お腹を気にする人向けのヘルスケアデバイスや睡眠を促すパーソナルまくらまで。オムロンコトチャレンジで発表された6つのプロトタイプたち

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オムロンベンチャーズが主催するハードウェア系ベンチャーの起業支援プログラムの「OMRON KOTO CHALLENGE(オムロン コトチャレンジ)」。約3ヶ月間、オムロンの技術者や事業開発担当者による支援を通じて、コンセプトをブラッシュアップさせながら、プロトタイプを磨き上げるプログラムだ。

プログラムでは、オムロンのグループ会社の社員たちが定期的に集まり、チームにメンタリングを行う。メンタリングの際には、ハードウェアを生産にするにあたってのユーザ調査の方法やネットワーク、プロトタイプづくりから量産に至るまでの過程におけるポイントなど、社内のリソースを提供しながらものづくりをするベンチャーの支援を行った。

コトチャレンジには、アイデアを形にするためのベンチャー支援をする「事」、古都・京都から、独創的なアイデアをもったものづくりを生み出そうとする「古都」、人々に感動や喜びをもたらす、琴線に触れるものづくりとしての「琴」、という考えが込められているという。約三ヶ月間のメンタリング期間が終了し、第一回目として行われたオムロンコトチャレンジのデモデイが6月6日に開催され、30組以上の応募のなかから選ばれた6組がプレゼンやデモ展示を実施。オーディエンス賞と審査員による最優秀賞が選ばれる。

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オムロンベンチャーズ代表取締役社長の小澤尚志氏。

デモイベントにさきだち、オムロンベンチャーズ代表取締役社長の小澤尚志氏より、挨拶が行われた。

「日本では、まだまだハードウェア系ベンチャーが少ないのが現状。しかし、日本としてこれまでものづくりをけん引してきた。日本発でグローバルに展開するようになったオムロンも、一メーカーとして第二第三のオムロンのような会社をつくるためになにかするべきだと考え、このコトチャレンジを開催することとなった。参加したチームの成長が楽しみ。デモデイは終わりではなくスタートの場にしてもらいたい」。

ここでは、プレゼンを行った6チームの内容を紹介する。

ウェアラブルデバイス総合研究所

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現代の多くの人たちは、視覚や聴覚を軸に情報を入手している。しかし、目が見えなかったり耳が聞こえなかったりする盲ろう者という存在は、普段私たちがなんなく生活している様子とは違ったコミュニケーションや情報入手を行っている。

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Hand in Handを開発している久田氏。

その多くが指先で思いを伝える指点字と呼ばれる、触覚によるコミュニケーションだ。しかし、指点字ができる人が周囲にいないと、その思いを伝えることができない。そこで、盲ろう者の手につけるデバイスと、スマートフォンを結びつけ、指点字で打った文字を翻訳し、スマートフォンに文字を表示させたり、逆に話しかけた音声認識をもとに指につけたデバイスに振動を与え指点字として盲ろう者に伝える、という指点字翻訳機「Hand in Hand」を開発している。

盲ろう者の人口は概ね日本でも2万人くらいいると言われているが、世界で見ると数百万人以上が存在する。障がいのある人たちに対してものづくりの視点からアプローチをしていいけたら、と語る。

AoLEMoN

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ロボットの進化は、農業の分野にも進出している。最近では、ロボットが単純な農作業や重労働を行い、人は農作物の品質向上や新しい食べ方の提案など、クリエイティブな時間に集中するといったものだ。そうした農業分野におけるテクノロジーの進歩において、解決すべき課題の一つが、害獣問題だ。特に、農作物を食い荒らすイノシシやブタなどがそうだ。イノシシによる被害総額は数十億から数百億円とも言われており、この10年ほど駆除数も右肩上がりとなっている。その原因として、跡継ぎのいない農地が彼らにとっての良い住処となっているのだという。

そうした現状の害獣対策を解決するために活用するのが、ドローンだ。センサーとドローンをつなぎあわせ、特定にエリアに侵入したことを検知したらドローンが自動で起動。複数台のドローンが飛行し、イノシシを追い込み農地を追い払うというものだ。これによって、これまで人間が行ってきた害獣問題の時間を効率化でき、かつ、農地被害も軽減でき農家の売り上げにも貢献する。

Peloreen

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一般公募で参加したチームだけでなく、オムロンヘルスケアの若手有志チームもプログラムに参加。自分の部署以外で、自分が思い描く新しいものづくりに挑戦したいと考える社員も参加した。ランナー人口の増加にともない、水分やミネラルの適切な補給による体調管理やランニング中の事故を防ぐためのものづくりを開発しようとしている。それがIoTを搭載した水筒のPeloriterだ。

Peloriterは、水筒内にあるセンサーをもとにミネラルのセンシングを行う。また、個人が携帯するウェアラブルデバイスなどによって運動量を計測。気温や湿度、運動量や発汗量などの計測データをもとに不足しているミネラル量を計測し、適切なタイミングでどのくらいの水分を補給すればよいかをスマホやスマートウォッチに通知する。ランニング以外にも、他の運動なども応用可能だ。

現在は、まだセンサーの小型化やミネラルのセンサリングと数値化の実証実験や、他のウェアラブルデバイスとの連携などを実証実験を行っている途中だという。今後は、来年行われる京都オリンピックで実証検証を行いながら、2020年の東京オリンピックの時期にはPeloriterを販売できるよう目標にしている。

