【投資家・起業家対談】「けんすうさんは長期マーク対象でした」ーーグロービス・キャピタル・パートナーズ高宮氏×nanapi古川氏(1/4)

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投資家と起業家の関係は興味深い。特にシード期の投資家と起業家は共同で経営にあたり、資金だけでない特別な関係を結ぶことが多い。そこにはどのようなやり取りや葛藤があるのだろうか。このインタビュー・シリーズでは、投資家と起業家のお二人に対談形式で「二人だから語れる」内情に迫る。

今回は国内独立系ベンチャーキャピタル、グロービス・キャピタル・パートナーズ、パートナーの高宮慎一氏と、2010年に同ファンドから3億円の資金調達を経て大きく成長したライフレシピ共有サービス「nanapi」を運営するnanapi代表取締役の古川健介氏が対談する。これまでの掲載:1回目2回目3回目最終回

(文中敬称略、聞き手は筆者)

nanapiの道のり

2007/12 ロケットスタート設立
2009/06 代表取締役古川健介、取締役CTO和田修一の2名で本格始動
2009/09 ライフレシピ共有サイト「nanapi」をリリース
2010/11 グロービス・キャピタル・パートナーズから3.3億円の資金調達
2012/04 株式会社nanapiに商号変更
2013/07 KOIF、グロービス・キャピタル・パートナーズから2.7億円の資金調達
2013/12 東京都渋谷区道玄坂に移転

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二人の出会い

ーー対談はお二人の出会いの頃の記憶を辿ることから始まった。

高宮:初めて会ったのは、リクルートを辞める1、2カ月前ですよね?

古川:いや、もっと前ですよ。

高宮:今はやっていないかもしれませんが、『ベンチャービート』というイベントで初めて会ったんですよね。

古川: そうでしたっけ?

高宮: あるベンチャーキャピタリストの方は、けんすうさんと一緒にいた友人のほうを紹介してくれたんですが、僕としてはけんすうさんに興味もってしまったわけで。面白い人がいるなって。その時に、けんすうさんは「実は僕、リクルートを辞める予定なんです、起業の準備しようと思ってるんです」と言っていました。

古川: 会社を辞めたのが2009年。だから前の年の秋とか夏とかなんですかねぇ?

高宮: 僕がグロービス(・キャピタル・パートナーズ)に入ったのは2008年の夏だから、会ったのは秋冬ですね。そして、その次が、けんすうさんがリクルートを辞める一週間前あたりで、別件のヒアリングをお願いして、そうそう確か四谷のBECKSかな。

古川: BECKSの前に、海鮮丼を食べました。

高宮: そうだそうだ。その後にBECKSです。よく覚えてますね(笑。1000円単品メニューの海鮮丼。

古川: ごはんをおごってもらったことは覚えてるんです。でもその時話した内容は覚えていないです(笑。

高宮:そのBECKSの時から少し時間が空いて、代々木の前の前のオフィスにいた頃で、nanapiをリリースしたくらいのタイミングで、なんかそろそろやるんじゃないかなって思って会いに行ったら「いや、実は調達を考えておりまして」ってなったんですよね。

そのちょっと後にも、小澤さん(ロケットスタートのエンジェルでもある小澤隆生氏)と別件で会って「実はひとつ、調達の案件があるんです」って小声で言われて。もう会ってますって。

古川:小澤さんの投資が2009年で先なんですよね。ただ、お会いしてるのは高宮さんの方が先だったりするんですよね。

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高宮: 最初にベンチャービートでお会いした時は、これはあんまり距離感を詰め寄りすぎない方がいいぞっていう第一印象でした(笑。けんすうさんの印象は、スキルとしての外交能力はすこぶる高いけど、本質的にはあんまり人を中に入れないタイプと思っていました…。

古川: いや、そんなことないですよ!使ってくれてるユーザーさんと社員だったり会社の人とかとの境目というのがないので、そういう意味での距離感はあるかもしれませんけど…。

TB:高宮さんの第一印象は?

古川: 海鮮丼が美味しかったです。…ってイベントでは実はあんまり覚えてないんですよね…。

高宮: えぇーーー、こっちは合コンで気になった人から電話番号貰ったけど、あえてその日にはかけないっていうセコイ戦術を駆使していたのに…印象にすら残ってなかっただなんて(笑。

古川: 冗談です(笑。インターネットの話が分かるベンチャーキャピタリストは当時あまりいなかったので、話が分かる人だなーっていう記憶はありますよ。

高宮: BECKSでの会話は、C-teamの話を聞きにいって、今後はアプリを繋いでメディアネットワークみたいな形にして、そこにゲームを乗っけたら面白いですよね、とかそういうディスカッションしてたのを覚えてます。今から思えばコロプラですよね。投資テーマとしては正解だっただけにもったいない…。

古川: そうだったんですね…。

高宮: 覚えてない(笑。

TB: お二人は何歳の時になるんですか

高宮: 僕が32歳で、けんすうさんは?

