研究者がベンチャーキャピタリストになった理由ーー佐々木氏、プライマルキャピタルを始動

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またひとり、日本の起業を支える現場に新しいベンチャーキャピタリストが生まれた。

創業期の企業への投資事業をおこなうプライマルキャピタルは1月20日、公式にその活動を公開した。運営にあたるファンドの代表パートナーは佐々木浩史氏。独立系ファンド「インキュベイトファンド」の出身で、2014年2月の1号ファンド、同年11月の2号ファンドの総額で3.6億円を運用、現在、動画制作のCrevoを運営するPurpleCowなど9社の支援を実施している。

佐々木氏は84年生まれ、同年代にはすでに独立を果たしているANRIの佐俣アンリ氏、Skyland Venturesの木下慶彦氏や、BEENOSの前田紘典氏らといった新進気鋭の若手キャピタリストたちが並ぶ。佐々木氏もまた、彼らと同じく30代を迎えたばかりの新鮮さを持ちながら、その出自ーー研究者であったという独自の世界観で、仲間と共に勝負をかける。

ところで私がよく取材先で出会うベンチャーキャピタリストは金融系事業、例えば銀行だったり証券会社といった出身の方が多い。「ファンド」という金融商品を取り扱うわけだから、当然ながらその分野の知識と経験を有していなければ投資業務はできない。

ただ、こと「スタートアップ」での投資は少し風景が違うように思う。まだ事業もできていない、売上もなければ、成長角度も出せない、つまり事業を「定量的」に測ることができない状態の企業を彼らは選別し、その未来を予想しなければならない。

その際、多くの投資家、エンジェルたちが口にするのが「人」への評価、見極めの力の大切さだ。

結局事業は人であり、起業家、創業者がどこまで心を決めて、折れず、粘り強く、しかしながらしなやかに周囲の状況を判断して突き進めるのか。支援者にはその見極め、もっというと「直感」が必要になる。これは金融知識とは全く別の能力だ。

佐々木氏とプライマルキャピタルのユニークさを説明する前に、彼がなぜ研究者からベンチャーキャピタリストになったのか、その経緯を説明した方がいいだろう。

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「私、体が小さくて悩んでたんです。体の悩みを解決できる研究ができたらいいなと思って大学(東京水産大学/現・東京海洋大学)を選びました。大学院までいって、食品メーカーと共同研究などやってましたね」(佐々木氏)。

学生時代、理系の研究者として予防医学・食品化学の研究に携わった佐々木氏は、研究に打ち込む一方、ひとりの研究者としてできることの限界を感じ、7年間の研究生活から心機一転、化学品メーカーへ就職。そこでマーケティングなどそれまでと全く違う経験を積んでいたのだそうだ。

「元々会社員としては2、3年を区切りと考えて就職したんです。それで、そろそろ転職を考えて戦略系のコンサルなどを漠然と考えてました(佐々木氏)」。

次を模索していた時に彼が出会ったのが週末だけで起業するイベント「Startup Weekend」だった。そこに参加者として参加する一方、運営のサポートなどにも携わる。

そこで彼が出会ったのが、佐々木氏を育成することになる独立系投資ファンド「インキュベイトファンド」のゼネラルパートナー、和田圭祐氏だった。

「2012年のOpen Network Labで和田さんと出会ったんです。コンサルへの転職などを考えてるって話をしたら、『外部から評論しているだけでいいのか?』って言われて。当時の和田さんは日本にはまだY Combinatorのような存在はない、だから俺たちが創るんだって活動されている真っ最中でした」(佐々木氏)。

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インキュベイトファンドのメンバー/写真上左から3人目が和田圭祐氏

こうして佐々木氏は和田氏に導かれ、インキュベイトファンドでアソシエイトとしての一歩を踏み出すことになる。もちろん、金融の知識はほぼ「ゼロ」だ。

佐々木氏は手探りの状態ながら、Startup Weekendでのイベント運営の経験をそのままインキュベイトファンド主催のキャンプイベントで発揮、多くの起業家たちと触れ合い、1号となるファンド組成を経験することになる。このあたりの経緯についてはやはりインキュベイトファンドという前衛的な独立系ファンドが新しい人材を育成しようという意識がはっきりと感じられる流れだと思う。

私事で恐縮だが、私の拙い取材経験から言っても、多くの起業家と出会う機会は自然と人を成長させてくれる。この起業家はどういう思いで、どう動き、どう諦めるか。佐々木氏もまた、インキュベイトキャンプという「起業家だらけ」の現場で、自身を成長させたのだと思う。

佐々木氏が研究者であったというバックグラウンドは実はここに生きてくる。

「もちろん「ガチ」で研究開発している方々の深みを理解することは難しいですよ。でも、(元研究者として)共感はできると思ってます。彼の世界観がどうやったら達成できるのか、ひたすら話を続けて答えを見つける。彼はものを作るし、私はその最初のブースターとして最大限の資金を提供する」(佐々木氏)。

彼らは金貸しではない。また支援者のような上から目線の存在でもない。あくまで起業家と共に歩むパートナーでありたいのだ。であればあるほど、同じ価値観、時にはそれは年齢であったり、趣味志向であったり、共通の言語が大切なものだったりする。佐々木氏を認める人たちは彼の中に、異業種での経験値と共に、そういう共感力を感じたんじゃないだろうか。

一方で、まだこの世界に足を踏み入れてたったの3年、まだまだ駆け出しであることは間違いない。この世界でそういった評価を吹き飛ばすには結果しかないのもまた事実だ。

金融のプロとしてインパクトのある事業を生み出すことが使命と語る佐々木氏。支援先企業も非公開ながら数社話を聞いているので、その仲間たちと共に踏み出す新しい一歩を引き続きお伝えしたい。

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