株式型クラウドファンディングを通じて、企業とユーザの関係が再構築される【ゲスト寄稿】

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編集部注:第一回第二回目の寄稿を通じて、クラウドファンディングにおける歴史やクラウドファンディングの現状、市場などについて日本クラウド証券代表取締役社長大前和徳氏にまとめていただき、改めてクラウドファンディングというサービスの魅力や可能性を実感することができた。

本寄稿では、現在国会でも議論がされている「クラウドファンディング法案」(金融商品取引法の改正)について、法改正が実現することによって、何がどう変化するのか、メリットやデメリットなどについてまとめていただいた。

リスクを背負って冒険する人を応援する、株式本来のあり方を考える

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Image by Howard Lake on Flickr

 

前回の5分類では、金融型クラウドファンディングが注目されているとお伝えしました。今回は、「株式型」クラウドファンディングについてご説明したいと思います。

世界的に拡大するクラウドファンディングですが、5分類のうち最も市場規模が小さいのは株式型クラウドファンディングです。その理由は、日本に限らず、世界中の国々で「株式」には厳しい規制が掛けられているからです。しかし一方で、将来最も成長すると期待されているのも「株式型」クラウドファンディングです。

株式投資で思い浮かぶのは、株式市場に新たに上場(IPO)した新興企業に投資したり、あるいは有名な経営者がいたり、自分の好きな商品を提供する上場企業の株式に投資するというものです。しかし、上場していない株式(未公開株)となると、皆さんには余りなじみがないかもしれません。未公開企業の株式の取引は、ベンチャーキャピタルや友人・家族などから私的に出資してもらったり、売買されるケースはありますが、不特定多数の人に対して広く未公開株への出資を呼びかけることは基本的には認められていません。例えば、自分が起業した会社に出資を募るために、ブログなどで呼びかけることはできません。

また、株式型クラウドファンディングを行う事業者については、国に登録した金融商品取引業者(いわゆる証券会社)でなければ、株式などの有価証券の勧誘行為は認められていません。また、たとえ証券会社だとしても、未公開企業の株式の取扱いはグリーンシートという制度を除いて原則禁止されており、誰でも自由に株式型クラウドファンディングを始められる訳ではありません。

そもそも、株式会社という仕組み自体は、小口の資金を多くの人から薄く広く募り、それによって事業を成功へと導き配当を分け合うという考えでもありました。1600年代にオランダ東インド会社、正式には連合東インド会社は、当時欧州において希少だった香辛料を求めて東南アジアまで遠征に行く航路を開拓し、香辛料を仕入れようとする事業に対して、多くの人から出資を募って設立されたことから、同社は世界初の株式会社と言われています。このようにリスクのある取り組みに対して、その取り組みに対して共感する人から薄く広く資金を募ることによって、失敗した場合のリスクを分散・限定しつつ、成功した場合の果実を共有しようという発想自体は、クラウドファンディングのそれと非常に近いものであると言えるのです。

規制緩和と、規制強化のバランスが重要

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Image by 401(K) 2012 on Flickr

現在話題となっている株式型クラウドファンディングの法制化とは、「投資型クラウドファンディング」制度の利用促進を狙いとする金融商品取引法の改正及び関連諸規制の緩和が軸となっています。ここで「投資型クラウドファンディング」と国が定義しているのは、前回ご紹介したクラウドファンディングの5分類でいうと、「貸付型」「ファンド型」「株式型」に該当します。日本の膨大な個人金融資産と成長意欲の高い中小企業・ベンチャー企業の資金需要とを結びつけようという国の狙い自体は、かなり大胆かつ野心的であると言えます。

今回のクラウドファンディングに関する法改正のテーマは大きく分けて2つです。1つ目は、参入要件の緩和で「投資型クラウドファンディング」に参入したい事業者のために、参入ハードルを下げた新しいカテゴリー(なんと「少額電子募集取扱業者」という名前がついています!)を作り、証券会社以外の新規参入を促します。尚、この「電子募集取扱業者」については、既存の証券会社なら自動的に登録されるものではなく、株式型クラウドファンディングをやりたい事業者は全て、新たな登録手続が必要という点に注意が必要です。したがって、国内大手証券会社でも、外資系大手証券会社でも、ネット証券会社でも、あるいは全くの異業種の会社でも、株式型クラウドファンディングに新規参入するなら、ある意味で同じ土俵ということになります。

