縮まるベンチャーと経産省の距離ーー政府調達へのベンチャー企業参入と業務改革への挑戦

by Junya Mori Junya Mori on 2015.3.27

政府は3月10日、ベンチャーが政府発注の事業を受けやすくするための官公需法改正案を閣議決定した。政府発注の事業で、創業10年未満のベンチャー企業の競争入札への参加資格を弾力的に運用するなどの一層の取組が各省庁等に求められている。また、各省庁等にはベンチャーとの契約実績の通知を義務付けるとしている。

「Sansan」を提供するSansanは、経済産業省産業技術環境局が試験的に導入したことを発表するなど、省庁とベンチャーの距離が縮まりつつある。

ITベンチャーとできることを探る

昨年12月、政府調達へのベンチャー参入に向けて、ITベンチャーによる経済産業省内システムの実証的開発・導入に関する取組がスタートした。経産省は省内システムの実証的開発・導入を行うためのベンチャーを選定するためのコンテストを実施。

省内職員とベンチャーがワークショップを実施した後、ITベンチャー10社がコンテスト形式でソリューションを提示。職員投票を含む審査を実施した結果、トライフォートのソリューションが選定され、同社と共同で省内での実証事業が行われている。

始まりは省内の業務改善から

この取組が生まれた背景には、経済産業省の職員による部署を横断しての協力があった。今回、商務情報政策局情報政策課情報プロジェクト室室長補佐の宮里孝則氏、大臣官房政策審議室政策評価広報課課長補佐の津脇慈子氏、大臣官房政策評価広報課係長の西本裕志氏、大臣官房情報システム厚生課総括係長の鈴木勇人氏に話を伺った。

左から:西本裕志氏、宮里孝則氏、津脇慈子氏、鈴木勇人氏
左から:西本裕志氏、宮里孝則氏、津脇慈子氏、鈴木勇人氏

津脇氏「省内の業務を改善しようという話をすると、ペーパレス化しましょうといった話題になってしまうことが多かったんです。もっと楽しい形でシステムを変えていくことはできないか、コミュニケーションが増えるものが作れたらいいなと考えていました」

宮里氏「私は電子政府を担当していて、IT調達の面でベンチャーからの調達が進んでいないことを課題に感じていました。調達案件の中でも、IT調達はベンチャーを巻き込みやすい領域であるはず。にも関わらず、なかなか共同のプロジェクトは生まれていない。ベンチャーと何かやれないかと考えつつ、省内に具体的なニーズがありませんでした。そんなタイミングで津脇が業務改善ツールを導入したいと考えていたのを知りました」

鈴木氏「私が省内のITインフラ整備運用を担当していて、津脇と宮里の2人から、運用の立場から何が必要ですか?と聞かれました。話を聞いて「面白そうだな」と思ったのが正直な感想ですね。普段は外部の業者に委託・請負という形で作ってもらっていたところを、新しいやり方に挑戦できたら発見があるのではと考えました」

業務改善の担当をしていた西本氏にも声がかかり、4人が中心となって取組は動き始めた。

熱意を理解してもらう

まず始めたのはワークショップに参加してくれるベンチャーへの声かけ。だが、ここで彼らは最初の壁にぶつかる。

宮里氏「省としてベンチャーを後押ししているものの、個人の職員レベルでベンチャーとのつながりを持っている人はまれだったと思います」

ツテをたどって紹介してもらい、なんとかベンチャーに声をかけていった。職員が抱えている課題やどういったサービスを欲しているかということを共有するための場が設けられた。

経産省

なんとか集まってくれたベンチャーたちだったが、省内システムの開発を行うためには制限がいくつかあった。情報管理の観点から、業務での「クラウドサービス」の利用が難しいというのもそのひとつだ。人数が少ない中、現在提供しているサービスとは別途新しく開発しなくてはならないなどの状況もあり、最終的にコンテストに参加したのは10社だった。

津脇氏「コンテストに参加してくれた10社は、私たちが直接訪問して熱意を伝えたベンチャーの方々でした。スケジュールも厳しく、条件も厳しい状態の話だったので、熱意が伝わらないと賛同してもらうのは難しかったのだと思います」

熱意が伝わったという感触はありつつも、行政とベンチャーは互いを理解する時間が足りてないことに気づいたと4人は語る。ワークショップ後のコンテストで、トライフォートが選定されることとなり、現在システムの開発を実施している。選定にはもれたものの、AIを活用した独自の自動回答システムやゲーミフィケーションを利用したシステム案など、職員からは想像もつかない提案が行われていたそうだ。

ベンチャーとの距離を縮めたい

今回の取組を実施したことで、省内にも動きがあった。

津脇氏「参加した人たちも自分の部署で、ベンチャーを活用した新しい発想で何かできないかと考えるようになり、私たちのところに「どうやってイベントを開催したの?」と質問がくるようになりました。」

鈴木氏「現在、トライフォートと一緒にシステムを開発している段階ですが、「いいね」機能がつくなど、これまでのやり方では調達できなかったものになるかと思います。それだけでもやってよかったと言えるのではないでしょうか。また、これを機に「日々の業務の中でどんなシステムが必要なのか」ということを職員同士で話す機会も増えたので、それもよかったですね」

西本氏「今回の取組は、省内の職員が、普段使っているサービスの延長線上ではない色々なサービスを見比べる機会になったのではないかと思います。これまでのシステムとは違ったものに触れることで、システムに対して新しい見方、発想が持てるようになったのではないでしょうか」

ベンチャーとの距離を縮めようと新しいことに取り組んだ結果、内部にも新しい動きが生まれた。今後も、こうした動きを政府調達や新しい取組につなげていければ、と考えているという。

政府調達というマーケット

津脇氏「業務改革はテーマのひとつでしたが、経産省としても今後色々な方向でベンチャーと一緒に仕事をすることが必要になると思います。今回実施したようなやり方は、ひとつの形として定着して、毎年開催していけるといいな、と考えています」

宮里氏「経産省内ではもちろん、広く行政全体とベンチャーとの距離を縮めていきたいと考えています。ベンチャーには行政サイドのことを理解してもらい、行政サイドはベンチャーからのアイデアや技術を採用できるようにしていく。地方自治体なども含めて、動きを広めていくことも検討していきたいと思います」

今回の取組で、行政側がベンチャー側の生態をわかっていなかったこと、逆にベンチャー側が行政の生態を理解していないこともわかったという。

津脇氏「ベンチャーの方々に積極的に参加してもらうためには、政府調達というマーケットを知ってもらい、魅力を感じてもらう必要があります。そのためには新しい仕組みづくりも行っていかなければなりません。今後、取組を継続していくために、今回参加したベンチャーの方はもちろん、こうした取組の存在を知ったベンチャーの方々からもアイデアをもらえればと考えています」

今回の取組に手応えを感じている4人は、今後継続的にこうした取組を実施していくそうだ。彼らはベンチャーやスタートアップからのアイデアも随時受け付けているそうなので、こうした取組に思いのある人は、「meti-venture-support@meti.go.jp」宛にコンタクトをとってみてはいかがだろうか。

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