世界で毎年600万人が死亡するニコチン依存症をアプリで治療、医師2名が取り組む「キュア・アップ」

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2014年7月に設立された、疾患治療用プログラム医療機器を開発するベンチャー企業「キュア・アップ」(CureApp, Inc.)。9月末には、Beyond Next Venturesの運用するファンドを引受先とする第三者割当増資で、約1億円の資金調達を実施しています。

同社は、欧米などを中心に研究や臨床応用が進む「治療アプリ」の開発を手掛けています。現在は、慶應義塾大学呼吸器内科学教室とニコチン依存症向け治療アプリを共同開発し、同病院で臨床試験をしている段階。キュア・アップのCEOである佐竹晃太さんにお話を伺いました。

毎年600万人が死亡する喫煙の原因疾患「ニコチン依存症」を治療

CureApp-website

あまり耳慣れない「治療アプリ」という治療方法。これは、従来の医薬品や医療機器を用いた治療方法ではなく、患者が持つスマートフォンを治療の一環に取り入れるもの。患者がアプリから入力する体調などの情報は、クラウドに蓄積されます。すると、最新医学エビデンスをもとに、システムが自動で各患者の疾患重症度や日々の健康状態に個別最適化された診療ガイダンスを提供。次の診察を受けるまでの期間、患者の生活をサポートし、また医師はそれらの情報を治療に役立てることができます。

今後、さまざまな疾患に対して治療アプリを提供していく予定ですが、まずはニコチン依存症の治療から着手しました。これは、キュア・アップを創業する前、佐竹さんが都内の病院で内科医として働き、呼吸器疾患を専門としていたため。また、喫煙による健康影響による死者の数は年々増加傾向にあり、早急に解決が求められる社会問題でもあります。

WHO(世界保健機関)の発表によると、毎年世界で600万人ほどの人が、喫煙が原因で命を落としているとのこと。このうち、500万人の死が本人による喫煙に起因し、残り100万人は自分ではタバコを吸わなくても、セカンドハンドスモークで命を落としている人たちです。

「運転事故を起こさないように注意したり、運動をして健康を保つことも重要ですが、ついつい吸ってしまってやめられないタバコこそ、多くの人の命を落としています。日本中、世界中の人がタバコをやめた方がより多くの命を救うことができる。医療の立場から見て、よりインパクトが大きいだろうと考えました」

スマホアプリを使って糖尿病を治療?ある論文との出会い

キュア・アップの佐竹晃太さん
キュア・アップの佐竹晃太さん

広尾の日赤医療センターなどで内科医を勤めた後、2012年に上海にあるアジアNo.1ビジネススクール(CEIBS)にMBA留学した佐竹さん。そして、アメリカのボルティモアにあるジョンズ・ホプキンズの大学病院の大学院で、キュア・アップの事業と関連する医療インフォマティクスのテーマを研究していました。医療インフォマティクス(医療情報学)は、ITテクノロジーを医療現場に応用した時に起こる現象をアカデミックに評価する学問です。

佐竹さんが、キュア・アップの立ち上げを決心したのは、大学院在学中の2013年秋に出会った論文がきっかけでした。慢性疾患である糖尿病にスマホアプリを使った治療を施してみたところ、患者の糖尿病が良くなったというエビデンスがまとめられていました。その治療アプリは、既にFDA(アメリカ食品医薬品局)の承認を受けて事業化され、医療機器として使われています。

ソフトウェアを活用することで病気を治療する。医者として、治療アプリの可能性に衝撃を受けました。これまで、病気を治療するには医薬品を使うか、医療機器などのハードデバイスを使って処置するのかの2択しかありませんでした。どちらも研究開発費が高く、実際に患者の手元に届くまでに長い期間を要する。例えば、1つの新薬が出るまでにかかるコストは現在1,000億円とも。これは当然、支払う医療費という形で患者にも影響を及ぼします。

ソフトウェアを使った治療方法なら、薬では治せない病気が治せるかもしれない。それでいて、新薬の開発などに比べればコストも圧倒的に低く抑えることができる。論文には、薬と同じ、またはそれ以上の治療効果があるとありました。

「100分の1のコストで、薬や機器と同様に病気が治せるポテンシャルがあるなんて、目からウロコでした。糖尿病の治療にエビデンスがあるなら、その他の疾患にも効く可能性がある。社会的な意義を感じました」

データを取るだけなら誰でもできる、それをどうソリューションにするか

大学院を卒業して帰国した後、2014年7月にキュア・アップを設立。CTOである鈴木晋さんは、佐竹さんの大学時代の医学部の後輩です。医師でもあり、でもそれ以上に長くプログラマーとしての経験があります。お2人の出身校でもある慶應義塾大学の呼吸器内科との共同開発は、2人が起業家である前に医師であることでスムーズに運んでいます。

「現在、日本では、睡眠やダイエットなどの目的でデータをトラッキングすることはあっても、その先の診療行為にまで至るソフトウェアは出てきていません。データを取るだけなら誰でもできますが、それをどう解析して医療に役立つソリューションを生み出すかが鍵だと思っています」

私たちの生活には、遊びや仕事のためのソフトウェアが溢れています。でも、その同じソフトウェアが近い将来、日本でも病気の治療に役立つかもしれない。ソフトウェアを用いた治療方法が実現することは、場所にとらわれることなく、より広く均一な医療サービスの提供にも繋がります。また、高騰する医療費や医療格差問題といった課題へのソリューションにもなる。

今後、キュア・アップでは、ニコチン依存症以外の疾患のための治療アプリも開発していく予定です。CureApp禁煙に関しては、進行中の臨床試験、そして薬事法による承認などの難関が待っています。とはいえ、新薬の開発を待つことに比べれば、まだ待てる期間内に実現するはず。どうしてもタバコがやめられなかった人が、スマホアプリを使った治療で禁煙に成功する。そんな事例が少しでも早く、そして多く登場するといいなと思います。

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