IVP LP Summit〜中国&アジアにおける、潜在的な消費者ニーズを掘り起こすスタートアップ3選

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深圳市内の様子 (CC BY 2.0: Via Flickr by Tomiaslav Domes)

先頃、筆者は Infinity Venture Partners(以下、IVP と略す)が深圳で開催した LP Summit に帯同する機会を得た。

LP Summit は年に数回、IVP が LP(ファンド出資者)を対象に投資先スタートアップを直接紹介する機会で、深圳での LP Summit には、IVP のポートフォリオの中から、特に興味深い中国や台湾のスタートアップが顔を揃えた。(前回の北京での LP Summit の様子はこちら

Tencent(騰訊)との連携で、クレジットカードの潜在ニーズに火を付ける「Yeahka(楽刷)」

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Yeahka(楽刷)が提供するのは、小売店の店頭などでクレジットカード決済が処理できるモバイルPOSカードリーダーだ。BlueTooth と連携し、スマートフォンを通じて決済センターと通信する。デバイスの姿や利用方法から〝中国版Square〟と呼ばれることも多い。

カード決済端末の普及具合を国別に見てみると、韓国は1万人あたり625台、アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア等は1万人あたり170台、これに対し、中国は1万人あたり35台と格段に低い。普及率が低いということは、将来の伸びしろが大きいということだ。この点に目をつけた Yeahka が中国全土でモバイル POSの展開を図っている。

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CEO Liu Yingqi(劉穎麒)氏

説明してくれた、Yeahka の CEO Liu Yingqi(劉穎麒)氏によれば、同社が他社の追随を許さない背景には、次の3つの理由が挙げられるのだそうだ。

  1. 店舗が購入する端末が1台700元(約11,500円)とかなり割安。しかも、導入時の店舗の与信は受付から1時間で完了する。
  2. 中国各地方政府の金融当局や銀行からライセンスを得ている。
  3. Tencent(騰訊)の決済サービス「TenPay(財付通)」と営業面で連携している。→ 詳細はこの記事を参照。

2014年に目指す取扱金額は、300億元(約5,000億円)と鼻息は荒い。2014年3月の単月だけでも、導入店舗2,700軒の獲得を目指している。

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Yeahka(楽刷)の端末

ブルーカラー労働者の就職斡旋プラットフォーム「Daguu(大谷打工網)」

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Daguu(大谷打工網)は、ブルーカラー労働者の就職支援プラットフォームだ。FoxConn(富士康)のような大規模製造会社から工場労働者の人材調達の委託を受け、ターミナル駅に候補者を集め集団面接をコーディネイトする。ユーザには予めモバイルアプリが配布されており、候補者に合ったよい案件が見つかれば、その内容が伝えられ人材を招集するしくみだ。

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CEO Ju Yifei(居易非)氏

創業者でCEOを務める Ju Yifei(居易非)氏は、上図にもあるような、ターミナル駅で候補者が集まったときの写真を何枚か見せてくれたが、日本人にとっては、高度成長期に長距離列車で上野駅へと上京してきた集団就職の風景を彷彿させる。

中国沿岸部で工業が急成長する一方、農村部には労働者は多数居るが職が無い。この需給のアンバランスから生じたニーズを、モバイルを使ってビジネスにしているのが Daguu だ。労働者が面接のために都市に出てくるための交通費は Daguu が負担している。対面面接に先立って、Daguu のコールセンターが候補者の応対を電話越しに確認しているので、クライアント企業 との面接に都市へ出て来てもらった人は、ほぼ100%が採用になるのだという。

もともとはクライアント企業からのみ料金を取り、ユーザには課金しないモデルだった。しかし、トヨタ自動車 に代表される有名企業の工場に就職できるとなると、逆にユーザからもお金が取れることが判明した(ユーザ層は異なるが、このビジネスモデルは、日本の BizReach などにも見受けられる)。今後は、リテーナーフィーがクライアント企業からもらえるようなモデルも開発中とのことだ。

Daguu は2011年1月にローンチ、3年経過した2014年1月までに Daguu を経由した就職斡旋者の数は600万人に上る。

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ジャパン・コンテンツのユーザ体験で、中国人ゲーマーの心をつかむ「Moyogame(摩游)」

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数ある中国のモバイルゲーム・デベロッパの中で、Moyogame(摩游)が他社と比べてユニークで優位なのは、複数のアプリは配信プラットフォームに参加している点だ。Tencent のアプリストア「MyApp(応用宝)」に加え、Baidu(百度)や Qihoo(奇虎)とも取引関係を持っている。すなわち、ゲームの種類、対象とするユーザ層などにあわせて、自由に配信プラットフォームが選べるわけだ。