2つ目は、投資者保護のためのルール整備です。こちらは、1つ目の規制緩和とは反対に、新規参入する事業者に対して、制度を悪用して詐欺的な行為が行われないように、クラウドファンディング事業者に対して、適切な情報提供や資金調達をしようとするベンチャー企業の事前審査を義務づけるものです。

法改正は2014年3月に改正案が閣議決定され、今国会での成立を目指しており、成立した場合にはその後に細かいルール整備が行われて来年4月の施行開始ーという流れになるかと思います。現在私は、日本証券業協会が主催する「非上場株式の取引制度等に関するワーキンググループ」の委員として、このルール作りの議論に参加しています。また、クラウドファンディングの事業者と共同で設立した「クラウドファンディング協会」のメンバーとして、個別に行政当局とディスカッションを行っています。株式型クラウドファンディングの制度は、上で述べたように、これまでの規制の一部が緩和されると同時に、別の規制が加えられます。どこを緩めて、どこを厳しくするべきかについて、今まさに検討されている最中なのです。

国としては、新しい制度を作る以上は、新規参入がたくさん出てきて欲しいと思っていますが、一方でこの制度を悪用する事業者が現れることも非常に恐れています。私たちもクラウドファンディングを日本に推進する事業者として、規制緩和を歓迎すると共に、悪い事業者を排除するような取り組みも併せて期待しているところであり、クラウドファンディング協会としても注視して行きたいと思っています。

株式型クラウドファンディングのメリット・デメリット

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Image by 401(K) 2012 on Flickr

では、今回の株式型クラウドファンディングが実現したら、企業や個人にどんなメリットがあるのでしょうか?まず企業はクラウドファンディング事業者のウェブサイトを通じて、上限1億円までの株式の募集をできるようになります。決算書をウェブサイトで公開するなど、それなりの情報公開の義務が課せられますが、取引所の上場基準と比べるとゆるやかな義務となるはずです。企業にとっては、資金調達の選択肢が広がることは間違いありません。

また投資家にとっては、上限50万円まで自分の応援したい企業の株式をウェブを通じて取得することが可能となります。自分の好きな商品やサービスを提供している会社を、ただ顧客として売上に貢献するだけでなく、株主となって企業を資金面からもサポートし、成長した暁には配当やキャピタルゲインを得る可能性も広がることでしょう。

一方で、株式型クラウドファンディングには注意すべき点もたくさんあります。まず、そもそもクラウドファンディングが取り扱おうとしている「株式」と、私たちが良く知る「株式」とは別ものだという点を認識すべきでしょう。日本証券業協会が2012年に行った調査によると、個人が株式購入をする理由は、1位「配当がもらえるから」(42.2%)、2位「長期にわたっての資産運用のため」(32.4%)、3位「短期の値上り益を期待して」(30.6%)となっています。しかし、株式型クラウドファンディングで取得する株式に、配当や値上り益を(少なくとも短期的に)期待できるでしょうか?

通常株式市場には、「プライマリーマーケット」と「セカンダリーマーケット」というものがあります。プライマリーマーケットとは「発行市場」とも呼ばれ、新たに発行される株式や債券などの有価証券を投資家が購入する市場のことを指します。一方、「セカンダリーマーケット」とは、「流通市場」と呼ばれ、既に発行されている株式や債券などの有価証券を取引する市場のことを指します。

今回の法改正は、いわばプライマリーマーケットにおける未公開株式の募集に対する規制緩和ですので、投資家は自分が応援したい企業の株式に投資しやすくなりますが、一度取得した株式を売買するセカンダリーマーケットは基本的に存在しませんので、その企業がIPOやM&Aなどがない限り、売却するチャンスは限られる点は注意が必要です。

