驚くべきタイのオンライン消費トレンド、InstagramをEコマースアプリへと変えてしまうLINE

mark-bivens_portrait本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens によるものだ。フランスのスタートアップ・ブログ Rude Baguette への寄稿を、同ブログおよび著者 Mark Bivens からの許諾を得て、翻訳転載した。(過去の寄稿

The Bridge has reproduced this from its original post on Rude Baguette under the approval from the blog and the story’s author Mark Bivens.


バンコク中心部にあるショッピングモール「Siam Paragon」。
バンコク中心部にあるショッピングモール「Siam Paragon」。

最近、調査のためにバンコクを訪れたとき、タイのEコマースの可能性に対する過小評価を吹き飛ばすような、消費者の購買行動をこの目で目撃した。ちなみに、私が国外で一般的な消費者行動を観察する秘訣として、公共交通機関が使えるときはタクシーや Uber の利便性に頼るのを避けるようにしている。今回のケースでは、電車の中で興味をそそられる行動パターンを観察した上で、ランダムに人々に質問をしてみた。

欧米には、東南アジアの驚くべきEコマースの可能性に気づいている投資家があまりいない。少なくとも、シンガポール以外の国々に対しては。Rocket Internet だけは例外だ。容赦のないエグゼキューションを迫る彼らのビジネスモデルが東南アジアでも通用することを証明しただけでなく(Zalora、Lazora などが好例)、すばらしいオペレーションで訓練された起業家を従え、市場を開拓している。

Rocket Internet 以外では、最近注目を集めているのは、Sequoia Capital によるインドネシアへの投資だ。この地域への投資は、バンコク、シンガポール、精通した日本の投資家など一部によるものに限られている。

事情通によれば、中国におけるEコマースの普及率は現在10〜15%(偶然だが、欧米の普及率とほぼ同じだ)。一方、タイでは専門家によるとEコマースの普及率はせいぜい0.5%程度である。

バンコクに滞在中、幼い子供や老人を除く独身男性は、ほぼ皆が街を歩いたり地下鉄に乗ったりしながら、iPhone や Android を抱えていた(タイでは、Android の方が一般的)。モバイルのネットワークは強力で信頼性が高かった(3G はどこでも、一部地域は4G)。都市部を出ることはなかったが、タイのモバイル普及率が約150%で、うち、スマートフォンの普及率が35%〜40%、それがほぼ倍になろうとしているという記事を読んで、合点がいった。

つまりまとめると、6,500万人いるタイの全人口に対して、9,000万枚のSIMカードが発行されており、2,000万人がインターネットにアクセスでき、Eコマース普及率は0.5%しかないのに、コマース単体で取扱高10億ドルを超えているというのだ。その可能性について、話を進めてみよう。

この背景には、タイにおける LINE と Instagram の使われ方にヒントがある。

LINE は、タイではドミナントのメッセージング・プラットフォームで、3,300万人の登録ユーザがいる。LINE の会社発表による最近のデータによると、LINE の MAU (月間アクティブユーザ)は2,900万人に迫る勢いだ。ある投資家は、彼女の母が複数の友人サークルのために複数の異なる LINE グループを使っていることを話してくれたのだが、このことからもわかるように、LINE はごくごく日常的な使われ方をするものとなり、直接出会う以外で対話するのに最も信頼できるコミュニケーション・チャンネルとして急速に成長した。

銀行振込の支払証明のために、LINE で写真を送る人がいるという話も聞いた。つまりは、人々は、クレジットカードの決済インフラよりも、LINE を信頼しているということを物語っている。

line_stats_oct2014

Instagram に関しては、タイは世界中で最も多いユーザ人数を抱えており、現在のユーザ数は200万人台と見積もられる。バンコクのショッピングモール「Siam Paragon」は、2013年に Instagram で最もチェックインの多かったロケーションだ(2014年は第4位)。

top_instagram_locations

何が驚くべき消費者購買行動だったというのだろう? 細かいことを言えば、彼らの行動は純然たる M-Commerce (モバイルコマース)とは言えない。むしろ、IL-Commerce(Instagram-LINE コマース)とでも言うべきだろうか。

instagram_line_commerce1

IL-Commerce は次のように機能している。

  • 商品販売者は Instagram アカウントを作成、商品の写真を投稿する。
  • 女性向けファッションを売っている販売者が最も一般的だが、他の商品カテゴリもあるようだ。
  • Instagram にある販売者のプロフィールを見てみると、そこには商品の宣伝文句が並べてあって、LINE の ID も掲げられている。右に示したのは、その典型的な例だ(クリックして拡大)。

この Instagram ページに出会い、写真紹介されている商品が欲しいと思った消費者は、LINE でその販売者に連絡を取り、最終的にはオンライン決済をすることになる。販売者は LINE を使って、将来お客になってくれる人に直接働きかけ、信頼を築くことができる。LINE を使ったこのやりとりを通じて、販売者とお客は取引を終え、商品に満足し、しかもお客は生きた人間を相手に値引交渉することもできる。相手がショッピングカートではできないことだ。

instagram_line_commerce2右に紹介する販売者は実に賢明で、Instagram のロケーション欄に LINE ID をセットしている。こうすると、Instagram のページの一番頭のところに LINE ID が表示されるのだ(クリックして拡大)。

この IL-Commerce の購買行動が LINE モールを補填または代用するものになるかどうかはわからないが、私がインタビューした人たちは、他の誰かから聞いた話として、まず Instagram で全体的に商品を眺めてから、LINE をコミュニケーション手段として使うのが好みだ、と話した。

Eコマースの分野において、タイから得られるインスピレーションがあるように思う。先進国のブリック・アンド・モルタルの小売業者が、その硬直した固定コスト構造をオンライン販売に向けた可処分所得の移行に適合させようと取り組んでいるが、LINE のようなメッセージアプリを使って、エンゲージメントという顧客ニーズに応えるという考え方は、このような小売業者の悩みを解決する方法になり得るように思える。

統計データの確認や間接的なインスピレーションについては、次の人物に協力を得たので謝意を表する。

Orn Euaungkanakul (Instagram/LINE user), Prinda Pracharktam (Co-Founder Glazziq.com), Aim Charoenphan (MD of Hubba), and Adrian Vanzyl (Co-Founder of Ardent Capital)。

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