社会性の高い事業や独自の新技術をもとに、世界へ発信を。M&A経験者による地方ベンチャーの生き方も語られた、全国Startup Day in東北

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全国各地の起業を促進するため、トーマツベンチャーサポートとサムライインキュベートが企画している「全国Startup Day」。大阪、札幌、中部、関東、九州、中四国と、これまでに全国各地の会場でイベントを開催してきた。イベントの内容は、VCらによるトークセッションと、各地域から選ばれたスタートアップたちによるピッチが行われる。3月には、各地域でグランプリを獲得したスタートアップたちによるファイナルプレゼンが行われる。

今回は、全7都市の最終地域である東北の様子をレポートする。2月14日に開催された同イベントは、大雪の中熱い議論やプレゼンが交わされた。まずは、「成長ベンチャーを生み出す秘訣とは?」と題したパネルディスカッションの様子を伝える。

会津をシリコンバレーに、という夢を追いかけて

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会津ラボの久田氏。

パネルディスカッションは、オプトVC事業部菅原康之氏、MAKOTO 代表理事竹井智宏氏、会津ラボ代表取締役久田雅之氏、モデレーターにサムライインキュベート玉木諒氏が登壇した。パネルディスカッションは、当初の予定を変更し、2014年11月19日に日本エンタープライズにM&Aを行った、スマートフォンアプリ開発の会津ラボの久田氏の話を軸に会津でベンチャーを始めること、地方でベンチャーを経営することの意味について話が行われた。

会津ラボは、コンピュータ理工学を専門とする会津大学発のベンチャー企業として、2007年1月に設立。同大学との連携を活かし、コンピュータ科学・技術を活用したスマートフォン向けアプリを中心としたソフトウェア開発を行っている。1993年に設立された会津大学だが、会津にはそれまで四年制大学がなかったことから、会津の人たちにとっても悲願の大学でもあったという。久田氏は、その一期生として卒業。もともと教員として大学に就職が決まっていたが、学長で恩師である國井利泰氏から「会津をシリコンバレーに」という思いをもとに、教員を辞退し、ベンチャーを設立したという経緯がある。

コンピュータサイエンスを専攻する大学なのか、技術をもとに学生起業をする割合の高い会津大学。しかし、研究開発を行うベンチャーはあまりおらず、どちらかというと受託や制作メインな企業体が多かったという。そこで、ベンチャーとして新サービスやプロダクトづくりをしようと考えた久田氏。。しかし、会津ではVCなどはほとんどおらず、資金調達の難しさに直面した。

「東京に頻繁に足を運びながら、VCと話をしていたが、当時はネットバブルが崩れたあとでなかなか難しかった。また、当時は事業計画などもよく理解していなかったので、VCの人たちに一蹴された。さらに、アイデアベースでプロダクトもまだ作りきれてなかったことなど、今振り返ると反省点ばかりだった。会津にはそうしたファイナンスまわりが見れる人材がいない。これは、会津だけでなく地方が抱える問題かもしれない」(久田氏)

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菅原氏は、「VCにも色々な立場の人がいる。特に事業系VCの人たちは、モノがきちんとあるか、事業計画ができているかで見極める。個人や独立系VCはビジョンや起業家個人の資質を見極めようとする。一括りにVCといっても、色んな種類がいることを知ってほしい」と述べた。

その後、政策金融公庫などから融資をいただくも、当時はまだマネタイズできていなかったことあり、そこから受託のスパイラルにはまっていった、と久田氏。特に地方は受託スパイラルにハマったらなかなか抜け出せない、と自身の経験から苦言を呈した。

求められる起業家としての本質とビジョン

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MAKOTOの竹井氏。

久田氏は、恩師の國井氏の考えをもとに、ネットが発達した将来に向けて、地域や国を越えてどこでも仕事できる環境はできる時代のために、会津で成功事例を作ることに意味がある、と考え拠点を会津から動かさずに事業を展開していた。菅原氏がサポートする京都を拠点に活動し、スクショサービスGyazoを展開するNOTAを事例に出しながら地方でも世界に通用するサービスやブランディングを行うことの重要性について指摘した。

