【投資家・起業家対談】「勝利のためならちっぽけなプライドなんてくれてやる」ーー伊藤忠テクノロジーベンチャーズ河野氏×VASILY金山氏(後半)

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投資家と起業家の関係は興味深い。特にシード期の投資家と起業家は共同で経営にあたり、資金だけでない特別な関係を結ぶことが多い。そこにはどのようなやり取りや葛藤があるのだろうか。このインタビュー・シリーズでは、投資家と起業家のお二人に対談形式で「二人だから語れる」内情に迫る。◉前半はこちらから

VASILYの道のり

2008年11月:VASILY設立
2010年4月:iQONリリース
2010年10月:資本金を200万円に増資。渋谷区恵比寿1丁目に本社移転
2011年5月:伊藤忠テクノロジーベンチャーズとGMO VenturePartnersに第三者割当増資実施、1.4億円調達
2012年2月:iQONのiOS版リリース、1カ月後に100万人月間訪問達成
2013年2月:グロービス・キャピタル・パートナーズ、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、GMO VenturePartnersに第三者割当増資実施、3億円調達

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ーー前半からの続き

無駄に起業家の時間を奪うのは好きじゃないです

TB:プライベートで会うことは?

金山:プライベートはぜんぜん会わない。ていうか俺にプライベートなんてないよ。睡眠と、トレーニングは仕事でしょ。ないのよ。家に帰っても30分で寝るし、起きてすぐルーチンが始まる。プライベートではほとんど飲みにいかないし。

河野:アルコールは脳細胞破壊されるっていってますもんね(笑。私も無駄に起業家の時間を奪うのは好きじゃないです。そりゃもちろん採用の時に一緒に食事するとか、そういう必然性はありますけどね。メンバーとは定期的に飲み会もありますから。

金山:誕生日ぐらいか。

河野:誕生日ってアレでしょ、ここ(オフィス)にきて20キロの鉄アレイを渡された上に死ぬほど飲まされてタクシーで帰ったという。

TB:関係って変わりました?

金山:時間がたっても俺たち2人の関係は変わってないし、河野さんのスタンスも一切ぶれてない。やれって言われたことも、やめろとも言われたことない。俺がこれやるって言ったことを徹底的にサポートしてくれる。「やりたい、わかったやろう、どうする?俺動くわ」って感じ。

河野:意見は言うけどね。こういう考え方はあるよねとか。意志決定に関係するような情報を提供することはあっても意志決定そのものに介在することはほぼないね。24時間プライベートなしで会社のこと考えてるわけだから一般論なんて通用しないんじゃないかなと思ってて。投資したからには信じてまかせる。

金山:でもおもしろいよね。毎週金曜日のミーティングはアジェンダないのに、ランチいこうとかそういう時はアジェンダあるの。会う目的があるからついでに飯食べる?みたいな。なんとなく食事いったりはないね。

河野:ないですね。

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起業家と投資家の関係

TB:起業家と投資家の関係って面白いですよね。投資契約に確かに協力しましょう的な文言はあるけど、気が付いたら一緒に歩き出してあうんの呼吸になってる。バンドみたいなものですか?

金山:バンドよりも結婚かな。バンドは会社って感じ。演奏したい曲=事業があって、そのイメージを具現化するように必要なプレーヤー=社員を集めて。バンドだったら音楽性の違いとかでメンバーが変わったりすることがあるけど、資本政策ってほぼ不可逆でしょ。お互いなかなか離れることができない。だから結婚。

ところで河野さんはたくさん結婚してるよね。

河野:12社になりました。

金山:ホントだよ。アラブの大富豪だよ。

河野:関与の仕方は企業の性質もあるし、フェーズも違うから柔軟に変えてますよ。濃淡があるというか。ただ、全部共通してるのはなんでもかんでもやりすぎないことかな。起業家自身の力を最大化させることの方が大切ですね。資金調達や採用は全力でやるけど、それ以外はやらないですね。だから段々離れていくことになる。