都市風プロジェクト

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日本が抱えるエネルギー問題。その解決策として、風力発電が注目され始めている。そこで、風力ベンチャーのTNPとオムロン開発事業部のハイブリッドのチームは、新しい小型風車でエネルギー問題に新しい提案を試みようとしている。

すでに、TNPは小型の風力発電について6年かけて開発を行っており、今回のプログラムでもオムロンと協働しながら開発のブラッシュアップや量産体制についての議論を行ってきたという。特徴的なのは、球体型の筐体に内部に羽根がついているというもので、3メートルの風から動き出し、充電と発電を行っていく。

今後は、緊急避難場所向けに設置を展開していきながら、発電効率の向上などにも力を入れていくという。

Waiston Chobit Healthcare

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多くの人にとって、健康状態を図る一つの指標にしているのが、お腹まわりだ。しかし、お腹まわりがきになるものの、なかなか対策をしていない、というのは現状ではないだろうか。そこで、明石高専のチームが考えたのは、ベルトとIoTを組み合わせて、普段意識しなくてもウエストを常に管理する「おなかのげんじつ」を開発した。

これは、巻き尺とベルトを組み合わせ、バングルにArduinoを仕込んだもので、ベルト型のウェアラブル健康デバイスと言える。スマホとペアリングするだけで、常に腹囲を測定。日々の変化を可視化しウェストの長さを図るだけでなく、圧力センサーを通じておなかの張り具合も常時モニタリングしている。これによって、食べ過ぎを防止することができる。今後は、呼吸のセンシングや活動量をセンシングしながら、健康状態を把握できるデバイス開発にブラッシュアップしていきたいという。

Vimo

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現代人の課題の一つに、睡眠障害や快眠できないという寝付きの問題などがある。睡眠障害によって健康を害すことは、ひいては社会全体や経済にも悪影響を与えるとし、奈良先端科学技術大学院大学と大阪府立大学チームは睡眠状態のセンシングと快眠フィードバックによるヘルスケア「Pillojoy」の開発に取り組んだ。

Pillojoyは、個人の睡眠状態をセンシングし、枕内部のセンサーを通じてポンプ機能を働かせ、その人個人に合った最適な枕の高さをリアルタイムに自動で調整する。さらに、ヴァイブレーション機能によって、心地良いゆらぎを与え眠りを誘発し、快眠へと促す。また、起床時間になれば緩やかな振動によって自然な起床を促す。睡眠時無呼吸症候群の人に対しては、寝返りを促進し無呼吸状態を改善するなどの機能がある。

現在はまだ研究段階で、ヴァイブレーションによる入眠の実証実験の確度を高めるための取り組みをしているという。

日本からものづくりベンチャーを輩出するためのコミュニティをつくっていく

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最優秀賞を獲得した、「おなかのげんじつ」を開発したWaiston Chobit Healthcare。

個性的な6チームそれぞれのプレゼンが終了し、オーディエンス賞と最優秀賞が決定。オーディエンス賞はVimo、最優秀賞はWaiston Chobit Healthcareが受賞した。賞のポイントは、「綿密な市場調査とユーザの課題解決、ベルトで図るだけでなく圧力センサーを導入し、食べ過ぎを検知するというヘルスケアとしての価値も高い」と評価された。

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オーディエンス賞を獲得した、Vimoを開発した奈良先端科学技術大学院大学と大阪府立大学チーム

デモデイが終了したコトチャレンジの一期生は、8月に行われるMaker Faire Tokyoにオムロンコトチャレンジのブース内でそれぞれのプロトタイプを出展。Maker Faire Tokyo参加者たちからのフィードバックなどをもとにさらなるブラッシュアップを行う。また、リバネスのTech PlanterやサンブリッヂのMaker Boot Campなど、他のアクセラレーションプログラムを通じ、プログラムから製品づくり、起業や量産体制へのサポートも行っていく。

2016年1月からは、第二期のコトチャレンジも募集していく。

こうしたコトチャレンジの一連の取り組みについて、オムロングローバル戦略本部経営戦略部事業インキュベーショングループで今回のコトチャレンジを統括していた今林知柔氏からコメントをいただいた。

「今回、オムロンとしてもこうしたベンチャー支援に本格的に乗り出しました。このプログラムも、自社の社員だけでプログラムをまわし、メンタリングも社員がつきっきりでした。良い意味で社員にとっても刺激になったのではないでしょうか。オムロンはオムロンベンチャーズというCVCを抱えていますが、出資という観点だけでこのプログラムは行っていません。どちらかと言えば、人材育成という側面が強いです。事業的な協業よりも、かつてもオムロンもものづくりベンチャーとしての道を歩んできたからこそ、¥日本からものづくりに取り組むベンチャーを増やしたいという思いが先にあります。

また、プログラムを自前で進めてきたからこその課題もあり、そのすべてが手探りでした。参加したベンチャーたちから、こういったサポートが欲しい、こういったデータはないか、という声をもとに、どのようなサポートをしていけばいいかの感覚を掴んできました。やはり、一番大事なのはものづくりのプロトタイプを作る支援が必要で、プログラムが終了しても社員と個別につながったチームたちがそれぞれでサポートしていく動きができ、良いコミュニティになっていけばと考えています。今後も、Maker Faire Tokyoに出展したり、他のアクセラレータプログラムへの参加を促しつつ、他の企業とも協働しながらものづくりベンチャーを育成する環境を作っていけたらと考えています」

大企業とベンチャーが手を組みながら、新しいものづくりに取り組む場が生まれ始めている。ぜひ、興味がある人は、二期の応募をしてみると良いかもしれない。

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