大学のインキュベーション化 — MIT輩出スタートアップから見る起業支援モデル

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Image by Flickr (Added Symbols)
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スタートアップが生まれる仕組みや環境は、シリコンバレー以外の、例えば大学でもしっかりと育まれています。その好例がマサチューセッツ工科大学 (以下MIT)出身のTop Flight Technologies(以下Top Flight)のモデルでしょう。

Top Flightは、エンタープライズ向けドローンを開発しているMIT出身のスタートアップです。従来型ドローンが持っている耐久時間と有効積載量が足りないという2つの課題を解決することで、ドローンが幅広く実用的に使われることを目指しています。

公式サイトによれば、Google XやAmazonが開発しているドローンは約30分の滞空時間を実現している一方、Top Flightは2時間を超える滞空を達成しています。(グラフ1参照)

また、積載量を支えるバッテリーに関して言えば、従来型の7倍を超えるパフォーマンスを誇るものを採用。こちらの記事によれば、現在普及しているドローンは平均して教科書程度の重さしか運べないが、Top Flightは9kgほどの重さにも耐えるとのことです。(グラフ2参照)

グラフ1

公式サイトより
公式サイトより

グラフ2

AngelListより
AngelListより

「内部リソース」と「外部リソース」の存在

さて、Top Flightが持つ開発力の根源はどこにあり、またMITはどのようにしてTop Flightのようなスタートアップを後押ししているのでしょうか。その答えはTop FlightがMITの「内部リソース」と「外部リソース」を活用している点にあります。

topflight6

内部リソースは大きく2つ挙げられます。1つはMIT Lincoln Lab。ドローンの技術は元々、軍事目的に開発されていました。ですが、Lincoln Labはアメリカ国防省の出資によって設立された、軍事技術を民間移転する研究機関で、Top Flightは同機関からも支援を受けています

2つ目はアドバイザー陣を見るとわかります。Top Flightの開発には多くのMIT研究陣がアドバイザーとして参加しています。リストを見るだけでも、7人中4人が博士号を持った関係者です。

一方、外部リソースを具体的に挙げると資金面。例えばサンフランシスコに拠点を持つScrum Venturesからの投資を受けることで、VCからの資金調達に成功しています。こうした、ラボとメンター陣が代表するような「内部リソース」と、VCからの資金調達が代表している「外部リソース」を上手く活用しているのがTop Flightです。

ちなみに2013年にはMIT Media LabがE14というファンドを設立していることから、70社以上の企業スポンサーやMIT外部の投資家を巻き込んで学生スタートアップ支援をしたいという動きがMIT側からも垣間見れます。この点、MITは学内外の両リソースを提供することでスタートアップ輩出の手助けをしていることもが改めて伺えます。

目指すは「起業家マインド」と「インフラ」の両立

では、日本の大学はこのMITのスタートアップ支援モデルからどのようなことが学べるのでしょうか。

それは座学教育中心の「従来型」だけでなく、教授、研究機関、そして投資家など、大学内外のスタートアップ関係者全てを巻き込んだ「次世代型」のモデル、言わばインキュベータとして機能している点でしょう。

topflight10

そもそも日本の大学では起業家輩出のインキュベーション体制が中々整っていません。

平成25年度の大学起業家教育調査書によると、調査依頼を引き受けてくれた全国352校の内、51.7%で起業家教育(コースや専攻、単独科目や講義など)が行われているとのこと。平成20年度の調査書では、全国247校の内、46.1%だったので、多少数値が上昇し、およそ半数の大学が起業家教育を提供していると言えます。

ところがインキュベーション(創業支援)施設を持っている大学は25年度で5.1%であり、20年度でも6.1%だったので、全国の大学の5%程度しか提供しきりれていないことがわかります。インキュベーションのレベルまで昇華できていないのが日本の大学の現状と言えます。

対してTop FlightがMITの内外にあるリソースをうまく活用している点から、MITが「教育」という側面からエントレプレナーシップを育てるばかりでなく、資金面や、開発環境など「インフラ」の提供に重きを置き、総合的にスタートアップを支援しているインキュベータとしての役割を果たしていることに納得がいきます。

恐らくここで疑問に思われているのはどうやってインフラ体制を整えるのかということでしょう。

この点、MITにいる教授が自らラボを案内して企業スポンサーにアプローチしたりして資金集めを積極的に行う点がロールモデルになります。また、MIT Media Lab学長であるJoi Ito氏が個人投資家として活躍したりしてスタートアップ界にネットワークを持っているのも参考になるでしょう。つまり、教授陣自らが学生の起業支援のために積極的に資金集め、もしくはコネクション作りに学外へ赴く必要があるのです。

また開発環境の提供は、十分な環境が学内にないとしても、企業と組むという手があります。例えば日本のUIスタートアップであるgoodpatchが多摩美術大学と組んだのがいい例でしょう。このように積極的に学内外とが繋がり合い、スタートアップ支援という目的の下に集まった時、非常に力強いエコシステムが生まれる可能性があります。

今後は座学としての起業家教育を提供する以上に、大学自身がインキュベーター的な役割を持ち、学生と外部スタートアップ関係者をつなげる「ハブ」として機能する必要性が叫ばれるかもしれません。

※情報開示:筆者はScrum Venturesでインターンとして働いています。

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