「こうじゃなきゃいけない」を捨てて現場に化学反応を起こす:チェンジウェーブの変革屋、佐々木裕子さん【前編】

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Hiroko-Sasaki-ChangeWave

単純に会議室やパワーポイントの世界で、従業員や営業という言葉でひとくくりにされている議論では、やっぱり動かないですよね。絵に描いた餅なので。最後は、人なんだ、人を動かすってことなんだなと気づいたのは大きいと思います。

企業としてより大きく飛躍していくには、時代と共に変化し続けることが求められます。新しいことにチャレンジし、その時代に合った多様性を育み、チームをひとつにして前進する。止まない進化を可能にするのは、人を動かすことに尽きる。そう話すのは、自らを「変革屋」と名乗る株式会社チェンジウェーブ代表の佐々木裕子さん。

日本銀行、マッキンゼー、ソニーの変革室を経て、チェンジウェーブを立ち上げました。その多くが大企業であるクライアントに深く入り込み、企業の内側から変革をもたらすための仕掛けを施す。変革を求める企業とどう向き合い、変化を生んでいくのか。前編と後編に分けてお届けします。 

変革屋のもとに集まる企業からの依頼

三橋:普段は女性起業家としての取材が多いようですが、女性起業家のコミュニティってあるのですか。

佐々木:ありますね。私が親しくさせていただいている女性起業家の方は何か作りたいものがある方が多いです。素晴らしいモノをゼロから作って世の中の人々に届けたいっていう方。いつもすごいなあと思ってます。私は基本的には法人向けの、ゼロから何かを引き出すというより、既に人々に眠っているものを引き出す「変革屋」という仕事をしているので、少し毛色が違うんです。

そういう意味では「起業家」の仲間に入れていただくこと自体ちょっと恐縮してしまいます。周りの皆さんのゼロから何かを創り出すという発想やエネルギーに、とても学ばせていただくことが多いです。

私の「変革屋」というのは、直感的に説明するのが難しいので例で説明することが多いですね。

三橋:チェンジウェーブにはどんな依頼がきますか。企業側のニーズは。

佐々木:そうですね。相談してくださるのは、企業の役員の方、または自身のミッションを掲げるマネージャーの方などです。純粋にこの会社を変えていきたいと思われている方が多いですね。例えば最近ご依頼があったのは、2020年に向けてグローバルで世界トップ企業を目指すという戦略ビジョンを立てられた企業さんです。

そこを目指すにあたっての戦略の仮説は立てられているけれど、まだみんなが同じ船に乗っていませんと。目指すゴールは決まっていて旗も上がっているけれど、本当にそのゴールに乗っかって会社全体でやっていくという気運はこれから作らなければならない。

私がご依頼を受けたのは、役員、事業部長のトップレベルを集めて、みんなが同じ船に乗れるようにしてほしいという内容でした。戦略を書くというよりは、どう仕掛けたらみんなが同じ目的に向かってチームとして取り組めるか。

三橋:女性にまつわる依頼が増えているというような傾向は見られますか。

佐々木:はい、女性については、マネジメント候補人材育成のお仕事が多いです。企業さんは、これからのリーダー層や経営層がどういうチームになっていくかが、この先の成長の決め手だと思っていらっしゃる。その次世代の経営層を担う人たちの育成ですね。これからの激動の時代には、経営層には「多様性」が必要です。当然そこには女性も入っているべきだと。

ところが、女性の多くは、「役員になりたい」なんて思っていない。今マネジメントを担っている男性側にも、「女性をマネジメントに入れて何が変わるのか」、と本当のところ疑問に思っている方が多い。お互いに、「女性の役員を増やす」ということについて、本音のところでは「?」と思っていたりするのです。そこをどう変えるか。

女性が「自分が役員になることで何か自分のやりたいことが実現できる」と確信でき、会社全体が「女性がマネジメントを担って行くことで変化が起き、会社が成長する」と思えるためには、どんな化学反応が必要か。戦略やスキルというより、もっと本質的なところをにらみながら仕掛けているという感じです。

人は必ず変われる:現場における化学反応の起こし方

三橋:人のマインドを変える、信じさせるってもの凄く難しいことだと思うんですが、関わった企業に変化は必ずあるものですか。

佐々木:あります。ただ、きっかけがいるわけです。日々の目の前の業務を毎日しっかりこなすことはとても大事なんですが、でも、そこからちょっと引いて、もうちょっと視界を広げて考えてみる。今まで全然接点がなかった世界に触れてみることで少し刺激をもらう。そういうことが大きな一歩なのだと思います。

