台湾のスタートアップ・シーンは今——台北と高雄の最新スタートアップ・ハブ&インキュベータを訪ねて

by Masaru IKEDA Masaru IKEDA on 2015.1.2

台北101の高層階から、台北市内を望む。
台北101の高層階から、台北市内を望む。

台湾のスタートアップ・シーンは、これまで AppWorks(之初創投)TMI(台湾創意工場)という2つのインキュベータによって牽引されてきた。

AppWorks は、台湾の有名投資家 Jamie Lin(林之晨=リン・ジーチェン)氏が創設したインキュベータで、半年に一度の頻度でインキュベーション・プログラムを実施、毎回20社前後のスタートアップを輩出している。他方、TMI は Google China の元CEO で、北京のインキュベータ Innovation Works(創新工場)の創業者として知られる Kaifu Lee(李開復)氏らが台湾で立ち上げたインキュベータで、最近では台湾/シンガポール拠点のクラウドファンディング・サイト HWTrek を運営していることで、その名をアジアで広く知られるようになった。

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台湾発のスタートアップで、創業時にこれら2つのインキュベータと無縁だったところは皆無だろう。ここ数年間で AppWorks や TMI が築き上げてきたのが、台湾のスタートアップ・シーンにおける第一の波と定義するなら、そろそろ第二の波が来てもいいころだ。台湾からユニコーン(時価総額10億ドル以上のスタートアップ)はまだ生まれていないもの、500 Startups や Y Combinator などシリコンバレーの名だたるインキュベーション・プログラムに選出されるスタートアップも数が増え、コミュニティの醸成も進んできたからだ。

12月に台湾で ASIABEAT というスタートアップ・ショーケース・イベントが開催されたが、これにあわせて、台湾での経済産業省の外郭団体に当たる資訊工業策進会(III=Institute for Information Industry、通称トリプルアイ)が、最新の台湾の最新スタートアップ・シーンを巡るツアーを企画してくれた。この機会を通じて得られた知見を読者諸氏と共有したい。

Foxconn が台北市中心部に建設するハードウェアラボ「Star Rocket(鴻海三創)」

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台北市中心部に位置する台北駅から車で5分程行ったところに、台湾を代表する電気街である光華商場がある。規模こそ秋葉原には及ばないが、ソウルのヨンサン電子商街、北京の中関村などと並んで、インターネット以前の時代からアジアのITを牽引してきた象徴的存在だ。ここでは、秋葉原の高架下やラジオ会館のように、数多くの小規模な小売店舗が軒を連ねてひしめきあっていたが、建物の老朽化と地域美化の観点から台北市政府が付近を一掃、そこには、目を見張るような白く巨大な建物が誕生した。Star Rocket(鴻海三創)だ。

Star Rocket を建設・運営するのは、アップルから iPhone を受託生産した EMS(Electronics Manufacturing Service)で知られる Foxconn(社名としては鴻海=ホンハイ、ブランド名としては富士康=フーシーカン)だ。Foxconn はかねてよりスタートアップのインキュベーションには積極的で、中国国内では2014年、北京市内にハードウェア・インキュベータ Innoconn をオープン、韓国の動画作成サービスを提供するスタートアップ「Shakr」などにも協業支援している。

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Star Rocket(鴻海三創) 陳泰谷(Tai-ku Chen)氏。台湾では〝スタートアップ界の金城武〟と呼ばれている(これ本当)。

Star Rocket の責任者である陳泰谷(Tai-ku Chen)氏によれば、Star Rocket は外観は完成しているものの、目下内装工事中であり、まだ内部は見られないのだとのことだ。あと数ヶ月もすれば、最初のハードウェア・インキュベーション・プログラムが開始される予定なので、その様子を見にぜひ訪問したいと思う。一説によれば、秋葉原に誕生したハードウェアラボ DMM.make AKIBA も Star Rocket や前出の Innoconn などの設備を参考にしたと聞く。ハードウェア・スタートアップの一大拠点となることを期待したい。

余談だが、Star Rocket はかなり大きな建物なので、台北市内を縦貫する高速道路上からもよく見える。その外観は QRコードを模しているが、陳氏によると、この模様はスマートフォンなどで QRコードとしては認識できるのだが、認識してもサイトへの誘導もアプリの起動も何もアクションが起きないとのことで、参加者の笑いを誘っていた。

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台湾屈指の大企業20社が支援するインキュベータ「Garage+」

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Garage+ Jason Lu(盧志軒)氏

おそらく、台北市内で最も新しいインキュベーション・スペースが「Garage+」だ。台湾有数の大企業20社が資金を提供するNPO「時代基金会(Epoch Foundation)」が昨年10月に開設した施設で、ヘルスケア、グリーンテック、イノベーション全般のスタートアップにシード資金の提供ほか、メンタリング、人材支援、コワーキング・スペースを無償提供している。