中国に限らず、世界的にアプリのパブリッシャーよりも配信プラットフォームの方が優位に立つ傾向がある中で、Moyogame のポジションは非常に興味深い。この強みを最大限に発揮したのが、3月20日にリリースされた「黒猫と魔法使いのウィズ(黒猫維兹)」の中国語版だろう。91安卓網、360手機助手を含む、合計11のアプリストアで同時リリースされた。

これらのアプリストアのユーザには、プッシュ通知でアプリのリリースが伝えられるため、中国のモバイル人口の3分の1に「黒猫と魔法使いのウィズ」のダウンロードが促されたことになる。特に、91安卓網と360手機助手はライバル関係にあるため、同じアプリを両アプリストアで同時リリースすることは不可能なのだが、それをやってしまうところが、Moyogame の力量を物語っている。

CEO Song Xiaofei(宋啸飛)氏
CEO Song Xiaofei(宋啸飛)氏

CEO を務める Song Xiaofei(宋啸飛)氏によれば、「黒猫と魔法使いのウィズ」を中国市場向けにローカライズするにあたっては、中国ユーザが楽しみやすいように、独自の問題を数万問作成したのだそうだ。中国の通信環境を考慮し、日本のオリジナル版よりもサーバとの通信を減らし、課金方式やボーナス加点などをチューニングしたところ、ユーザのリテンション・レートが2倍以上に向上したという。

Moyogame では、gumiのシンガポール法人 gumi Asia の「幻獣姫 〜Monster Princess〜」の中国向けローカリゼーションなど、これまでにもいくつかの日本のゲームタイトルを手がけてきたが、今後、この流れを加速させたい意向で、日本の有名ゲームタイトルをのローカライズは今後5〜8タイトルが予定しており、その版権獲得の費用捻出のため年内にCラウンドの資金を調達、2015年の後半にIPOを目指している。

モバイル限定でまもなく日本上陸、台湾発のハンドメイド品マーケットプレイス「Pinkoi」

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台湾発の「Pinkoi」は、Yahoo USA で Yahoo Answers などのプロダクト・マネージャーを務めていた、Peter Yen(顔君庭)氏らが2011年末にローンチしたハンドメイド品マーケットプレイスだ。(関連記事

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CEO Peter Yen(顔君庭)氏

2013年11月現在の出品アイテム数は10万種類以上、4,000ブランド、1万人以上のデザイナーと契約している。今年1月には iOS版アプリ、3月にはAndroid版アプリをリリースし、香港、中国、日本、アメリカなどの華人コミュニティにフォーカスして営業展開を行っている。

今年の第三四半期には日本市場への本格進出を予定しており、現在は、日本の大手インターネット企業との提携を模索している。モバイル・セントリックな日本市場のトレンドを念頭に、日本へはモバイルアプリを使ったユーザ体験を武器に攻める計画だ。

iOS アプリでの購買コンバージョン・レートは、他の一般的なEコマースと比べ高い数字を誇っており、今後は、有力なメッセージアプリとの連携を図り、アジアでのモバイルコマースの領域への進出を強化してゆきたいと、意気込みを語っている。


Yeahka とDaguu は、中国社会が抱える潜在的な課題を解決しようとしている。スタートアップの多くがニッチなニーズにフォーカスしようとする中で、ネットギークではない普通の人々、そして、新しいサービスへの適応性が高く人口も多い若年層をターゲットにしているという点で、今後、爆発的な成長が期待できる分野と言ってよいだろう。

Pinkoi は、日本での知名度はまださほど高くはないが、アジアの各地で話を聞いてみると、ユーザからは「アジアの Etsy」として一定の認知が得られているようだ。日本では、同じく台湾出身の KKBOX が KDDI と提携、Spotify が日本市場への参入に手をこまねくのを横目に、au ユーザの音楽サービス Lismo は KKBOX に取って代わられた。今後予定される Pinkoi の日本進出においても、キャリア等との提携により、この分野の市場勢力図が一気に塗り替えられることが予想される。

IVP をはじめ、VC やファンドの動向を見守る中で、各社が日本とアジアの市場やスタートアップをどう結びつけようとしているか、具体的なイメージが見えてきた。今後のこの地域のトレンドを占う意味でも、遠くない機会にこれらの情報を整理してお伝えしたい。

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