クラウドファンディングの歴史と日本のポテンシャルについて【ゲスト寄稿】

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編集部注:2011年頃に日本でクラウドファンディングがスタートして約3年が経ち、寄付、購入型、分野に特化型などさまざまサービスが誕生してきた。

また、法整備においても動きがある中、改めて日本のクラウドファンディングの現状や世界の取り組み、今後の展望などを整理する目的で、日本クラウド証券代表取締役社長の大前和徳氏に、複数回にわたって寄稿していただくことになった。

初回となる本稿では、これまでのクラウドファンディングの歴史や現状について振り返って頂く。

インターネットを通じて、金融の本質に立ち戻った

資金を募りたい人や団体に対して、ネットを通じて小口の資金をもとに多数の人たちから資金を集め、マッチングを図るプラットフォームサービスである「クラウドファンディング(Crowd Funding)」という言葉は、いまや多くの人たちが知る存在となりました。

「クラウドファンディング」という言葉自体は新しいものですが、大多数の人たちからお金を集める仕組みは、実は金融の原始的なモデルであり、特段新しいものではありません。ある意味で、インターネットの登場が、高度化・専門化された金融の仕組みを先祖返りさせたとも言えるでしょう。

CtoCサービスやシェアリングサービスなどがそうであるように、インターネットは昔からあった取引形態を新しい姿に変える力があります。金融とはそもそも、お金が足りない人に誰かが融通したり、誰かを応援するためにお金を貸し付けたりといった、クラウドファンディング的な要素を備えていたわけです。

取り組む人や活動に魅力があれば、多くの人を巻き込めるようになったという意味では、海の向こうの人たちも日本人も同じなので、これまでは身近な人たちの間でやり取りされていたお金の流れが、インターネットを通して遠隔地にいる不特定多数の人たちにまで広がったのです。

また、リーマン・ショックによって従来の金融機関の仲介機能がワークしにくくなったことによって、オルタナティブな資金調達(あるいは資金運用)の仕組みとしてインターネットを活用しようという流れが起きてきたとも言えるでしょう。時代背景をもとに、改めてクラウドファンディングについて振り返ってみましょう。

クラウドファンディングの歴史

Musée du Louvre
Image by Bob Hall on Flickr

古い時代の話から振り返ってみます。クラウドファンディングのような仕組みは、実は数百年前から始まっています。17世紀初頭に活躍した書籍編集者のジョン・テイラー氏が、書籍の印刷代を寄付によって集めた事例がクラウドファンディングの原型とも言われています。寄付の見返りとして、寄付者の名前を書籍に掲載するという権利を提供するなど、現在行われているクラウドファンディングの取り組みにも通じるものがあります。

他にも、面白い事例として「自由の女神」も実はクラウドファンディングプロジェクトの事例の1つです。アメリカ合衆国の独立100周年を記念して、フランスより贈呈された「自由の女神」。しかし、自由の女神を載せる台座を建設していたアメリカの「自由の女神製作委員会」は、台座製作の建築資金を使い果たしてしまったのです。

そこで、実業家のジョセフ・ピューリッツァー氏が自身が経営する新聞「ニューヨーク・ワールド」で広く一般市民に台座建設の費用を寄付するように呼びかけました。その結果、約6ヶ月で10万ドル近い寄付が集まりました。さらに、百万人以上の人が1ドル以下の少額を寄付したことで実現したプロジェクトでもあり、まさに少額寄付を集めたクラウドファンディングプロジェクトの1つと言えます。

フランスでは、アートの分野に対して寄付を募る取り組みは古くからなされています。ルーブル美術館では毎年プロジェクトを実施し、著名なアーティストの絵画の獲得や収集、修復などの取り組みを行なっています。国の予算以外だけでなく、市民の力をもとにして文化的資産を作りあげており、ルーブル美術館としても大きな事業の1つとして位置づけているのです。

日本で最大のクラウドファンディングの成功事例について振り返ると、2012年にF1 レーサーの小林可夢偉氏がF1の活動資金を募ったウェブサイト「KAMUI SUPPORT」があります。F1のシートを獲得するためには、自ら資金を用意しなければいけません。そこで、小林可夢偉氏は資金の一部を一般の人たちから集めることにしたのです。

