取材して興奮するスタートアップに出会う機会が増えた。ステルスで準備を進める彼らもそのひとつだ。
ビッグデータ解析と自動車向けハードウェアを開発するスマートドライブは2月18日、ANRIを割当先とする第三者割当増資を実施したと発表した。金額や払込日などの詳細は非公開だが、関係者の話によると数千万円程度の規模になるという。
スマートドライブ代表取締役の北川烈氏によれば、今回の資金調達で現在準備中のプロダクトに必要な開発陣、特にiOSのエンジニア強化を進めるという。
さあこの記事、書くのが大変難しい。なにせ彼らはステルスだ。
プロダクトについてもほとんどの情報が非開示になっている。それでも私は目にしたものを前に、興奮が止まらなかった。
彼らのような「新世代」のInternet of Things プレーヤー、古くは「ネット家電」と言われてきたカテゴリを理解するにはいくつかのポイントがある。
それが「ビッグデータ」と「コンテキスト」のふたつだ。この文脈で彼らを可能な限り紹介してみよう。
「交通」というビッグデータに着目したスタートアップ
まず、ステルス状態とはいっても彼らのプロダクトが全く分からないのでは話にならない。開示できる範囲でイメージだけお伝えしたい。
スマートドライブが提供するプロダクトはiOSと車載端末の組み合わせで提供される。その機器から得られる車の速度や向きといったデータを解析、アプリ上で表示して燃費向上やその他の提案に使おう、というものだ。
北川氏とは「テスラのダッシュボードの高機能版かな」と話したりしていたが、近からずとも遠からずといったところだろうか。プロダクトはとにかくお披露目の日までお楽しみにしておこう。
※参考素材:テスラモーターズ
そしてこの話題を語る際、避けて通れないのがNestだ。Googleが3000億円以上もはたいて購入したのはただのサーモスタットだけなのだろうか?
もちろん違う。
彼らが注目されたのは各家庭から取得できる温度などのビッグデータだ。この解析を進めればいつ、どこで暖房が必要か分かる。ここに潜むビジネスチャンスは燃料、機器類と幅広い。
この理屈に当てはめてスマートドライブをみれば彼らが狙う「車」のビッグデータはさらに魅力的に映る、というわけだ。
もちろんそんなに単純ではないだろうが。
代表の北川氏は現在24歳。慶応大学在籍時から国内ベンチャーでインターンを経験し、渡米。マサチューセッツ工科大学には交換留学プログラムがなかったために、直接交渉して授業を受けた強者だ。1年間の留学後には東大に進学して「理転」を果たす。
「元々興味があった分野が家電、バイオ、車と交通(人の動き)だったのでその中から交通を選びました。途中で今のビジネスを思いついたので研究内容もビジネスの内容にだいぶ寄せたんです」(北川氏)。
こうして北川氏は交通データという可能性に出会い、さらにその行動力で現在のスタートアップに必要な人材を集めることに成功している。
どのようなコンテキストをつくるか、それが勝負だ
彼らが開発を進める車載デバイスはあくまでデータを取得するためのツールだ。北川氏に言わせれば、Googleがネット接続型の車を普及させる前に既存の車を「ネット化」させてしまうための方法なのだという。
ここで大切なのは集めたデータをどのような「ストーリー」に落とし込むかという点になる。ビッグデータというのはただ取得してもただの速度だったり方向だったりと「それそのもの」では意味をなさない。
つまりコンテキストの開発だ。ここからビジネスモデルを紐解かなければならない。もちろん彼らもここのアイデアをいくつも検討している。
まずはやはり渋滞などの交通課題の解消だ。彼らの特長として急ブレーキや車の回転数や方向からリアルタイムのデータを取ることで、GPSが効かなくても位置がわかるという点が挙げられる。従来型のVICSとはまた違ったデータから交通事情の課題解決に取り組むことができる。
また、運転状況を把握することで車が長持ちするかどうかもわかるようになる。こういう情報から例えば保険の提案をすることもアイデアのひとつだった。
これは取材中の雑談混じりの会話だが、今後、自動運転の世界が広がれば、車のウィンドウは全て画面になる未来がやってくるかもしれない。車はスマートフォンのような存在になり、そのインターフェースを使った可能性は多岐にわたる。なんとも楽しい近未来だ。
こういうデータから想像できるストーリーをいくつもアイデアとして考え、それらをアプリのインターフェースに落とし込んで作り込んでいるのが今、という状況だ。
ーーさて、冒頭申し上げた通り、彼らのプロダクトはまだその多くが非公開の状態にある。北川氏によれば、今年、可能な限り早い段階でのプロダクトリリースを目指したいとしていた。
ハードウェアが関連するスタートアップは量産などがあるため、単なるウェブサービスだけのプロジェクトよりもはるかに難易度が高い。
それでも彼らなら新しい世界を作ってくれるんじゃないか、そう思わせてくれる何かがあった。具体的に情報をお届けできるタイミングを待ちたい。
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