変化するドイツのゲーム業界ーーベルリンはグローバルなゲームハブ都市に

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Above: Berlin's Brandenburg gate. Image Credit: Dean Takahashi
上: Berlinのブランデンブルグ門
Image Credit: Dean Takahashi

ゲームに関して言えばドイツは最大のプレーヤーではないが、運が良ければ、いつかの日かビールよりも国を代表するものとしてゲーム産業が成長するかもしれない。

それはまさに、今週ゲームやテックに関係する11のイベントの1つであるベルリンのQuo Vadisゲーム開発者イベントに参加した時に感じたことだ。短い期間内で見て回ったところ、以前にアメリカの企業で目にしたものと同じ苦しさがドイツで広がっていると感じた。同時に、ここには可能性もある。良いことが起こるのを可能にする条件が整い始めているからだ。

Above: Stephan Reichart of Quo Vadis Image Credit: Dean Takahashi
上:Quo VadisのStephan Reichart氏
Image Credit: Dean Takahashi

中央ヨーロッパのゲーム産業発展に関して印象的なのは、その背景に起業家精神だけでなく政府の支援もあることだ。ドイツ政府はスタートアップに対して少額の融資、税額控除、アドバイス、スペースを提供している。とはいえ、ほとんどのスタートアップが自己資金で起業するのがこの業界だ。

この地域はコストが低く、技術力のある人材があふれている(世界中から集まった大勢の移住者を含む)ので、まだ創業して間もない会社にとって都合が良い。しかし、長期にわたる成功を可能にするのは、情熱を持ち続けることであると、ドイツのヴュルツブルクを拠点にモバイルゲーム制作を15年間行っているHandy GamesのチーフエグゼクティブであるChris Kassulke氏はいう。

International Games Week Berlinは、ドイツのケルンで毎年8月に開かれる盛大なイベントGamescomの小規模版でアメリカではお目にかかれないタイプのコラボレーションイベントだ。Quo Vadis自体の参加者数も昨年から400人増えて2500人ほどになった。その観客が他のイベントや会場に広がっていった。しかしこれらのショーケースイベントは互いに競い合うことなく関係は良好だ。

ベルリン市当局は同市がヨーロッパで最高のゲームハブ都市であるとしている。しかし外部の人間の中には同市はハンブルク、ケルンなどその他の地域と比べてゲーム産業に携わる被雇用者人口が少ないと言う人も数多くいる。

ドイツ国内の様々なゲームハブ都市が急激な成長を見せている。ドイツ政府の映像とメディア産業に関わる地方政府機関Medienboard Berlin-BrandenburgチーフエグゼクティブのElmar Giglinger氏によると、2004年から2013年にかけてゲーム開発者とパブリッシャーの数は6938から1万230にまで増えたという。

これらの会社の売上高は1年あたり14%増加してきている。そして仮にユーザ獲得数やマーケティング技術まで数に入れると、ゲーム産業従事者数は2万5000人に上るとQuo Vadisの主催者、Stephan Reichart氏は話した。

その数字はフィンランドを支える職業であるゲーム開発者数2600を大幅に超えているが、株式公開している大手ゲーム企業が多数存在するアメリカには遠く及ばない。

1400以上あるドイツのゲーム会社のうち、ベルリンに拠点を置く会社は200を超え、KabamやKingといった国際的なパブリッシャーの支社も首都に設けられている。WoogaやGameDuellなどのゲームメーカーだけでなく、HitFox、GameGenetics、Glispa、Fyberといったゲーム関連会社もベルリンを本拠地としている。

ベルリンは成長する余地が大いにある。ロンドンよりも土地がはるかに広く、一方で人口はわずか350万人、すなわちロンドン人口の800万人に対し半分以下である。コストが低いため、KingやKabamなどの企業がこの地域にオフィスを構えるようになっている。

しかしながら、いくつかの点において、ベルリンまたドイツの先はまだまだ長い。ドイツ以外でのヒット作誕生により、ゲーム産業におけるドイツの過去の市場シェアは下落した。SupercellおよびRovioはそれぞれClash of ClansとAngry Birdsでフィンランドの地位を押し上げた。KingはCandy Crush Sagaのおかげでロンドンとスウェーデンに、Machine ZoneはGame of War: Fire Ageのおかげでシリコンバレーにそれぞれ大きなハブを構えるに至った。

フィンランドは設立当初のSupercellを寛大に支援し、今ではその報酬を巨額の納税という形で得ている。アメリカにはそのような助成金の制度はないが、ベンチャー投資がゲーム会社を支えてきた長い歴史がある。

ドイツにはアメリカのような大きなエンターテインメント産業はない。ドイツ政府は映画製作に巨額をつぎ込んでいるが世界的なブロックバスターは生まれていない。一方、映画産業と比べゲーム制作にはわずかな資金しか投入しておらず、これはゲームが子供に良くない、暴力的である、または中毒性があるなどの政治的懸念がこの状況の一部要因になっている。

ドイツではベンチャー投資もゲーム業界には資金をつぎ込まない。昨年2億2000万米ドルを売り上げ、2億4500万人のユーザを誇るGoodgames Stidiosなども、投資を受けずに成長した企業の1つである。

