「Daily Lifeなんて存在しない」——著名アクセラレータを経た起業家が集まった「Inside of Accelerators」

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米国時間6月10日、サンフランシスコにあるコワーキングスペース「Zen Square」で、Zen Square TVTechWatch主催によるトークイベント「Inside of Accelerators」が開催された。

このイベントでは、シリコンバレーまたはニューヨークに拠点を持つ著名アクセレータ — YCombinator500StartupsAngelPadHighway1 — を卒業した起業家達を呼び、各プログラムでどのような経験ができ、大きな違いは何なのかがディスカッションされた。

パネリスト及びモデレーターは以下7人。

  • (YCombinator出身) Thomson Nguyen — Framed Data 創業者兼CEO
  • (500Startups出身) Amjad Afanah — DCHQ 創業者
  • (AngelPad出身) Justin Zhu — Iterable 共同創業者兼CEO
  • (Highway1) Jack AL-kahwati — Skylock CEO
  • (Highway1) Mark Belinsky — Birdi 創業者
  • (モデレーター) 河原梓 — Nifty
  • (モデレータ) 福家 隆 — Scrum Ventures & THE BRIDGE

まずはアクセレータについての簡単な紹介から始まった。アクセレータとは言わば虎の穴。おおよそ3ヶ月の期間、起業や投資経験のある人達がメンターに入り、新入りスタートアップを鍛え上げる。合格率は5%前後しかないが、入れば恩恵は大きい。

パネリスト達が卒業してきたYコンビネータやAngelPad、500Startupsは、北米のアクセレータランキングでトップクラスに格付けされている。その点、Highway1は異色で、ハードウェアスタートアップを専門に取り扱っている新生アクセレータだ。

コンセプトをいかに叩き込むか

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左から、Thomson氏、Amjad氏、Justin氏、Jack氏、Mark氏

各々のアクセレータには特徴があり、それぞれコンセプトを持っている。例えば、Yコンビネータのコンセプトは「Make Something People Want (人が欲しがるものを作れ)」で、500Startupsは「Solving a Problem (世にある問題を解決しろ)」という具合だ。

この点、各アクセレータはどのようにしてコンセプトを各スタートアップに教え込んでいるのかが議論された。

Yコンビネータの場合、ユーザーが実際に欲しているという事実を、結果を出すことで作り出し、Make People Somthing Wantというコンセプトを実現させます。つまり、短期間の間に一気にトラクションを伸ばすことで、人々が欲しているものであるということを数字の上で証明させるのです。(Thomson氏)

最初から人々が欲しがるプログラム/サービスであるかなんてわからない。しかし、それを測る一つの尺度がユーザー数や収益成長率などの「結果」であり、Yコンビネータは結果重視のやり方を採用しているのだと感じた。

対して、Yコンビネータの対抗馬としてよく比較される500Startups出身のAmjad氏は次のように語った。

巷では、500Startupsは「ハスラー(活動家)」でYコンビネータは「ハッカー」が集まるプログラムとよく言われますが、実際のプロセスはYCと同じです。問題解決を軸に沿えていても、最終的に結果が重要視されるのはどこも同じです。当然スケールのことを考えさせられますし、グロースマーケティングなど成長に関する考えを徹底的に叩き込まれます。(Amjad氏)

どうやら500Startupsは、特定の人が解決を必要とする問題への解決策を提示するのではなく、より多くのユーザーにとって不可欠な解決策となるプロダクト/サービスになるかを重点に考えているようだ。

一方、ハードウェア専門のHighway1は他のアクセレータとは異なる。同プログラムでは、スタートアップを中国の深圳へ2週間連れて行き、製造から発送までの全プロセスを習得させることでハードウェアスタートアップにとって必須のスキルや考えを叩き込むとのこと。ハードウェアらしく、より実践的な内容のプログラムとなっている。

「Daily Life」なんて存在しない

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気になるのがプログラム期間中の生活だ。3ヶ月という限られた時間の間に圧倒的に高い目標値やプレッシャーが課せられるのがトップアクセレータであるが、彼らはどのような生活を送ってきたのであろうか。

Thomson氏によれば、Yコンビネータでは、毎週火曜のディナーは全員揃って行われる。外部からゲストを招いてトークセッションが行われたりもするが、何より同期とのコミュニケーションが価値があったとのことだ。毎週、同期たちと進捗確認できて刺激になるし、それと同時にフィードバックをもらえるから非常に役立ったとのこと。

Mark氏の意見は面白いものだった。

そもそも、この質問 (What was your daily life in your accelerator?)で理解しがたい言葉が2つあります。それは「Daily」と 「Life」です。アクセレータには「Life」というものは存在しません(笑)。 常に人並み以上の環境に置かれますから。それと「Daily」という言葉もナンセンスです。毎時、毎分状況は変わってきますから。そんな多忙な日々の中でも、何が重要かを探る必要があります。(Mark氏)

ハードウェアスタートアップは実作業がメインの仕事になる。常にどの工程にフォーカスするかを考えることが求められる。

またモデレータから、「期間中、何時間の睡眠を日々取っていたのか」という質問が投げられたが、意外にもほとんどの起業家が6 – 7時間は十分に睡眠を取っていた。しかし、やはり週末を含めて働くのが常だったとのことであった。

アクセレータのために生きるな

セッション最後には、パネリストが歩んできたアクセレータという選択肢を他のスタートアップにも勧めることができるかどうかという質問が飛んだ。

アクセレータを勧められるかと聞かれれば勧めます。大きな理由としては、アクセレータが持つコミュニティーです。ハードウェアスタートアップの場合、同業者に会えば、どんなチップや製造プロセスを採用し、どんなバグに直面したかなど色んな情報を聞くのが常です。アクセレータに入る前は素人同然で、全くもって手探りだった私たちが、こういう感じでノウハウを共有できる場所があるというのはとても貴重です。(Mark氏)

コミュニティーの重要性は全員が感じた利点だった。リファラル(紹介)の文化が根付くシリコンバレーだからこそ、質の高いコミュニティーへ即座にアクセスできる場の価値は非常に高いように思う。しかし当然ながら、アクセレータ卒業生の一定数以上が大きく成長しなければ、コミュニティーの価値や評判は廃れてしまう。この点、アクセレータ側が抱えるコミュニティー発達の苦悩も垣間見れた。

最終的には、全員がアクセレータを勧めるという意見が一致した。Thomson氏はまた、「目的を履き違えないように」と注意を促した。

火曜のディナー時に、Evernote CEOであるPhil Libin氏から次のようなアドバイスをもらいました。僕たちの目的は、Yコンビネータのような著名アクセレータに入ることではなく、成功するビジネスを生み出すことだと。「スタートアップ」というカテゴリーを越えて、大企業にまで成長する事業を築くことが最たる目的であることをしっかり意識すべきでしょう。(Thomson氏)

今回のイベントは、アクセレータに入ることを望むスタートアップ側の思いと、プログラムを管理するアクセレータ側が抱える難しさの両方を知ることができるものだった。今後は日本発のアクセレータもますます増えることが予想されるが、このような課題をどう乗り越えるかにも注目したい。

※情報開示:筆者はこのイベントの企画及びモデレータをしています

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