HackOsaka 2014: 大阪をスタートアップ・ハブにするには?——IoTの雄3人が語る「スタートアップ・コミュニティの作り方」

by Masaru IKEDA Masaru IKEDA on 2014.2.20

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これは19日大阪で開催された、スタートアップ・カンファレンス「HackOsaka 2014」の取材の一部だ。関西地域のスタートアップ・コミュニティを活性化すべく、昨年には 500Startups の Dave McClure を招いて第一回が開催され、今回はその二回目となる。

イベントの目玉として、アメリカ・シリコンバレーから Pebble CEO の Eric Migicovsky、イギリス・ロンドンから BERG の CEO Matt Webb が特別ゲストとして招かれた。Pebble は Y-Combinator 出身のスマートウォッチを制作するスタートアップで、 クラウドファンディング・サイト Kickstarter で出資受付開始から2時間で目標の10万ドルを達成、後に1,000万ドルを資金調達した。BERG はロンドンのスタートアップ・コミュニティ TechCity に本拠を置き、サードパーティ・デベロッパ向けに IoT 向けのクラウド環境を提供するほか、Little Printer という Google Calendar と連動して To-Do リストや新聞のヘッドラインが印刷される、小さなプリンタを開発している。

今回のイベントの最初のセッションでは、Pebble の Eric、BERG の Matt に加え、東京で 3D プリントのマーケットプレイス Rinkak を運営するカブクの稲田雅彦氏を招いて、パネル・ディスカッションが行われた。モデレータは、日本の著名なジャーナリストの一人である湯川鶴章氏が務めた。

シリコンバレー、ロンドン、東京の IoTトレンド

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パネルの冒頭、湯川氏は3人のパネリストに、それぞれが拠点とする地域の IoT のトレンドについて尋ねた。

カナダの Waterloo 大学で Pebble のプロトタイプを作っていた Eric が、シリコンバレーに引っ越してきて本格的にビジネスを始めたのは3年前のころだ。

生産ラインを持たないスタートアップがハードウェアを作ることはできるようになっていました。しかし、IoT スタートアップが投資家から資金を獲得することはできず、Kickstarter を使ってそれが可能になりました

もう一つ重要なのは、スマートフォンの普及です。皆がスマートフォンを持つようになったので、デバイスをインターネットにつなごうとするとき、接続のしくみを持たなくてよくなったのです。BLE(BlueTooth Low Energy)で、スマートフォンにつないでしまえば、そこからインターネットにつがるようになったので。

資金が調達できるようになったことと、皆がスマートフォンを持つようになったこと。この2つによって、Pebble のようなハードウェア・スタートアップが生まれているんだ。

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もともとデザインスタジオだった BERG が、IoT のしくみを手がけるようになったのは2012年からのことだ。彼はロンドンのスタートアップ・シーンについて現状を教えてくれた。

ここ数年で、ロンドンのスタートアップの数は、数千にまで劇的に増えました(関連記事)。ハードウェアにフォーカスしているスタートアップが多いわけではありませんが、ロンドンには優秀なデザイナーが数多く居るのです。今のところはまだ実験段階のようなものですが、それでも皆がハードウェア・スタートアップに着手し始めています。

一方、Rinkak の稲田氏は、東京のスタートアップが抱える課題について、いくつかの理由を挙げた。

東京では、ハードウェア・スタートアップの割合は、全スタートアップの5%くらいでしょう。数が少ない理由は3つに集約されます。

  • クラウドファンディングの市場が小さいこと。
  • 依然として、資金調達が難しいこと。
  • ハードウェア・スタートアップの成功事例が無いため、ソフトウェア・エンジニアがソフトウェア開発のみを続けていること。

特に、ソフトウェア・エンジニアは、ハードウェアのことを理解してくれません。我々は API を公開しているのですが、彼らには、その使い方がよくわからないようです。

資金調達や市場規模という点からは、東京はシリコンバレーの数年前の姿という見方もできる。ロンドンはそれ以上に、人材を初めとするコミュニティの要素が IoT 発展に大きく関係しているようだ。

これからの注目分野

続いて、湯川氏は3人に、IoT で今後最も注目している分野は何かと尋ねた。

Eric は、センサーが露出するようになってきていることが面白いと答えた。

BLE (Bluetooth Low Energy)の台頭です。これによって、スキーしているときだって、泳いでいるときだって、いつでもデータが取得できるようになりました。

いわゆるウエアラブル・コンピューティングだ。これに対し、Matt は少し違った分野に興味があると答えた。

ウエアラブル、それに、交通状況をフィードバックするスマートシティ、ヘルスケアなども興味深い。しかし、より興味あるのは家電の世界です。日常生活をより快適にしてくれるようなもの。パン焼き機がレシピをダウンロードしたり、冷蔵庫の牛乳が少なくなっていたらユーザがスーパーの前を通ったときにモバイルで告知してくれたりするようなものです。

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これに対し、稲田氏は独特の表現で、新しいデバイスと従来からあるデバイスの使われ方が変化していくだろうと語った。

