Pebble CEO Eric Migicovskyに聞く——アプリストア開設で目指す、スマートウォッチ・コミュニティの将来像

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ハードウェア・スタートアップの分野のニュースをウォッチしていて、Pebble の名前を目にしない日はない。2012年、極薄のスマートウォッチの可能性を確信したカナダの青年起業家はシリコンバレーにやってくるも、投資家から資金を募ることができず、クラウドファンディング・サイト Kickstarter の存在によって、1,000万ドルの調達を実現した。

先月、グランドフロント大阪で、スタートアップ・イベント HackOsaka 2014 が開催されたが、その前日、筆者は世界的にも有名な Pebble の CEO Eric Migicovsky、BERG の CEO Matt Webb とインタビューする機会を得た。

Matt Webb とのインタビューはこの記事にまとめたので、今回は Eric Migicovsky とのディスカッション部分を中心に取り上げたい。インタビューは湯川鶴章氏と共に実施したが、湯川氏による質問部分の公開も快諾いただいたのであわせて紹介する。

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Pebble の CEO Eric Migicovsky(左)、BERG の CEO Matt Webb(右)

ビジネスの調子はどんな感じ?(湯川)

Eric: 1ヶ月くらい前に、新しいプロダクトを出したんだ。Pebble Steel だね。順調だよ。使われていエレクトロニクス、ソフトウェアは同じで、材質が新しいものに変わった。それと、現在、我々が注力している課題は AppStore だね。これにはマーケティングの意味があって、Pebble をまだ手に入れていない人たちに、Pebble でどんなことができるのかを伝えることを意識している。多くの人が Pebble で何ができるのかを尋ねてくる。人々にそれを知ってもらうために説明してゆくことが、我々の仕事だと思っている。

Apple は iWatch を開発中だよね? 内部情報をたくさん聞いているんじゃない?(湯川)

Eric: 内部情報は何も知らないよ。それは Apple に聞いて(笑)。

とにかく多くの企業がスマートウォッチを作り始めた。ここで起きている競争は、非常に新しいものだ。ソニーも、サムスンも参入してきた。ある統計によれば、我々の市場シェアはちょうど今、ソニーと同じくらいらしい。でも、我々に可能性があるのは、大企業にできないことを我々にはできること。我々にはストーリー(スマートウォッチで、日常がどのように変わるか)を語れること。我々がそれをできれば、大企業にとっても仕事がやりやすくなるだろう。我々ができなければ、大企業も含めて、スマートウォッチ業界全体がダメになってしまう。

今、そして、将来、Pebble を使って何ができるの?(湯川)

Eric: 現在はメッセージをしたり、ノーティフィケーションを受け取ったりだね。私個人について言えば、メールのノーティフィケーションを Pebble で受け取って、それが重要なメールならスマホを取り出して返信したりしている。東京では Google Map を使ったり…。それからゲームとかも Flappy Bird とか、Flappy Bird 知ってる? Pebble 用の Flappy Bird があるんだ。私の最高スコアはまだ10点なんだけど。(笑)

パーソナライゼーションができるということも重要。Watchface Generator というサイトがあって、そこに写真や画像をアップロードするだけで、Pebble の face(スマホのホーム画面に相当するデザイン)を作って、自分の Pebble にダウンロードできる。既に14万回以上も使われているんだ。とにかく現在できることは、テストして、カスタマイズして、何か他のデバイスやネットワークとつなぐということだ。

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Watchface Generator

将来は何ができるようになるのだろう?(湯川)

Eric: 人々はより現実的で、すごく素早く何事もやるようになっている。大きな可能性があるのは、家の中にあるインテリジェント・デバイスとつながることだ。最も人気のあるもので言えば、(Google が買収したことで知られる、サーモスタットの)Nest だ。私はまだ持っていないんだけれど、これがあれば家に居なくても、家が暑いかどうかがわかる。家が燃えているとかもね(笑)。

家庭内の電源コンセントを制御できるデバイスもあるね。スマートウォッチでこれができるようになれば、それはすごいことだ。すべて手首の部分で状況がわかるようになって、テキストで教えてくれるようなインターフェースになる。Nest もそうだけど、もはや情報を知るために、スマホを見なくてもいいようになる。人々はいろんなアプリを開発している。何かを計測したり、加速度を測定したりとかね。

Pebble はサードパーティーのデベロッパのプラットフォームになっていく、ということだね。Pebble は生体センサーなども備えるようになっていくの?(湯川)

Eric: AppStore は2週間前にローンチしたのだけど、1,300のアプリが登録されて、150万件以上ダウンロードされている。でも、Pebble 自体にセンサーを増やすつもりはない。あくまで、加速度センサー、コンパス、チップセンサーなどは、BLE を経由して Pebble とつながるという考え方。なぜなら、手首は必ずしも、すべての値を測定するのにベストな場所というわけではないからだ。身体の他の部分にセンサーをつけて、それと通信する形にした方が合理的だ。

