報道陣より速くニュースを伝えるアプリ「Spectee」、本格展開に向けて開発は着々と進行中

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テレビのニュース番組においても、ソーシャルメディアから拾ってきた動画や写真が、ニュース素材に使われるケースは増えてきた。もともと CNN や Fox News などは早くから YouTube や Twitter などから頻繁に素材を拾っていたが、この種の動きには足取りの重い NHK でさえ「***で撮影されたとみられる映像」とクレジットして、撮影者や出所不詳の素材を地上波に乗せるようになったのは、時代の大きな変化と言えるだろう。

メディアがどんなに発達しても、速報性という点では、どんな記者もニュースアンカーも、既に現場にいる一般市民にはかなわない。このとき、敢えてメディアが持つ存在価値というのは、情報を編集する力だろう。一見わかりにくい事象を、タイムラインを遡ってコンパクトにまとめ、情報を消費する多くの人が理解しやすいようにするという作業だ。

ソーシャルメディアが発達した現在、情報の編集力こそがメディアに残された最後の砦だったように思えるのだが、それをディスラプトしようとするスタートアップが現れた。世界中で起きている出来事がわかるアプリ「Spectee(スペクティ)」を開発するユークリッドラボだ。

今年7月にルクセンブルクで開催された ICT Spring で、このイベントに参加していたユークリッドラボの村上建治郎氏からは Spectee の話を聞いていたが、このときは Spectee は開発の初期段階にあったこともあり、筆者もその全貌をまだ理解できないままでいた。あれから数ヶ月が経ち、Spectee はどのようになっただろうか。渋谷のオフィスに村上氏を訪ね話を聞いた。(以下、ビデオは ICT Spring 2014 でピッチする村上氏)

地域に根ざした情報マイニングを支える、独自エンジンの開発

Spectee はソーシャルメディアで発信された情報を集約し、ジオタグやキーワードをもとに、地域毎に起きている事件やイベントを整理して表示することができるプラットフォームだ。現在、日本国内に約60ヶ所の地域が設定されており、そのエリアで起きている出来事をテキストと画像で把握することができる。

βローンチしてから、あまり大きな声で告知してこなかったのは、ソーシャルメディアから情報を引っ張ってきて、整理して表示するエンジンのチューニングに傾倒していたから。位置情報をベースに解析、情報をフィルタリングし機械学習させることで、エンジンの精度を上げています。(村上氏)

7月の ICT Spring 以降、NTT東日本やシスコシステムズなどと共同で、青森ねぶた祭などライブイベントを通じた Spectee の実証実験を行ってきた。最近で言えば、時節柄、日本各地の学祭の模様が大学毎に Spectee で情報閲覧できるようになっている。

地域に根ざした情報が取れるプラットフォームという点では、Spectee は新聞社等にとっても魅力的のようだ。メディアが多様化する中で新聞社は苦戦を強いられているが、日本に限らずアメリカなどでも、メジャー紙より地方紙の方が健闘している、というのが村上氏の見方だ。

例えば、北海道の地方新聞社のケースを考えてみよう。外電は特派員が居なくても通信社のニュースを買えばいい。東京発のニュースは、同じく通信社や系列新聞社の記事を配信してもらえばいいだろう。しかし問題は地元のニュースだ。あの広大な北海道の各所に、隅々まで記者を配置するのはコストもかかる。でも、Spectee を使えばどうだろうか。記者にとって、一次情報が捕捉できるツールとしては有効に機能するだろう。

インターネットでは、基本的にアクセスが多いものが上位に表示されるようになっているから、ローカルな情報は探しにくい。オーデイエンスが少ないと、情報が埋もれていってしまいます。Spectee であれば、そういう情報をうまく引っ張りあげられるしくみになれるのではないでしょうか。(村上氏)

Spectee は現在、ソーシャルメディアのみをクロールしているが、今後、クロール対象を他のメディアにも拡大し、世界中のローカルニュースを集めるプラットフォームになることを目指している。

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新聞社が市民からニュースを買う時代に——革新的なビジネスモデル

ソーシャルメディアの普及により、事件や出来事は瞬時に世界に拡散する時代となった。情報の速報性ということに限れば、もはや新聞やテレビなどの既存ニュースメディアのスピードをも上回る。

今年3月に起きた、渋谷での高速道路の火災の事例などを見て思いました。事件があると Twitter などにはすぐに写真がアップロードされます。しかし、事件が発生してから一般のメディアが取り上げるまでには、最低でも60分はかかっています。(村上氏)

村上氏のもとには、新聞社、鉄道会社、キュレーションメディアなどから提携や協業の申し出が舞い込んでいるようだ。彼らに対して情報を配信することで、ユークリッドラボは売上を確保することができる。その売上の一部を、Twitter などで写真やテキストをアップロードしたユーザに還元するようなモデルを模索している。市民が新聞を購読するのではなく、市民が新聞社にニュースを買ってもらう時代の到来だ。

ユークリッドラボでは、地方のニュースにも強い Spectee の特色を生かし、ターゲット・オーディエンスをよりフォーカスでき、全国統一のマーケティングよりも単価を高く設定できるローカル広告でも売上を出せるようにしたい、と鼻息は荒い。

香港の民主化運動についての情報を集めた事例(画像の一部を加工しています)。
Spectee で、香港の民主化運動についての情報を集めた事例(画像の一部を加工しています)。

スマートグラスで、現地の今が〝見える〟

Spectee は iOS 向けのアプリのみが公開されているが、実は Android 向けにもアプリを開発中で、Android Wear 用のプロトタイプ版のアプリも存在する。

今年9月にベルリンで開催された IFA 2014(Internationale Funkausstellung)にはソニーと共に出展、ソニーの Smart Eyeglass 向けに Spectee のアプリ(Android Wear 用プロトタイプ版)を提供した。

日本では情報が中央(=東京)に集中してしまっていますが、ヨーロッパは情報が地方に根付いているので、Spectee はウケがよいようです。実際に、IFA に来られたお客さんの反応も上々でした。(村上氏)

ユークリッドラボのチームは現在7名。村上氏のほか4名の開発陣に加え、シリアルアントレプレナーの内田友幸氏や、医療サービス大手ケアネット創業時のエンジニアで、ビジネスへの科学適用分野の権威である海野一則氏らが取締役に名を連ねる。

ユークリッドラボは現在、Orange Fab Asia のインキュベーション・プログラム第2期に採択されており、11月25日のデモデイでピッチ登壇するそうだ。THE BRIDGE ではこのデモデイをカバーする予定なので、近日中に改めて彼らの雄姿をお伝えすることができるだろう。

Sony Eyeglass に搭載された Spectee(ベルリン、IFA 2014 にて)
Sony Smart Eyeglass に搭載された Spectee(ベルリン、IFA 2014 にて)

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