出資していただいた方々に対しては、サイン入りのキャップやキーホルダーを販売するプロジェクトをスタートした結果、スタートから一週間で1億円以上が集まり、最終的には1億8000万円の資金を獲得しました。

このように日本でも高額なクラウドファンディングの成功事例が存在するなど、クラウドファンディング的な取り組みを支える土壌は存在すると私は考えています。

感動、共感、支援の力が生む大きな力

the audience is shaking (CC)
Image by Martin Fisch on Flickr

私は、ソーシャルレンディングサービスと言われる、個人間による少額の融資を行うサービスを2009年から取り組んでいました。ソーシャルレンディングサービスに携わりながら、個人がお金をだし支援やサポートをすることに対して、少しづつ手応えを感じていました。

そうした中、2011年に東日本大震災があり、震災を契機に多くの募金を集める動きが活発になりました。ミュージックセキュリティーズやジャスト・ギビング・ジャパンなど、震災復興支援のために東北を支援する取り組みは大きな飛躍を見せました。クラウドファンディングサービスのReadyFor?やCAMPFIREなども震災の直後に誕生したサービスとして震災に関連したプロジェクトもスタートし、目の前で困っている人たちを助けることができる取り組みとして、注目を浴びました。

あの時、あの瞬間の日本人の心の中にも、金銭的な見返りだけではなく、何か支援したい、サポートしたい、といった気持ちが生まれたのは間違いありません。日本はこれまで寄付文化がないと言われてきましたが、私たちの多くあの時に、何かを応援しようとしたり、お金をだしたりする経験を一度はしたのではないでしょうか。

Crowd_Bank<クラウドバンク>_新しい投資・資産運用のカタチ。ソーシャルレンディング

日本クラウド証券では、現在「クラウドバンク」という投資型のクラウドファンディングサービスを運営しています。小口の資金をファンド形式で集めて、資金需要の旺盛な新興国のマイクロファイナンス金融機関や国内の企業に融資しています。投資とは資金を循環させる仕組みです。

震災直後、ソーシャルレンディングの投資家たちから「自分たちに何かできないか」といった声を多数いただきました。また、「お金を寄付して終わりにするのではなく、拠出したお金が何らかの形で戻り、そのお金をまた次の人たちに渡す、ファンドのように資金を循環させる仕組みを検討できないか」という相談も受けました。2011年3月の出来事は、日本らしい投資型クラウドファンディングの仕組みを検討するきっかけとなりました。

ロンドンオリンピックのメダリストの銀座パレードの時には、平日昼間の銀座通りや晴海通りに30万人以上の人たちが集ったのも記憶に新しく、多くの人たちがオリンピックを通じて感動や共感を大きく抱いたのは間違いありません。仮に、アスリートのための支援として一人100円を寄付したとしてら、3000万円近いお金が集まる可能性があったのかもしれません。2020年の東京オリンピックの頃には、きっとクラウドファンディングが重要な役目を果たしていることでしょう。

これから成長する日本のクラウドファンディング市場

日本は、何かに感動したり何かを支援したいと思った時に、力を発揮する国だと私は考えています。また、日本の個人は850兆円を超える世界最大規模の現預金を保有しています。そうした意味で、日本のクラウドファンディングのポテンシャルは非常に高いのではないでしょうか。

クラウドファンディングサービスが日本で注目され始めてから3年、現在ではさまざま分野に特化したサービスも誕生しています。

世界のクラウドファンディングの市場規模は、現在5000億円程度と言われていますが、まだまだ成長の入り口に立ったばかりの段階だと考えています。復興支援で大きなお金が動いた実績、感動や共感をもとに行動する土壌は、クラウドファンディングという「新しいお金の流れる仕組み」にとって非常に大きな意味を持っています。

これらを踏まえて、日本に現在起きているクラウドファンディングの現状や多様性などについて、次回の寄稿でさらに踏み込んでみたいと思います。

写真:クラウドバンク

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