音を鳴らすだけで周囲の人にデータ転送ができる「Chirp」のテクノロジー

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Above: Chirp Image Credit: Paul Sawers / VentureBeat
上: Chirp
Image Credit: Paul Sawers / VentureBeat

Chirpはデバイス間のデータ送信を音声のみで行うことを可能にするロンドンのテクノロジー企業で、その基盤技術をさらに普及させるべく、同社のプラットフォームを開発者に向けて開放すると発表した。

2012年、Chirpは他のデバイスに搭載されたChirpでのみ認識可能な「デジタル・バードソング」を使ってデータ転送を行うという誰も予想だにしなかったテクノロジーをAndroidiOS向けに作成し、大きな話題となった。電話内の変換可能なファイルを選び「chirp」ボタンをクリックするだけで他のデバイスが即座にそのメディアにアクセスできる。

バードソングは2、3秒ほどのもので、受け手側のデバイスは一定の順序で、一定の音域で、一定の速さで少数の記号が即座に奏でられるのを「聴く」。Bluetoothのように簡単にファイルやデータをリアルタイムでシェアする方法は他にいくつもあるが、Chirpの場合デバイス同士が前もって接続しておく必要がなく、アカウントを取る必要もないので結果的に断然早くファイル共有できる方法ということになる。

Chirpを使うとファイル自体はピアツーピアで送信されないので、データが直接音声を介して実際に移動するわけではない。Chirpがファイルをデコードおよびエンコードするだけで、付随する音声は送信メカニズムとして機能している。受信者がChirpのサーバーにアクセスするためにリンクは生成されるが、その送受信のプロセスはシームレスで、ほぼ即時に行われる。

上: Chirp
上: Chirp

本日、Chirpのプライベートベータ版SDK(ソフトウェア開発キット)がローンチし、サードパーティー開発者用プラットフォームに移行しようとしている。Chirpの技術利用を大きく飛躍させる極めて重要な出来事と言えるだろう。実際、コンテンツ共有機能を提供するどのタイプのアプリでも、URL、eチケット、動画コンテンツをより簡単に共有し、より簡単にアクセスできるようChirpを活用することが可能だ。

このことを考えると、iOS版Chirpは本日注目すべきアップデートを行ったと言える。以前Chirpでは画像、テキスト、URLの送信に限られていたが、今回動画も送信できるようになったのだ。私たちが試してみたところ「動画chirp」は問題なく動作した。モバイル動画サービスにも対応したことで、今回のアップデートによりChirpのリンクの価値が実証されたと言っていいだろう。

さらなる開発へ

来週は、Chirpにとって節目となる。モバイルだけでなく、ChromeプラグインをローンチしChirpの技術をブラウザを介してMacやPCへと展開していくとのことだ。ユーザはウェブページをスマートフォンにchirpで送信できるようになり、地図のURLや電話番号などウェブ上の情報をすばやく簡単に利用できることになる。

携帯電話が送信側の可聴範囲にある限り、Chirpは同時に複数の人とデータを共有するのに効果的な方法だ。これはつまり、テレビ、ラジオなどマスメディアのネットワークが数秒間で何百万人にファイルを送信するために利用することもできるということだ。ただし、おもちゃなどの物理的対象にも接続してしまうため、子供がお気に入りのテディベアに埋め込まれたサウンドクリップからコンテンツをダウンロードすることも可能となる。

こうした技術は、つい先日発表されたハッカーやプロトタイプ開発者向けのオープンソースのコンピュータ機器を提供するArduinoとの提携によって可能となった。つまりChirpのエンコードは、現在急成長中のIoT(モノのインターネット)業界でも利用できるようになり、将来どんなモノにも組み込むことができるようになるだろう。このサービスは「Chirpino」と呼ばれ、明日(5月13日)に無料ダウンロードで公開される。

これまでの展開状況を見ると、Chirpの技術は間違いなくスマートな技術と言える。とはいえ、大雑把に言えばそれは既存の技術に基づいている。例えば、オーディオテープはかつてはZX Spectrumなどのホームコンピュータ上のアプリケーションをロードするのに使われていたし、ダイアルアップモデムもネットワークにアクセスするのにサウンドを使用していた。Chirpによると、 同社はOTA(無線)でショートコードを転送する技術の特許出願中とのことだ。

現在、Chirpはまだ「ポテンシャル」の域にとどまっている。Chirpアプリのローンチから3年も経過していると考えると少し残念だ。確かに、モバイル機器間で送受信可能なファイル形式という点では、Chirpはまだ限られている。しかし、ウェブ版Chirpが実現すれば、使用される頻度の高いその他のファイル形式にも対応できるようになるだろう。

また、現在はファイルのダウンロードができない。オフラインでのデータ利用はChirpアプリのキャッシュから可能ではあるが、完全な、誰もがファイルやドキュメントをダウンロードできるP2P通信が求められている。時期は不明だが、こうしたことにも対応中とのことである。

Chirpが初めてSDKでの技術のライセンス化に踏み切ったことを考えると、どのようにして長期的に収益を上げる考えなのかが推測できる。しかし、今のところは自由に使える資金を確保するのに他のパイプを模索している段階だ。本日、ChirpはCrowdcubeにてクラウドファンディングを始め、当記事の執筆中には既に目標の40万ポンド(63万米ドル)の半数を達成したとのことだ。得た資金は全て広告の拡大や、Chirpの開発に充てるという。

「私たちは小さな会社ですが大きな志を抱いています。当社では音を元にしたネット通信を開発しており、皆様が情報共有するためにChirpを利用して下さっているので大変嬉しく思っています」と設立者でありクリエイターでもある Patrick Bergel氏は述べた。「さらに素晴らしいことに、開発者の方々がご自身のアプリにも歌声を、と当社のSDK(ソフト開発キット)を入手するため大勢順番待ちをして下さっています。」

2011年にUniversity College London (UCL)から独立したChirpは今12人の従業員を抱え、先日、元Mobile Interactive Group (MIG)のCOO、Richard Mann氏を新CEOに迎えた。

【via VentureBeat】 @VentureBeat
【原文】

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