新サービスの発表が続く話題のヘルスケア・スタートアップNoomのCEOジョン・セジュ氏にインタビュー

by Masaru IKEDA Masaru IKEDA on 2015.7.3

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Noom CEO ジョン・セジュ氏

かねてから我々が追いかけているヘルスケア・スタートアップ Noom から、先月末いくつかのニュースがもたらされた。一つは、アプリを通じて、コーチがユーザに食習慣の改善をアドバイスしてくれる「Noom Platinum」のローンチ(現時点で、英語と韓国語のみの提供)。もう一つは、世界的な保険会社 Allianz Group(XETRA: ALV)との提携である。

そんな中、Noom CEO のジョン・セジュ(정세주)氏が今週、東京に滞在しているとの話を聞き、インタビューの時間を作ってもらった。ジョン氏と初めて会ったのは数年前、おそらく、ソウルかサンフランシスコのカンファレンスだった気がするが、今回のインタビュー場所は、今年3月に東京・六本木に開設された Noom Japan のオフィス。最初に会った頃のことを考えれば、今やソウル、ニューヨーク、ベルリン、東京の4拠点にオフィスを構えるまでに同社は成長を遂げ、他人事ながら喜びもひとしおである。

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人工知能だけでなく、人間的要素を加えたサービス「Noom Platinum」

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英語と韓国語でサービスが開始された「Noom Platinum」

Noom をヘルスケア・スタートアップとして認知せしめることになった「Noom コーチ」は、Google Play の「健康&フィットネス」分野で売上高1位の座を守り続ける、全世界で累計3,200万人が使うダイエットアプリだ。Apple の HealthKit にも対応し、アプリ上でユーザが自ら情報を入力できるほか、他のヘルスケアアプリとも連携して、燃焼カロリー、摂取カロリー、体重などが記録できる。

Noom Platinum はこの Noom コーチに、人間がコーチしてくれる機能が加わったもので、1対1でプライベートチャットをするような感覚で生活習慣の改善を促してくれる。Noom コーチだけでも広く世の中に受け入れられているのに、なぜ Noom Platinum を立ち上げることになったのか。その背景をジョン氏は THE BRIDGE に語ってくれた。

我々は研究に研究を重ねて、データに基づいたアルゴリズムの開発に傾倒してきました。以前は AI(人工知能)と言っていたし、最近では深層学習(deep learning)と言いますね。しかし、大事なことに気づいたのです。それは人間的な要素が欠けていることでした。

アプリではなく、そこに人間的要素が無いことには、ユーザをモチベートしてエンゲージメントできない。そこで、アプリを介して、メッセージでユーザに運動や生活習慣の改善を促すコーチのパネル(集団)を作りました。ただ、コーチとユーザを1対1でつなぐメッセージ機能だけではスケーラブルなビジネスにならない。そこで、コーチにはユーザの反応に応じて、次のアクションを決定できるオンライン・ダッシュボードを提供し、一人のコーチが1日に100人のユーザに対応できるようにしました。

ユーザはスポーツでよく見られる、威圧的なコーチに指導してほしいと思っているわけではありません。しかも、スポーツのコーチを本業としている人たちには、自らの指導内容にプライドがある。Noom Platinum はあくまで、Noom コーチを使って、ユーザがエンゲージしやすくするためのサービスなので、我々のコーチのパネルには、心理学を専門とする人たちに就いてもらっています。

Noom Platinum は現在、Noom コーチ上のアプリ内課金により月額39.99ドルで利用可能だが、日本市場向けの日本語サービスはまだ提供されていない。日本でもいずれサービスするとのことだが、ユーザをうまくエンゲージし続けられるコーチのパネル(やる気を起こさせるのがうまい、人の心理を知り尽くしたプロフェッショナル集団、ということになる)を組成する必要があり、具体的な開始時期については明言できないとのことだった。

ユーザとサービス提供者が、1対1で応対しているだけではサービスはスケールしないが、かと言って、完全に人工知能でシステマティックに処理されたのでは、ユーザはモチベーションを維持できない。そのバランスが肝要ということになるが、ヘルスケアにおいては、特にユーザに持続的な努力と忍耐が求められるので、他の分野よりも熟考が進んでいるのかもしれない。

世界的保険会社 Alliantz との提携

世界のヘルスケア・スタートアップは、ウェルネスを中心とした B2C のビジネスから、疾病患者の予防医療や養生支援を目的とした B2B のビジネス(病院が窓口になるので B2B となる)へと、収入源の多角化を図りつつある。Noom もこの流れに遅れをとっておらず、4月には心臓発作や糖尿病など慢性病の患者向けの再入院予防プラットフォーム「Noom Health」を発表した。

Noom は先週、Alliantz の韓国法人である韓国アリアンツ生命に Noom Health の OEM 版アプリ「Allright Health」の供給を開始した。Allright は Alliantz が手がけるオンライン販売専用の保険商品ブランドで、保険加入者にに対して Allright Health のダウンロードを促す。

Allright Health はユーザに毎日良質のコンテンツやミッション、低カロリーの食事レシピを届け、ユーザは食事や運動内容を記録することができる。ユーザの反応に応じて「Health Mileage」のポイントが貯まり、より健康で活動的なライフスタイルが楽しめるしくみだ。

保険会社というのは、基本的にどの会社も提供するサービスの内容が似通っていて、他社と差別化しづらい。保険会社が Noom Health を加入者に提供するのは、航空会社がマイレージ・プログラムを提供するのと理由は似ていますね。そうして、サービスの差別化を狙っているのです。加入者は健康になりたいと思っているし、加入者が健康でいてくれれば保険料の支払が少なくて済みます。(ジョン氏)

端的に言えば、保険は、統計に基づいた計算式を元に保険料と掛け金の倍率が算定されるわけだが、Noom Health のようなアプリを使って、より動的で正確な統計データを取得できるようになれば、保険会社はリスク分析がやりやすくなり、世代やライフスタイルに適合した保険商品を開発しやすくなるだろう。

Alliantz 以外にも、Noom はアメリカで Emblem HealthAetna(NYSE: AET)といった有名保険会社と協業を始めている。ジョン氏は具体的な相手の名前はまだ言えないとしながらも、日本でも保険会社との間でビジネスの協議を始めていることを明かした。おそらく今回、普段ニューヨークにいる彼が遠路来日した主な目的は、そのあたりにあるのだろう。

生命保険で言えば、日本は世界で2番目に大きい市場です。高齢化の影響で生命保険市場が急成長しており、しかも、スマートフォンの普及率も高い。これは、Noom にとって大きな可能性があるということになります。

しかし、考えてみれば、医療というのは実に複雑なしくみになっています。なぜなら、身体は自分のモノなのに、変調を来たしたら病院に行き、医者に治してくれと頼む。しかも、その医者に費用を払うのは、政府だったり、保険会社だったり、自分だったりする。保険業界は反応がスローな業界ですが、そんな中で一つずつ事を着実に進めていきたいと思います。(ジョン氏)

スタートアップは既存のビジネスをディスラプトすべき存在だが、ディスラプトの仕方は多岐にわたる。保険業界や医療業界を巻き込みながら、Noom が我々の日常をどのように変化させていくのか楽しみにしたい。

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