国内スタートアップが仕掛けるチケットビジネスの変革

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Image by Flickr

スマートフォンシフトの流れで人々の情報接触時間は格段に変化していることを実感している。特に売買に関するビジネス環境は大きく変化し、インスタントにモノを売ったり買ったりできるStores.jpやBASEの急成長、Frilやメルカリといった新しい個人間取引の幕開けに胸躍らせる人たちも多い。

そしてここにもまたひとつ、じわりと新しい動きをみせている分野がある。チケット販売だ。

ただ一口に「チケット販売」といってもその構造は複雑で、プレーヤーも似たようなビジネスモデルでありながら分類としては違っていたりする。

そこで本稿ではこの分野で活躍するスタートアップを、二次流通マーケット、多様化するイベント管理、電子チケットの可能性という三つの視点でまとめ、それぞれについて注目しているプレーヤーにフォーカスを当てて整理してみることにした。まずは二次流通マーケットから着手する。

推定5000億円規模の国内チケット市場を狙う老舗、好調の理由はインターネット

国内のチケット販売市場規模を捉えるのはなかなか難しいが、大きくスポーツ、演劇、音楽、イベントの入場料収入がその対象にあたり、それぞれ分散している売上規模を合算すると国内だけで約5000億円規模(※)という数字がみえてくる。

そしてこの国内チケットビジネスの本命だったモデルが「プレイガイド事業」だ。

チケットぴあ[チケット情報・販売・購入・予約]

Image by チケットぴあ

コンサートなどの興行チケットは興行主から直接販売されるものの他に、流通を担ったプレイガイド事業者が窓口などで販売するモデルが長らく主流だった。この事業の開祖的なポジションを持っているのが創業1972年の「チケットぴあ」で、直近3年の売上規模は1000億円を超える。

2011年に雑誌ぴあが休刊された頃まで続いた大幅な赤字経営も、ここ数年は利益ベースで9200万円(2011年3月期)、8700万円(2012年3月期)と推移。昨年の2013年3月期には3.8億円と回復をみせた。

窓口でのプレイガイドからオンラインへの移行で力を示したのがローソン(ローソンHMVエンタテイメント)とイープラス(エンタテイメントプラス)の2社だ。

ローソンも直近3年の営業利益で16.5億円、24.4億円、28.1億円と順調に伸ばし、イープラスも公開されている情報が少ないなか、2013年から関連会社となったクレディセゾンのIRをみる限り、親会社の決算に貢献できる利益ベースでの成長を続けているようだ。

それぞれの決算の詳細はさておき、各社が口を揃えてここ数年の決算好材料として挙げているのが「インターネット事業」なのだ。そもそもチケットというのは極めてデータ的な商品で、デザインや形が問われることはないし、ある期日を過ぎれば使えなくなる。つまり、インターネット商取引にマッチした商品でもあり、この流れは当然かもしれない。

ではこれら大手に対し、スタートアップの介入する余地はどこにあるのだろうか?

「ダフ行為」から「二次流通」への脱却に挑戦するチケットストリート

2月の終わりに発行されたリリースがある界隈で話題になっていた。日本バスケットボールリーグ(NBL)がチケットの二次流通を公式に認めたというもので、この取仕切りを担ったのがチケットの個人間流通を推進するスタートアップ、チケットストリートだった。

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チケットの販売ビジネスは前述の通り

  • 興行主からの直販
  • プレイガイドによる窓口販売
  • その他の取次事業者によるオンライン販売

これらが公式なルートとして設定されている。しかし、実際には使われなかったチケットなどを個人間で売買する「二次流通」という市場があった。オンラインコミュニティやヤフオク!などでの売買、チケットセンターなどでの販売の他、違法とされるダフ行為もここに含まれる雑多な状況だった。

この二次流通を商機と捉えているのがチケットストリートになる。

チケットストリート代表取締役会長の西山圭氏によれば、日本での年間興行市場には約7000万枚のチケットが流通しており、二次流通として出回っているのが3%ほど、北米では年間で4000億円規模の市場に発展している分野なのだという。プレーヤーとしては北米でStubHubとチケットマスター、ヨーロッパではviagogo.comが主力プレーヤーとして存在感を示している状況だ。

チケットストリートは執筆時点で1万枚のチケットを流通させており、モバオク、ヤフオク!さらにバーティカルメディア運営のじげんとデータ連携するなどユーザーとの接点拡大を推進している。1年前の取材時に7000万円だった月間取引額も現在は1億円を超えている。

積極的な介入を求められるビジネス構造

では、なぜ国内ではこれまで二次流通がどちらかというとアンダーグラウンドな分野でしか発展しなかったのか。ここには業界構造の違いがその原因に挙げられるようだ。これについてはチケットストリート代表取締役の山本翔氏がこう説明してくれた。

「海外はアーティストからプロモーター、会場などの興行に関連する事業者が垂直統合されているんです。つまりチケット販売のコントロールが効きやすい。一方で日本はそれぞれのプレーヤーが分断されており、価格などの維持が難しくなる。ダフ行為がNGなのは当然としてアーティストサイドは自分たちの意思とは関係ないところでの流通を嫌うようになった、というわけです」(山本氏)。

チケットストリート|簡単・安心のチケット売買

主催者は二次流通チケットに責任を持てない。そこに注目したチケットストリートは主催者に対して二次流通の管理をコミットした。つまりトラブルも含めて請負うことで、この流通市場を自分たちのものにしようとしているのだ。自由なオンライン個人間取引だけでなく、支払仲介や発送仲介など一見すると効率の悪い「非IT的」サービスを提供しているのもこういった理由からだ。

西山氏の分析には、海外事例をみると二次流通が進めば一次流通のチケットも売れるようになるという調査結果もあるそうで、イベント事業を拡大させる上に、黙認してきたダフ行為などのグレーゾーンから脱却できるという意図も働き、興行主からチケットストリートへの関心が高まっているということなのだという。

冒頭のNBLの二次流通の公式認定はこういった経緯から実現している。

「野球などのシーズンチケットを買って行けない人の割合って大体6%ほどといわれています。でもそれが再販できるようになれば無駄になりません。チケットマスターのtm+という新サービスでは一次流通のチケットと二次流通のチケットが同じ画面で買えますし、3社ほどの二次流通サービスを買収しています。国内でもこの流通を拡大させる動きを加速させたいと考えています」(山本氏)。

こういった業界構造がしっかりしている分野に飛び込む場合、彼らの事業展開方法はなかなか示唆に富む話題が多い。


※注:経産省「ライブ・エンタテインメントに関する調査研究報告書(2013.2)およびマクロミル「2013年スポーツマーケティング基礎調査」からざっくりと推定

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