台湾でグルメ・レコメンデーション・アプリを展開する「Option Fantasy(愛食記)」のチームのほか、アジアで人気の写真共有アプリ「Snapeee」を提供する日本のマインドパレットも、台湾オフィスを Garage+ 内に構えており、筆者が訪問したときには、彼らは台湾での事業展開に向けて議論を白熱させていた。台北松山空港から車で10分、桃園空港からも直行バスが近隣に停車するという、台北の繁華街中心部の便利なロケーションにあるので、機会があれば、Garage+ プロジェクトマネージャーの Jason Lu(盧志軒)氏を訪ねてみるとよいだろう。

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からすみ工場改め、エンターテイメント・スタートアップ前線基地「DAKUO」

台湾南部・高雄(カオシュン)までは台北から台湾新幹線に乗って90分。日本の植民地統治時代、当時の三菱造船が作った造船所があったことから造船業・海運業が盛んだった街だが、アジアの他の都市の多分に漏れず第二次産業は衰退の一途をたどっており、高雄市政府は新たな産業の育成を強いられている。

そんな中、2006年から市長を務める Kiku Chen(陳菊)氏が、高雄をエンターテイメント・ビジネスの一大生産拠点とすることを提案、映画向けのCG制作やアミューズメント・パークの設備制作会社などを台湾の内外から誘致してきた。その陳氏が以前ロサンゼルスを訪問した際、インキュベション・スペースを視察する機会に恵まれ、高雄の産業育成にスタートアップの存在が欠かせないと考えた彼女が、インキュベーション・スペースを作った。高雄市数位内容創意中心、通称、DAKUO(Digital Art Koushiung United Office)だ。

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高雄の日本統治時代の呼称〝タカオ〟にちなんで DAKUO(ダクオ)と名付けられたこのインキュベーション・スペースは台湾随一の大きさを誇る。オフィス内は完全にシックでダーク調のデザインで整えられているが、その昔はからすみ工場だったということで、所々に当時の面影をうかがい知ることができる。市長肝入りのインキュベーション・スペースということもあって、ここに入居できるのは、ゲームや映像などエンターテイメント系のビジネスを営むスタートアップに限られる。

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Dakuo 外観。このビルの3FがDAKUOで、高層階は共同住宅になっている。

残念ながら高雄市内に拠点を持つ投資家は皆無なので、スタートアップにとっては、ひとたび資金調達ともなれば台北まで出かけていくことになるが、なにぶん新幹線で90分なので移動も苦にならない。訪問した夜、高雄市政府が開いてくれたパーティーでは、筆者がこれまでにアジア各地で会っている起業家の顔ぶれも少なくなかったので、クリエイティブな事業に専念すべく、台北の喧騒を離れ、高雄に根を下ろすスタートアップは結構いるようだ。

最新アトラクションを世界中のアミューズメント・パークに送り出す「Brogent(智崴資訊)」

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この年末年始にも、アミューズメント・パークで家族や恋人と楽しい時間を過ごしている読者は少なくないだろう。技術の進歩により、バーチャル・リアリティを使った大掛かりなアトラクションも決して珍しくなくなったが、このようなアトラクションは、いったい、どこのどんな会社が作っているのだろうか。

その一つが、ここ高雄に拠点を置くBrogent(智崴資訊)だ。世界中のアミューズメント・パークやゲーム・アトラクションを展開する企業から注文を受け、映像や音声と連動するアトラクション設備を開発・生産している。我々にとって身近で、かつ、Brogent を一躍有名にしたのが、昨年7月に富士急ハイランドにオープンしたアトラクション「富士飛行社」だ。

富士飛行社以外にも、ゲームと連動して座席が動くアトラクション、カナダを西岸から東岸まで鳥のように飛ぶ感覚を覚えるバーチャル・リアリティなど、彼らの制作実績を体験させてもらったが、残念ながら制作コンテンツの権利関係の都合上、撮影は一切 NG ということだったので本稿では紹介できないが、ご容赦いただきたい。

映画産業のハブを作るには、一昔前であれば、京都・太秦の映画村の大きなものを作り、映画祭を誘致すればよかったのだろう。しかし、ハリウッドがあり、ボリウッドがあり、上海影視楽園があり、映画業界も容赦なく国際的な競争にさらされるようになった今、スタジオ設備よりも、ソフトウェア力や専門スキルを持った人的リソースの結集こそ、勃興の要になるのかもしれない。

高雄港の船上から、高雄市内中心部を望む。
高雄港内のクルーズ船から、高雄市内中心部を望む。

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