ピボットし、ファッション業界とともに「新品」と「ユーズド」が共存する世界をつくる「Material Wrld」の矢野莉恵さんにインタビュー

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Rie-Yano-Material-Wrld「Material Wrld」のファウンダー、矢野莉恵さん

2013年4月に正式ローンチした「Material Wrld」は、テイストメーカーのクロゼットの中身が買えるという斬新なコンセプトが注目を集め、拠点NYを中心に話題になりました。その後、2013年12月に事業形態をピボットし、現在ではラグジュアリー ファッションのトレード・イン事業を展開しています。ファウンダーの矢野莉恵さんにお話を伺いました。

ファッション業界にもたらす「新しいものと古いものの共存」

Material-Wrld-brands

「トレード・イン」というのは下取りのことで、例えばアップルストアやその他家電や車などでも一般的。古いiPhoneをアップルストアの店舗に持って行くと、査定して買い取ってくれて、買取額をストアクレジットとしてもらえる。顧客は、古い持ち物から生まれたお金で新たにアップルの製品を購入する。中古車事業では、CPO(Certified Pre-Owned )といって、中古車をメーカーが認証することで再販売する市場が存在します。

この「新しいものと古いものの共存」をファッション業界にも持ち込もうというのが、ピボットした後のMaterial Wrldが目指すこと。従来、ユーズド商品を敬遠したファッションブランドや百貨店。そもそもお客さんには今季の新作を買ってほしいし、eBayやその他オフラインの委託販売はブランディングにもふさわしくない。ところが、Material Wrldの新たなビジネスに関してはブランドや百貨店も乗り気です。

もう着なくなったラグジュアリーファッションのアイテムを買い取り、その買い取り額をBloomingdalesなどの百貨店やブランドのギフト券の形で提供する。お客さんはそのギフト券でまた新たな商品を購入する。実際、Material Wrldのお客さんは、平均するとギフト券の2倍の額を買ってくれるそう。現在の買い取り対象ブランド数は130で、アイテムはどれもオリジナル価格が300ドル以上のもの。

「リセールの業界にはさまざまなモデルがありますが、いつも次のコレクションが頭にある買い物好きな人が対象であるため、手間なく手放せて売れることが大切です。また、ファッション業界と組むことで高いオファー額を実現し、スケールすればするほど魅力的なオファーを提供できます。ブランドや百貨店と組むことによる信用力や安心という価値にもつながっています」

価格エンジンで買い取りに透明性と信頼性を

買い取りの具体的な流れはこう。売りたいアイテムがあるユーザーがMaterial Wrldで登録すると、既にラベルが貼られた返送用の箱やガイドラインなどが入った買い取り用のキットが送られて来る。電話一本でピックアップしてくれて、2、3営業日以内にMaterial Wrldから買い取り額のオファーがある。その価格で良いという場合は、複数のギフト券のなかから欲しいものを選ぶと、それがEメールまたはギフトカードの形で届く仕組み。

Material Wrldがユーザーにとって魅力的な理由はいくつかあります。まず、前述したブランドや百貨店と組んでいることから生まれる安心感。既存のオフラインの買い取りは、買い取り額が低くなりがち。というのも、お店はアイテムを買い取った後、それが売れた時の価格に応じて最終的な査定額を決める仕組みなんだそう。250ドルで買い取ると言われたものが、最終的に10分の1にまで下がってしまうことも珍しくない。Material Wrldはこの不透明さを完全に解決してくれる。

「Material Wrldでは、セラーにとっての安心感や透明性を大切にしています。そこで肝となる部分が、価格エンジンです。取り扱う130ブランドと、シャツ、セーターなどアイテムの種類を選ぶと、サイト上のジェネレーターが買い取り額の幅を提示してくれるんです。アイテムを査定のめに送った後に、実は買い取り額がだいぶ安かったなんて嫌なサプライズを取り除きます」

Alexander-Wang-pricing

例えば、Alexander Wang(アレクサンダー・ワン)のセーターを売る場合、ジェネレーターを使うことで22ドル〜52ドルの買い取り額であることが一目でわかります。あらゆるブランドとカテゴリーのオリジナル価格とリセール価格をトラッキングし、過去の買い取り額をもとに算出される価格エンジン。毎月更新することで、常にマーケットバリューを適切に反映しています。この透明性がセラーの心をつかみ、ピボット後のセラーのリピーター率は25%を誇ります。

