「機能追加が進化とは限らない、サービスの本質にこだわる改善の秘訣」- 坂田直樹氏が語るBlabo!の軌跡

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今日ではオープンイノベーションやクラウドソーシングなど、離れた場所にいる人の協力を得たり、会社外の人のアイデアを参考にすることは当たり前のことになってきた。だが、この動きはここ数年で広まってきたもの。

筆者は2010年からこの領域に取り組み続けているサービスを知っている。「みんなの企画会議室」というコンセプトでスタートした「Blabo!」だ。Blabo!は、企業や行政が、商品•サービス開発やまちづくりのプロセスに、ユーザを巻き込んでしまう仕組み。

だれでも参加できるオンライン企画会議をひらくことができ、ユーザーからアイデアを募ることができる。ユーザがプランナーになりきって、アイデアを提案することで、ユーザ視点を取り入れたモノづくりが可能となる。

Blabo!は、今年の春でサービスを開始して5年目に突入し、三井不動産レジデンシャル、アサヒビール、ロッテをはじめとする大企業が活用するサービスに成長中だ。いかにして人々からアイデアを出してもらい、ビジネスとしても軌道に乗せたのか、チャレンジし続けてきた5年を振り返って、Blabo!代表の坂田直樹氏に話を伺った。

Blabo!代表の坂田直樹氏
Blabo!代表の坂田直樹氏

めぐりめぐって一番最初につくったコンセプトが、一番よかった。

坂田氏「Blabo!は最初に設定したコンセプト、「みんなの企画会議室」からブレなかったんですよ。普通、ウェブサービスと言えば、ピポットなど変化し続けることが成長することのように捉えられがちですが、そんなウェブサービスの中にあって、根幹の部分は変化しませんでした。」

長く続くサービスは、その根底にあるコンセプトは変わらず、存続し続けることが多い。Blabo!も最初に設定したコンセプトが変わることはなかったようだ。だが、それでもすべてが順調だったわけでない。

坂田氏「サービスを立ち上げたのが26歳の頃。開始から3年ほどが経過したときに、時代に合わせようとしすぎてしまったことがあったんです。」

と当時のことを振り返る坂田氏。そのころは、サービスの呼び方を「ソーシャル◯◯」にするなど、枝葉の部分を変えて対応しようとしたが、結果は出なかったという。

創業時の事業計画書を見直したとき、はじめにつくった「みんなの企画会議室」というコンセプトを見て、坂田氏は我に返ったそうだ。

坂田氏「そこには、問題意識、そして企業と生活者の関係をフラットにし、話し合いながらモノづくりをする状態をつくりたいという想いが書かれていました。

それなのに「ソーシャル◯◯」が流行りそうなんていう安直な考えでぶれそうになっていた自分が恥ずかしかったです。もう一度「みんなの企画会議室」を軸においてサービス開発をしたところ、機能も整理され、ユーザからもわかりやすくなったと評価してもらえるようになりました。」

坂田氏はブレずに原点回帰することで、「サービスを成長させられた」という。

変化が必ずしも進化につながるとは限らない

長く社会に受け入れられているものは、自分の強みを保ちながら、時代に合わせて変容している。サービスを存続させていくためには自社のサービスも、時代にうまく擦り合わせていく必要がある。

「明石家さんまさんなんて、天才的ですよね。30年以上、自分の強みを理解した上で、時代とさりげなく合わせつづけてますから。」と、坂田氏は語る。

坂田氏「コンセプトって語源をたどると妊娠という意味があるんです。つまり、相手がいて初めて成り立つんですよね。だから自社サービスと時代のニーズを擦り合わせ続ける必要があります。ただ重要なのは自分たちの変えない部分を持った上で、合わせていくバランスを取りつづけないといけないなあって思っています。」

三井不動産レジデンシャル株式会社の企画会議室
三井不動産レジデンシャル株式会社の企画会議室

坂田氏は元々外資系消費材メーカーでマーケターとして商品開発していた。Blabo!を始めるまではウェブサービスの素人。サービスを立ち上げた当初は、知識も技術もあったわけではなかった。ただ、解決すべき「問題」はとことん考え抜き、クリアだった。

技術から入るのではなく、「問題意識」からはじめたことが余計なものを削ぎ落としたコンセプトとなり、サービスのシステムにもなった、と坂田氏は振り返る。

坂田氏「機能を増やしていく、というやり方が一番簡単です。ですが、機能を増やすことは成長と同義ではないですから。一方で同じ場所にとどまってサービスを改善し続けることは難しい。少しずつ変える部分がなくなってきちゃいますから。」

機能追加ではない改善を考え続ける構想力、安易な道には走らない忍耐力が必要だった、と坂田氏はコメントしている。

アイデアをパッケージデザインしたい

以前、Blabo!に投稿されるアイデアは、そのままTwitterにもシェアできるように、ただテキストで書かれるだけのものとなっていた。長くサービスのコンセプトについて考える中で、Blabo!はアイデアを投稿してもらうための、さらに良いあり方を模索してきた。

Twitterがテキストを140文字に、Instagramが写真をスクエア型に限定したように、投稿されるアイデアにも型を設けることが重要だということに行き着いた。