古川: 27歳の時ですかね。

高宮: そうだ。僕らが投資した後(2010年11月に投資実行、年表参照)に小澤さんに「けんすうはシリーズAの後に結婚して、カネも女も全部俺が紹介した」って言われてましたね(笑。

古川: そうなんです(笑。2007年、リクルートに入って2年目にロケットスタートを作ったんです。ややこしいですよね。

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高宮:最初は 会社組織ではない、“チーム”だったんですよね?

古川: 設立をしようと思ったのが2007年の5月だったんですけど、登記するまでに7カ月ぐらいかかってるんです。

高宮: どうしてそんなに時間かかったんですか?

古川: いや、あのですね、みんな印鑑証明持ってなかったり…。社会に適合してなかったんですね。それでちゃんと働こう、って準備してたら半年…。

TB:その頃はちょくちょく会ったりしてたんですか?

高宮: いや、その当時はそんなに会ってなかったですね。面白いことをやりそうだったので長期マーク対象として生暖かく見守ってました(笑。

古川: 8月とか9月とかに近くのパスタ屋で話しましたね。

高宮: サービスがいい感じになってきてるし、ちょうど資金調達しようかなってことでお話を貰いました。そこからですよね。調達の話が本格的に進んだのは。

古川:(クラウドソーシング型の)nanapiワークスをリリースして、記事が集まり出したので「これはいいな!」って思ったんですけど、気がついたらお金がどんどん減っていくんですよね。でもそこで手を緩めるわけにはいかないし、よし、じゃあ投資かなって思って小澤さんに相談してました。

TB: あ、やっぱり小澤さんに相談してたんだ。

古川: そうです。当時、投資とかベンチャーキャピタルとか、よくわからなかったのですね。小澤さんとお話をしたら「やっぱりグロービスさんがいいでしょう」ということを聞いて。

高宮: でも最初に話した時から結構時間かかりましたよね。事業計画ブラッシュアップしたり、コ・インベスターをどうしようとか、色々議論しましたね。

当時はまだ今のような市況じゃないし、シリーズAで3.3億円は結構な話題になるサイズでしたからね…。事業のタイミングとしてもユーザーのトラクションは付いてきているけど、PLはなんだかよくわからない受託開発のラーメン代稼ぎで黒字になってたり。あれって小澤さんの入れ知恵ですか?PLは一応黒にしておいた方が見栄えが良いって。

古川:いや、単純に稼がないと死んじゃいますからね…。

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グロービス・キャピタル・パートナーズからの増資へ

高宮: あの当時の市況だと、なかなかチャレンジングな調達の計画でしたよね。事業計画のビジネス側、プロダクト側の両方を相当ガリガリ一緒に作り込んでいた覚えがあります。3.3億円増資する条件決めは大変でしたね。当時の数字って言っていいんでしたっけ?

古川: なんでもいいですよ。

高宮: 増資当時って月次のユニークユーザー、160万人だったんです。

古川:そんなもんでしたね。

高宮: トラフィックとして記事を増やせば、PVはスケールするのは分かっていましたが、じゃあビジネスとして経済性が合うのかな、っていう方程式に落とし込んだがミソでしたね。nanapiワークスでの1記事あたりの生産コストが分かっていて、それに対して一方で、1記事当りのライフタイムとライフタイムPVが実績からでてきて、世の中一般的には1PVあたりの広告単価がだいたいこれくらいだからみたいな方程式に落とし込んで、、、。

古川: そうですね。どうするんだろうなって当時も思ってましたが、今もまだどうしようかなって思ってます(笑。

高宮: ちょうど、ソーシャルの波がきていて、その本質は何か、そんなことを議論してましたね。Yahooみたいなディレクトリ構造で情報が整理されて、次にGoogleみたいな世の中一般的なランクで整理されて、、そしてfacebookみたいにソーシャルグラフで情報が整理されていく流れへと続く。

こんな感じで情報の整理軸が変わっていくと、情報の発見方法もディレクトリ構造のトップページからリンクを辿っていく形からサーチになり、次のソーシャル時代では、ディレクトリ構造だと一番下のレイヤーであるコンテンツの所にいきなりソーシャルのポストから飛んでくるようになる、じゃあnanapiは将来のメディアの新しいモデルになれるよね…とか議論してましたよね。

古川: すごい抽象的な議論してましたよね。

高宮: 僕らキャピタリストは、プロダクトそのものを作れる訳ではないので、大きな流れがどうなっているのか、その中でどこを狙うのか、プライオリティはどうあるべきか、それは金脈なのかなど大局観を議論するのがバリューだと思ってます。実際のプロダクトの実装はお任せになりますから。

古川: もともと、考えるのは好きなんですよね。

高宮: シリーズA以降、1年ぐらい前までは、とにかく記事を効率よく作り、サイトのユーザ数やPVを規模化するフェーズだったので、あまりごちゃごちゃ言い過ぎないようには、気をつけていました。徐々にスケールして経営イシューが出てきたタイミングでちょっとずつ発言量増やそうかなって。元々しゃべりたがりだし(笑。

古川: じゃあ結構我慢をしてたんですね…。

高宮: そのフェーズでは「中途半端にヒットを狙いにいくな、日和らず振り抜いてホームランを狙いにいけ、いつかはいくさ」しか言ってなかったですよね。

これまでの掲載:1回目2回目3回目最終回

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