納得できる医療のために−共同経営者で代表取締役医師が就任したメドレー社が目指す医療現場の情報改革

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(左から)執行役員の石井大地氏、代表取締役医師の豊田剛一郎氏、代表取締役社長の瀧口浩平氏
(左から)執行役員の石井大地氏、代表取締役医師の豊田剛一郎氏、代表取締役社長の瀧口浩平氏

メドレー社は2月3日、疾患別医療情報提供サービス「メドレー」のα版をリリースした。あわせて、2月1日付で代表取締役医師の豊田剛一郎氏が就任し、現メドレー代表取締役社長の瀧口浩平氏とともに共同経営者として事業を推進していく。

これまで、病気に関しての知識や治療法、病気に関する悩みや不安、病院の情報などはウェブサイトや個人のブログ、書籍などさまざまなメディアに掲載されているが、時に信ぴょう性や医学的に見て必ずしも妥当ではない情報が広がっていることがある。個人の医師がSNSやブログなどで正しい知識などを発信し続けてもなかなか多くの人に届かないのが現状で、膨大な情報量の中で信頼できる情報にたどり着くことが難しいという課題が医療分野にはあった。

そこで、「メドレー」では病気の正しい知識を医師の手で患者や家族に伝えるために、医療従事者による監修のもと、病気に正しい知識や解説やアドバイス、ニュースなどの医療情報、患者の治療体験談などさまざまな情報を集約し、疾患ごとに一覧化し、検索しやすいようにしたウェブサイトとなっている。

例えば、病院の待ち時間でタブレットでサイトを見てもらいながら病気についての知識を知ったり、自宅で検索しながら病気に関する情報を学べる場所として利用することができる。

メドレーα版では、2ヶ月で500名もの医療従事者からの情報収集を行い、医療従事者からの協力を募り、患者に知ってほしい情報を複数の専門家の視点で確認し、蓄積していくという。α版では、情報の投稿に際しては投稿者は医師としての身分を保証するために勤務地や指名などを記入し、メドレー側が医師確認と専門分野などを確認して情報を書き加えていく。リリース時には、患者数が多くニーズが大きい糖尿病や脳梗塞、心筋梗塞、うつ、胃がんなど約100疾患の情報を掲載し、さらに医療従事者らがここに対してさらなる追加や修正を加えていく。

医療現場の課題を解決するために

さて、メドレーについて記述してきたが、いったんここでメドレー社についてもいくつか紹介したい。

社長の瀧口氏は、家族のがん治療の経験を通じて、医療現場における医師と患者との間における情報の非対称性や、医療現場そのものの非効率さなどを目の当たりにしたことから、医療の課題解決を図るために2009年にメドレー社を設立。

メイン事業であるジョブメドレーは、医療介護職専門求人サイトだ。医療分野では資格をもちながら就業していない人が多い反面、現場では人材不足が問題になっている。特に地方では資格や経験が活かされていない状況がある。そこで、人材不足や地方の医療格差を解消するために、成果報酬型の求人サイトをスタートした。

「ほぼすべての医療介護分野の求人を扱っている。求職者のニーズにあった求人選択ができ、転職や復職を希望して会員登録をする人も増えており、4半期毎に20%ずつ増えてきている。現在では、求人案件数 2万3000件以上、登録者数3万人を超えており確実な成長フェーズに入っていて安定的な収益も確保している」(瀧口氏)

JobMedley
ジョブメドレー

求人をつうじて医療のサービス現場の環境改善を図ってきた瀧口氏は、次に医師と患者における問題解決を図りたいと考えた。その一つが、患者の病気に関する知識不足だ。

病院では、設備の充実さや医師の得意分野などによって違いがあるが、普段の私たちはそうしたことを意識していないことが多い。しかし、患者側が医療や病気に関する知識を知り、リテラシーを向上させ、患者自らが医師に対して能動的な相談や病気に対しての議論をおこなうようになれば、医師が患者に対して病気の基本的な説明を省くことができ、医師自体も今以上に技術の向上に勤しむこともできる。

「患者側に正しい情報を知ってほしいし、医者側も正しい情報を伝えたいという考えがある。しかし、普段の業務などで医師個人や病院ができることは限られている。だからこそ、民間の企業ができることはあるはず」(瀧口氏)