ドイツのゲーム市場はおおよそ30億米ドルであり、市場調査会社Newzooは世界全体でのゲーム市場規模は915億米ドルであると試算する。

しかしながら、ドイツのゲーム開発会社およびパブリッシャーの自国での市場シェアは7%程度であるとReichart氏はいう。これは以前の11%からの下落である。ドイツ国内でのゲーム産業の求人は増えたものの、ドイツ企業は外国企業ほど、ドイツ国内のゲーム市場の売り上げシェアを伸ばせていないということだ。

「私たちは産業として立ち上がり、市場におけるシェアを取り戻さなくてはなりません」

と彼は述べた。お金のあるところにヒット作は生まれる。KingのCandy Crush Sagaはロンドンおよびスウェーデンのゲーム開発コミュニティに資金を注ぎ込んでいる。Supercellsのヒット作Clash of Clans、Hay Day、Boom Beachはフィンランドに17億米ドルの売り上げをもたらした。あのヘルシンキの1つのゲームがドイツの全ゲーム開発会社より大きな売り上げをたたき出しているのだ。

問題の1つは、GameforgeやBigpointが草分けとなり始まり、ドイツが初期の頃から焦点を当てていた無料オンラインブラウザゲームが、モバイルゲームへの移行に伴い大ヒットしたことである。家庭用ゲーム機のメーカーであり、CryEngineの開発者であるCrytekも、苦しい時期を経験した。

ドイツのモバイルゲーム制作会社であるハンブルグのGoodgame StudiosやベルリンのWoogaなどはなかなかの業績を上げているが、世界的なモバイルゲーム市場でみたら大物でも何でもない。

Above: Khaled Helioui, the CEO of Bigpoint. Image Credit: Dean Takahashi
上:BigpointのCEO、Khaled Helioui氏
Image Credit: Dean Takahashi

他のゲーム会社が合併したり、オンラインゲームやモバイルゲームの開発に賭けに出たりなので、やがてヒット作は出るものと思われる。ハンブルグのBigpointで現在開発中のゲームは、以前と比べてずっと少ない5タイトルのみである。これは品質の高さに重点を置いているからだと同社のCEOであるKhaled Helioui氏はベルリンの事務所で受けたGamesBeatのインタビューで語った。

「ここ数年はドイツにとって、本当に大変な時期でした」とHeioui氏はいう。

問題の一部は、ドイツ市場自体が地元のゲーム開発会社がターゲットとするのに十分な大きさであったことであるとReichart氏はいう。Quo Vadisゲーム開発カンファレンスは使用言語がドイツ語から英語に切り替わるまでに9年もかかった。

「企業に無理にでもドイツ市場のその先に目を向けさせなければならないのがドイツでの典型的な問題なんです」とReichart氏は語った。「私たちは無料ゲームの世界の先駆者で、何としてもこのポジションを維持しなくてはいけません。このポジションを失えば、ドイツで本当に成功した数社は買収されるか消滅してしまうでしょう」

対照的に、フィンランドは国内市場があまりにも小さいため、Supercellは初めからからグローバルであることを考えなくてはならなかった。変化が見られる点としては、ドイツとりわけベルリンは、他の地域から多くのゲーム開発者を惹きつけるのに成功していることだ。Woogaの250名超ほどの従業員の国籍は40もある。

Above: Jens Begemann, the CEO of Wooga. Image Credit: Dean Takahashi
上:WoogaのCEO、Jens Begemann氏
Image Credit: Dean Takahashi

ベルリンのモバイルゲーム企業Woogaの社長Jens Begemann氏によると、ドイツのトップ30企業でベルリンに本拠地を置く企業はないとのことだ。つまり、大量の人を雇う大企業の存在によって、この地域が成長しているわけではないということ。むしろ、ベルリンは他の道によって、仕事を生み出さなければならないのだ。

「ベルリンはスタートアップを通じて成長していかなくてはいけません。私たちは他の場所で人材を見つけベルリンに連れてこなくてはなりません。良い点は、皆ここに来たがっていることです。ここはドイツ語を知らなくてもやっていける場所なのです」

とBegemann氏は述べた。

現地の社員とと外国出身の社員を組み合わせるのは良いことだ。こうした融合により、以前より多くの創造性がドイツにもたらされることになるだろう。GlispaのCMOであるNicole Demeo氏(月に数回ベルリンを訪問するアメリカ人の国外居住者)によると、ドイツの企業はしっかりしているが、マーケティングによる手助けを必要としているという。ゆっくりではあるが、才能ある人材はベルリンに移住している。

「ここは、本当の意味で国外居住者のコミュニティです。少し時間がかかりましたが、ベルリンのスタートアップコミュニティは本当に強力なのです」

と彼女は述べた。

情報開示:ベルリンで開催されたQuo Vadisのイベントにおいて、私はベテランゲーム開発者とのセッションで司会をさせてもらったのだが、主催者側がベルリン行きの費用を負担してくれた。だが、ここで取材した内容は客観的なものである。

【via VentureBeat】 @VentureBeat
【原文】

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