金山:最初の頃は新婚ほやほやでご飯とか用意してあるのに段々「チンして」に変わって、最後はお金だけ置いてある…

河野:(笑。確かに最初はおやつとか持ってきたりしてたね。ただ最近は顔と名前が段々一致しなくなってきてる。新しい人が入ってくるとうれしさと一抹の寂しさが。

金山:河野さんが会社に来ると新しいメンバーはあの黒ヒョウ誰ですか?借金取りですか?って(笑。

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河野:最近河野さんきてくれないですけど、ってメンバーの方に言ってもらえるのはうれしいですね。

TB:こういう関係って明確な終わりのタイミングってあるんですかね。

河野:上場すれば「業」としての関係はなくなるかもしれません。けど、そこに至る過程は密度が濃いのでその先に新たなスタートがあるんでしょうね。そのタイミングがくれば、また伴走者としてついていきたいと思ってますよ。関係は発展することはあってもなくなることはないし。

金山:イグジットした後も人月計算に入ってるから使うからね。

河野:本当に相当使うからね(笑。でも嬉しいよね。それぐらいの気概でやってくれないと困るし。遠慮して使えるモノも使えないようじゃこの異種格闘技には勝てない。

金山:実際に採用は河野さんに相当な人月動いてもらってるし。

河野:人事部長だ(笑。

金山:確かに(笑。でもなんだろう。女房役かな?

河野:投資家たるもの「信じて寄り添う」これですかね。

サービスは毎日それに触れて死ぬ気でやってる方がいるわけですし、私たちは365日24時間をここだけのために使うことはできない。だからこそ一緒の船に乗ってくれる仲間をつれてくることは大切なことだし、そのために必要な資金を引っ張ってくることも大事なんですよ。そういうことは相当やってきましたし。

金山:そうだね。

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経営者としての考え方、投資家の役割の変化

河野:ところで僕らが投資した時って取締役入れて数人。でも今はこれだけのメンバーがいる。経営的な考え方って変わった?

金山:変わった。昔はやっぱり俺がプレーヤーとして1番だったらそれだけで十分だと思ってた。そこの部分は今もそうだけど、一番じゃないといけないし、仕事量も品質も最高じゃないといけない。だから企画するのも画面遷移を書くのもなんでもやるって感じだったけど、採用方針として自分より優秀な人を採用するっていうのを本当に意識してからそれは変わったね。

優秀な人の才能を解き放つために必要な武器を彼らに配る。会社のメンバーが最高のパフォーマンスがでる環境を用意する。その方が会社としてはスケールする。

河野:すっぱり切り替えられました?

金山:事業の成長が最重要事項だと思っているから全然すっぱりいけたよ。いざとなればプレーヤーとして一番だと思ってるし、その努力は怠ってないから。リーダーシップの姿としてアクターからアーキテクトにっていう話があるけど、まさにそれだね。

河野:最近の事業テーマでいうと、昨日も電話で話してたよね。

金山:目線上げていこうってね。それでいいの?こういう可能性もあるんじゃないの?って。トップラインを上げていく話はするよね。KPIを管理しているエクセルのグラフも桁をひとつ変えるだけで綺麗なホッケーカーブがぺったんこになる。小さい桁の成長で満足なんてしないぜ!ってね。

河野:そうそう。いいねぇ、こっからまたぐっといこうかってなる(笑。

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金山:最近はiQONスタート時に想定していたビジネスモデルが軌道にのり始めて、国内外のファッションブランドやナショナルクライアントと呼ばれるような広告主のみなさんに出稿して頂けるようなサービスになってきた。

次にやれるビジネスの選択肢が増えてきていて、可能性を感じている。

河野:確かに初期の頃はクライアント紹介したりしてたけど、最近はもっぱらチームに任せてるし、ね。

金山:立ち上げ当初は全然気にしてなかったiQON経由でのECサイト売上がかなり伸びてて、月間の流通額が億単位になってる。そうなるとECサイトに対してのインパクトが強まるから、iQONを使ってもっと何かできるんじゃないか?と考えられるようになってきてる。