デバイスがインターネットにつながることで、すべてのデバイスはユーザにより近づいてくる存在になります。その反面、これまで使っていたデバイスが、もう使わなくなって、壁の方へ遠ざかるようになるものもあるでしょう。

デバイスがユーザに近い存在になることによって、そのデバイスはファッション性を増すことになる。その結果、Pebble のスクリーンをユーザがボランタリーに作成し共有できる、Watch Face Generator のようなサイトが生まれたりもしている。このような展開はもともと Pebble が意図したものではないが、Pebble が hackble (内部構造にアクセスできる)なプラットフォームであるため、デベロッパのコミュニティを形成するようになったわけだ。では従来からあるメーカーは、hackable なプラットフォームには成り得ないのだろうか。Matt はこんな事例を紹介した。

Microsoft Kinnect にはジェスチャーセンサーが備わっていますね。本来はゲームでジェスチャーを読み取るためのものですが、これをハッキングして身体を3Dスキャンし、フィギュアを作ってしまった人たちが居るのです。Microsoft の意図がどうであれ、ユーザはハッキングを始めてしまいます。従来メーカーの生き残りは、コミュニティとうまくやっていけるかどうかにかかっているかもしれません。

大阪は、スタートアップ・ハブになれるか?

大阪は商人の街だ。日本を代表する企業の多くは東京に本拠を置いているが、依然、経営者の多くは関西出身者によって占められている。湯川氏は、海外からのゲスト2人に、大阪に商人が多い理由について、江戸時代から明治維新にかけての日本の歴史を説明しながらこう質問した。

私の父も商人だった。私が子供のころ、クラスメイトの両親は一人を除いて皆が商人だった。大阪には強い起業家精神が根ざしている。しかし、スタートアップ・ハブになれていない。みんな東京へ行ってしまう。どうすべきだろうか。

この状況は、少し前のロンドンにも似ていたと、Matt は語った。

ロンドンの会社も皆、アメリカに行ってしまう。それはロンドンに、資本が無く、大企業とつながる道が無く、コミュニティがなかったからだ。

企業の一つ一つが大きな組織ではないスタートアップではコミュニティの力が重要で、Eric はシリコンバレーでコミュニティの恩恵に預かっていることを強調する。

MVP(最小実現プロダクト)を作る上で、コミュニティからは、好意的な評価とそうではない評価が得られる。その中でもバランスを取りつつ、建設的だが批判的(constructive but overcritical)な考え方を持って仕事を続けることが重要だと思う。

経営者は孤独である。半ば独りよがりのような思い込みも、ディスラプティブなプロダクトを生み出すパッションにつながるし、一方で、人々からのフィードバックに耳を貸し、より世間に受け入れられるプロダクトを作る必要もある。従来企業なら、複数の役員が意見を戦わせることで、この相反する役割を担っていたように思えるが、スタートアップでは創業者一人が両方をこなさなければならない。それをサポートするコミュニティの力は、資金や市場機会と同様に重要だ。

IoT分野の雄が語る「コミュニティの作り方」

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左から:湯川鶴章氏、Pebble Eric Migicovsky、BERG Matt Webb、カブク稲田雅彦氏

コミュニティの無い地域でスタートアップしている起業家の目には、シリコンバレーの風景はまばゆく映る。Matt は昨年末にシリコンバレーを訪問したときのエピソードを紹介しれくれた。

UBER でタクシーに乗ってね、タクシードライバーと、ずーっと長話をしていたんだ。彼はシリコンバレーのスタートアップや彼らの動向に詳しくて、ずっとそんな話をしていた。しかし、彼はどこに駅があるか全然知らなかったんだ。こんなことは、ロンドンではあり得ない。(会場笑)

Matt はコミュニティを作る上で、名前をつけることが大事だ。ロンドン東部の Old Street 駅周辺は俗称 Silicon Roundabout と呼ばれたが、イギリス政府が積極的にスタートアップを誘致するにあたって TechCity と名付け、そこから人々の認知度が上がった(関連記事)。人々はこの名前を聞いて、起業家精神について考え始め、共に集まり、コミュニティを形成し始めた。

イベントをやることも大事だ。ロンドンでは、ハードウェア・スタートアップのイベントは、毎月2つくらいは開かれている。職探しのイベント、ネットワーキングのイベントは、ほぼ毎週。(Matt)

 

大阪の人たちは、既に重要なことを始めているよ。このイベントにもピッチ・コンテストがあるように。これは、コミュニティを形成する上で極めて重要。(Eric)

最後にモデレータの湯川氏は「大阪をどのようなスタートアップ・ハブにしたいか、考えてほしい。」と聴衆に質問を投げかけて、このセッションを終えた。

ロンドンの TechCity は、明らかにシリコンバレーとは違った道を歩き始めている。二番煎じに将来は無いからだ。東京や福岡とも違う、新たなスタートアップ文化が大阪から生まれることを切に願う。

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