参加者数は6年で50倍成長、北欧最大級のテックイベント「Slush」にかけるフィンランドの思い

by Yuki Sato Yuki Sato on 2014.12.19

Slushにて対談するガンホーの孫泰藏氏とSupercellのイルッカ・パーナネン氏
Slushにて対談するガンホーの孫泰藏氏とSupercellのイルッカ・パーナネン氏

10月、11月は、欧州で大規模なテックイベントが開催されるシーズンだ。筆者もいくつかのイベントに足を運んだが、中でも印象的だった11月18日、19日の2日にわたって開催されたヘルシンキのテックイベント「Slush」を振り返ってみたい。

Slushがスタートしたのは6年前のことだが、2008年に開催された初回のSlushに集った参加者は約200名。小規模で内輪な集まりからスタートしたイベントながら、その後年々規模が拡大し、去年のSlushには約7000名が集まった。そして、今年はというと、主催者の情報によれば1万3000名が参加したそうだ。実に去年からほぼ倍増という驚きの成長ぶりだ。

参加者の多国籍な顔ぶれ、アジアからの参加も目立つ

Slushに参加してみて驚かされたのは、その参加者の多国籍さだ。主催者の情報によれば、今回のSlushには79カ国から参加者が集まっているという。中心となるのは、フィンランド、スウェーデンなどのスカンジナビア諸国、エストニアなどのバルト三国、ロシア、ドイツ、英国などだ。他の欧州のイベントと比べて、北欧、バルト三国からの参加者の存在感が強い点は、地理的な条件を考えれば当然であろう。

とはいえ、それ以外の国、特にアジア地域からの参加者の存在も予想以上に目立っていた。たとえば、私が開催日の前夜に開かれたオープニングパーティーで最初に言葉を交わした人は、インドからやってきていた。「なぜ、インド!?」と驚きを隠せなかったのだが、聞けばインドでSlushが開催したローカルなピッチコンテストで優勝し、ヘルシンキへの航空券を獲得したのだという。

そう、Slushは参加者の多国籍化に非常に熱心だ。東京も含めて、43カ国71都市でワールドツアーを行い、Slushのブランド認知の向上に努めてきた。また、さまざまな都市でローカルなピッチコンテストを行い、優勝者には本場ヘルシンキのSlushへの航空券を贈呈するという大盤振る舞いをした。その効果もあって、Slushの参加者のインターナショナルな顔ぶれが実現している。前述のインドのスタートアップのCEOも、以前は欧州市場にはほとんど関心がなかったと言いつつも、積極的にネットワーキングをし、欧州のマーケットについて学ぼうと努めていたのが印象的だった。

アジアの中では特に韓国のスタートアップのブースが多く、印象に残った。
アジアの中では特に韓国のスタートアップのブースが多く、印象に残った。

このように多国籍化に注力するのも、フィンランド自体が国際的な企業の育成に努めているからではないかと感じる。人口500万人強と国内市場が小さいフィンランドは、国外のマーケットで成功できるかがどうかが企業の成長の鍵となる。「Day1からグローバル市場を目指す」というマインドセットは、フィンランドをはじめ、同じく国内市場が小さいスカンジナビア諸国、バルト三国の多くのスタートアップに共通する。だからこそ、他国のマーケットの状況や文化の違いを学ぶことに熱心であり、また英語が堪能である人も多い。たとえば、日本市場拡大を目指しているラトビアのスタートアップ infogr.amのCEOのUldis Leitertsは、Slushについてこのように話す。

Slushは地元のスタートアップにとって、世界に踏み出すための入口のような存在です。アジアとのコネクションもとても強い。私はSlushで、infogr.amと同様に日本を目指すスタートアップをいっぱい探し出しました。2日間で、たくさんの面白い人達と知り合うことができました。

日本からは三木谷浩史氏と孫泰蔵氏が登壇

日本とのつながりで言えば、今年は楽天の社長、三木谷浩史氏がフィンランド、エストニアとの首相とのディスカッション、ガンホーの代表である孫泰蔵氏がSupercellのCEO イルッカ・パーナネン氏との対談で登壇し、大きな注目を集めていた。

特に、SupercellとRovio(ロビオ)という有名なゲーム企業を輩出し、その後に続かんとばかり、ゲーム開発スタートアップが立ち上がっているフィンランドにおいては、ゲーム市場が抜群に大きい日本は要注目マーケットであることは間違いない。そういう意味でも、日本とのコネクションは現地スタートアップにとって重宝されるのではないかと感じた。

日本人の存在感という点で言えば、私自身が欧州で参加した他のテックイベントと比較すれば、その存在感はずっと大きなものだった。日本まで行かずとも、日本人と情報を交換できるというメリットは私自身も享受できたのだった。

まるでロックコンサート、カンファレンスというよりフェスティバル

また、Slushについて特筆すべきは、その熱気あふれる雰囲気だ。会場はまるでロックコンサート会場のよう。メイン会場は照明のカラーごとに、シルバーステージ、グリーンステージ、イエローステージなど5つのステージに分けられ、各トークやパネルディスカッション、コンペティションなどのプログラムが分刻みで行われていく。

その洗練されたスタイリッシュな雰囲気は、写真から多少感じていただけるかと思うが、実際に会場に足を踏み入れた時のその熱気には、かなり圧倒された。これまでもベルリンや周辺都市のテックイベントにはいくつも訪れて、常にその洗練された会場づくりには毎回感心させられていたが、Slushは中でも圧倒的だった。

赤い照明の「レッドステージ」で開催されたSpotifyのCEOによるトークセッション
赤い照明の「レッドステージ」で開催されたSpotifyのCEOによるトークセッション
人気プログラムは二階席も人でぎっしり。
人気プログラムは二階席も人でぎっしり。

また、Slushのメインプログラムが開催されたのは、ヘルシンキの中心部から電車で10分ほどの場所に位置するメッセであるが、その会場を越えて、Slushはヘルシンキの街全体を巻き込んで開催されていた。たとえば、前夜祭は中心部で開催され、また参加登録も中央駅など街の何カ所かに登録所が設置されていた。そうしなければ、さばききれない数の参加者がチケットを購入していたからだ。そして、クロージングパーティーもローカルなバーと提携し、バーが集まる活気のあるエリアを中心に、いくつも会場が設けられていた。

Slushの会場を出た後、トラムの中で現地の買い物帰りの女性に「Slushってなんかすごいみたいね。どうだった?」と聞かれたのが印象的だった。スタートアップという、ともするとクローズドになりがちなコミュニティを越えて、Slushの存在はヘルシンキの市民にも大きな印象を与えているのだ。

スタートアップシーンを越え、ヘルシンキという街の風物詩のような存在にもなりつつあるSlush。同イベントのCEOであるMiki Kuusi氏は、Slushの目標について次のように語る。

私たちの夢は、映画はカンヌ、ファッションはミラノであると言われるのと同様に、国際的に成長している企業といえばフィンランド、という位置を確立することです。アジアと米国のトップレベルのCEOが毎回Slushに参加するようになった時に、その目標が達成されると言えます。

その思いがまた来年のSlushに引き継がれ、さらに国際色豊かなイベントになることを期待するばかりだ。

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