「売る」と「買う」は別のプラットフォームで

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買い取ったラグジュアリーアイテムをどうしているかというと、その9割をeBayで販売することで収益にしています。通常のマーケットプレイスでは「売る」と「買う」をひとつのプラットフォームで行うことが多い。Material Wrldは敢えてそうはしていません。

「ブランドと組むことでファッションの流通モデルを変えたいと思っています。ユーズドを売ることを同じプラットフォーム上でやってしまうと、ブランドから賛同を得ることが難しくなります。また、そもそも私たちが扱うラグジュアリーアイテムに関しては、セラーとバイヤーが完全に異なるんです」

Material Wrldのセラーは都心に住む30代から50代の女性で、年収1,000万円以上の人。都市でいうと、ニューヨークが3割、他にはロサンゼルス、マイアミ、サンフランシスコなど。一方のバイヤーはというと、ブランドものは好きだけれどフルプライスには手が出ないという人たち。学生から30代まで幅広く、「いいものをいい値段で買いたい」というニーズの持ち主だと言います。

セラーのニーズに応える既存サービスに加えて、この秋にもThe Wrldというリコマース専用のサイトを立ち上げる予定。将来的には、中古車にCPOがあるように、ブランドにユーズド商品を承認してもらうことで透明性を高めるような構想もあるそう。

また近く、ハンドバッグの買い取りも開始します。査定額がアイテムのコンディションにより依存するハンドバッグに関しては、モバイルで5枚まで写真を撮ることができる。枚数が多いほどより正確な査定額を知ることができ、とにかく手間を省きたいという人は写真1枚で済ませることもできます。

購入の時点でトレード・インすることを考える文化を

Material-Wrld-website

初期のMaterial Wrldの構想も面白いものでしたが、事業をスケールし、ファッションが流通するモデルそのものを変えるには弱かったと振り返る矢野さん。

「インフルエンサーを巻き込んでやっていた時は、コンセプトが面白いとすごく話題にしてもらいました。当時からラグジュアリーを扱いたいと思っていたのですが、マーケットプレイスで自分のクロゼットの中身を投稿したいというユーザーは10代、20代の若い女性であることがわかりました。その後、いろいろ試すなかで、ラグジュアリーを好む人にはクロゼットの公開より、売る際の面倒な手間を省いてほしいというニーズが高いことがわかって今の形にピボットしました」

Material Wrldでは、さまざまなブランドや百貨店と組んだリアルイベントも実施。例えば、百貨店「Steven Alan」に不要なラグジュアルーアイテムを持って行くと、Material Wrldが店舗のショールームで週末をかけて商品を委託販売してくれるようなイベントも。結局100人ほど店舗に集客し、販売額の半分をキャッシュで手にしたセラーは、またその場で新しいアイテムを購入していきました。

「お客さんのトラフィックが生まれるため百貨店も満足し、お客さん自身も売って、また新しいものを買えるためハッピーです。この時のパイロットで、キャッシュの代わりにギフト券を提供すれば、さらにお店で新しいものを買ってもらえるサイクルが生まれるとヒントを得ました」

今後は、Material Wrldクレジットのような独自のものを用意したり、例えば百貨店なら100ドル、特定のブランドなら120ドルといった形でチャネルに応じてギフト券の価格を変えることも試していくと言います。また、売れなかったアイテムを、「dress for success」というチャリティ団体に寄付できる連携も開始。恵まれない女性の就職活動をサポートする団体で、スーツの提供から面接の支援まで幅広くサポートしています。

生まれ変わり、新たに順調なスタートを切ったMaterial Wrldはこれから何を目指すのでしょうか。

「車や家を買う時って、月日が経って手放す時にいくらで売れるのかを考えるますよね。同じように、ファッションのブランド品を買う時も、買うその時にトレードインすることを考えてくれるような仕組みをつくりたい。この大きな変化をベンチャーだけで生むのは難しいので、そこはブランドや百貨店と一緒に取り組んでいきます」

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