シリコンバレーの新進気鋭ファンド SV Frontier ——そのユニークなディール手法を創業者の鈴木陽三氏に聞いた

by Masaru IKEDA Masaru IKEDA on 2014.8.3

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さまざまな困難に立ち向かいながらも、多くの日本人起業家やスタートアップがシリコンバレーへと進出を図る中、彼らをサポートする日本人ベンチャーキャピタリスト、スタートアップ向けの投資ファンドも増えつつある。メルティング・ポットの典型であるシリコンバレーで、ナショナリズムを振りかざすことは無意味だが、この地で多くの韓国や中国のスタートアップやファンドが頭角を表しているのを見ていると、日本や日本人のプレゼンスはもっと高まっていいはずだ。

シリコンバレーは起業家にとってのみならず、投資家にとっても差別化が求められる地域だ。そんな中で、興味深いディールを続けている独立系ファンドがある。ベンチャーキャピタリストの鈴木陽三氏が、昨年10月に立ち上げた SV Frontier だ。SV Frontier の目指す方向と強みについて、同氏に話を聞くことができた。

デューデリは5日間、投資判断は3人で

鈴木氏は、三菱商事で10年間にわたりビジネス開発に従事していた人物だ。当時から築いたシリコンバレーでの人脈を生かしてVC業界を渡り歩き、昨年10月に独立して SV Frontier を作った。SV Frontier が持つファンドは一つで、それを運用するのは鈴木氏一人だが、ディール毎にその領域に一番精通した出資者と協働して、基本的には3人で投資を実施する形を取っている。

SV Frontier 鈴木陽三氏
SV Frontier 鈴木陽三氏

ファンドの器は一つですが、ディール毎に出資者2人に加わってもらって、総勢3人で判断するようにしています。出資者全員が日本の創業社長、というエッジがきいた構成で、個人/法人でご出資して頂いています。私はシリコンバレーに常駐し、現地でのネットワークを駆使して、情報のフィードバックや調整の役割を担っています。3人がそれぞれ、ディールの中で、得意分野にあわせて違う役割を持つわけですね。

我々のやり方は、投資先選択を一任するVC型でも、自社で運営するCVC型でもありません。この手法は、PayPal創業者Peter Thiel 氏が始めた Founders Fund のアプローチに近く、同社は YammerQuantCast への投資を成功させています。

出資者の創業社長数名とシリコバレーで同行訪問し、エンジェル投資のようなスピード感と、CVCのような支援コミットを武器に優良案件に入り、日本向けのビジネスを作っていく、一石二鳥なこのアプローチには、今後の対米戦略投資のヒントがあるかもしれません。

デューデリジェンスは最短のケースで5日間、このスピードにより、SV Frontier は新進気鋭の存在ながら、評価の高いスタートアップへの投資ラウンドに、大手有名ファンドと肩を並べて参加することを実現している。机上の数字だけに頼らない、経営者の直感がなせる投資判断も好機を逃さないことに一役買っているのだろう。

市場をディスラプトするスタートアップを、シリコンバレーで発掘

ファンドの性格を見るには、ポートフォリオを見るのが最も手っ取り早い。SV Frontier がこれまでに投資したスタートアップの顔ぶれを見てみることにしよう。

Aarki

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Aarki のツールを使って作られる、リッチメディア広告。

Aarki は、モバイル向けのビデオやリッチメディア広告を提供するスタートアップだ。SV Frontierの共同投資家として、日本のインタースペース(東証:2122)、アメリカからPlug & Play VenturesWalden VenturePandoraSoundHound に投資)、Scrum Ventures(J-Magic を創業し、ミクシィ役員を務めた宮田拓弥氏によるファンド)が出資した。既に、ニューヨーク、ロサンゼルス、北京、エレバン、マニラにオフィスを開設しているほか、日本市場への進出を本格化させており、先週、広告制作プラットフォーム Aarki Studio の日本語版をリリースした

<関連記事> モバイル広告とリワードサービス、新進気鋭スタートアップ3社が考える、イノベーションとアジア展開(Aarki CEO Sid Bhatt 氏の対談)

Appurify

Appurifyappurify_logo は、サンフランシスコを拠点とするモバイルアプリのテストを自動化するスタートアップだ。SV Frontier を通じて、日本のテスト自動化ベンチャー「シフト」とデータセンター大手「ビットアイル」が出資に参加した。投資判断に関わったのは、鈴木氏のほか、シフトの丹下大(まさる)社長、ビットアイルの寺田航平社長だ。投資が実施されたのは今年2月のことだが、それから4ヶ月後に行われた Google I/O で、早くも Appurify が Google に買収されたことが明らかになった。

Boomtown!