こうした視点で株式型クラウドファンディングを見てみると、資産運用という動機だけでは手を出しにくいと言えるでしょう。また、「株式のプロ」である証券会社にとっても、「転売機会が限られている株式」を取り扱うのには慣れていないので、どう売っていいのか分からないかもしれません。つまり、「株式型クラウドファンディング」は、個人投資家にとっても証券会社にとっても「未知なる世界」となるでしょう。

一方、株式を不特定多数から募りたい企業にとって注意すべきことは、株主管理という点です。インターネットを通じて面識のない人が株主になるかもしれないのです。また、これらの株主に対して決算情報などの詳しい経営情報の開示を株主に対して行わなければならないという点も肝に銘じておくべきでしょう。

株主はロイヤルカスタマーであり、最高のセールスマン

では、どういうスタンスで株式型クラウドファンディングを利用すべきなのでしょうか?短期的なリターンが見込めないとなると、個人投資家としては、バイ・アンド・ホールド、長くじっくり持って企業を育てたり応援したりすることに重きを置くべきでしょう。

上場企業の株式投資でも、SRIと言われる社会的責任投資など、企業の経営理念に共感して投資する手法が知られていますが、株式型クラウドファンディングはより一層長期的な視点で投資した企業と付き合うと良いのかもしれません。

こうした点を考えると、投資というよりもどちらかと言えば寄付に近いモデルと言えるかもしれません。今回の規制緩和でどのような事業者が株式型クラウドファンディングに新規参入するのかと聞かれることがありますが、業法の理解という点では証券会社が圧倒的に優位ですが、寄附型や購入型のクラウドファンディング事業者の方が、「金銭的リターン」とは違う動機で動く支援者とのやりとりに長けているという点で、むしろスムーズに事業を立ち上げられるのではないかと私は思っています。

企業にとっても、金銭的なリターンは保障できないけど、自社の商品やサービスを株式優待として提供するなど、購入型クラウドファンディング的にこの制度を利用することができるかもしれません。株式型クラウドファンディングは、単なる宣伝やファンの獲得を越えた「仲間作り」につながる可能性があります。なぜなら、株式型クラウドファンディングの支援者(つまり株主)は、購入型の支援者のように商品やサービスを購入するだけに留まらず、その会社のオーナーの一人として、時には会社の「アンバサダー」や「セールスマン」となって会社や商品の宣伝や普及に力を貸してくれることでしょう。

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実際に株主が自社の商品やサービスの応援団となって業績にも貢献してくれている例として、アメリカのLOYAL3というサービスを紹介したいと思います。AppleやTwitter、Googleなどのコンシューマー系の上場企業の株式を、手数料無料でモバイルで簡単に購入することができる株式型クラウドファンディングサービス(ただし、セカンダリーマーケットでの取得となりますが)です。ユーザーは、スマホアプリを通じて5ドル、10ドル、15ドルなどを選んで一口オーナーになることができ、自分のお気に入りの企業の株を簡単に買うことができるのです。

では、なぜこのサービスが成り立つのか。それは、AppleやGoogleやStarbucksなどの企業が株式売買に関わる手数料を負担しているからです。株主になる人は企業に対するコミットメントが高く、自社の商品やサービスに対するエンゲージメントを築きやすく、ロイヤルカスタマーとなる可能性が高くなるからなのです。ロイヤルカスタマーである株主は、その企業の事業を他人事ではなく「自分事」として捉えて積極的に周囲の人に宣伝してくれます。株式型クラウドファンディングは、企業と株主との間にこのような関係性を生み出すのではないかと期待しています。

一回目の寄稿で、東北の震災を契機としてベンチャー企業の株式にも投資してみたいというユーザーが現れたという話をしました。株式投資とは、自分が企業の株主になることによって、より深くその企業に関わり応援することにつながります。寄付型や購入型のよりも、より直接的に企業と関わりたいと思う人にとって、株式型クラウドファンディングは魅力的なサービスとなるでしょう。