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Pebble AppStore

時と場合によって、必ずしもスマートウォッチが便利な形とは限らない。Google Glass とかもあるしね。スマートウォッチ以外のものを手がける予定はある?(池田)

Eric: そうかな?(笑)我々はとにかく、Pebble Watch のみに特化してゆくよ。前述したように、AppStore は我々のマーケティング・マシンだ。まだ Pebble を持っていない人に、アプリを使ってどんなことができるか伝えることに集中していく。

チームの中には、どんな人たちがいるの?(湯川)

Eric: 我々のチームの多数はデベロッパだ。現在は、OS やデータのアップリンク・システムなどファームウェアを書くエンジニアを募集している。チャットアプリの開発をするデベロッパもいるね。数週間前、イギリスのデベロッパを雇ったよ。彼は Steve Penna と言って、Pebble 向けの最も有名な Android アプリ「Canvas for Pebble」の作者なんだ。イギリス最大の Pebble アプリデベロッパ・コミュニティを持っていたりする。

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Pebble CEO Eric Migicovsky

今はないけど、これから出て来るアプリがあるとすれば、どのようなものだろう?(湯川)

Eric: ユーザが置かれている状況を伝えるアプリだろうね。今、ユーザが移動しているか、止まっているか、コンピュータの近くにいるか、スマートフォンの近くにいるかなど、スマートウォッチはユーザが置かれているすべての状況を知ることができる。だから、家から外出したら自動的にカギをかけたり、毎朝天気や交通情報を伝えたり、ランチタイムには周辺のレストラン情報を伝えたり、夜には人気のテレビ番組の情報を伝えたり、というようなことができるようになるだろうね。

そういうしくみを実現するために、他のデベロッパと提携したりもしてるの?(池田)

Eric: もちろん。GoPro、ESPN、Yahoo、Pandora など、いろんな人たちと協業している。彼らは既存のアプリを、スマートウォッチという小さなモノの中にどう持ち込めるかを考えている。

Pebble の強みって何だと思う?(湯川)

Eric: iOS と Android の両方のスマートフォンと動作できることじゃないかな。ソニーもサムスンも、基本的には彼らのスマートウォッチは、自社製のスマートフォンとしか動作しない。これはデベロッパにとっては困難を伴う。ソニーのウォッチ向けのアプリを作っても、それはソニーのスマートフォンとしか連動できないから、市場サイズという点では非常に限られてしまうんだね。Apple もスマートウォッチを作ってるけど、おそらく、これは Android と連動するものにはならないだろう。

我々はデベロッパに、堅固で標準化されたプラットフォームを提供していきたいと考えている。2つの異なるスマートフォン・プラットフォームの両方と連動するようにするのは難しいことだ。しかも、BLE やインターネット接続も確保した上でとなると、なお大変だけど。現在はまだ、この分野で完全な接続性が約束された、標準化された手順というのは存在しない。

海外展開の予定は?(池田)

Eric: 現在、中国に3人の従業員がいる。日本には従業員はいないけど、シャープの液晶ディスプレイを使っているので、シャープと話をするために(本社のある)大阪には何度か来ているんだ。カナダに2名、イギリス、ロシア、台湾に1名ずつ。約30人くらいの従業員がいるけど、約4分の1が本社ではない場所で、遠隔で働いていることになる。上海に工場を持つ台湾の製造業者と契約していて、彼らをマネージするために上海の2人の従業員がいる。台湾でも一人雇った。

日本のスタートアップにアドバイスがあれば?(湯川)

Eric: Pebble をやって6年目になるけど、ここ数年で学んだのは、よく言われることだ。人々が欲しいと思うものを作ること。人々は必要としているものには、お金を払ってくれる。我々は Y-Combinator に参加していたけど、彼らのニュースサイト Hackernews にも、この種の話は頻出してるね。

4〜5年前とかは、毎朝のように Pebble についての苦情や質問のメールが届いていたのだけど、それに真摯に対応するようにしていた。我々は、ついつい人々をエンゲージすることを忘れてしまいがちだけど、これは重要なことだ。

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スマートウォッチで実現可能なソリューションは多岐にわたる。しかし、それらすべてに触手を伸ばすのではなく、あくまでスマートウォッチのプラットフォーム開発と、その周辺のアプリ市場やデベロッパ・コミュニティの深耕に特化するというのが、Pebble の当面の経営戦略のようだ。

iTunes AppStore や Google Play の登場が世界のスタートアップのエコシステム形成を促したように、Pebble の AppStore もまた、ハードウェアやウエアラブルを得意とするスタートアップに大きな変化をもたらすだろう。Pebble の動きが日本のスタートアップ・コミュニティにどのような影響をもたらすか、今後の動向に注目したい。

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