イランのスタートアップの成長に向けてーーベルリン開催の「 iBRIDGE」にイラン人の起業家や投資家が結集

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ベルリンのiBRIDGEの会場にて
ベルリンのiBRIDGEの会場にて

イランのスタートアップシーンは、まだあまり世界に知られていない。筆者もその状況についてはほとんど無知だったのだが、ベルリンの起業家の友人からベルリンでイランのスタートアップイベント「iBRIDGE」が開催されると聞き、訪れてみることにした。6月3〜5日、ベルリン西部の新展示会場 City Cubeにて開催されたiBRIDGEで学んだことをレポートしたい。

シリコンバレーとイランの人・技術・ノウハウを結ぶ

iBRIDGE は、昨年シリコンバレーで立ち上がった非営利団体だ。iBRIDGEの設立者の一人であり、シリコンバレーを拠点に事業を営むイラン出身の連続起業家Amir Zarkesh 氏にiBRIDGEが生まれた背景について話を伺った。

iBRIDGEは「シリコンバレーとイランの間で、テクノロジーやビジネスのノウハウを共有する」というミッションを掲げて生まれました。2014年4月にイランをルーツに持つシリコンバレーの起業家、投資家、教育者の間でこのアイデアが生まれたのですが、賛同する人の輪が広がっていき、同年9月にはカリフォルニア大学バークレー校でイベント「iBRIDGE」を開催することになりました。

バークレーで開催されたイベントは、700名程が参加する盛況となった。その盛況ぶりからコミュニティの求心力の強さが伺えるが、その背景にはイランのスタートアップシーンの潜在力の高さがあるとZarkesh 氏は言う。

iBridgeのファウンダー Amir Zarkesh 氏
iBRIDGEのファウンダー Amir Zarkesh 氏

教育レベルの高いイランの若者の能力を活かす

イランのスタートアップシーンの潜在力の高さを示す点として、Zarkesh 氏は次の3点を挙げる。

  1. 人口の半分が30歳以下である
  2. 高等教育が進んでいる。教育レベルの高い若者が多い
  3. 高学歴者の失業率が高い

つまり、多くの若者が高等教育を受けているにも関わらず、その能力が活かしきれていないのだ。見方を変えれば、こうした若者の能力を新しい事業の創出に活かすことができれば、経済成長のポテンシャルが高いということになる。

初回のiBRIDGEにおけるイランと米国の交流を通じて、米国側はイランが有するテクノロジーのレベルの高さに驚き、イランからの参加者は、シリコンバレーで注目を浴びるテクノロジー企業の訪問などを通して、スタートアップの本場で多くの貴重な経験を得ることができたという。このイベントがきっかけで「イランでスタートアップを促進する」というミッションを共にした強力なコミュニティがさらに膨らんでいった。

そして、iBRIDGEは次の開催地として、スタートアップシーンが注目されているベルリンを選ぶ。米国、欧州、イラン、北アフリカと各地を拠点にする110名のアドバイザーと、150名のボランティアが参加し、今回のイベントを作り上げた。トップダウンではなく、草の根の努力によって準備された今回のiBRIDGEに、多くの参加者が集まった。公式の数字は出ていないが、千人以上は集まっていただろう。イベントの主な目的は「イランのスタートアップの資金調達機会を増やすこと」とZarkesh 氏は語る。

ベルリン市内西部に位置する会場 CityCube
ベルリン市内西部に位置する会場 CityCube

イラン発スタートアップ

さて、今回iBRIDGEにはイランから数十のスタートアップが参加していたが、会場で出会ったいくつかのイラン発スタートアップを紹介したい。

Lendem

Lendem のデザイナー Ghonche Tavoosi 氏
Lendem のデザイナー Ghonche Tavoosi 氏

Lendem は個人間の物の貸し借りを促進するシェアリングサービスだ。本やDVD、日用品など気軽に貸し借りができる物を中心に「必要な人」と「貸す人」をつなぐプラットフォームを、モバイルアプリ(AndoroidとiOS)で提供する。たとえば、iPhone用のケーブルが緊急に必要になったら、モバイルからそのメッセージを発信。Lendemを介して、他のユーザーにその情報が発信されるというシンプルな仕組みだ。モバイルにフォーカスすることで、いつでもどこでも借りたい人と貸せる人をつなぐ。こうしたシェアリングサービスは、イランでも徐々に注目を集めているようだ。アクセラレータープログラムAvatech を卒業したばかり。