よくあるのは、時間の余裕がなくて「そんなことそもそも考えたこともなかった」というケース。自分はこの先何をやりたいのか、この会社が2020年に目標にたどり着くためには自分はどうしていくべきか。自分の今の目の前の仕事からちょっと離れて視野を広げていただいた上で、その新しい視界の中で目の前の仕事を位置づけてもらう。そうすると大きな化学反応を起こせることが多いように思います。

三橋:どうやって人を変化させるきっかけをもたらすのか、エピソードを聞かせてください。

佐々木:例えば、私が開催した女性リーダー研修に参加した方が、その後役員になられてすぐにご依頼をいただいたプロジェクトがあります。組織を見回してみると、若い子達が今お金を稼ぐことに必死になりすぎている。

本当は会社として、お客様視点でもっと先のことを考えたり、もっと業界のことを考えてこちらから仕掛けなくてはいけない。でも、現場の営業の人たちは日々、5万円、10万円を稼ぐことに必死。お客様が、この先どういう未来を迎えていくかをまだ想像もできていないし、考えてもいない。

「この子達の中から、これからマネジメント層になっていく人材を輩出しなければならないので、今の段階で少し刺激を与えてほしい」と依頼を受けました。そういう視点があるんだってことを気づかせてほしい、と。でも彼らはまだ若いし、あまり経営経営って言われても重くなってしまう。では、どういう風に気づかせてあげられるか。

三橋:具体的に何をしたんでしょうか。

佐々木:その会社さんの営業先は美容院でした。まず、美容院を経営されている方々が今何を考えているかがわからないと始まらないですよね。そこで、Aという美容院のリアルなケースを作って、ロールプレイングで営業さんに美容院の経営者になってもらいました。自分の美容院を今後どう経営し成長させるかを考えてもらう。このために、実際に美容院のオーナーさんにインタビューをして、創業のエピソードから今の数字のこと、そしてこれからの経営戦略のお話を伺ってとてもリアルなストーリーを作りました。

対する営業チームは、いつものように美容院にどう営業をかけるかを考える。交渉のシーンなどでは、美容院オーナー役のチームは、いつも自分たちがやっていることがどう見えているか、ちょっとした言葉尻がどう捉えられるかがリアルに体験できる。「教える」のではなく、「場」を創ることで、自らが必要なことに自然に「気づく」仕掛けを創る訳です。

「こうじゃなきゃいけない」をどれだけ捨てられるか

三橋:今のお仕事には、佐々木さんの過去のどんな経験が活きていますか。

佐々木:まず一つは、マッキンゼーの時代にいろいろなプロジェクトをやらせてもらったこと。当時は、短期間で事業戦略を作る仕事をしていましたが、中にこれは本当に変化が起きたなと成果を感じる仕事がありました。そして、変化が起きた仕事は、それを動かす「人」に視点を向けた仕事をしたときだった。人の気持ちや、人がなぜ動くのかを一人一人固有名詞で見て行くような仕事。

単純に会議室やパワーポイントの世界で、従業員や営業という言葉でひとくくりにされている議論では、やっぱり動かないですよね。絵に描いた餅なので。最後は、人なんだ、人を動かすってことなんだなと気づいたのは大きいと思います。

三橋:変革屋さんとして変化を生んでいって、どんなことにやりがいを感じますか。

佐々木:人は変われるってことですよね。本当に誰でもそうだと思う。変わらないところはあると思うんですが、変わりたいって思えば変われるんですよね。自分の強み、得意な部分とか、自分の大事にしたい価値観に純粋になった時に、本来自分がありたい姿に変わるということ。それは会社もそうだと思いますが、たぶん人にとって自然なことだと思います。

三橋:常に中から変化を起こせるような企業であるために求められることは。

佐々木:変わり続けるためには、世の中の状況の変化や、周りの一人一人が考えていることとか、そういう色んなことに対するセンサーが高いことが重要だと思います。例えば自分が20代だった時と、今の20代とは全然違うとかありますよね。だからこれまではこうだったとか、自分の成功体験はこうだったということのみに囚われることなく、人々の多様性や新しい兆しに敏感な文化を創ることは大切ですね。

その上で、今までやってきたことを「変えていこう」という決断をし、まずは「やってみる」ということ。それができる組織とか、リーダーがいるところは、常に進化し続けていけると思いますね。

後編につづく。

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