創業の成功事例をつくるためにすべきこと−−福岡スタートアップカフェがオープンから一年を経て感じた成果と課題

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写真は2014年10月のオープニングの様子

2014年5月に政府の国家戦略特区の一つとして創業特区に選ばれた福岡市。日本で最もスタートアップが集まる場所を目指して創業支援やスタートアップのサポートに注力してきた。その一環として設立されたのが「福岡スタートアップカフェ」だ。福岡市の中心地にあるTSUTAYAの3階にオープンしたその場所では、誰もが自由に利用できる開かれた場所だけでなく、定期的にイベントやセミナーを開催したり、創業に関する相談や窓口をワンストップで行うなど、さまざまなサポートを展開してきた。

先日10月7日には、福岡スタートアップカフェの1周年のイベントが開催され、多くの人で賑わった。当初は、若い人材による創業が中心かと思われたが、意外にも元大手家電メーカーや自動車メーカー、ゲームメーカーを退職した40代が退職し起業するケースも多い、とスタートアップカフェで創業支援のコンシェルジュを行っているDOGAN藤見哲郎氏は話す。

「大手企業から独立し、自身でビジネスをはじめてすでにサービスをリリースして黒字を達成している人や、これからサービスを開発する、という人が思った以上に多い。また、福岡の大学に通いながら起業する香港出身の人やフランス出身の人もいる。彼らは、中国市場向けの不動産サービスや、訪日フランス人向けのインバウンドサービスをやろうと考えている。福岡という場所により外国人が来やすい環境や、逆に福岡から中国などアジアに対して進出したり目を向けようとしてる人たちをターゲットにしたビジネスが次第にではじめている」(藤見氏)

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写真:福岡スタートアップカフェFacebookページ

一年を経て見えてきた成果と課題

オープンから1年を経たなかで、一つ特徴的なのはスタートアップカフェを通じて毎月10件以上もの設立登記が行われている、ということだ。また、スタートアップ支援をする前までは福岡市で行っていた創業支援相談は年間200件程度だったのに大して、福岡スタートアップカフェでは毎月140件以上もの創業に関する相談があるなど、創業の裾のを広げ相談しやすい環境になっているともいえる。

「注目すべきは福岡市にある政策金融公庫の支店での融資制度枠での件数が全国でも上位に入るほど申請がきているようです。こういった数字からみても、リスクテイクをして創業しようという人が増えてきたといえる。スタートアップカフェの当初の考えにもある、開業率を高め創業を身近にし、楽にして裾のを広げることはある程度形になってきたのはないか」(藤見氏)

もちろん、相談だけでなく創業直後をサポートするために、弁護士や税理士の紹介、マーケティング支援や広報に関してメディア関係者に紹介するなども行っている。当初の予定ではIT関係が多いかとおもいきや、思った以上に幅広い職種が相談にきているという。「先日は、お寺をどうにか活用したいと相談に来た人もいたり、農業や林業関係の相談も多い」とのこと。また、一般的にも開業が多い飲食関係やライフスタイル関係、最近では医療や介護に関する開業相談も多い。特に、ライフスタイル系はこれまでにも福岡に多いネイルサロンやファッション関係の創業も多く、組織的に事業を大きくしたり積極的に出資を受けて事業を成長させようと考える人は思ったよりも少ない印象だ。

福岡市としては、スタートアップという積極的に投資を受け入れて事業を成長させようとする起業だけでなく、起業という裾のを広げ開業率を高めるための創業支援という位置づけといえる。しかし、開業率だけを高めるだけでは経済をけん引するほどのエコシステムは構築できない。今後は、積極的に投資のマッチングを推進するための場作りにも力をいれていこうと考えるようだ。

スタートアップへの参画を促す人材マッチングサイトも

創業に関してのイベントやワークショップなども定期的に開催されている
創業に関してのイベントやワークショップなども定期的に開催されている 写真:福岡スタートアップカフェFacebookページ

スタートアップカフェでは、創業に関する相談も多いが、必ずしも創業者として起業するだけを後押ししているわけではない。そこで、スタートアップで働きたい人や、創業者を支える右腕を募集できる人材マッチングの場づくりを始めた。例えば、大企業出身で自身の技術力を活かすためにスタートアップに参画して事業を成長させたいと考える人やビジネスモデルを構築する能力に長けた人物が技術力を持っているがビジネスモデルづくりに苦戦しているスタートアップに参画し参謀として働く、ということなどが考えられる。いわゆる、スタートアップにおける「ハスラー」「ハッカー」「ヒップスター」と呼ばれるチームづくりをスタートアップカフェがサポートし、人材や求人を紹介するというものだ。もちろん、このマッチングサイトからインターン先を選ぶこともでき、学生だけでなく大企業にいる人が休日を使ってスタートアップにインターンすることも可能だ。

「ゼロイチで起業することだけがスタートアップではない。CFOやCMO、COOやCTOなどスタートアップに参画する方法はいくらでもある。同時に、スタートアップがきちんと成長するためにはいいチームアップが必要。自身の専門性を活かすことができるスタートアップで出会える機会が増えることでキャリアの広がりもでてくるはず」(藤見氏)

一度起業した経験をもつ人が、若手のスタートアップに参画し自身の失敗をそのスタートアップで活かすこともある。さらには、そうした新規事業経験がある人材は大企業においてもプロジェクト推進の旗振りとして活きることもある。さまざまな人材のデータベースを構築し、スタートアップ、大企業へのそれぞれの人材昇華いを行うことも視野にいれた取り組みだ。「ベンチャーで失敗したら終わりではない。成功も失敗のその先には次へのキャリアへの道があることも示していきたい」と藤見氏。

STARTUP CAFE FUKUOKA CITY
スタートアップカフェが始めたマッチングサイト

一年を振り返り、創業だけではなく創業後の支援や人材のより良いマッチングのためのサービスも展開するなど、これまで運営してきたなかで見えてきた課題や当初の考えとは違ったニーズが福岡にはあることが見えてきた。同時に、ただ起業をすすめるだけでなく成功事例をいかに作っていくか、ということも大きな課題といえる。福岡発でのスタートアップの成功事例を作りだし起業の先にある道筋をきちんと示すことで次の世代へのバトンも渡すことができる。

創業に関する支援は、いまは福岡市が率先して力をいれているが、行政だけでなく地元の銀行や企業などとの連携も欠かせない。福岡市という地域全体が創業に対して寛容的で積極的な支援を行うための協力体制もつくらないといけない。同時に、福岡という都市自体へのポテンシャルもまだまだあるはず。グローバルで見たときのアジアの玄関口としての福岡、人口比率やテックなど最先端なものに対する受容性など東京にも似た要素がある都市ならではなテストマーケティングとしてのフィールドの可能性もある。

日本における福岡という都市、アジアで見たときの福岡の可能性を広げるためにも、まだまだ課題は山積みといえる。二年目を迎える福岡スタートアップカフェからどういった展開が生まれるか、期待したい。

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