パキスタン女性の貧困を過去のものに:世界が注目する高級ハンドバックブランド Popinjay の夢

SHARE:

popinjay

お金を稼ぐことに関していえば、パキスタンの女性は歴史的に不利な扱いを受けてきた。保守的文化のため、女の子は一般的に教育を受けるのが難しく、低賃金の仕事という範囲を超えてプロフェッショナルを目指すのは困難だ。実際、昨年World Economic Forumが発表したGlobal Gender Gap(世界の男女格差)レポートでは、イスラム教国であるパキスタンは女性の経済的参加と機会において、142ヶ国中141位というひどい順位だった。

この国の女性が分厚い貧困の壁を打ち破るには、極端な手段に打って出る他はない。高級ハンドバック企業Popinjayの設立者Saba Gul氏は、Azzada Khanという名の女の子が、タリバン統治のアフガニスタンで学校に通うために12年もの間、少年と偽ってきた話を振り返る。幸運にもマサチューセッツ工科大学で学ぶことができ、遠い国の厳しい現実を目の当たりにすることのない社会で育ったSaba氏にとってこの話は強烈だった。卒業して年収10万米ドルを超えるエンジニアの職にありついた後でさえも、この話がどうしても彼女の頭から離れなかった。

「それに、私は自分が育ったパキスタンや、世界中を旅したとき、インド、ブータン、エチオピア、スリランカで見た美しい工芸技術に対する深い愛を常に持ち続けていました。これらの才能が機会や大きな市場とのコネクションに恵まれないことから活かされずにいるのです」と語る。

祖国の少女が作る美しい刺繍のバッグ

そして、アメリカがまだ悲惨な不景気から回復途中だった2011年、Saba氏は祖国に戻りアクションを起こすことを決意した。彼女は無意識のうちに自分の人生の使命を見出したのだ。

「若い女性が基礎教育と生計を立てる手段を手に入れられるようなプログラムをパキスタンで試験的に始めました。地元の社会でプログラムが軌道に乗り始めるとと、これまでに経験したことがないほどやる気に火がつきました」とSaba氏は言う。「その後、迷わず退職しました。」

その試験的なプログラム(その後、BLISSという本格的な非営利組織に発展)では、放課後、少女らが刺繍と裁縫を身につけた。刺繍を施した生地を地元の生産者に送ると、そこで高品質のハンドバッグに仕上げられ、ブティックで販売された。収益は、少女らの教育に加えてさらなる学生の勧誘にも使われた。

彼女らの手工芸品はすぐに地元のみならず世界中で大人気となった。Mediumの記事の中で、Saba氏はカナダの顧客からもらった勇気づけられるメモについて語った。

BLISSのバッグほど大好きになった物は他にありません。あなたは世界を変えるバッグを作っています!すごく珍しくて可愛いので、みんなからバッグについて聞かれます。まるで刺繍のアートです。みんなに、このバッグを作ることで経済的に向上した家族の話をすると、バッグの美しさはさらに増すようです。

新たなファッションビジネス

さらに、ハンドバッグは国内外の複数のメディアプラットフォームで特集され、ファッションショーにまで登場した。それは一見すると成功のように思われるが、水面下ではSaba氏が心配する深刻な問題があった。「コンセプトを証明した後、それをどうビジネスとして成功させていくか」ということである。その時点では、BLISSチームには計2人のスタッフと、傘下に40人の女性職人がいるだけだった。

1488182_582363365165591_1629108030_n-720x720

ここに問題があった。女性職人に経済的自立をもたらすというSaba氏の目標は、彼女らが作った商品を今まで以上に売ることができる組織に大きく依存していたことだ。そして、より多くの商品を売るためにはファッション業界の中で名が売れる必要があった。控え目に言っても、ファッション業界は競争力が激しいということは誰もが知っている。

「事業拡大への最初のステップは、必要に迫られてファッション業界で新しいことに挑戦しているただの非営利団体ではないと認めることでした。私たちはファッションビジネスを営んでいたのです。間接的な関わりはありますが、貧困や教育をビジネスとしていたわけではないのです」とSaba氏。

「私たちのファッションレーベルを社会的にインパクトをもたらすだけの非営利団体にするのではなく、販売面にも力を入れ利益を上げることのできる企業にする必要性を感じました。」

