月間530万のユーザー数を誇る「Smallpdf」にインタビュー「グローバル展開は最初から決めていた」

by Yuki Sato Yuki Sato on 2015.9.25

Smallpdfのコーファウンダー、Mathis Buechi氏
Smallpdfのコーファウンダー、Mathis Buechi氏

PDFを圧縮するというシンプルな機能を提供することからスタートし、現在は数種類のファイル変換機能を提供しているサイト「Smallpdf」。日本語版も存在しているので、サイトを利用したことがある読者も少なくないだろう。

先日、ベルリンに拠点を置くSmallpdfのファウンダーの一人であるMathis Buechi氏にローンチからこれまでのストーリーを伺う機会があった。最初にサイトをローンチしたのは2013年2月のこと。それから2年半が経ってサイトは大きく成長し、Buechi氏によれば現在の月間のユニークユーザー数は530万人に達するという。サイトは17言語に翻訳されているが、日本からのユニークユーザーは毎月40万とのことで、大きなユーザー数を持つ国の一つだ。

今回はBuechi氏に、Smallpdfが誕生したきっかけやグローバル展開の上で意識してきたこと、今後の目標についてなどを伺った。

「PDFの圧縮の仕方が分からない」母親との会話がきっかけだった

佐藤:ローンチについてお聞きしたいのですが、元々なにがきっかけで、Smallpdfは誕生したのですか?

Mathis:僕は2013年当時は韓国に住んでいたのですが、スイスにいる家族からネットで大きなサイズのファイルを受け取ることがあったんですけど、10MBのファイルとかあまりにサイズが大きいことが度々ありました。

それで「お母さん、もっとファイルサイズを小さくしてよ」って言ってたんですけど、母はその方法を知りませんでした。日本や韓国はネットが速いから大きなファイルを送るのは問題ないですけど、ご存知の通り欧州はネットの速度が遅いですよね。

実は僕自身もファイルを小さくする方法が分からなくて、それでネットで調べていたんですけど、Acrobat 上のプロセスも何度もクリックしなければならなかったりで、簡単じゃないなと思ったんです。シンプルな作業で、かつ多くの人が必要としているはずなのに、既存の方法は必ずしもシンプルじゃなかった。

だから、スイスにいる友人のマニュエルにスカイプで聞いてみたんです。彼は開発者で、僕たちはいつか一緒に何かをやりたいねっていう話を以前からもしていたんですけど、この話をしたら「じゃあ、一緒に解決策を作ろう」って話になりました。この話のあと3時間も経たないうちに、彼はすごくシンプルだけどプロトタイプを作りあげました。

佐藤:3時間で!すごい速さですね。彼がSmallpdfのコーファウンダーなんですね。

Mathis:そう、コーファウンダーのマニュエルです。2013年2月のことです。それから、最初のプロトタイプに修正を加えていって、ドメインを取って、数日後にはサイトをローンチしました。

最初はPDF圧縮機能だけで、今のような状態ではなかったですが。見た目もめちゃくちゃヒドかったです(笑)。とにかく一度サイトを世に出して、どんな反応があるかを見てみようと思ったので。

佐藤:最初はどれくらいのユーザーが使ってくれたんですか?

Mathis:最初は1日に数人程度しか使ってくれなくて、僕たちもどうやってユーザーを増やせばいいのかもよく分かりませんでした。それで、色々なブログにプロダクトのことを書いてもらったり、あとwikiHowにも情報を載せたりしました。そしたら徐々にユーザーが増えて、週に数百人ぐらいが使ってくれるようになりました。ユーザーが増えたら、Googleの検索結果でも上位に入るようになってきたので、それからはSEOをかけてより検索流入が増えるようにしました。

その後サイトに広告を貼って、ちょっとだけ広告収入も入るようになりました。1日に数ドル程度で、ビールが1杯飲めるぐらいですけど、お金が実際に入り始めた瞬間はとても嬉しかったですね。でも、収益はとても少なかったので、まだ法人として事業を営むレベルにはほど遠いと感じていました。

ローンチ以降プロダクトに改善を加えていったんですけど、PDFについては圧縮だけじゃなくて他に色々できることがあるんだと気付きました。PDFをJPGに変換できたり、その逆の機能などを加えていきました。そんな感じで機能を追加させていって、他言語にも翻訳していって、より多くのユーザーを引きつけるようにがんばりました。そして、同年の8月に法人を設立しました。

現在のSmallpdfのサイト。シンプルなインターフェイスが印象的
現在のSmallpdfのサイト。シンプルなインターフェイスが印象的

シンプルな機能&多くのニーズがある=グローバル展開は必須

Mathis:グローバルに展開させることは、当初から重要だと思っていました。シンプルな機能で、しかも多くの人がニーズを感じているものは特にグローバルに展開していかないとグロースさせていくことができないので。

佐藤:Mathisさんは韓国や香港などに住んだ経験があったり、世界中を旅した経験があると伺ってますけど、そういう海外での経験はSmallpdfをグローバル展開させていく上で役立ちましたか?