具体的にはここをもっと深堀するかどうか検討してるのよね。さらにユーザーの利用頻度や深度もどんどん深くなってきているので、そこの部分に対してもビジネスとして広がりを持たせれるんじゃないかと思っている。

河野:それにひも付くファイナンスだったり人材戦略もね。このオフィスもそろそろ移転しなきゃいけないし。

大切なのは上場じゃない。その時の「姿」だ

TB:上場も噂され始めてます。

河野:上場時の姿ですよね。どういう見せ方をして出ていくか。実現している姿で出ていくのと、これから実現しようとしている姿を見せて出ていくのと。もちろん余裕なんて全然思ってませんし。

金山:ベストの姿を思い描いて追い込まないとベストにならないからね。

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TB:事業としての天井は?例えばアマゾンは本から始めて今では何でも売ってるようになりました。

金山:今やサーバー売りまくってるからね(笑。いけるとこまでいくでしょ。次にやることはファッションだけじゃなくても究極いいと思ってる。ただ、何かひとつでぶっちぎって1番にならないかぎり次はやらないと決めてもいるんだよね。

日本で1番高い山の名前は知っていても2番目に高い山はそんなに知られてない。1番と2番は絶対値としては1しか離れていないけれども、その間には大きな違いがある。それに何かで1番になれないようなヤツは何やってもなれないから、まずはiQONで1番になりたい。

河野:ファッションって洋服だけじゃないし、ライフスタイルってことを考えるとカメラを持ってる女子を含めてファッションだし、ディズニーみたいなコラボレーションも十分ありうる。何かしら自分の人生を彩ってくれるところに常にiQONがある、そんなイメージかな。さらに言えばそれはiQONじゃないかもしれないよね。会社名とサービス名を一致させててない理由はそこにもある。

持ってる起業家、持ってる投資家

河野:VASILYにはまだまだ必要なものは沢山あるんですよ。人だったりその原資であるカネだったり。それをいかにして集めてくるか。もちろん汚い手を使うつもりはさらさらないけど、僕は何としてでも集めてこないといけないわけです。

いや、刺されるかもしれませんよ。でもそれに代えてでも「集めてくる」という使命感があるんですよ。

金山:手段は問わないというのは、俺たちが最終的に関わった人にはみんな幸せになってなってもらいたいからだよね。ビビって遠慮したり、体裁とかプライドとかで道を諦めるようなことはしないよね。そんなの関係ねぇって。

河野:俺たちの勝利のためならちっぽけなプライドなんてくれてやる(笑。

金山:昨日の電話会議はそういう話だったね。

河野:必死ですからね、綺麗ごとだけではないので。プライドのかけ方が違うんですよ。

金山:必要だったら灰皿で酒飲むよ(笑。

河野:投資する時、よくわからないけど持ってるかどうかって信じてて、その人ってなんだか変な引力があったりするんですよ。世の中だったり人として求められているというか。

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TB:河野さんは持ってる?

金山:持ってる。

河野:起業家の直感を信じてて、最後迷ったら直感で決めてくれっていつも思ってる。

金山:ところで直感って直感じゃないよ。脳が言語化できてないだけでこれまで得た経験だったり情報だったりを直感とか、虫の知らせっていう感じでシグナルとして返してるだけ。

河野:何もないところからの思いつきじゃなくて、過去の積み上げとかをベースに自分の中で固まってる決意みたいなものかな。採用でもさ、最後に決まりかけてたのに「なんか違うな」って思ったら大概正しいのよね。じゃあごめんなさいしようとなる。

TB:なんなんでしょうね?

金山:不断の努力だよ。人に与えられている時間は1日24時間。その間にどのぐらい脳みそ動かしていれるか。24時間自分の全てを事業に捧げることができるか。ずーっとぼーっとしてる人が持ってるわけないし。持っているというのは後天的に獲得できると信じている。

長時間お話ありがとうございました。お時間になりました。

◎前半はこちらから

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