本格的な事業展開に向けてシード調達

ビジネスモデルや企業理念の大規模な見直しを図るべく、企業名をBLISSから利益追従型企業とするPopinjayに変え、2013年後半にはオンライン販売に着手した。この企業名は中世期に使われた英語で「オウム」という意味を表す。

「私たちはブランド名にオウムという言葉を選びました。オウムは声を連想させる動物だからです。私たちのオウム(Popinjay)は良質なファッション、女性職人の技やストーリー、私たちのバッグを購入してポジティブなインパクトを生み出したいと願う消費者の声の象徴なのです」とSaba氏は説明した。

10616163_699818113420115_7133679653173143245_n-720x480

Popinjayブランドを特徴づけていくものとして、高級感のあるデザインと世界にもたらすインパクトの2点が挙げられる。しかし後者を達成するにはまず、前者をマーケットで確立する必要がある。そのためにSaba氏は資金調達、販売、優秀な人材確保といったことにも力を注がなければならない。これは同顧問でIndigneous Designsの設立者でもあるScott Leonard氏が彼女に送ったアドバイスだった。

組織を立ち上げた当初、このことは彼女の頭の中にはなかったが、Leonard氏の見解は正しいと感じた。そして彼女はビジネスを発展させるプロセスに乗り出したのだ。

「状況が打開し始めたのはPopinjayをパキスタンと結びつきの深い投資家たちにピッチしたときでした。彼らはPopinjayの企業理念を高く評価してくれたのです。彼らと連絡し始めて1ヶ月もたたないうちにエンジェル投資家のシンジケートを通して、私たちはシードラウンド出資にこぎつけました」と彼女はTech In Asiaに語ってくれた。

エンジェル投資家がPopinjayに投資してくれた理由は、誠実さと情熱という2つの要素だったと彼女は信じる。

投資家が投資をするのは何よりもまず、あなた自身、つまり起業家であって、アイデアやイノベーションはその次です。アイデアは進歩しチームメンバーも変わってしまいますが、あなたは絶対決して諦めないという真実をかたく信じているに違いありません。投資家にこのように信じてもらうようにしなくてはいけません。すべきことをして、重要な数字を把握し、情熱を輝かして、これまでに獲得したトラクション(質および量)を示す必要があります。

公正、平等、威厳の代名詞となる世界ブランドになること

それ以降、PopinjayのバッグはBLISSの代わりとしてよく取り上げられるようになり、エミー賞ほか多くの国際的な展示の場で披露されるようになった。

popinjay-handbags-highlight

Saba氏は、Popinjayのバッグは特別で、他のバッグと比べて群を抜いていると信じている。

Popinjayのバッグには、極上の革になされたシルク糸による手縫いの刺繍という特徴があります。Popinjay製品は、ファッション志向の女性の洋服ダンスに時空を超えたスタイルを加えつつ、伝統的な工芸を守っているところにその独自性があります。当社バッグの糸と糸の間にはストーリーが織り込まれており、これを作る女性職人と、バッグを持ち運ぶ女性の間に永遠の絆が生み出されているのです。

Saba氏によると、Popinjayのバッグはフィリピンだけでなくアメリカでも目にするという。「私たちの多くにとって、Popinjayの成功とトラクションはお客様の当社ブランドと使命への深い愛情のほか、 再度当社から買い求めたいというお気持ち、当社製品につけていただレビューに表れています」と彼女は続けている。

このバッグのおかげで世界のトップに立った同社だが、Popinjayにいる150名ほどの有能な女性職人に対するSaba氏の次なる目的は、賞をもらえるようなベルトや靴などその他アパレルアクセサリーも同じように作ることである。「手作業による刺繍だけの現状から木版印刷、絞り染めなどの技術まで、女性職人に教えるスキルを多様化していきたいと思っています」と彼女は続けている。

そうすることで、最終的には職人向けのサポート、トレーニング、マーケティングチャネルのエコシステムを構築したいという。 「今は長い道のりの途上です。当社の最終目標は、時代を超越してインスピレーションをもたらすファッションを生み出しつつ、公正、平等、威厳の代名詞となる世界ブランドになることです」とSaba氏は述べている。

【via Tech in Asia】 @TechinAsia
【原文】

Members

BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。
無料で登録する