投資家と起業家が運命の出会いを果たしたとき、この世の中にはそれまでにない変化が起こる。起業家は新しい価値を生み出し、投資家はその事業に賭ける。
日本には二人の投資家が一人の事業家と出会って生まれたベンチャーキャピタルがある。
インフィニティ・ベンチャーズLLP。そのポートフォリオにはGROUPONを始め、新進気鋭のスタートアップが並ぶ。彼らは起業家と並走することを好み、チームで事業を成功へと導く。
国内有数のネット企業トップを集めるイベントを開催し、世の中にインパクトを与える事業を生み出している彼らはどのようにして出会い、投資を続けるのか。
インフィニティ・ベンチャーズLLP(以下、IVP)の共同代表パートナーである田中章雄氏、小野裕史氏、小林雅氏の三人に、彼らの出会いと投資スタイルについて話を聞いた。(文中敬称略)
狙われた「事業家」
–投資家ばかりという構成ではないお三方ですが、どのようにして出会ったのですか?
田中:マクロメディアに在籍していた時代、当時のCNET Japan編集長で私の取材担当だった山岸さん(グリー取締役執行役員副社長の山岸広太郎氏)が書いていた「グリー日記」がきっかけなんです。
小林:山岸さんが田中さんと会ったことを日記に書いていて、それを読んだんです。当然マクロメディアで事業投資をされている方なので興味あるじゃないですか。その山岸さんがグリーに移籍されたので、その”つて”で紹介してもらった、というわけです。
–グリー日記というのがまた渋いですね(笑。小野さんは畑が違うようですが。
小野:2006年に現在のIVS(インフィニティ・ベンチャーサミット)の前身となるNILSにスピーカーで参加して出会ったのが初めてかな。
小林:田中さんとシリコンバレー型の投資をやるには、事業経験があってモバイルに強くて、それにナンバー2というポジションにいてる人と一緒にやりたい、と盛り上がっていたんです。それで小野さんの名前が挙りました。
小野:NILSからしばらくして、2007年の1月に開催されたアフターパーティーに参加した時のことです。私は日本展開を発表したばかりのバイドゥのロビン(Baidu,Inc. 会長兼CEOのロビン・リー氏)が来日してたので、彼の質問に答えてたんです。そしたら突然ですよ。田中さんと小林さんに囲まれて「一緒にやりませんか?」って言われて(笑。
当時私が在籍していたシーエー・モバイルは中国展開に苦心していました。何としてでも中国に展開したい。そんな時にこの二人は中国と日本で何かを企んでるらしい。じゃあ、やろうかとなったのが始まりですね。
田中:個人的に仲良しで会ったりとかそういうのはなくって、IVSやるまでは立ち話程度だったよね(笑。
三人全員が投資担当の「IVPスタイル」
–それでIVPを立上げた
田中:小林さんだけ先に辞めちゃったよね。
小林:みんなが辞めるタイミングで立上げないとインパクトないじゃないですか。その前に個人の会社を設立したりしてましたが、まあ、みんなが揃うまでの一年間は「プー太郎」やってましたね(笑。
小野:お互い辞めるのが簡単なポジションじゃなかったので、しばらくは交流したりコンセプトを固めたりしてました。実際にやってみたら言ってることと違ったりして、やっぱり一緒に仕事しないと分からないことも沢山ありましたね。
–役割分担とかどうなってるのですか?