竹井氏は、支援者側のマインドセットとして、Skypeやテレビ電話など、遠隔でコミュニケーションが取れる方法を積極的に活用することが大事だと語る。もちろん、はじめの信頼関係を築くためには対面は必要かもしれないが、ある程度の信頼関係を築くことができれば、遠隔コミュニケーションを通じて地方と東京とった地理的な問題を解消することができる、と語る。

さらに、地方が考えるべき問題として、人材がある。人材獲得の一つに、海外人材を地方に連れてくる、という考えもあるのではと竹井氏。「海外企業で働いた経験のある人材は、東京に行くよりも地方都市にいることで、さまざまな価値を生み出すことができる。そうした人材が働ける場所を用意することも重要ではないだろうか」(竹井氏)

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会津ラボでも、スリランカなどのIT企業で働いていた人材を雇用しているという。会津大学は、コンピュータサイエンス専攻の大学と同時に教員の半数近くが外国人というグローバルさがあり、かつ英語も学士から必須ということからグローバルへの壁は低い。その外国人スタッフは、現地では月給数万円で働いていたということからも、技術をもった人材を獲得し成長を促すためにも海外に目を向けることの必要性はあるのでは、と久田氏。その後、紆余曲折ありながらも日本エンタープライズの社長とコミュニケーションし、ただの開発で終わるんのではなく、会津をシリコンバレーにしたい、という久田氏の考えから、支援する形でM&Aへと至ったという。

「起業当時の何もわかっていない頃から5年以上がたち、色々な経験を積んできた。今回のM&Aは一つのきっかけにすぎない。最初の起業を通じて、創造することの意味もわかった。これまでの経験をもとに、新しいチャレンジをしていきながら、会津を盛り上げていきたい」(久田氏)

よく、ベンチャーを成長させるときに、人脈が大切友いわれるが、その人脈を作るためにも、起業家自身が持っている資質や目指しているビジョンが重要になってくると竹井氏。「久田氏のように、会津をシリコンバレーに、という思いが人を惹きつける何かをもっている。人脈をつくるためにも本質的な問題としてその人個人が考えるべきものが大きい。東北は奥ゆかしさがあるが、ベンチャーの世界ではもっとアグレッシブに、積み上げで計算するんじゃなく、大きな目標を掲げて、その大きな目標にむかって突き進む人であってほしい。地方からもそうした大きなビジョンを持って行動する人を支援していきたい」と語る。

菅原氏も、成長するかどうかの一つの判断軸として、誠実さや日々のコミュニケーションが重要と語る。「表現が自分勝手だったり、日々の所作ややりとりにおける細部がなおざりな人は、ユーザやクライアントのこと、ひいては事業全体のことを丁寧になりきれない可能性がある。事業計画もそうだが、起業家としての資質として、人を大事にしたりといった、気配りや細部にまでこだわる人は地方からでも生まれてくるはず」とコメントした。

東北地方発のスタートアップたち

パネルディスカッション後は、東北を拠点に活動するスタートアップ8社のプレゼンが行われた。ここでは、注目のスタートアップをいくつか紹介する。

TESS:足こぎ車いすで障害者に新しい機会を(グランプリ)

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従来、車いすは身体に障害のある人の移動手段として捉えられていた。しかし、車いすに乗るということは足を使う機会が減り、結果として身体機能の低下を促し、寝たきりになってしまう可能性もある。さらに、障害のある人へのリハビリテーションの歩行訓練は、手すりに使ったりという通常歩行を目指そうとするが、なかなか回復の目処が立ちづらい。