坂田氏「アイデアには適切な単位でパッケージしてあげることが重要だと思っています。アイデアとして使いやすい最小の単位を設定するというか。アイデアは細かすぎては使うことが難しくて、パッケージするのにちょうどよいサイズがあります。

カレーを作ろうと思って、スーパーにいったら人参がみじん切りでしか売っていなかったら困りますよね。一本単位で売られていたら、好きな形にカットして、いろんな料理に利用できる。同じでもアイデアにおける適切なサイズを試行錯誤しながら見つけ出しました。」

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アイデアの「タイトル」と「解説」という型

「企画を一言で表すと?」と「その心は?」というアイデアを投稿するためのフォーマットを設けたことで、ユーザの投稿に変化が生まれたという。このフォーマットを用意してからユーザが自分のアイデアのポイントがどこなのかを、整理してから投稿するようになった。

坂田氏「最初は、ツイート時のテキストのように「タイトル」はなかったのですが、タイトルを入れる仕組みにしたらユーザも自分のアイデアのエッセンスは何かを考えるようになり、アイデアの精度もあがりました。その結果、投稿されるアイデアがとても見やすくなり、ストックもしやすくなったんです。アイデアを投稿してもらうことには変わりないのですが、これが小さいけれど大きな変化なんです。」

オープンにアイデアを募る上ではどういったことが重要なのかを試行錯誤し続けてきたことこそが、他のサービスとの差別化要因になる、と坂田氏は考えている。

坂田氏「ユーザの動機に関しても同じです。なぜユーザーはアイデアを投稿するのかをひたすらユーザと対話を繰り返し、データからも検証しつづけました。なんでこんなにアイデアが投稿されるか外から見ただけではわからないと思います。

ユーザインサイトを理解して開発ができていることが強みになっています。ただ賞金でインセンティブを用意したらアイデアがでるというほどユーザは単純な動機で動くわけではありません。ユーザの行動動機を理解することが、いいサービスづくりをする上で欠かせません。」

明らかになったユーザ像

当初、Blabo!はクリエイターにアイデアを投稿してもらうことを考えていた。だが、今では普段の仕事は全く企画職などとは異なる一般の人が活躍している。

坂田氏「今のBlabo!のユーザには地方の方も多くいます。本当は面白いことを考えているのに、それを活かす場がない人達がいる。

すごいクリエイターがすごいアイデアを出せるのは当たり前なんです。僕たちは普通の主婦や学生が、Blabo!があったからこそアイデアを出せる設計を心がけています。だれもが「わたしだったらこうするのになあ」と思いつく瞬間があります。だけど出力先がないから消えていく。そのアイデアを企業に届ける仕組みを目指しています。」

こうしたユーザに参加してもらうためには、企画会議を主催する企業担当者からの返信、アイデアの実現など、自分が出したアイデアが誰かの役に立っているなどの実感が大切になる。Blabo!では1つ1つのアイデアを丁寧に扱うようになり、無理な規模の成長を求めなくなったという。

インタラクションがあること、アイデアの実現に注力すること。ウェブ上への多くの投稿が瞬間的に過去のものになっていく中で、こうしたアプローチは時代に逆行しているとも言えるのかもしれない。

Blabo!ではアイデアを実現し、一つ一つを積み重ねていくことを重視している。これは最近開催された「アイデアの展示会」にも現れている。

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三井不動産レジデンシャル パークホームズ イマジネーションミュージアムにて
三井不動産レジデンシャル パークホームズ イマジネーションミュージアムにて

展示会には全国各地からBlabo!ユーザが集まり、自分が投稿したアイデアが実際に形になっているのを目にしていた。

「Cross Over」するということ

実現したアイデアを展示したイベントのコンセプトは「Cross Over」。これはジャンルの垣根を乗り越え、互いの音楽性を融合させるスタイルを指す音楽用語だ。この言葉のように、Blabo!で行われているのは、異なる領域にいる人々がジャンルの垣根を乗り越えての企画会議だ。

この展示会も三井不動産レジデンシャルとBlabo!というスタートアップのクロスオーバーさせることで実現した。ユーザの生み出したアイデアを、企業が実現するというジャンルを超えた融合を図ることによって新しい価値を生み出している。

坂田氏「普段なら絶対に交わらないような2つのものがクロスオーバーするほうが化学反応が大きいと思っています。そのためには企業もユーザも、互いの違いを受け入れることが大切です。

ソーシャルテクノロジーが発達しても、ユーザや企業のマインドが変わらないとクロスオーバーは実現できません。このように三井不動産レジデンシャルのような大企業が生活者の発想を取り入れ、マンションを開発する取り組みをはじめていることに非常に可能性を感じています。」

みんなの公園プロジェクト

様々なジャンルをクロスオーバーさせ、アイデアを生み出すことを追求していくBlabo!の取り組みに終わりはない。本日からは公園や遊具を製造するコトブキとクロスオーバーし、生活者と公園をつくるプロジェクトをスタートさせた。ユーザのアイデアが遊具として実現したり、著名なイラストレーターによって冊子化される予定。

次回、アイデアの展示会が開催されるまでに、どれだけのアイデアが生まれているのか、楽しみだ。

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