュリティが少し落ちたとしてもみんなが使うようになり、全体的にボトムアップできるのではないかと思っています。」

Capyでは、プログラマーやデザイナーなどの人材を募集している。英語を話せることがチームメンバーの必須条件だという。また、Capyを導入するウェブサイトに関しても随時募集中だ。興味がある人は、サイトの無料ユーザ登録から登録してみてほしい。

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