24歳のセキュリティハッカーがCTOに就任。アラタナが目指す、ECテクノロジースペシャリスト企業への道

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ネットショップの立ち上げから運営効率化まで、ECに関わるすべての業務をワンストップでサポートするアラタナが6月16日、セキュリティ事業のゲヒルンと、自社倉庫にて商品の受注・在庫管理や仕分け、発送を行う物流企業のターミナルを買収したと発表した。

アラタナは、カスタマイズ可能なECプラットフォーム「カゴラボ」や、商品ページやバナーが簡単につくれる「スケッチページ」などのサービスを提供しており、5,000社を越すECサイトに採用されている。昨年9月には、ドコモベンチャーズやリブセンスなどから、合計5.5億円の資金調達を実施。

その資金をもとに、昨年にはグループ会社としてhoneyee.comやfataleなどのファッションメディアを運営するハニカム社を買収。今回のセキュリティと物流事業への展開は、ターミナル社の物流ネットワークを通じて売る仕組みの強化と、ゲヒルンのネットショップを守る技術による、アラタナグループ全体の体制づくりが狙いだ。

さらに、今回のグループ化と同時に、ゲヒルン代表の石森大貴氏は、アラタナグループのCTOとして就任し、ゲヒルンのセキュリティ事業のみならず、アラタナ全体の技術力の向上や技術・人材教育に力を入れていくという。

セキュリティハッカーが目指す技術と社会の未来

さて、今回アラタナグループのCTOに就任したゲヒルンの石森氏とはどんな人物だろうか。石森氏は、1990年生まれの24歳。小学校の頃から、自宅サーバーの構築していたという生粋のギークだ。

「小さい頃からパソコンがあり、小学校の頃にはネットが常時接続可能な環境にあった。そうした時に、満足するサーバーが当時はなく、自分で作ってしまったほうが早いんじゃないかと考えました」(石森氏)

その後、高校時代には経済産業省の主催する「セキュリティキャンプ サーバーセキュリティコース」に参加。そこから、サーバーセキュリティなどへの活動を広げていった。2008年には、TBSが放送したドラマ「ブラッディ・マンデイ」のクラッキング行為のシーンにおける技術考察記事が話題となった。

「ブラッディ・マンデイをやっていた当時、自分自身も高校生で重なるものがあった。ハッカーへの憧れもあり、そこからクラッキングの解説を書かせてもらった」(石森氏)

このクラッキングシーンを監修した伊藤忠商事グループの情報セキュリティ会社「サイバーディフェンス研究所」からリクルートされ、高校3年生のときに擬似ハッキングによる脆弱性診断や官公庁や企業へのセキュリティコンサルを行ない、そこから現在のゲヒルンを起業した。

ゲヒルンは、技術力をもとに企業や金融機関の脆弱性診断などを行う「情報セキュリティ」、レンタルサーバーやドメインサービスなどの「インフラストラクチャ」、地震速報や防災情報を発信する「防災」などの分野において日々研究を行っている。ゲヒルンはメンバー10名程度の規模ながら、平均年齢21歳と若く、日々新しいサービスの開発や技術力の向上に取り組んでいる。また、ゲヒルンはドイツ語で「脳」を意味すると同時に、新世紀エヴァンゲリオンに登場する特務機関ネルフの前身の研究機関の名前でもある。

ゲヒルンのオフィス。壁には、自社で開発している緊急地震速報の様子がモニタに映しだされていた。
ゲヒルンのオフィス。壁には、自社で開発している緊急地震速報の様子がモニタに映しだされていた。

また、2011年3月に発生した東日本大震災では、自身の地元である石巻に対して何か活動をしたいと考えたことから、輪番停電などを呼びかける「ヤシマ作戦」をウェブサイトやTwitterで呼びかけ、大きな反響を生んだ。活動に際して、エヴァンゲリオン版権元とも交渉し、非公式ながら公認された活動となっている。

現在では、ゲヒルンの活動の一環として自社で緊急地震速報のサービスを運営し、情報発信も行っているという。こうした経験から、石森氏は他にも石巻ハッカソに参加したり、総務省、気象庁などと連携したりしながら技術を通じたサポートを実施。2013年10月に行われたTEDxTohoku2013でも、「ヤシマ作戦」などを含めた技術と社会との関係についてプレゼンテーションを行っている。

「災害情報を、的確で迅速に必要な人に届けることが必要です。そのために、技術を通じて少しでも人や社会のために何かできたらと考え、仲間とも日々研究を行っている。今あるものがもっと効率化されたり、技術を活用できたりするような社会にしていきたい」(石森氏)

アラタナ濱渦氏が目指すECテクノロジースペシャリストへの道

アラタナ代表取締役社長の濱渦氏にも、ゲヒルン買収の件について伺った。

「石森氏は以前から知っていて、アラタナのセキュリティまわりのコンサルで手伝ってもらっていた。ゲヒルンという若くて面白い会社だからこそ、常に新しい研究をやってほしく、経営や経理などのバックオフィスをアラタナが担うことで、さらなる成長ができる企業だと考えた。アラタナ全体を考えたときにも、技術力の向上という面に力をいれていきたいと考え、ゲヒルンの買収と石森氏のCTO就任となった」(濱渦氏)

宮崎県を拠点に活動しているアラタナは、すでに東京や福岡の支社を廃止し、宮崎での活動に絞っており、同じく宮崎に本社を構える商品撮影や物流といったフルフィルメント事業や店舗オペレーションを主な業務とするターミナル社を子会社化したことにより、システム構築から集客、物流、Eコマース全体を網羅するサービス提供を可能にしたという。

「目標は、ネットショップの未来をつくるです。そのために、ネットショップをつくる技術のアラタナ、売る仕組みのハニカムやターミナル、ネットショップを守るゲヒルンという体制によって、アラタナのECテクノロジースペシャリスト企業という形ができていた。ネットショップのシステムだけではなく、1から全部を出来るスタートアップはうちだけ。個人情報保護やセキュリティなど、今後ますます重要になってくるからこそ、力をいれていきたい」(濱渦氏)

アラタナグループ体制を築き、宮崎から日本一を目指そうとしている濱渦氏。数年のうちに、上場も視野にいれながら継続して成長を図っていきたいと語っている。

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