あなたそのニッチなサービス、本当にやりたいんですか?ーー「美肌マニア」というお手本と共に考える

Takeshi Hirano by Takeshi Hirano on 2013.9.26

ここ数カ月、インキュベーターなどのオフィスを訪問して集中的にスタートアップを取材させて頂く機会を貰った。いくつかはそこからの関係で再度取材させて頂き、記事掲載に繋がったものもある。ただ、その多くはプロトタイプ状態のものだ。まだコンセプトレベルのものもある。

で、ほぼ全てのプロダクトに共通しているのが「ニッチ」だ。

そのニッチサービス本当にやりたいの?

もうなんでもサービスがある今の時代、ニッチを攻めるのは必然だ。しかし、一方で本当にそれはサービスとして成立するのか首を傾げたくなるようなものもある。いつものごとく「なぜそれは今までなかったのか」という質問を投げかけても平然と「自分が欲しかったから」という回答を返すだけの人もいる。

ここまでは別に構わない。しかし、サービスやプロトタイプをみてがっかりしてしまう。全くといっていい程、密度がないのだ。情報量、細かさ、こだわり。「いや、これはCGMでユーザーが増えればコンテンツが増えまして…」。これも多い回答のひとつだ。

そこで私は感じてしまう「あなた、本当にそのニッチなサービスやりたいの?」。

個人が約3年かけて3万点の美容成分情報を登録した「美肌マニア」

ここにひとつ、ニッチを攻めるのであればお手本になりそうなサービスをご紹介したい。都内に住む個人の女性が運営する、美容化粧品の成分分析・比較サイトの「美肌マニア」だ。

2010年7月の公開後、これまでに登録されている化粧品情報は約3万点で、成分となる情報は約1万件。なによりもすごいのは、各化粧品に関する成分がこれでもかというぐらいに網羅されている。マニアックだ。

アベンヌ_ミネラルUVシールドの全成分の分析___美肌マニア

3万点の化粧品情報すべてにこの成分が登録されている

個人運営の方に話を聞いたがユーザーはやはりこの成分表を求めてサイトにやってくるらしい。訪問ボリュームは非公開なのだが、数値を聞くと事業展開していてもおかしくない量だと感じた。

そしてさらにこの情報、この運営する個人の女性が若干名の「お手伝いさん」と一緒に手動入力したものなのだそうだ。

決して効率的とは言えないかもしれない。けど、何かの方法でウェブ上をクローリングして「はい数千件できあがり」と誰も喜ばないデータを作るより、よっぽどやりたいことが表現されている。

このサービス、私が初めて拝見したのは2010年の暮れあたりだったと記憶している。化粧品の情報は溢れているが、その成分によっては肌に合う、合わないがあるそうで、それを網羅したサイトがないから作った、確かそういう始まりだったように思う。

当時は私もまだスタートアップの取材を始めたばかりで、この全くテクノロジー的な革新性が感じられないサービスを完全にスルーしていた。今、振り返ると本当にすごいことというのは表面的なものでないことがよくわかる。こだわりや「本当にこれが必要」というモチベーションがなければここまで作れない。

情報量と密度があって初めて「ここからがスタート」

この結果だけみて「事業性あるなら資金投入して人雇って入力すればいいじゃない」、そう考えた方は正しいかもしれない。

けど多くのスタートアップにとって、ここがようやくスタートラインなのだ。

この内容を見て初めて、投資金が付くかもしれないし、様々な事業展開が生まれてその後の成長が見えるかもしれない、そういう可能性が生まれる。問題はここまでどうやって辿り着くかということなのだ。だからスタートアップは難しい。アイデアひとつだけでは乗り越えられない壁があるのだ。

もちろんこの情報量をプロトタイプ段階で用意したほうがいいとは思わない。(できないと思うし)

しかし「これに似たインパクトをどうやって与えるか」ということは考えた方がいい。数十個、数百個のコンテンツを入れただけではなく、サービス全体から溢れるようなこだわり、ニッチへの愛といってもいいかもしれないが、そういうものを表現出来ていれば、人を動かすことができるのではないだろうか。

美肌マニアの美容情報

約3万点の化粧品情報、成分となる情報は約1万件。手動で入力されている。

取材を通じて、アイデアや着目点はいいし、あったら便利だなと思うサービスは沢山聞いてきた。しかしそのどれもが情報量の少なさ、こだわりのなさで消えていっている。

もし、あなたがスタートアップで、何かニッチを攻めようと思うのであれば、このサービスの情報量を一人でも楽しんで作れるか、やりきれる自信があるか。ひとつの参考になるのではないだろうか。