ヒトゲノムのAPIはそろそろ登場するかーー遺伝子データを実用的に活用した未来とは?

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Prakash Menon氏はゲノムの解析結果を現代の健康と医薬品に役立てるためのプラットフォームであるBaseHealthのCEOである。

via Flickr by “A Health Blog“. Licensed under CC BY-SA 2.0.
via Flickr by “John Goode“. Licensed under CC BY-SA 2.0.

Cold Spring Harbor Laboratoryの遺伝学者Gholson Lyon氏は、AppleのDNAに関する取り組みについての記事の中で、いまだ私たちのDNAと素早く簡単に相互作用できるキラーアプリがない、ということを最近指摘した。

遺伝子へのアクセスを一般的なものにしたり、プログラムできるようにする技術がないのだ。「遺伝子を解析する共通のシステムがない」という、技術的なハードルがいまだあることをLyon氏は認めている。

ゲノミクスの第一の波は、「配列の時代」に特徴づけられる。1990年にヒトゲノム計画が始まり、世界中の国々を魅了した。

配列技術の有効性が劇的に高まったことや、これに伴うヒトゲノム配列に対するコストの減少により、オーダーメイド医療への関心が高まった。新しいゲノミクス手法を使った治療法に専念した研究が急増し、新たに大規模な産業が生まれた。

現在のゲノミクス技術の「第二の波」は、早くて安いゲノム配列技術を利用して病気の治療を促進するものだ。これにはますます配列データの正確な解析が必要で、高い情報処理量のゲノム解析エンジンによって可能となる。

第三の波は現在進行中で、遺伝子データと他のタイプのデータとの統合に関心が集まっている。広く多様な医療と優れたアプリ・プラットフォームによって、様々な遺伝子要素を環境、ライフスタイル、食生活、日々の行動に関係する要因に結びつけ、病気を患っている人と健康な人の両方を高いQOLへと導くことができるようになるだろう。ゲノミクスへの期待は日増しに高まっている。

このことは総じて何を意味するのだろう。もしゲノム配列が早くて安価に解析可能でさらに正確になり、そして遺伝子データが私たちの日常生活にまで影響するほど幅広い環境に適用されるとしたら、多くのことが素早く処理できるようになる。

遺伝子は、ある意味私たちが新しいインターフェースを構築、企画、設計してきたデータベースだ。結果として、まもなくAPIエコノミーと言われるものが現れるだろう。

コンピュータプログラム自体がゲノミクスにますます適合できるようになるだろう。Mint.comがあなたの銀行口座の残高情報を引き出している方法ほど、特別注目に値するものではないかもしれない。だが、私にとってはもっとも関心の高い部分だ。なぜなら全世代のソフトウエア・ハードウェア開発者は、分子レベルでパーソナライゼーションについて考えることができるようになり、バイオインフォマティクスのチームや研究者の力を借りる必要もなくなるからだ。これは第四の波となり、もしかすると最後の波となるかもしれない。

これは非常にわくわくする将来性のある計画だ。これまで不可能だった方法で、ユーザや顧客の根本的な内面の真相に迫ることができる新しい機能を設計できると想像してみてほしい。

このビジョンに関する異議は映画『ガタカ』によく表現されている。この映画では、遺伝子解析により、ほぼ全ての選択が除外されたり曖昧にされたりするよう仕向けられた社会が正当化される様を描いている。

それが杞憂であるか否かに関わらず、技術的革命や変形を伴う前進は常に危険を伴う。ゲノムデータの有効性と移動可能な点を考えれば、これまで以上にプライバシーや安全性、そして倫理的解釈について慎重に考えなくてはならない。しかし私の考えでは、その社会的利益はそうした課題を解決する動機付けをするに十分大きなものである。

例えば私たちは、今日において文字通りゲノム構造をプログラミングしている。それは急速に発展し、様々なゲノム(人やその他のもの)を「編集」するまでに到ろうとしている。

私たちは、RNAインターフェースを用いた全く新しい治療法を開発した。もしかしたら医薬業界で最も画期的な最新技術かもしれない。他にも、フィラデルフィアのあるチームは、白血病細胞を破壊するように再プログラムされたHIVウイルスの安全なタイプを開発した

ソフトウェアに関しては、以下が一部の可能性である。

  • 患者にとって理想的な薬を処方して効能を最大化し、また副作用を減らすことができる、ゲノムを統合した医薬サポートシステム。
  • もしくは、臓器と骨髄ドナー、またはいずれかのマッチングプロセスをより迅速で効率的にすることを目的とした、ゲノムを使ったマッチングアプリケーションはどうだろうか。
  • 自分のゲノムに有効な料理の食材を揃えるためのレシピアプリケーションはどうだろうか。日課のトレーニング、休憩の長さ、栄養補助食品や食習慣を見直すために自分の遺伝情報を活用したアスリート用のトレーニングアプリケーションはどうだろう。
  • オンラインロールプレイングゲームや多人数同時参加型オンラインゲームの世界で、各プレイヤーを構成する実際の分子を参考に色々な世界を作り出すためにゲノムAPIを使うことさえ想像できてしまうが、果たして超現実的なことだろうか。

第三の波は私たちの目の前まで到達しており、第四の波も来ているが、まだ広くは知られていない。私たちはただ「ゲノムAPI」の始まりを見ているにすぎないのだ。諸外国の開発者は分子生物学の根幹を成す概念に馴染むことを急いでいる。材料は既にだいたい揃っているが、完成品はいまだに現れていない。

それでも私は「ヘルスケア」の企業だけでも凄まじいほどの数の巨大なビジネスがヒトゲノムの周りを渦巻くであろうと考えている。

ヒトゲノムは病気リスクの決定要因となる。確かにそうだが、上述のハリウッド映画が思わせてくれたように取り消せないものではない。自分のゲノムを知るようになると、自然と自分の限界に挑戦したり、弱点を最小限に抑えたり、他の検査結果と併せたり、他人と比較したり、全く新しい能力に賭けてみたりということがしたくなるものだ。

既にゲノムは何百もの応用がされている。ワトソンやクリックは想像できなかっただろう。世界中の開発者がゲノムを実用的に応用できるようになったらどんなことが起こるか、楽しみで仕方ない。

1971年にTime誌が表紙で「『新時代の遺伝学』は人間をスーパーマンに変えるか?」と問いて以来、私たちはそれについて議論し続けてきた。私が思うに、その答えは急速に近づきつつある。

【via VentureBeat】 @VentureBeat
【原文】

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