Mathis:「この世界は、ドイツ・スイスよりもずっとずっと大きい」ということを肌感覚で分かっていたことは、グローバル展開の上で役に立っていると思いますよ。自分の国に閉じこもっているかぎり、世界がどれくらい広いのかという実感はなかなか得難いものです。でも、僕たちは海外にいたから「世界の広さ」が感覚で分かっていたし、それはサイトのローカライゼーションにおいても生かされました。

佐藤:具体的にはどのように生かされたんですか?

Mathis:まず翻訳は機械ではなく、17言語でそれぞれ翻訳者を雇って、サイトを翻訳しました。特にプロダクトの「トーン」が、各言語で適切であるように気をつけました。フレンドリーで親しみやすい雰囲気が保たれるように。

とはいっても、たとえば日本語版において英語のカジュアルな表現をそのまま翻訳してしまったら、失礼な表現になってしまうこともあります。そうしたバランスや言語間の調整には気を配っていました。

佐藤:そういうコミュニケーション文化の違いを理解して、翻訳にも反映されたのはすばらしいですね。

Mathis:検索の方法においても、言語やエリアによって傾向が異なるんです。たとえばPDFファイルのサイズを小さくしたいとき、イギリスでは「Compress PDF」というキーワードが一番多いのですが、米国では「Make PDF file smaller」というキーワードの方が多いというように。目的も言語も同じだったとしても、場所によって検索でかける言葉は違います。

佐藤:それは面白いですね。そういう点を意識して、SEOをかけていったんですか?

Mathis:もちろんそれだけじゃないですが、こういう国による傾向も意識しながらSEO対策をかけていきました。17言語に翻訳しましたが、各言語ごとに検索傾向を分析しました。

佐藤:そういった分析は、各言語の翻訳者に依頼したんですか?

Mathis:翻訳者はSEOに関することは専門外なので、彼らには細かい指示を出して、進めていきました。まず彼らに自分の仮説やアイデアを伝えて、彼らからもそれに対する意見をもらいました。そうした密なコミュニケーションをベースにリサーチを進めていきました。

今後について「少数メンバーでサステナブルに事業を成長させたい」

佐藤:具体的な目標は定めてますか?

Mathis:毎月、僕たち各メンバーはポストイットに収益とかサイト訪問者数とか、目指す数字をランダムに書いてます。でも、それはかなりゆるいカジュアルなもので、ある日ポストイットを見返して「やった! ゴールに到達した!」って喜んだりする感じですかね。

佐藤:それは、かなりゆるい感じですね(笑)。

Mathis:目標というよりも、マイルストーンといった方が正しいかもしれませんね。目的は目標達成というよりもむしろ、成長していくというモチベーションを下げないことにあります。

佐藤:では、最終的なゴールというのはなんですか?

Mathis:最終的なゴールは、世界でもっともよく使われるPDFソフトウェアになることです。現在のAdobeの市場の一部を取っていくことですね。もちろん、Adobeは圧縮機能よりもずっと多くの機能を提供していますので、対等に比べることもできませんが。あと、今後はプレミアム会員向けの機能を追加してフリーミアムモデルにすることも考えています。

佐藤:投資家から資金調達はしないんですか?

Mathis:多くの投資家、特に欧州の投資家からこれまでアプローチを受けてきました。でも、今のところすべての話にノーと返事をしています。今は資金調達に関心がないんです。収益もまあまあ出ていますし。もちろん外部から資金が入れば、もっと早く大きくスケールできるかもしれません。でも僕たちは、これはある意味スイス的な価値観なんだと思うのですが、もっと地に足をつけた感じで進めていきたいと思っているんです。

佐藤:それがスイス的な価値観なんですか?

Mathis:そうですね、一般的にスイス人は億万長者になるためにがむしゃらに頑張るという感じではありませんね。もちろん、Smallpdfの事業を大きくしたいとは思いますが、それだけが目的ではありません。今のスタートアップシーンは、ザッカーバーグになりたい、次のユニコーンを作りたいと意気込んでいる人ばっかりのような気がしますが、必ずしもそれを目指す必要はありません。Adobeでさえ、数十億ドル企業というわけではないですからね。

今の状況でもすでに収益を上げている状態ですから、僕たちはできるだけ従業員の数を抑えつつ、サステナブルでかつ収益性の高い事業を作っていきたいと思います。

佐藤:今後の展開を引き続き、教えてください。今日はありがとうございました!

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