そうした課題を解決するために取り組んでいるのがTESSの足こぎ車いす「profhand」だ。人間の脊髄が持っている歩行中枢による反射機能をもとに、片方の足を動かせば、もう片方の足が仮に麻痺したりして動けなくなっても、反射を通じて足を動かすことができる。これは、生まれたての赤ちゃんでももっている原子歩行と呼ばれるものを通じた機構となっており、東北大でこれまで20年間研究されてきた。その研究をもとに、脊髄反射が生まれやすい足やペダルの角度を調整してるという。また、車椅子はパラリンピックの競技用車いすを開発している企業からの協力で作られている。

この足こぎ車いすを使ったことで、それまでまったく足が動かせなかった人が足が動くようになり、自然と筋力を使う機会が増え身体機能が回復するようになった。例えば、脳梗塞を患っていた人が回復したり、足が不自由だった人が歩けるようになったりという事例もある。

すでに、学会などでも発表されており、反射を利用したさまざまな介護製品を開発していきたいという。今後は、リースや少額で月単位でレンタルできるような仕組みを作る予定だ。

東北マイクロテック:3次元LSIの開発(トーマツ賞)

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LSIは、メモリ、演算回路、制御回路、入出力回路、センス回路、増幅回路等の回路ブロックから構成されている。一つのチップの中に多くの回路ブロックを入れたマイクロプロセッサチップは、多機能化や高速化を目指して開発されてきた。回路規模が大きくなるほどチップ面積は増加し、回路ブロック間の数mmの配線によるデータの遅延、電力消費が問題になってきた。

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そこで、三次元LSIは回路ブロックを構成する部分を別々に切り離し、重ねて、チップ間をチップを貫通させた配線で接続する構造をもったLSI。これによって、データ処理速度を向上させ、消費電力も抑えることができる。しかし、問題は製造コストだ。チップを重ねるために、細かな調整や、それこそ手作業をする必要がある。そこで、東北マイクロテックでは自己集積化技術を開発し、製造コストを抑えるための技術を確立したという。

2018年には、その新しい生産技術を使った三次元センサLSIを生産開始し、イメージセンサに活用していきたいという。

ファウディオ:ポケットにおさまるDJシステム(サムライ賞)

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一般的に、DJやるのにアナログターンテーブルとアナログミキサーや、CDJとデジミキサー、パソコンとコントローラーといった機材を用意して演奏しなければいけない。そそのため、セッティングなどに時間がかかたり、機材の調達や配線で苦労することもある。

そこで、ファウディオが開発したのが、ポケットに収まるDJシステムのGODJだ。ガジェットながら、ソフトウェアをアップデートしながら、プロのDJからの意見を取り入れて改良を続けながら、さまざまな機能を追加している。一部には、既存のDJ機器を超えた性能があるのでは、と言われているほどだ。

すでに大手量販店で販売されており、また世界12カ国でも販売の実績がある。世界のDJやガジェットユーザに愛用されている。ターゲットとして、DJをやってみたい層から本格的なDJプレイをやりたい人の中間層を狙っている。
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最近では、銀座で素人向けのDJ教室や、飲食店向けに簡易的なDJシステムを導入する事業などを展開している。今後は、現行のスタンドアロン型ではなく、デバイスをネットワークにつなぎながら、自身のDJプレイをYouTubeにアップしたり、世界のDJと繋がれる仕組みづくりをしていけたら、と考えている。

社会性の高い事業や独自の開発技術、ガジェットなど独特の文化を形成している東北のベンチャーたち。今後は、ものづくりだけでなくいかに国内や世界に展開していくか、そのためのマーケティングやビジネスモデルを考える必要があるが、今後の展開が期待できるスタートアップたちだ。

以上で、全国7地域で開催してきた全国Startup Dayは終了した。そして、各地域でグランプリを獲得したスタートアップたちによるファイナルプレゼンを、3月26日(木)に、東京の国際フォーラムで開催することが決定した。全国から集まってきたスタートアップたちの姿を、ぜひ観てもらいたい。

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