ソラコムがやっぱり熱かった。
筆者は先日、同社の開催したデベロッパーカンファレンスに参加してきたのだが、会場内は創業したてのサービスとは思えないユーザーたちの熱気(というか期待感みたいな雰囲気)に包まれていた。私が普段触れてる「スタートアップ経営者」なイメージはあまりなく、飛び交う言葉は全てにおいて「ギーク」だった。
夜中に18件という大量のLT(予想通り時間はオーバー)と、サプライズ発表もいくつかあったので、写真と共に雰囲気をお伝えしたい。
SORACOMの新機能
まず、カンファレンス冒頭にSORACOM Airの新機能「カスタムDNS」とBeamの新機能「AWS IoT連携」が発表された。カスタムDNSはSORACOM Airから特定グループに所属するSIMのDNSを変更できるもので、AWS IoT 連携は、アマゾンウェブサービスが発表した同サービスとSORACOM Beamを連動させ、クライアント証明書の一括管理を実現するもの。共に16日から提供開始となっている。
さて、いつものウェブサービスとは説明するレイヤーが違うため、「?」が三つぐらいついてしまう方も多いだろう。(筆者もその一人だ)しかしこれは地味ながら実に可能性を広げる機能だった。
特にカスタムDNSについてはSIMのビジネス利用を更に拡張させることになるだろう。分かりやすいキャプティブポータルの利用例を同社CTOの安川健太氏が解説していたのでそちらを紹介しよう。
例えばあるユーザーがスマートデバイスでソラコムのSIMを使って、セキュリティ要件の高いビジネス向けのサービス(社内イントラなど)を使うとしよう。この場合、その端末が認証を終えるまでサービスにはアクセスさせたくない。ここで使うのがキャプティブポータルという認証プロセスなのだが、それをこのカスタムDNS機能で実現しているのだ。
図にある通り、最初にアクセスした際はその接続先を認証用のサーバーに向けておき、端末の認証が完了した時点でそのSIMがアクセスする先を変更する。この利点はSIM単位で認証プロセスを提供することができるので、端末の自由度が高くなることが予想できる。
SORACOM BeamとAWS IoTとの連動サービスについては、AWS IoTで利用可能になるクライアント証明書の管理運用をBeam側で実施する、というものだ。詳しくはリリースを見て欲しい。
「期間限定、3GB使い切りSIM」も第三者が提供可能
ソラコムデビューの時、多くのメディアが「格安SIM」という点にフォーカスしていたが、私は敢えて第三者によるSIMのコントロール部分に注目をした。
確かにソラコムは見方によっては割安になることもある(アクティベートした後は月額300円程度で所有できる)。しかし主要3キャリアの提供する通信プランが定額の中、ソラコムの契約プランは基本的に従量課金。当たり前だがそのままでは料金は青天井だ。
つまり、このプラットフォームが一般コンシューマーに対して単に通信料金の安さをウリにしているものじゃない、というのはすぐに理解できると思う。(そのままでは音声通話もできないし)
それを端的に教えてくれる、そんな機能がこのカンファレンスのLTで発表されていた。SORACOM Airのイベントハンドラという機能を使えば、IoTなどの事業を展開する第三者はコントロール可能で、限定的な通信サービスを提供することができるという。
少しこの部分にフォーカスして紹介したい。
「毎日やってる仕事はSIMの生産管理です」ーーLTトップバッターで会場を少し和やかにするスライドを示しながら、ソラコムの片山暁雄氏(@c9katayama #ヤマン)が説明したイベントハンドラは、簡単に言えばプログラムでSIMの動き方を制御できる、というもの。
SORACOM Airのイベントハンドラを使えば、例えば「1週間限定で3Gバイトまで利用可能なSIM」を設定し、第三者に提供することができる。海外でSIMを購入したことがある人であれば分かると思う。アレを自分で作って売ることもできるのだ。
「ある条件を作ってアクションを定義します。例えばデータが100MBを超えたら通信速度を下げて3GBを超えたら解約をコールさせて限定利用できるようなSIMも作ることも可能です」(片山氏)。
これまでSIM(というかモバイル通信)を自社のサービス内でコントロール配下に置けるという考えはほぼ(少なくとも小さなスタートアップでは)できなかった。しかし、ソラコムはそれを実現しているのだ。
ジャストアイデアだが、これから増えるであろうインバウンド系の話題でも使えそうだ。
例えば訪日する海外客に対してナビを可能にしたスマートデバイスを用意したとしよう。初回はレンタル費用に通信費も含めて1日X円で提供するわけだ。しかし、このようにユーザーによって利用状況が変動する場合、使いすぎをコントロールしなくてはならない。
ここで先述のイベントハンドラを使えば、1日の容量を使い切った段階で速度低下、必要であれば追加を購入できるようにしておけばいい。ポイントはこの通信コントロールサービスを大量に一括で捌ける、というスケール感だ。
スマートロックのように安定した利用であれば、年間契約などにしておいてその期限がきた段階で更新を促すようなコントロールもできる。しかもプログラムしておけるワケだから、最初にその設定をしておけば事業者側の管理負担は少ない。
これぞ技術による効率化。
「IoTデバイスは、農業や環境のセンサー類など、数が多く、一度使いはじめると長く使うものも多く有ります。これらのIoTデバイスの「通信」における運用・管理も一括操作、自動化させることが「イベントハンドラー」の本来の目的です。SORACOM側に整備することで、現場で実際に利用される方々が、専門的な知識がなくても、少しのシステム設定(もしくはベンダーへの変更依頼)で、SORACOMが使われたソリューションを継続的に利用いただくことにつながるとも考えております」(同社広報)。
モバイル通信を制御することで、きめ細やかなサービス提供を実現することができるのだ。
ソラコムを活用したウェブ・サービスの可能性はやはり大きい
IoTというのは「モノのサービス化」であるという考え方を以前本誌にも掲載したことがあった。
参考記事
この際、サービスにアクセスする方法というのはあまり強調されていなかったが、厳然とこの部分を握っているのはやはり通信キャリアだったりするわけなのだ。通信料金と一緒にサービスの利用料金を回収するモデルは、ハードを「一回の売り切り」だったビジネスモデルから月額課金のサービスモデルへとシフトさせる可能性を大いにはらんでいる。
この日、片山氏以外にも17人の開発者たちが壇上でそのアイデアを語っていた。ほんの1カ月足らずでここまでのユーザー熱を感じさせるサービスも少ない。
彼らがやったのはモバイルデータ通信の自由化みたいなものなのだ。この熱狂がどこまで拡大するのか、本当に楽しみにしている。
おまけ:以下に当日LTした方々のフォトレポートを一部掲載させていただく。
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