プログラミングの楽しさを多くの女性に伝えたい:「Rails Girls」創始者のリンダ・リウカスさんにインタビュー

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Photo credit: Maija Tammi
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「プログラマー」というキーワードで、Googleで画像検索をかけてみてほしい。出てくる画像は、圧倒的に男性ばかりだ。そう、プログラマーというと男性がイメージされることが多いし、実際に男性の方が多いのが現状だ。そんな中、女性向けにプログラミングを学ぶコミュニティ「Rails Girls」をフィンランドで立ち上げ、世界各地の227の都市にそのコミュニティを拡大させた女性がいる。リンダ・リウカスさんだ。

先月、日本に1週間ほど訪れていたリンダさん。今回改めて日本滞在で感じたことや、「Rails Girls 」のコミュニティづくり、またフィンランドのテック業界の現状について、話を伺った。

ー今回の日本滞在はいかがでしたか?

リンダ:今回は二度目の来日でした。一度目は、2012年に札幌で開催されたRuby会議に参加したときのことです。その時は、48時間しか滞在できなかったので、絶対にまた日本に行こうと思いました。日本はRuby発祥の国ですし、札幌での経験はすごく楽しいものでしたので。今回は、まずオーストラリアに行く予定があったので、その後に日本にも立ち寄ることにしました。

今回の日本滞在もすばらしいものでした。考えてみれば、私は子ども時代から日本のテクノロジーに囲まれて育ってきたんです。たまごっちやポケモンと共に子ども時代を過ごしてきたんですよ。任天堂や、今もよく使う絵文字も日本が誕生の地ですよね。テクノロジーとクリエイティビティをつなぎ合わせるのが上手な日本から、多くを学んできました。

滞在中、日本の「Rails Girls Tokyo」のオーガナイザーとお会いしました。私は個々のローカルなコミュニティの企画に直接関わることはありません。各都市のコミュニティが自立してプログラムを企画しているのですが、それでも実際にローカルなコミュニティのオーガナイザーと会って話をして、実際にコミュニティが広がっている様子を感じることができて、とても嬉しかったです。

日本のテクノロジーの開発過程には、もっと女性が関わっていると思っていた

リンダ:今回の滞在中にお会いした岩尾はるかさんは、昨年秋に日本のプログラマーの状況について統計情報などを引用しながら「Rails Girls: Not Only for Girls」というプレゼンテーションを作成したのですが、このプレゼンはとても学ぶことの多い内容でした。

日本のテック企業における従業員の男女比などについての情報も含まれているのですが、その内容に驚きました。日本のテクノロジーに長い間身近に触れていた自分にとって、その開発やデザインのプロセスにはもっと女性が関わっていただろうと思っていたんです。任天堂のマリオには、ピーチ姫とか出てきますよね。今振り返って、ああいうキャラクターづくりの過程で女性の視点が活かされていたのかな、など考え始めてしまいました。

ーコミュニティづくりについて聞かせてください。いかにして、227もの都市に Rails Girls が広がっていったのでしょう?

リンダ:Rails Girlsは元々2010年にフィンランドで立ち上がったイベントで、当初はグローバルに展開しようとは全く考えていませんでした。ところが、2010年秋にシンガポールの男性が私たちにメールをくれて、「シンガポールでも、Rails Girlsをやってよ」と言ってくれたんです。私もコーファウンダーもシンガポールに行ったことがなかったので「じゃあ、行こう!」というかんじで、シンガポールに行きました。そのあとも、世界各地の人から「私の街でもイベントをやりたいです」という声が頻繁にかかるようになりました。

最初はこのイベントをビジネス化することも考えたのですが、インターネットがフリーである限り、このコミュニティも無料で運営できるようにしようと考えたんです。なので、Rails Girlsに関するガイドをオープンソース化して、参加者に教える内容だけでなく、イベントの作り方、マーケティングの方法やスポンサーの集め方といったソーシャルな点に関してもガイドにまとめました。それがコミュニティが急速に拡大していった理由です。こうして4年間で、230の都市にまで Rails Girls が広がっていきました。

コミュニティ運営方法としては、都市によってはEメールリストも活用されていて、ネット上のフォームに自分の情報を入力して送信すると、現地のオーガナイザーの情報を受け取ることができます。