小林:他のベンチャーキャピタルと決定的に違うところは完全な分業制を取っているところです。一案件に一担当というスタイルじゃなくて三人全員が担当。
クラシックタイプのVCは丁稚奉公でイチからキャピタリストを育てるんです。自分もここまでくるのに10年かかりました。でも考えてみたら、事業経験ある人とファイナンスに強い人間がセットで対応した方が効率的。シリコンバレーでは当然のスタイルなんです。
創業段階から事業を作っていくことが出来るのがユニークな所でしょうか。事業経験はあっても初期段階で数億円レベルの資金を必要とする事業は、創業段階からファイナンスのことを考えないと難しいです。
小野:メインはいますが、例えばファイナンスや人事については小林、事業の部分では私、海外との案件の場合は田中の交渉力が活用できます。
田中:仕掛けていくスタイルですね。GROUPONの時もそうでした。三人でいつもこういうマーケットは面白そうだよね、とかこのビジネスモデルはどうだろうとかよく話してます。そういうアイデアにマッチするチームがいれば、そこに投資した方が早いですが、そうでない場合は作っちゃった方がいい。これは通常のVCではやらないことでしょうね。
小林:日本ってスタートアップの競争が少ないんです。まだまだ空白地帯が沢山ある。何をやりたいか明確な人は少ないけど、なんとなくやりたいという人は沢山いるんですよね。
–シードやアーリーに近づけば近づく程、案件数を増やそうというスタイルが多いですよね。
小林:YCombinatorの影響はやはり大きいかもしれませんね。ただ、自分たちと違うスタイルでアプローチされる方も当然必要です。例えばIVPでは10件の案件があれば、8件は立上がっていく。こういうハンズオンができるのが強みであり、逆に数をこなせないという側面もあります。なので、数を広げるというアプローチの方々も必要な存在だと思ってます。
2日間の勝負ーーGROUPONという奇跡
–これまでで印象に残った投資案件は
小野:やはりGROUPONです。田中が海外の人脈からこのビジネスモデルと出会ったのがきっかけですね。
田中:当時は二人にも理解されなかったけどね(苦笑。これってネットプライスが提供しているギャザリングと何が違うの?とか。
小野:実際の数字を見てみるとヤバい。既に日本にはいくつか登場していたけど、営業力が勝負だということは分かっていました。じゃあ友人で過去ずっとライバルだった廣田さん(GROUPON創業者、パクレゼルヴ代表取締役会長の廣田朋也氏)に声をかけたら3分で『やろう』ということになりました。それで小林が持ちだしたIVSの参加者リストから幹部クラスを集めて、出来たのがグルーポン・ジャパンの前身であるクーポッドでした。
田中:さらにGROUPONのM&A担当者が日本にやってくるという情報を、彼らの来日2日前に知ったんです。8社ほどあった同様のサービスとミーティングが設定されていて、そこに実はクーポッドは入ってませんでした。
なんとか話をして入れてもらいましたが、用意した資料は4枚程、まだ会社もなかった頃の話です。でも最後に彼らから「あなたたちと一緒にやりたい」と言ってもらえて。
実はヨーロッパで展開している私たちの姉妹ファンド経由で、どういう箇所がキーになっているのか情報が入ってきていました。結果として日本でその情報を元に再現ができたので立ち上がりも早かったですね。
小野:当時は自分もすっかり入り込んでいて一日20人ほど面接してました。他の競合サービスもデイリーディールじゃなかった頃で、半月分のディールインベントリを確保したり、100人や200人という営業部隊のオペレーションを回したり、この辺りは過去の事業経験がやはり役に立ったといえるでしょう。後発でしたが、勝てる自信はありましたよ。
小林:大手が参入してくる件も事前に情報をキャッチして、断片的な情報から考えられる先手を打つ。常にそういう競争の仕方を意識してました。
起業家と投資家
–投資家と起業家ってどういう関係性だと思いますか
小野:投資家は起業家に対して、ビジネス上の実利はもちろん、違う目線など、お金以外に何を提供できるかが重要と思います。両方の経験があるので言えるのですが、経営者と幹部にも似たような関係はあると思います。
田中:ステージによっても違いますよね。このアーリーな舞台では起業家との関係性が近くなるし、同じ言葉で話ができる。
小林:投資家の中にもサラリーマン的な人もいれば起業家っぽい人もいますよね。勤め人なら案件を多くやらないといけない、とか。ただ、起業家と投資家って本質的には一緒で、大きな視点で見れば人事異動で行ったり来たりできるものじゃないかなと。日本ももっとそうなればいいと思いますね。
–ありがとうございました。
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