そこで、小学校からの幼なじみであった豊田氏と、医療における正しい情報提供ができる仕組みができないかとアイデアを出してきた結果、豊田氏がメドレー社にジョインし、さらに新事業であるメドレーの最高責任として新事業を統括。経営全体を瀧口氏が統括し、新事業である医療情報サービスのメドレーは豊田氏による最高意思決定のもとに事業を展開する体制となった。

ここで豊田氏の紹介をしてみよう。豊田氏は、2009年に大学を卒業し、その後浜松の病院で臨床研修などを行う。その後、海外の医療状況に興味をもち、米国の病院にて1年間留学。米国医師免許を取得し、小児脳の研究を行い、英語論文が米国学術雑誌の表紙を飾った経験ももつ。

「海外の医療を経験して、日本の医療現場の忙しさや都市と地方における医療格差を実感し、多くの医師は常にどうにかして医療の現場を変えていきたいと考えている。しかし、医師は普段の業務で忙殺されていて悩みはあるけどアクションが起こしづらい。そこで自分でアクションを起こすために、まずは医師以外の分野が必要と考えマッキンゼーに就職し、ヘルスケア業界の企業コンサルなどを通じて、色々な業界の経験を積むことで、社会的なニーズやビジネス思考など医療者とは違った視点を得ることができた。そこから、まずは患者に正しい情報を伝えるための基盤となるものが必要と考え、瀧口ともにその考えを形にできるサービスが作れる状況になった」(豊田氏)

メドレーα版のキャプチャ
メドレーα版

当初は、豊田氏責任のもとでリリース時の疾患の情報を掲載。豊田氏のこれまでの経験をもとに医師たちに声をかけ、メドレーへの情報提供の協力をお願いしている。医師の多くは、患者に正しい情報を伝えたいという強い思いがあり、しかもかつて医師の現場を経験してかつ実績もある豊田氏がサービスを立ち上げるということで、多くの医師がメドレーに全面的に協力しているという。

「α版では、直接声をかけた医師たちをベースに協力してもらい、リリース時に作った情報のフィードバックをもらいながら500人の医師の視点で情報を監修し、再編集しながら情報を充実させていく。ベータ版からは、実際に患者さんにも利用してもらいながらサービスの再設計を行っていく予定」(豊田氏)

サービスのシステムや開発は、執行役員の石井大地氏が一手に担っている。石井氏自らも、起業家としてこれまでにいくつもの会社を経営してきた経験があり、瀧口氏の思いに共感し、メドレー社に2014年の秋頃からジョインし、瀧口氏と豊田氏の構想を形にするための開発に取り組んできた。

「病院の中の人がすべてをやろうとするのではなく、僕たちのような民間企業と連携しながら、機敏に行動してくことで情報も素早くアップデートしていくことができる。本来は、こうしたサービスは国がやるべきことかもしれないが、構造上の問題から作ることは難しい。だからこそ、ベンチャーが形を示して突破口を作ることができれば。メディアであると同時に、公共性の高いサービスとして僕らは考えている」(石井氏)

当面は、メドレーでマネタイズを図らずに情報の精査やサービスの充実化を図っていく。ジョブメドレーで収益を確保し、公共性の高い医療情報サービスのメドレーを運営していく形だ。共同経営のもとに、医療情報に関しては豊田氏責任のもとで運用しているのも、ビジネス側の視点が入り込まないようにするためのガバナンス上の理由がある。

今後の展開として、メドレーにおける情報が充実したならば、製薬会社や病院の広告事業をもとに収益を確保していくことも検討している。

今回のメドレーは、いわば医療分野に特化し、かつ医師が書き込むWikipediaといったものと言えるかもしれない。一般的なWikipediaは集合知で構成されているが、正しい情報かそうでないかの判別は難しい。メドレーでは、情報の正しさや正確さを第一に考えた、精度を限りなく高くしていることがポイントと言える。

メドレー社は、今後の事業拡大にあわせて、事業拡大のための資金調達も今後検討しており、現在いくつかの投資家などとも話を進めているという。

医療分野は、専門知識などさまざまな参入障壁がある分野であり、これまでなかなかベンチャーが活躍する場がなかった。しかし、医療分野で長年サービスを展開してきた瀧口氏や医療現場での経験がある豊田氏が、こうしてベンチャーに参画して医療分野の変革を図ろうと取り組んでいる。ITやテクノロジーを通じて、新しい医療のあり方を模索するメドレー社が目指す医師と患者の橋渡しの形が、医療分野に風穴を開けることを期待したい。

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