Kickstarterのキャンペーン成功の背景にある「コミュニティの力」

リンダ:2012年、まだRails Girlsが30都市ぐらいにしか広がっていなかったころ、ニューヨークのCodecademyでメンバーコミュニティの活性化を担当するコミュニティマネジャーの仕事に就いたんです。急に100万人以上ものメンバーが活動するコミュニティのマネジャーを任されて、コミュニティマネジャーとしてのプロフェッショナルなスキルを磨ける機会となりました。結局そこでは1年半ほど仕事をしたのですが、コミュニティの規模は2400万人以上にまで成長しました。急激なコミュニティの成長に関わることができて、とてもエキサイティングな経験だったのですが、故郷フィンランドが恋しくなり、母国に戻ることにしました。

フィンランドに戻って、スタートアップを成長させたり、Rails Girlsという非営利団体の資金調達に携わった経験を元に、子ども向けの本を出版することにしました。現在もこのプロジェクトに携わっています。多くの人がKickstarterのキャンペーンの成功を驚いていたのですが、その背景にはコミュニティの力があったんです。Rails GirlsやCodeacademyを通じて、私のことを知っている人は多くいましたので、そうした人たちがキャンペーンの成功を後押ししてくれました。

Kickstarterで38万ドルの資金を調達したプロジェクト、絵本「Hello Ruby」のイメージ
Kickstarterで38万ドルの資金を調達したプロジェクト、絵本「Hello Ruby」のイメージ

ーフィンランドでも、まだテック業界は女性がかなり少ないのでしょうか?

リンダ:フィンランドはとても面白い国です。世界トップレベルの教育システムがありますし、特に初頭教育の質は高いです。また、エンジニアが尊重されています。ノキアやLinux、MySQLなどもフィンランドから生まれました。子どもにエンジニアになってほしいと考える親も多いです。また、世界の中でもジェンダーの平等という点ではトップですし、欧州で初めて女性に参政権が与えられた国でもあります。女性大統領もいました。

とはいえ、他の国と同様に、十分な数の女性ソフトウェアエンジニアがいないという問題も抱えています。Rails Girlsの活動は、女性のソフトウェアエンジニアを増やす上で大きな力になっていると思いますが、同時にもっと小さな頃からエンジニア教育をする必要があるとも感じます。ソフトウェアエンジニアという職業は女性にとって、時間を柔軟に使える、子どもがいても自宅で仕事ができる、賃金が高い、常に個人としての成長機会があるといったメリットが多いのに、エンジニアが少ないのはもったいないことです。

女性に「自分にもプログラミングができるんだ!」と感じてもらいたい

ーRails Girlsの活動は、そんな状況を変革する大きな原動力になっているのでしょうか?

リンダ:Rails Girlsはプログラミングの全くの初心者でも参加できます。まずは簡単なタスクを完成させることで「自分にもプログラミングができるんだ!」と感じてもらうことが目的です。日本やベルリンは、さらに難易度が高いワークショップも開催されていますが、フィンランドでは非常に初歩的な内容のワークショップしかやっていません。まずはプログラミングに触れてもらって、その楽しさを味わってもらうことが目的です。

実際にRails Girlsに参加して、ソフトウェア開発者になった女性がいます。その女性は、タンペレという街のRails Girlsに参加していました。その都市のRails Girlsには400名ほどの女性が参加しています。この街は国内でも有数の工科大学があることでも知られているのですが、この工科大学は女性がとても少ないんです。なので、Rails Girlsは女性に対して道を開くこと、「自分にもできるんだ」と気付いてもらうことを目指しています。工科大学やテック企業にも積極的に応募してもらえるよう、後押しすることが Rails Girlsのチャレンジでもあります。

もちろん1週間のワークショップに参加しただけで、エンジニアになることはできません。まずはプログラミングの楽しさを知ってもらうこと、自信をつけてもらうことが大事です。また、同じようなマインドの女性同士が出会う場所を作ることが目的です。同じような志をもった女性と出会うことは、大きな刺激になりますよ。

* * * *

プログラミングというと、特に未経験者にとっては「難しい」というイメージばかりが先行してしまうが、リンダさんと話していると「やってみたい」「面白そう」と思えてくるから不思議だ。彼女のそんなポジティブな思いが周囲に伝染した結果、Rails Girlsの活動が海を越えて広がったに違いない。プログラミングに興味のある方にとっては、Rails Girlsは最高の入口を提供してくれそうだ。

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