一回目の寄稿で「インターネットの登場が、高度化・専門化された金融の仕組みを先祖返りさせた」と言いましたが、資金を持っている人が、資金はないがリスクをとって事業を行う起業家に共感して出資するという株式型クラウドファンディングも、16世紀に誕生した株式会社の仕組みが21世紀に甦ったと言えるかもしれません。

株式型クラウドファンディングの成功事例を目指して

Crowd Equity<クラウドエクイティ> for グリーンシート   日本クラウド証券

情報公開や詐欺対策も今後求められてきます。これらの課題に対しては、クラウドファンディング事業者がしっかりと審査や管理、運営や案件のスクリーニングを行うことが要求されています。

実は未上場企業の株式に関わる詐欺行為は非常に多く、このたびの法改正によって、このような犯罪行為がさらに助長されるのではないかという懸念があります。私も参加する「クラウドファンディング協会」では、株式型に限らずすべてのクラウドファンディング事業者が、どうすれば詐欺行為を防止できるかについての分科会を開き、情報共有を行いました。今後は消費者保護団体ともしっかりとコミュニケーションをとりながら、クラウドファンディングの健全な発展に貢献していきたいと考えています。

クラウドファンディング協会の会合で議論されたものとして、成功するクラウドファンディングは、調達額の3分の1はプロジェクトオーナーが自力で集めて、3分の1はプラットフォーム経由で集めて、残りの3分の1は不特定多数からの調達だという話がありました。株式型も同じで、クラウドファンディングでの資金調達を成功させるためには、身内や近しい人達を巻き込み、盛り上げることが不可欠となるでしょう。

クラウドファンディングにおける資金の出し手と受け手とのあるべき関係性については、「オープン」「透明性」「直接的」「継続的」といった表現が思い浮かびます。ですから、悪意のある事業者が暗躍するには、ちょっと居心地の悪い世界かもしれません。ただ、そうは言うものの、プラットフォーム事業者としては、しっかりと企業や経営者を審査をし、自分の身内を巻き込む仕組みを導入したり、上限金額を抑えたり、All or Nothing方式を導入し満額集まらなければ成立しない仕組みにしたりといった施策によって、詐欺をしようとしている人たちに、「クラウドファンディングで詐欺をするのは割に合わない」と思わせるようにしないといけないでしょう。

最後に、どういう企業が株式型クラウドファンディングを利用しようとするかについて、私個人の考えを述べます。株式型クラウドファンディングが最も向いているのは、VCやエンジェルなどが活発に投資活動をしているネットやテック業界ではなく、むしろそういったベンチャー育成のエコシステムの外にいる分野、例えば飲食、農業、町工場だったり、あるいは地方で地道に事業を行っている中小企業(酒、味噌、醤油メーカー、木工メーカー、鋳物メーカーなど)なのではないかと考えています。特に、固定客を有している企業の場合は、資金調達に成功する確率は高いでしょう。

日本クラウド証券では、未公開企業に資金調達の機会を提供するグリーンシード制度を通じて、たくさんの中小企業の資金調達を支援しています。この制度を利用した企業は延べ140社以上、調達金額総額は112億円です。資金調達を行った企業はIT系の企業よりも、地域に根を張った事業を行っている企業がほとんどで、株主も従業員やその家族、取引先、社長の友人・知人などのケースが多いです。

グリーンシート制度はセカンダリーマーケットとしての「流通市場」がありますが、それでも売買される機会は限られていますので、殆どの投資家は「長期保有」目的で投資しています。株式型クラウドファンディングの先駆けともいえるグリーンシート制度での豊富な経験を有する私たちは、株式型クラウドファンディングへの参入をいち早く表明し、今後も積極的に取り組んで行く予定です。そして、その足掛かりとして、2014年2月よりクラウドエクイティというサイトを立ち上げました。

これから日本で始まるであろう株式型クラウドファンディング。少しでも多くの人たちがこの仕組みを理解し、実際に参加することによって、日本の社会全体に活力がみなぎるようになれたら良いですね。

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