Alibaba(阿里巴巴)とTencent(騰訊)、Apple Payの中国進出を迎え撃つ

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Appleは先日、オフラインの実店舗で使えるNFCを用いたモバイル決済サービスApple Payを、発売予定のiPhone 6に搭載することを明らかにした

AppleのフォロワーたちはApple Payの到来を予測していた。しかし、Appleが店舗内決済に目を向け始めているという最初の予測から、昨日の発表までは数年もの時間を要した。2011年、BloombergはAppleが小企業向けにNFCの決済プロトタイプに取り組んでいるというアナリストのコメントを引用した報道をしたことがある。

先日のイベントの前には、Google、Amazon、Squareなどのスタートアップがそれぞれ、財布をスマートフォンで置き換えることを目指したアプリやサービスをローンチしていたが、彼らの取り組みに時間がかかっていたことから、AppleはiPhoneがテクノロジーのメインストリームになるだろうと楽観視している

現在中国では店舗内のモバイル決済の採用が急速に進んでいる。2014年1月の時点で、Eコマース大手Alibabaは、同社で人気のAlipay Walletアプリからモバイル決済ができるように設計された端末を、全国3万店を超える店舗で設置した。同社広報によると、現在の小売パートナーにはセブンイレブンやファミリーマートなどのコンビニエンスストアのほか、バーガーキングも含まれている。

一方、Tencentは8億1400万米ドルを投じてBaidu、Wanda Groupと合弁会社をローンチし、同社で人気のWeChatメッセンジャーで中国においてモバイル決済を促進することを目指している。WeChatを使って、ユーザはタクシー乗車の予約をしたり映画のチケットを購入できる。両社とも店舗内のモバイル決済の金額を公表していない。しかし1億のAlipay Wallet登録ユーザと、4億3800万のWeChat月間アクティブユーザというユーザが存在しているのは事実で、インフラは確実に拡大している。

とりわけ政府の複雑な銀行規制や店舗内モバイル決済に対する不明確な姿勢を考慮すると、Apple Payは少なくとも1年は普及することはないだろう。とはいえ、Appleが実際、アメリカの店舗内モバイル決済でリードし(そうでないかもしれないが)、TencentとAlibabaが中国でリードするならば、 この3社は衝突するのだろうかなどと考えさせられる。もしそうなら、どのような衝突が待ち受けているのだろう。

Alibaba、Tencent、Appleが店舗内モバイル決済にコミットする動機は、あるレベルまでは同じである。取引や手数料処理の形態でのマージンが低いことは解決済み事項であるが、それでも店舗内モバイル決済は、関わるユーザの多さゆえに魅力的な分野だ。LineやWeChatなど、スマートフォンで最も一般的に利用されているモバイルメッセンジャーが、ゲームやスタンプでいかにしてドル箱になったか考えてほしい。

1日に何回もテキストメッセージを送るように、私たちはコーヒーや歯磨き粉などのモノを毎日購入しているのだ。セブンイレブンに入店した瞬間からコーラを手にして店を出る瞬間まで、私たちは小売店や広告主からスマートフォンを通して購買意欲をそそられるような影響を常に受けている。

だが、市場側からすると、まだ始まったばかりなのだ。その結果、AlibabaやApple、Tencent、Googleなど、リーダーシップを発揮できるポジションにいる有名企業はそれぞれ試行錯誤していくことになるだろう。他方、事業戦略となると、AppleはTencentやAlibabaから差別化することができなかった。

一つには、Appleは現在も、そして今後もまずはハードウェア企業であり続け、ソフトウェア(またはインターネットサービス)に関しては二の次に考えている。他のライターたちがこれまで何度も指摘してきた通り、同社は差別化やハードウェア(iPod)を販売し利鞘を稼ぐためにソフトウェア(例えばiTunesやiTunes music store)を活用したことがある。

さらに、ハードウェア分野の競合とは違い、同社は売れる価格帯で全ての商品を全ての顧客に販売しようとは決して考えていない。代わりに、価格帯の高いハイエンドを唯一目指し、顧客の興味をかきたて忠誠心を高めるために、差別化路線を歩んでいる。

一方AlibabaとTencentは、インターネット分野に関わるほとんどの企業同様、できるだけ多くのユーザを獲得することで成長に拍車を掛けている。Taobaoは、広告料や認知度を高める別の方法でマネタイズを行っているが、Tmallは掲載費や販売手数料で収益を上げている。

Tencentは自由に利用できるQQデスクトップメッセンジャーでもゲーム関連の購入ができるように、WeChatと全く同じ方式を適用してマネタイズしてきた。ハードウェアに関しては両社とも大きな売上には結びついていないが、Alibabaは自社開発のYun OSを搭載したセットトップボックススマートフォンを販売するためにメーカーと提携している。

AlibabaとTencentによるモバイル決済への投資は、まずユーザの獲得に努め、収益はその後であることを示している。小売とのパートナーシップに向けた競争に勝つことそれ自体が目標で、ハードウェアの販売増へつなげることではない。最終的に店舗内決済からの実際の利益が目標に届かないとしても、Tencentアプリを使う時間が多ければTencentにとって勝ちである。

同じことはAlibabaにも言える。AppleのビジネスモデルがTencentやAlibabaと異なることを考えると、AppleがTencentやAlibabaのように決済に積極的になるインセンティブは少ないのだ。

皮肉にも、Appleの先進技術は、中国ではアキレス腱になるかもしれない。AlibabaとTencentが店頭での支払いに用いる技術は、意図的にローテクである。Alibabaは音波での伝送とバーコードを用い、Tencentはベンダーに、QRコードのスキャンしてもらう。

このような簡便な技術は、消費者がどんな携帯電話を持っていたとしても、受け入れるハードルを下げてくれる。AppleはNFCに依存しようとしているが、これは中国の小売店がまたひとつ新しい形の支払端末を準備しなければいけないことを意味する。これは彼らの手に余るかもしれない。

より可能性の高いシナリオは、AlibabaとTencentがAppleの後を追い、NFC普及の波に乗るというものである。Alipay WalletとWeChatは従来の支払い方法に加えてNFC機能を加える可能性があり、対応する支払機器を小売店に安価または無料で供給するようになるかもしれない。

そうすれば、Appleは後から参入できるようになる。だが、スマートフォンメーカーは、AlibabaやTencentよりさらに早く、NFC装備の動きに乗ってくる可能性が高い。より多くのスマートフォンがNFCを装備し、Alipay WalletやWeChatを装備するようになるだろう。これらのアプリを通して、AlibabaやTencentは、顧客により多くの値引き情報やセール情報を送り込むことができる。

Eコマースの伝統もなく、頼りになるクロスプラットフォームのソーシャルアプリもない状況で、Tim Cook氏の率いるAppleチームは、中国で厳しい競争を強いられることになるだろう。

Appleに吸引力があるのは間違いない。だが、中国市場におけるApple Payの件に限って言えば、その吸引力は発揮できないかもしれない。

【via Tech in Asia】 @TechinAsia
【原文】

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