CafeTun.es

CafeTun.esのコーファウンダー Siavash Ahmadpour 氏
CafeTun.esのコーファウンダー Siavash Ahmadpour 氏

BGMの音楽のテイストでカフェを選びたいと思ったことはないだろうか。コーヒーの味やインテリアだけでなく、流れる音楽のテイストもカフェの人気を左右する重要な要素だ。CafeTun.esはこの点に注目し、カフェ利用者とカフェの運営側、そしてアーティストを結びつけるプラットフォームを作るというアイデアを思いついた。モバイルアプリから、ユーザーは好きなテイストの曲がかかっているカフェを探すことができ、またそのカフェでお気に入りの曲をリクエストができるアプリを開発中だ。現在はまだアプリのプロトタイプを開発中とのことだが、既にテヘランの20件ほどのカフェにアプリの導入が決まったとのこと。こちらも、アクセラレーターAvatechを卒業したばかり。

Navaar

NavaarのCEO、Hamid Asadi氏
NavaarのCEO、Hamid Asadi氏

Navaarはオーディオブックサービスを開発するスタートアップだ。出版社と契約を結び、書籍をオーディオにして読者に提供するエンドツーエンドサービスを拡大中。

Asadi氏によると「イラン人は本を読まない」のだという。一日の読書時間はAsadi氏曰く21分と、本を読まないことで知られているアメリカの27分よりも少なく、それゆえにオーディオブックが普及するポテンシャルが高いという。また、テヘランは東京と同じく、郊外から市内に通勤する人が多く通勤時間が長いそうで、通勤時間を有効に活用する方法としてオーディオブックは役立つだろうと見込んでいる。現在、3つのスタジオで40〜50人のナレーターが収録作業にあたっており、これまで110タイトルのオーディオブックを作成したとのこと。年内には1000タイトルまで増やすことを目指し、将来的にはイラン国外のペルシア語圏、さらにはアラビア語圏もターゲットにしたいという。

「グローバルなプロダクトを作って、海外に出たい」

イラン国内のスタートアップムーブメントはここ2、3年で盛り上がってきているが、こうした国内のスタートアップのサポーターとして強力な役割を果たしているのが世界各地のイランをルーツに持つ人々、「イラン人ディアスポラ」だ。自身もイラン人ディアスポラであるiBRIDGEファウンダーのZarkesh 氏は、世界中にこうしたイランをルーツにもつディアスポラは300万人ほどおり、その多くが教育レベルが高い専門技術を有しているという。米国のテック業界においても、イラン出身者の存在感は大きく、eBayやGoogle、YouTubeの初期メンバーにイラン人がいるのだそうだ。

起業家、投資家、教育者など、専門スキルを武器に世界で活躍するこうしたイラン人は母国の発展とサポートに熱心な人が多く、そうした人々が iBRIDGEの活動にも加わっている。彼らはメンター、サポーター、投資家など様々な形でイラン国内のスタートアップをサポートする。こうしたディアスポラの存在は、国外に出る機会の少ない国内のイラン人の憧れでもあり、グローバル化を促進する上での強力な支援者でもあるようだ。

iBRIDGESのピッチコンテストに参加したスタートアップが集合
iBRIDGEのピッチコンテストに参加したスタートアップが集合

実は、今回のiBRIDGEでは参加を予定していたスタートアップの半分ほどがビザが発給されなかったために参加できなかった。こうした厳しい現実がありながらも、「グローバルなプロダクトを作って海外に出たい」と意気込む若いイラン人起業家の言葉が印象的だった。

イランのスタートアップシーンは、まだまだスタートしたばかりだが、確実にそのムーブメントは盛り上がりつつあると、今回のiBRIDGEを通して感じた。高い技術力と若い人材、8000万という人口を持つ国内市場の大きさと国民平均年齢の低さ、様々なポテンシャルを感じさせる要素が揃ってる。米国からの経済制裁など、立ちはだかる壁も同時に大きいものの、世界各地のイラン人ディアスポラのサポートはそれを乗り越えられるほど強力なのかもしれない。

なお、iBRIDGEは1年後の開催を目指しているとのこと。候補地として、東京も挙がっているそうだ。iBRIDGE、そしてイランのスタートアップシーンの成長を今後も注目したい。

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