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Boomtown。

Boomtown は、小売店POSメンテナンスの Uber と言えるだろう。小売店鋪が Clober、PayPal、Square などに対応しつつある昨今、POS システムがこのようなクラウド系決済システムに対応するニーズが急増している。通常、一般的なシステムメンテナンスであれば、対応するエンジニアには幅広い知識が求められるが、Boomtown ではサービスの提供範囲を絞ることで、売上ベースで一件の対応で100ドル位、粗利で50%くらいを実現している。

創業者の Alfred Khan は21歳で最初のスタートアップを立ち上げ、3回のイグジットを成し遂げたシリアルアントレプレナーだ。同社への出資には、Visaの元President (2009-2013)、Visaの2部門の両グローバルヘッド、Pandoraの元取締役、oDeskの初期従業員、H&Q Asia Pacific の創業者兼会長などが参画した。

IT課題解決出張サービスの Geek Squad が2002年 BestBuy に買収されており、Boomtown もこれに似たようなイグジットの可能性が考えられるようだ。POS システムのクラウド化の波は日本にも訪れているので、Boomtown が日本に上陸するか、もしくは類似サービスを提供するスタートアップが日本で立ち上がる可能性もあるだろう。

Teleborder

teleborder_logoTeleborder は、シリコンバレーを目指す起業家には、身近な存在になるであろうスタートアップだ。最近、日本のスタートアップ・シーンを賑わせている Bizer にも少しコンセプトが似ている。アメリカ国籍を持たない起業家が一般的に取得する H1-B ビザを取得する場合、弁護士に支払う必要のある手続料は概ね3,500ドルだ。しかし Teleborder では、このルーティンワークを遠隔や在宅で業務できる paralegals(弁護士補佐)にクラウドソーシングすることで弁護士の作業を極小化し、例えば通常3,500ドルかかるH1-Bビザの取得コストを1,900ドルで提供することに成功している

世界中から優秀な人材を集めようとするシリコンバレーの企業では、社員に対するビザ取得のサポートを行っていて、複数名の専任スタッフを雇っていたり、弁護士と契約していたりするケースも少なくない。この費用をクラウドソースの力でディスラプトしようという試みだ。

Teleborder への出資は Sun Microsystems 創業者が立ち上げた Khosla Ventures がリードし、日本からは East Ventures も出資している。

<関連記事> Got visa problems? Teleborder raises a Khosla Ventures-led seed round to solve employee immigration issues (Pando Daily)

本稿では詳述しないが、これ以外にも SV Frontier として、いくつかのスタートアップに投資実績があるとのことだ。興味のある人は、鈴木氏の CrunchBase にあるプロフィールをチェックしてみるとよいだろう。

〝面白いスタートアップ〟を増殖させるには…

スタートアップの将来を予測するのは難しいことだが、ここまで彼らのポートフォリオを見て来て、少なくとも面白いスタートアップが顔を揃えているように思える。投資判断に先立ち、数字の上でのデューデリジェンスはもちろん実施した上でのことだろうが、むしろ、世界のトレンドを創り出すような、アメリカ以外の市場に持ち出しても重宝されるサービスを提供している点に、可能性を見出すことができる。

スケールや細かい手法の違いこそあれ、SV Frontier のような、あるいは鈴木氏が言っていた Founders Fund のような、創業社長である出資者が投資先の選定やファンドの運営に深くコミットする事例は、おそらく日本にもいくつか存在するのだろう。

そこから生まれるエコシステムが、これまでには実現が難しかったトレンドをスタートアップ・シーンに新しくもたらすことになるのか。SV Frontier や鈴木氏の動向に今後も注目してゆきたい。

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